“耳で聞く本” オーディオブックってどれがおすすめ? その道のプロに聞いてみた

    読むのではなく、耳で聞く本「オーディオブック」。収録現場のディレクターにどの作品がおすすめか聞いてみました。

    最近、ポッドキャストをはじめとした音声コンテンツが人気です。今年はじめにはClubhouseが一気に流行し、ながら聞きで楽しめる「耳のコンテンツ」の魅力に触れた人も多かったと思います。

    耳のすきま時間を活かした“ながら読書”とも言えるオーディオブックも浸透しつつあります。Amazonは本の販売ページで紙の本、Kindle版に並んで、「Audible」というオーディオブック版もプッシュしています。

    国内のオーディオブック購読サービスでは「audiobook.jp」が老舗。月額750円「聴き放題プラン」の会員数は2021年6月時点で200万人を突破しています。

    オーディオブックの魅力は作品の素晴らしさに加えて、「読み手」の豪華さにもあります。人気の声優、俳優を起用して、原作の良さを引き出しています。

    そんな作品と読み手の組み合わせにおいて特にオススメの作品を、audiobook.jpのディレクターを務める伊藤まさとしさんに聞きました。

    夏休みも残りわずかですが、よかったら耳で聞く本を試してみてください。

    小澤征爾『ボクの音楽武者修行

    伊藤さん:小澤征爾さんの自伝的なエッセイをオーディオドラマとして作った作品。朗読を本木雅弘さんが担当してくださいました。

    ちょうど大河ドラマ『麒麟がくる』を拝見している時期に収録したのを覚えています。BGMや効果音にもかなりこだわって作った作品になっています。

    青木和雄,吉冨多美『ハッピーバースデー

    伊藤さん:オーディオブック初期に作ったオーディオドラマ的な作品。キャスティングはこちらからお願いしたのですが、斎藤千和さんや石田彰さんなど想像以上の豪華なキャストが実現して、怯んだ記憶があります。

    音楽も全部書き起こしてもらったりと、制作しているうちにどんどん規模が大きくなり、初めて大きな挑戦をさせていただいた作品です。

    個人的に昔から好きな作品だったのもあり、思い入れが深いです。まだ拙い部分もあると思うのですが、役者の皆さんや音楽を作ってくださった方のご助力もあり、よい作品になったのではないかと思います。

    モモ』『星の王子さま

    伊藤さん:佐久間レイさんにはこの『星の王子さま』以降、たくさんの作品でお世話になりました。

    中でもこの2冊は佐田詠夢さんを中心としたチームに音楽監修・作曲で入っていただき、雰囲気や情景に新たな表現をプラスいただいています。

    佐久間さんはベテランの演者さんで、お上手なのはもちろんですが、おじさんがたくさん出るようなシーンなどもしっかりとわかるように読んでくださいました。

    内容は皆さん、ある程度ご存じの方も多い名著で間違いないですし、お二人の力によってオーディオブックにおいても良い作品になっています。

    ジェイムズ・P・ホーガン『星を継ぐもの

    伊藤さん:SF好きなら『星を継ぐもの』シリーズは森田順平さんの朗読でぜひ聞いていただきたいです。

    たくさんの登場人物が出てきますが、すべて演じ分けてくださっています。とても臨場感があって、聞きやすい朗読です。

    さくらももこ『もものかんづめ

    伊藤さん:さくらももこさんのエッセイを、アニメ「ちびまる子ちゃん」のまる子役のTARAKOさんが読んでくれるという夢の作品です。

    もうただ楽しい収録でした。収録中もついつい笑ってしまうのとの闘いでした。

    辻村深月『かがみの孤城

    伊藤さん:主人公こころ役の花守ゆみりさんはじめ、豪華キャストに集まってもらった作品です。

    19時間超えとなる大作ですが、登場人物たちの心情に引き付けられて、いつの間にか時間が経っているという作品です。私もとても好きな原作だったので、制作者や出演者の皆さんのおかげでとてもいい作品になっていると感じます。

    冲方丁『天地明察

    伊藤さん:原作者の冲方丁さんにもご出演いただき収録するという貴重な体験をさせていただきました。冲方さんからも大変うれしいお言葉をいただいた思い出に残る作品です。

    上柳昌彦さんのナレーションはこういう時代物にとてもいいですね。落ち着いて頭に入ってきやすいというのもあり、キャストの皆さんの熱演がより映えているのではないかと思います。

    ぜひまずサンプルで聴いていただきたいですが、主人公役の羽多野渉さんはもちろんですが、それ以外の皆さんもとても個性的に演じてくださっています。

    浅田次郎『一路

    伊藤さん:落語家さんに読んでもらうという少し変わったオーディオブック。落ち着いてしっかりしゃべる、という感じではなく、噺家さんならではのテンポを感じられると思います。

    旅物語ですが、一緒に旅してる感じというか、スピード感のようなものを感じられて、聞いていて楽しい作品です。

    水野敬也『夢をかなえるゾウ』シリーズ

    伊藤さん:「楽しみながらためになる」本の代表格のような本だと思いますが、声がついてガネーシャがとても面白いです(笑)

    パワフルな演技をぜひ聞いてほしいですね。原作の良さを音でよく出せているんじゃないかな、と思っています。

    伊藤さん:言わずと知れた大ヒット作ですが、2人の人物の掛け合いで進む物語という点でもオーディオブックはおすすめです。青年にそこまで怒るか!!と突っ込みたくなる気持ちを堪えて聞いていると、哲人の話がよく響きます。

    極上voiceメソッドバージョンは内容は同じですが、声優さんが細谷佳正さんと井上和彦さんになっていてとても豪華です。

    井上さん演じる哲人の声が、言葉とともに胸に響き渡ります。お好きなほうでお聞きいただければ嬉しいです。

    ゲーテ『若きウェルテルの悩み

    伊藤さん:ゲーテの名作のオーディオブック版です。正直内容は言葉も難しいし、オーディオブック化も難しそうだな……と収録前には少し不安でしたが、三宅健太さんと大関英里さんのお芝居を通じて、「意外とわかりやすくないか?」と感じられた作品です。

    出版社の方も収録に立ち会ってくださったのですが、収録を聴いて、同じ感想を持っていただいて少し盛り上がりました。多少敷居の高く感じられる作品かもしれませんが、ぜひ、聞いてみてください。

    伊藤さん:ビジネス系の小説はオーディオブックにはあっているように思うので、3作上げてみました。

    全作品に共通するのですが、セリフで聴くと登場人物の言葉に共感しやすいのではないかと思いますし、すっと言葉が心の中に落ちてくるのではないでしょうか。

    以上、プロのオーディオブックディレクター、伊藤まさとしさんがすすめる作品リストでした。

    そんな伊藤さんに記者が朗読の“演技指導”をしてもらった体験記事もご覧ください。