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HIVに感染していてもセックスや恋愛を楽しめる 「U=U」キャンペーンサイトがオープン

HIVに感染していても、適切な治療を受けてウイルスを抑え込んでいれば、コンドームなしでもセックスの相手に感染させることはありません。この科学的な事実を知らせるためのキャンペーンサイトがオープンしました。5言語にも対応します。

HIV(※)に感染していても、適切な治療を受けていればセックスの相手に感染させることはないーー。

NPO法人akta

「U=U」キャンペーンサイトのトップページ。MSM(Men who have sex with Men、男性とセックスをする男性)を主なターゲットとして、ビジュアルにもこだわった

そんな事実を多くの人に知ってもらうためのキャンペーンサイトを、HIVの予防・啓発をする「NPO法人akta」が12月にオープンした。

同法人理事長の岩橋恒太さんに狙いを伺った。

※HIV(ヒト免疫不全ウイルス)。現時点では治療でウイルスを排除することはできないが、治療薬を飲み続ければウイルスを抑え込んだまま寿命を全うできる。治療をせずにウイルスが体内で増殖し免疫が落ちることで、ニューモシスチス肺炎など23の病気を発症した状態をエイズ(後天性免疫不全症候群)という。

「U=U」とは? 治療ガイドラインにも盛り込まれる

HIV感染症は治療法が劇的に進歩し、天寿を全うできる病となった。ウイルスを体から排除する方法はまだ確立されていないが、薬を飲み続けていれば、検査でウイルスを検出できないほど抑え込むことができる。

特定非営利活動法人 日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス

「U=U」とはどのような状態かを示した図

この検出できない状態を半年以上維持していると、コンドームなしでのセックスでも相手に感染させないことが大規模な研究で明らかになっている。

この状態を、「U=U(Undetectable/(ウイルスを)検出できない = Untransmittable/感染しない)」と呼び、HIV陽性者の日常生活を守り、感染予防をするための新たな常識として広めるようになった。

NPO法人akta

抗HIV治療ガイドライン」の2020年3月改訂版にも「U=U」は盛り込まれ、医師は治療でウイルスを抑え込むことで性的パートナーへの感染リスクはゼロであるというメッセージを伝える必要があるとも明記された。

キャンペーンサイトでは6つのポイントを紹介

aktaが今年の世界エイズデーに合わせて開設した「U=U」キャンペーンサイトでは、一般の人がよく抱く6つの疑問に沿って「U=U」や、「U=U」時代のHIVの新常識について伝えていく。

NPO法人akta
NPO法人akta

「そうは言っても100%うつらないって言えるの?」という疑問にも、研究では13万回のコンドームなしのセックスで感染はゼロだった事実を伝えている。

NPO法人akta

ただ、コンドームなしでもHIVは感染しないと言っても、コンドームがいらないというわけではない。

「HIVよりも感染力の高い肝炎ウイルスや梅毒など、他の性感染症にもかかるリスクはあります。HIV陽性の人が新たに性感染症にかかることを予防するためなど、U=Uの時代でもコンドームは自分や相手の健康を守る大事な手段の一つです」と岩橋さんは言う。

多言語対応も 英語、ハングル、中国語(2種)、ベトナム語

NPO法人akta

今週末から多言語対応も可能にする

また今週末から、多言語対応も始める。英語、ハングル、中国語(簡体字)、中国語(繁体字)、ベトナム語にも変換できるようにする。新宿2丁目などのゲイタウンで増えている国の言語にまず対応した。

「U=U」でない陽性者も排除されないように

このキャンペーンサイトは、HIV陽性者の支援団体「ぷれいす東京」や「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」の協力を得て作った。

NPO法人akta

当事者団体がこだわったのは、「U=U」の安全性を強調することによって、「U=U」でないHIV陽性者が排除されてはいけないということだ。

「私たちは既に一緒に生きている(Living Together)」というメッセージを入れ、日常生活ではうつらないウイルスなので、HIV陽性者を遠ざけて生活する意味はないことも伝えた。

「そもそも人権は、『U=U』だから守られるというものではなく、誰もが守られるべきものです」と岩橋さんは強調する。

「U=Uが広まってきたのはいいことなのですが、ある陽性者は歯科医から『ウイルスが検出されなくなったら診ます』と言われたそうです。しかし、診療では常にHIV以上に感染力の高いHBV(B型肝炎ウイルス)やHCV(C型肝炎ウイルス)の感染者も受診していることを前提に標準予防策が取られるべきで、HIVだけに注目するのは差別です」

NPO法人akta

検査で早期発見することは必要だが、日本では一定程度ウイルス量が増えて、障害者手帳が交付されないと、治療費の助成が十分には受けられない。そのため、検査で陽性とわかっても、しばらく不安なまま治療が受けられない時期を過ごすという問題がある。

「こうした制度は変えて行かなければいけませんし、全ての人を取りこぼさないという思いから、あえて『U=U』になりたくてもなれていない人への配慮も入れ込んでいます」

さらに詳しいことを知りたい人のために、「U=U関連のお役立ちリンク集」も最後につけている。

「濃厚接触」を避けることが求められるコロナ禍で....どう伝えるべきか?

U=Uのキャンペーンは日本でこれまでNPOなどが取り組んできており、日本エイズ学会もこのキャンペーンの支持を発表している。

aktaでも始めようと考えたのは、今年1月にアメリカの「U=U」を広めるネットワーク代表が日本で講演した時、「U=Uという事実を知っているのに伝えないことは『医療過誤』だ」と強いメッセージを発したことがきっかけだった。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

U=Uキャンペーンを始めたNPO法人akta理事長の岩橋恒太さん

「日常生活でHIVはうつらないということは1990年代から言われてきたのですが、いつも『でも、セックスはね...』と付け足されてきました。つまり、セックスだけは制限しなさいというメッセージを医療者も支援者も伝え続けてきたのです。それを覆すU=Uという知見が出てきたのに、陽性者の生活を無意味に制限するのは問題だというメッセージは僕たちにも突き刺さりました」

「適切な治療を受けていれば安全にセックスできるというメッセージによって、陽性者の精神状態が向上しますし、治療へのモチベーションも上がることがわかっています。そういう意味で『伝えないことは医療過誤』というメッセージは妥当だと思います」

当初は4月末に予定されていた東京レインボープライドでキャンペーンを始める予定だったが、新型コロナの流行で中止となった。

「濃厚接触を避けることが求められるコロナ禍で、どう伝えたらいいのかは悩みました。MSMコミュニティでもそもそも一時期セックス自体を避けて、バーチャルセックスなどの工夫をすることを呼びかけていたほどですから」

「でも、感染症に関心が高まっているこの時期だからこそ、感染症と差別や人権の問題を社会に問いかけてきたトップランナーのHIVで、正確な情報を伝えるキャンペーンをすべきだとも思いました。感染症の差別やスティグマ(負のレッテル)をどうなくすか考えるきっかけにもしてほしかったのです」

「人は感染予防のためだけに生きているわけではない」 自分らしいセックスと予防を

HIVは治療法が進歩し、予防法もコンドームだけでなく、「PrEP(プレップ)、Pre-exposure prophylaxis(曝露前予防投与)」「PEP(ペップ)、Post exposure Prophylaxis(曝露後予防投与)という予防服薬、「U=U」、定期的な検査など、エイズを終わらせるための様々な技術や知識が増えてきた。

「ただ、そういった道具がそれぞれの人生を幸せにするのか丁寧にコミュニケーションをとっていかないと、本当には浸透しないと思います。人は感染予防のためだけに生きているのではない。自分にとって幸せなセックスライフを続けるにはどんな手段があるのか。そんなアプローチの仕方もあるかもしれません」

他の国では、どれか一つの予防方法だけではなく、様々な組み合わせを示し、選択してもらう試みが始まっている。

「それぞれの人が使える予防法は状況によって違います。コンドームが使えない状況があるならばプレップが合っているかもしれないし、長いパートナーシップを結んでいるカップルなら治療を受けてコンドームをしない選択肢だってある」

「まず、それぞれの状況によって変わる予防方法にアクセスできないことが問題で、そのアクセスと医療・支援の環境を改善していくことが大事です。また、自分の生活に合わせて、複数のメニューの中からうまく使いこなす力をどうコミュニティの中で育てるかも課題です」

当事者団体「持病のひとつに過ぎないと受け止められる人が増えてくれたら」

特定非営利活動法人「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」代表理事で、今回のサイト作成にも協力した高久陽介さんは以下のコメントを寄せた。

高久陽介さん提供

「日本HIV陽性者ネットワーク・ジャンププラス」代表理事の高久陽介さん

私自身は、「U=U」がHIV感染者に対する差別を解消するためのメッセージになるとは、それほど強く考えていません。なぜなら、「U=U」であろうとなかろうと、もともと日常生活でHIVがうつるような場面は、セックス以外にはないからです。未だに起きてしまう職場や医療現場での差別や排除の問題は、「U=U」以前の基本的な知識の不足が原因と言えます。

しかしながら、「HIVに感染していても恋愛やセックスを諦めなくていいんだ」というメッセージには、それぞれの立場ごとに、大きな意味があります。

まず私たちHIV陽性者にとっては、この感染症特有のイメージによるメンタルヘルスの課題を抱えている人が多い中で、すでに自分が感染源ではないと思えることは、生きやすさやQOLの向上につながっています。

また、コンドームを使わないセックスなどで「HIVに感染しているかもしれない...でも検査の結果を知るのは怖い」と不安に思っている人が、たとえ陽性であっても恋愛やセックスを諦めなくて良いと思えることは、本当に検査が必要な人にきちんと受けてもらう後押しになるでしょう。

そして、みなさんが好きになった相手やセックスの相手がHIV陽性であっても、単なる持病のひとつに過ぎないと受け止められる人が増えてくれたらと思います。

UPDATE

高久陽介さんのコメントを追加しました。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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