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武器はダンスとラップーー。父のつくったイチゴを届けるため、若き農家は踊り続ける

全国各地のグルメな情報を届ける特集「全国のおいしい!」。新潟には「越後姫」という幻のイチゴがあります。新潟市江南区で農家を営む山倉慎二さんは大好きなダンスとラップを通して、自慢のイチゴを日本全国に届けようとしています。

2月下旬、新潟市江南区のとある農家。

何棟も建ち並ぶビニールハウスの1つにその男はいた。

「ほっぺがフロアにゲットダウン〜♪」
「ほっぺがフロアにゲットダウン〜♪」

キレのあるダンス。軽快なラップが鳴り響く。

足元では大きなイチゴがリズムを取るように揺れている。

「スーパー・エチゴヒメ・ギャングスタ」を自ら名乗り、ラップを披露するのは山倉慎二さん、35歳。

こう見えても、イチゴ農家である。

歌って、踊って、エンタメで幸せにしたい

新潟駅から南にクルマで20分ほど行ったところに、山倉さんが一家で営む農園「SHOKURO」(ショークロ)はある。

ここで育てている「越後姫」というイチゴは、新潟県内で最も人気の品種。

甘みの強さが特徴で、その人気の高さから県内で多くが消費されてしまう。そのため県外にはほとんど出回らない幻のイチゴだという。

今年の春、ECサイト「新潟直送計画」を通じて初めて全国販売したSHOKUROのイチゴは、なんと1パック9粒入りで4900円の値をつけた。それでもただちに完売。果物ランキングで1位になった。

すでに全国に、「SHOKUROお兄さん」こと山倉慎二のファンがいたのだ。

伝統の土耕栽培で丹念に育てたイチゴを、あらゆるエンターテインメントで世に伝えるのがSHOKUROのやり方だ。山倉さんは言う。

「僕の大好きなエンタメの要素を加えることによって、自分にしかない価値を生み出したいし、その価値によってみなさんを幸せにしたいんです」

農家の朝は早い。しかし彼が朝起きてまず取りかかるのは音楽づくり。そしてポッドキャスト配信などの創作活動だ。YouTubeにダンス、ラップの動画をアップし、インスタグラムやTwitterも更新する。

あるときは直売所の店頭に立ち、スーパー・エチゴヒメ・ギャングスタに扮してお客さんに語りかける。

Twitter: @bringbackstyle3

SHOKUROの名前がついたイチゴを買い求める人は、次第に増えていった。

自分が一番楽しんでるんですよ

「お米トグトグシャカシャカ ♪」
「お母さんお父さん、おいなりさん ♪」

前年の夏には、SHOKUROで作ったコシヒカリと新潟産のおあげをセットにした「SHOKUROお兄さんと一緒に作るおいなりさん」をネットで販売。

ここでもダンス、ラップを織り交ぜたおいなりレクチャー動画を届けた。

とにかく踊るのが好き、ラップが好き。何かを伝えるときには体を動かしていたいーー。

「結局、自分が一番楽しんでるんですよ」

そう語る山倉さんの動画を見て、特に子どもたちが熱狂した。

「普段ごはんを食べない子どもがおいなりさんを残さず食べた」「楽しそうにおいなりさんを作っていた」「動画のクオリティが無駄にたけえ」

そんな声が次々に寄せられた。

「嬉しいですね、大変ですけど。でもやりたかったんですよ。僕、ダンスばかりやってきたから、いい加減仕事もやらないといけないな、みたいな焦りがずっとありました」

父の情熱に触れ、「このイチゴを広めよう」と決意

学生時代からダンスに夢中だった。新潟の駅前で、街なかで、ガラス窓に向かって練習している若者だった。

夜中にスピーカーで音楽を鳴らしながら踊り、補導されたこともあった。酔っ払いに絡まれることもたびたび。30歳近くまでずっと1人で踊ってきた。

「ハタチで農業の仕事に就いたけど、ずっと本気になれなかったんです。周りには新規就農者の方もいて、すごく情熱を持って入ってきていた。でも僕は親のすねをかじりながらスッと農業に入ってしまった。だから特にやりたいこともなくて、最近まで悩んでいました」

転機になったのは父、裕一さんの言葉だった。

「うちの親父があるとき、酔っ払ってイチゴに対する情熱みたいなものを語ってきたんですよ。『俺のイチゴはめちゃくちゃ美味いから、お客さんが喜んでくれる。だから今のスタイルは変えないんだ』って」

“スタイル”とは栽培方法のことだ。

いまのイチゴ栽培の主流は「高設栽培」という高い位置でつくる栽培方法。収穫量も多く、労力も少なくて済むという。

しかしSHOKUROではずっと伝統的な手法「土耕栽培」にこだわってきた。低い位置にイチゴが実るため収穫作業はきついが、その味には光るものがある。糖度は最高で16度にも達するという。

「当時、家に直接買いに来る人も少しだけいたので、その人たちの声にこたえるために、ずっときついやり方でがんばってきたんですよ。親父は」

父の言葉を聞いて、山倉さんは農業に本気で打ち込むようになる。まずは県内のセミナーに通い始めた。そのうちの1つが「情報発信」について学ぶものだった。

すぐに感化されてSNSでの発信を始めた。ホームページを開設し、Instagramのアカウントをつくり、ブログもスタートした。

「生産のつらさとか、手間のかかり具合とかをネットでどんどん発信するようになったら、みんな『なるほど、そうなんだね』と。それで少しづつ広まっていった感じです」

父のものづくりの情熱に対して、息子はそれを広めることで応えたいと思った。次第に農業に自分の居場所ができたと感じられるようになった。

農業も、エンタメも、ゴールは同じところにあった

「僕ら農家ってみんな、農作物をつくるときは単純に『お客さんに喜んでほしい』っていう想いでやっています。食べた人に『美味しい』と言われたいとか。たぶんみんなそうなんです。うちの親父もそうだったし、僕もそう」

山倉さんはあるとき、それはダンスをしているときの気持ちと同じだったと気づく。

「踊ったり、音楽をつくったり、ポッドキャストで話したり、絵を描いたり、そうやって僕がエンターテイメントをするのは、やっぱりみんなに楽しんでほしいからであって、農業と何ら変わらない。どっちも一緒だということがわかりました」

通っていたセミナーでは、農業という仕事の本質的な意味について考える時間があった。山倉さんが出した答えは「人を楽しませたい」だった。その手段として農業とエンタメがあるーー。

「だったらどっちもがんばればいい」そう素直に思えた。

SHOKUROというローマ字の屋号が生まれた瞬間だった。

それまでほとんど農協に卸していただけだった越後姫を、直接お客さんに販売し始めた。農協経由で売るとどの生産者のイチゴも同一に扱われるが、山倉さんは父のこだわりをちゃんと伝えたかった。

パッケージは手書きのイラストをデザインし、独特の世界観をつくった。

これもデザインのセミナーで教わったことだった。

あらゆるクリエイティビティが農業につながっていった。

というより、無理やりつなげていった。

「本当はダンスとかイラストだけやっていたかった。それを続けるために仕事に結びつけました。でも結果として、今はそれが強みになっているし、なにより楽しい」

それに、こっちでは理念と行動のセットが大事なんです、と山倉さんは話す。

「たとえばおいなりさんのキット。あれは全然儲からないですけど、ダンスと融合してるし、すごく理念通りじゃないですか。僕は突拍子もないことを掲げているけど、でも実際に変なこともやっている。そうすると、みんな応援してくれるんですよ。なるほど、これがこうなるのはわかるわ、みたいな。それは強いんですよね」

そうやって味方を増やしてきた。応援してくれる人も増えてきた。

「スタイルこそすべてなんです」

山倉慎二 aka. SHOKUROお兄さんの他にも、発信を強みとする農家は実はたくさんいる。

「ノウカノタネ」という人気ポッドキャスト番組は福岡県の若手農家3人組が配信する。2020年度のJAPAN PODCAST AWARDSを受賞するなど多くのリスナーに支持されている。いまポッドキャスト界では農系番組がちょっとしたブームになっているくらいだ。

農業に関する動画を配信する農業系YouTuberも増えてきたし、TwitterなどのSNSでもいろんな農家が発信している。

その背景には、コロナ禍で既存の出荷ルートが苦しい中、直販ECに乗り出す動きが出てきたこともあると、山倉さんは言う。

「自分の名前で売るようになってくると、より自分のことを知ってもらう必要が出てくる。ポケマルさんや食べチョクさんで売るためにはSNSが必須かもしれません。僕ら農家の仕事自体、一般の人にはあまり知られていないので、まず普段のことをありのまま発信するといいと思います」

農業という仕事に就いてもう15年。農業の面白さはどこにあるのか? そう尋ねるとこんな答えが返ってきた。

「やっぱり個性を融合できるところが面白い。いろんな人にいろんな得意分野があると思うんですけど、それを全部ぶっこんじゃえばいい。僕は単純に歌とかダンスが好きだった。でもそれは何でもいいと思います」

SHOKUROはエンタメ×農業だったが、「〇〇×農業」の〇〇はどこまでも自由だ。自分の得意なこと、好きなことを押し出していったほうが楽しいし、それがいつか結果につながるはず。

「ダンサーとかと一緒で、自分のスタイルで戦っていくのが農業だと思います。スタイルこそすべてなんですよ」

山倉さんの越後姫が再び販売されるのは来年2月。

若き農家は、今日も踊り続ける。


「越後姫.ほっぺがフロアにゲットダウン」

YouTubeでこの動画を見る

スーパー・エチゴヒメ・ギャングスタ / Via youtube.com

「SHOKUROお兄さんと一緒につくるおいなりさん レクチャー動画」

YouTubeでこの動画を見る

SHOKUROお兄さん / Via youtube.com


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