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芸術は不要不急ではない 私たちに必要なのは「生活の余白」

新型コロナウイルスの流行下で開かれた芸術祭「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」で、生きることや芸術について語った詩人の岩崎航さん。生活の余白である芸術について、「なくてはならないもの」と力強く語りました。

新型コロナウイルスの流行下で開かれた芸術祭「みちのおくの芸術祭 山形ビエンナーレ」(主催・東北芸術工科大学)で、生きることや芸術について語った詩人の岩崎航さん。

最後は芸術の力について語りました。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

今回の対談についてスカイプで打ち合わせをする岩崎さん

※トークは読みやすく編集を加えた上で、岩崎航さんにも確認してもらっています。

【芸術の力】
創作は一人では完結しない

――最後に今回は芸術祭ですから、芸術の力について伺いたいと思います。私も岩崎さんの詩を読んで励まされた一人なのですが、芸術が人に与える力についてどう感じていますか?

創作というのは一人でやるものですけれども、一人だけで完結しているわけではありません。

生きているというのは誰かと関わりを持つことだと思うのです。自分という人間は、一人では完結できないもので、それは表現も一緒です。

何かを表現するというのは、私の場合、詩を書いただけでは終わりません。そこに読んでくれる読者がいて、読んだ人が何かしら心が動いて、ということがある。私の方にも、その心の動きがまた戻ってきます。

私自身が心を動かして書いた詩が、誰か届いた人の心を動かして、その動きで書いた私自身も動かされる。

送り手と受け手で響き合うのが芸術であり、文化であると思うのですね。そういうことを経験してきたから私はそのように思っているんです。

コロナで「生存」が優先され、「生活」が二の次になっている

こういう新型コロナウイルスの問題が起きている時代、とりあえず目の前の生存を確保することが優先されています。それ一色に近い状態になってしまっていると思います。

生存はもちろん大事だと思うのですけれども、人間は目の前の生存、衣食住だけでは足りません。

人と関わってなんでもない会話をする。落ち着く空間に行ってお茶を飲んだり、お酒を飲んだりすることもあるでしょう。いろんなことがあって生活は成り立っています。

最初に「生活」が大事だと話しましたが、「生活」より「生存」が重視されていて、「生活」が二の次になっています。

もちろん「生きていなければ生活どころじゃないよ」というのは真っ当な話ですね。

それはそうなんですけれども、だからといって、大切な「生活」を見ないでおくというのは、長い目で見ると人々が生きていく活力が削がれていってしまうと思います。

生活がいろんな形で奪われるのが当然のことになってしまうのは、やはり怖いことだなと思います。今は、世の中全体がそういう方向で、金縛りにあっている状況に見えるのです。私自身もそうです。模索しながら生きているわけです。

必要なのは「生活の余白」

どうすればそのような金縛りの状況を解いていけるのか。

一気に振り子が振り切れるやり方で思い切り対処するのは影響が大きいから避けなければいけません。一気に何かを解決しようとすれば副作用も出てきて、逆に恐ろしい結果を招くことにもなりかねないと思います。

人間にとって初めての事態なので、地図のないようなところで考えながら、模索しながらどうやっていけば一番良いのかを探しているところだと思います。

必要か必要でないか、という安易な分類は良くない。自分で地図を作るつもりでやっていくことが必要なんじゃないかと思います。

木の葉の舟のように波に飲み込まれないように、やはり人とのつながりが必要だし、芸術の力も必要ではないかと思います。

そして、芸術は美術館に飾られているものや、書籍に入っているもの、ホールで聴ける音楽だけではないと思います。

生活の中で生まれてきた言葉や、ちょっとした人と人との声がけもそうだと思いますし、人を支えてくれるようなやりとりや誰かの挨拶もそうなのかもしれません。ほっとできる時間もそうかもしれません。

そういう生活に必要な余白のようなものが今、求められているのではないでしょうか。自然に生まれる余地、空間、遊びのようなものです。

生存に直結するものだけで、生活必需品だけで埋められているような状況では人の心は動かなくなっていくし、息をつくことができません。息苦しくなっていって、長い目で見ると本当に弱っていってしまうのではないかと思います。

やはり芸術も含めてそういうものは不要不急ではないですし、なくてはならないものだと私は思っています。

この状況の中でどのようにそういうものを維持していくか。なくてはならないものなのですから、新しい時代に合った形でどのように生かしながらやっていけるか。一緒に考えていかなければならないと思います。

人々の中で生きて死ぬこと それを人間らしく望んでいるだけだ

岩崎航

大気を呼吸すること

体に栄養を取り入れること

トイレに行くこと

自宅に住まうこと

おしゃべりすること

珈琲を飲み、酒を飲むこと

外に出かけること

愛すること

つながりあって

人々の中で生きて死ぬこと

それを人間らしく望んでいるだけだ


動画作品「漆黒とは、光を映す色〜詩人・岩崎航が、生きることと芸術を語る」(9月25日配信)のアーカイブは以下で見ることができる。

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【岩崎 航(いわさき・わたる)】詩人

筋ジストロフィーのため経管栄養と呼吸器を使い、24時間の介助を得ながら自宅で暮らす。25歳から詩作。2004年から五行歌を書く。ナナロク社から詩集『点滴ポール 生き抜くという旗印』、エッセイ集『日付の大きいカレンダー』、兄で画家の岩崎健一と画詩集『いのちの花、希望のうた』刊行。エッセイ『岩崎航の航海日誌』(2016年〜17年 yomiDr.)のWEB連載後、病と生きる障害当事者として社会への発信も行っている。2020年に詩集『震えたのは』(ナナロク社)刊行予定。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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