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ホルモン・冷え・骨盤 その健康情報は正確ですか? 「体の平和ボケ」憂う医師らが立ち上がる

「セックスで女性ホルモンアップ」「布ナプキンで子宮の冷え取り」ーー。女性向けの健康記事にはトンデモ情報がいっぱい。一緒に変えていきましょう!

「布ナプキンで子宮を温める」「セックスで女性ホルモンアップ」——。女性誌やインターネットなどに載る女性向けの健康記事には、眉唾ものの情報がいっぱい散りばめられています。

こんな状況を変えていこうと、産婦人科医の宋美玄さんらが今月中にも、正しい情報発信を啓発する団体「一般社団法人ウィメンズヘルスリテラシー協会」を設立します。この団体の狙いを聞きました。


メディアの教育や格付け、医療監修も

——どのような団体なのでしょうか?

「女性向けの健康情報を発信しているメディアの医療監修や、企画や原稿を作る編集者やライターの教育、一般の人向けにどのように医療情報と向き合うべきか考えてもらうイベントなどを開きます」

「ゆくゆくは健康情報を発信するメディアの“格付け”や表彰もして、一般の人にどのメディアなら信頼できるか、どのメディアはいい加減なのかわかるようにしたいです。研究活動や行政と教育機関への要望活動、法整備にもつながればと思っています」

「私もメディアに自分で記事を書いたり取材を受けたりして、誤った医療情報を正そうと努力してきましたが、モグラ叩きのようできりがありません。WELQ問題叩かれた後も、問題のある医療情報はあふれています。他の医師やジャーナリストにも協力してもらい、団体として声をあげていく必要を感じました」

健康もファッションの一つ? 「ホルモン」「冷え」「骨盤」が3大コンテンツ

——女性向けの健康情報には問題が多いのでしょうか?

「特にファッション系の女性誌はそうですが、健康もおしゃれやファッションの一つとして捉えられています。オーガニックやマクロビオティックやら自然派が持ち上げられ、女性の体の問題について宇宙の法則や精神世界をまぶしてふわふわと説明するスピリチュアル系も幅をきかせています」

「女性誌の3大キラーコンテンツは、『ホルモン』と『冷え』と『骨盤』です。例えば、『オーガニックコットンのナプキンで子宮が温まる』とか、『このエクササイズで骨盤の歪みを直すとなんでも良くなる』など、医学的にはなんの根拠もないトンデモ情報が掲載されています。読者にはそういう内容の方が親しみやすく、正確でない情報を面白おかしく発信することがまかり通ってきました」

「芸能人のブログも一般の人に影響力が強いのに、医学的な監修が全くなされていません。めちゃくちゃな健康情報を発信するのをやめてほしいとブログの運営会社に申し入れたことがあります」

医療者も怪しい発信に加担

——なぜ、まともな記事が掲載されないのでしょう。

「例えば、子宮筋腫はどういう病気か解説し、どのような検査や治療をするかというという記事を書いてもあまり読まれません。医師がそういう正しい情報を、興味を持たれるような形で伝える努力をしてこなかったことも問題です。それで、医療とは関係ない伝え手が、読者が飛びつきそうなネタを安易に選んで発信してしまいます」

「そういう記事を企画、編集するメディアの人は、文系学部出身がほとんどで、医学についての基礎知識もなければ、統計学も学んだことがない。私もそのような取材は山ほど受けましたが、企画の段階から間違っていて、その企画に合わせるように医師に都合の良い解説を求めてくる作り方がほとんどです」

「そして、罪深いのは、そういう記事に信憑性を持たせるために監修をしたり、コメントを寄せたりする医師が実際にいることです。本人が間違った情報を信じているのか、目立ちたいのか、金儲けをしたいのかはわかりませんが、医学的に誤った記事にお墨付きを与えることをしているのです」

——医療者でも間違った情報を発信しているのですね。

「医師による監修を掲げる健康情報は多いですが、監修者に医師免許があるからといって安心はできません。嘘や害になる情報を発信する医療者は山ほどいます」

「最近、何千人も医師が登録して監修していると宣伝していた医療サイトの運営が問題となりましたが、友達の医師も知らないうちに名前が掲載されていたそうです。なぜ登録しているのか問い合わせたら、勤め先の院長が取材を受けた時に、『おたくの職員全ての名前を貸してくれませんか?』と頼まれて、勝手に貸していたそうです」

「医師が匿名で医療相談に答えるサイトもいい加減な情報が多くてびっくりします。原稿料が安いといいますし、やはり責任の所在がはっきりしていないと、人間は手を抜くのだと思います」

「有名な妊娠、出産雑誌でも、看護師や助産師が科学的根拠の薄いことをたくさん書いています。それ以外にも、医療者を巻き込んで、子宮なんとかアドバイザーなど、医学的に何の裏付けもない民間資格がはびこっています」

教えられていない自分の体の知識

——なぜ読者はそんな情報を信じてしまうのでしょう。

「そもそも学校では自分の体のことについて全くと言っていいほど教えていません。生理一つを取っても、生理痛を我慢すべきではないことや、生理不順がどれぐらい続けば婦人科にかかるべきかなど、大事なことを伝えていないのです」

「大学まで出ている私の友達も、つい最近まで女性には卵巣が二つあることを知りませんでした。体に関する基本的な知識を身につけないまま、雑誌やインターネットに布ナプキンで子宮を温めようなどと書かれていたら、簡単にだまされてしまいます」

「女性という存在を神秘的というイメージで扱うことが多いのが日本社会です。もちろん妊娠だって最終的にはコントロールできないし、陣痛がいつ来るかも、健康な子が生まれるかも、全て人間の手の届かない領域です。しかし生物学、解剖学で説明がつく部分さえ、異常に神格化され、必要以上に神秘的な文脈で語られがちなので、怪しい情報に絡め取られてしまいます」

体の平和ボケ? 健康を意識して不健康に

——これほど医学が発達している時代に、医学的な説明よりも、怪しい情報が勝ってしまうのはなぜなのでしょうね。

「これも一種の『体の平和ボケ』だと思うのです。病院への受診もしやすくて、スーパーに行けば衛生的で安全性の高い食べ物が売られている日本で、さらに健康を意識すると変なものにはまります。天然がいいとか添加物はいかんとか、自然界に存在するものの方がいいと極端な考えに走ってしまう」

「赤ちゃんにハチミツを食べさせてボツリヌス症で死亡した件が話題になりましたが、自然だ、無添加だとこだわるよりも、土壌に潜むボツリヌス菌や生肉を食べる方がずっと怖いわけです。基準を満たした添加物を恐れるより、細菌学や感染症学の方がずっと大事なのに、ずれています」

「ほとんどの人に問題のないグルテンを排除したり、放射能を極端に怖がるベクレルフリーにこだわって神経質になるぐらいなら、今の時代、何も考えずに生活した方がずっと健康的な生活を送れるような気がします」

「冷え取り教」「自然派」の弊害

——そうした情報に振り回されることによってどのような被害があるのでしょうか?

「例えば、不妊治療などではなく、自然な方法で妊娠したいという女性は多いのですが、雑誌やネットを見れば、食生活で体質改善とか漢方とか、子宮の冷えを取るとか、西洋医学に頼らない方法がたくさん載っています」

「それを続けて、40代半ばになってから、『やはり妊娠しない』とようやく不妊クリニックを受診しても、時間は取り戻せません。誤った情報に振り回されて取り返しがつかなくなってしまう。それは大きな被害です」

「また、これからの季節に多いのが、暑いのにレッグウォーマーや腹巻をしている妊婦です。私は『温め教』『冷え取り教』と呼んでいるのですが、『冷えは万病の元』という言葉を信じて、自分が快適だと思う温度を超えて温める妊婦はものすごく多い。真夏にお腹にカイロを貼っている妊婦さんもいるくらいです」

「妊娠中のカフェインもそうですが、ある芸能人が、ココアにカフェインが入っているのを知らずに飲んでしまった、これから絶対に気をつけますと極端に落ち込んだ投稿をしていて心配になったことがあります。ココアぐらいたまに美味しく飲めばいいじゃないと思うのですが、体への影響は量の問題なのだと考えられないと、『あれもこれも全部排除しないといけない』と心が病んでいきます」

——性の問題でもメディアの情報に振り回される人は多いですね。

「性の問題は健康被害ではないかもしれませんが、例えば、患者さんでオーラルセックスが嫌だという人は多いのです。セックスにとって必須の行為ではないのに我慢している。例えば、女性誌のセックス特集でもオーラルセックスの仕方がすごく詳しく載っていたりして、それが必須だと思い込まされています」

——広告にも問題があると度々指摘されています。

「例えば、有名な骨盤ベルトメーカーの一つは、切迫早産を改善するとか、安産になるとか、科学的根拠があるというには程遠いレベルの研究で効能効果を宣伝しています。さらに、骨盤を締めておかないと子宮が変な形になって育てにくい子供になるとか、脅しや呪いの言葉を使って買わせようとしています。しかも巧妙に医療の言葉をまぶしているので、医療者でさえ骨盤の仕組みに詳しくなければだまされてしまいます」

「妊娠前や初期の葉酸摂取は胎児の脳や背中の神経の病気を防ぐ効果があることがわかっていますが、妊娠しやすくなるかのように誤解させる宣伝文句で販売している会社もあります。私が診た妊婦さんは、飲み続けていいのか不安に思って相談してきましたが、偽りの広告で惑わせているのは罪なことです」

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正しい情報で自分らしい選択を 社会全体を健康に

——メディアの健康情報は全てが悪いわけではないですね。

「怪しいサイトであってもたくさんクリックされるということは、女性が健康に対する情報をそれほど求めているということなんです。男性よりも女性の方が体に向き合う機会は多いです。月1回の月経は女性にしかないし、妊娠、出産をするのは女性。更年期もあり、生物学的に体と対話する機会が多いと思います」

「私の患者さんでもスマホで検索して医療情報を得ている人はたくさんいますが、それでちゃんとした知識を得てくれる人もいます。例えば妊婦さんにあなたはこういう病気かもしれないと検査をすると、次の受診日までに調べて勉強してきてくれて、話が早いということもあるんです」

「現代の人は何も調べないまま不安な状態でいることはできません。そういう時に、クリックした情報がある程度正確なものになればいい。正確だけれども、クリックされて読まれる情報を増やすことが目標です」

——女性の健康情報に特化した活動ですが、現代を生きる女性に正しい健康情報を届けることはどのような影響があると思いますか?

「最終目的は、女性に、自分の健康や生殖に関することを自分で選択できるようになってほしいのです。間違った知識を持っていては出遅れてしまい、時には取り返しのつかないことになります。自分らしい人生を歩むスタートラインに立つために、変な情報に振り回されない環境を作りたいのです」

「女性が正しい情報を元に健康になれば、毎日の生活の質が上がったり、生き生きと働けるようになったりするだけではなく、妊娠、出産、育児にも良い影響を与えるでしょう。それは結果的に次世代を担う子供達の人生にも関わってくることです」

「女性が正しい健康情報を選び取る力や環境を整えることは、社会全体の健康維持にも役立つことだと信じています。ぜひみなさまにもご協力いただければと願っています」

「一般社団法人ウィメンズヘルスリテラシー協会」とは

宋美玄さんが代表理事に、国立成育医療研究センター周産期・母性診療センター副センター長の齊藤英和さん、日本医療政策機構理事の宮田俊男さん、女性医療ジャーナリストの増田美加さん、BuzzFeed Japanの岩永が理事に就任し、設立する。

顧問に元日本産科婦人科学会理事長の吉村泰典さん、大阪大学産婦人科教授の木村正先生さんを迎え、産婦人科、小児科、内科、救命救急、精神科などの協力医と共に、様々な企画を実施する。

まずは一般向けのシンポジウムで医療情報を選び取る大切さを伝え、医療情報を扱う編集者やライター向けに連続セミナーも開く予定。

追記

筆者の岩永直子は同協会の理事を務めていましたが、2017年12月31日付けで退任しました。


Naoko Iwanagaに連絡する メールアドレス:naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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