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生と死の「戦場」を生き延びた「薬害エイズ」当事者が、人生に問い続ける理由

問うことだけが人生だ。

かつて「死の病」と恐れられたHIV(エイズウイルス)感染症は、治療が進歩し、今や、薬を飲み続ければ長生きできる病となった。

しかし、今でも言われなき偏見を恐れて口をつぐむ陽性者は多い。そんな中、陽性者が自身の思いを舞台で朗読するイベント「Living Together/Stand Alone」が2010年から不定期に開かれてきた。

11月5日に東京で開かれた3回目のこのイベントに、スーツ姿の男性が登場した。武田飛呂城さん(39)。血友病の治療で非加熱血液製剤を投与され、幼い頃、HIVに感染した。

舞台に置かれたいすに座り、静かな声で自身の半生を語る。タイトルは「問うことだけが人生だ」。なぜ武田さんは、答えのない問いを抱き続けるのか。

5日に都内で開かれたイベント「Living Together / Stand Alone」で手記を朗読する武田飛呂城さん。
Naoko Iwanaga / BuzzFeed

5日に都内で開かれたイベント「Living Together / Stand Alone」で手記を朗読する武田飛呂城さん。

以下はその全文だ。

「問うことだけが人生だ」

1994年の夏、私は高校1年生だった。夏休みに入ってすぐ、母から「大事な話がある」と呼ばれてリビングに座った。母は、私がHIVに感染していると告げた。

私は血友病で、小さいときから非加熱血液製剤を使用していた。その薬の中に、HIVが混入していた。いわゆる「薬害エイズ事件」。私は、5歳頃までにHIVに感染していたと推定される。

私の叔父も血友病だった。同じくHIVに感染して、遡ること3年前、34歳で亡くなっていた。ああ、自分も叔父のように死んでいくんだと思った。16歳の心には、その事実が重かった。

ひとりっ子で、親に心配をかけたくなかったから、気付かれないよう、静かに荒れた。なんでかなあ、どうして自分が。答えなんかなかった。

告知後しばらくは、誰にも話せず、一人で抱え込んでいた。でも、告知から2年後、体調を崩して、一時期、学校に通えなくなった。

これ以上ひとりで抱え込んでいたら、精神的にダメになる。そう思って、中学の時からの親友に、勇気を出してHIVに感染していることを告げた。親友は「なんでもっと早く言わねーんだ!」と言って、怒った。

なんで言えなかったんだろう。本当にありがたかった。

体調は一進一退の中、大学に入学した。HIVの薬は次第に出てきたけど、初期の不完全な治療をしていた私には、耐性ウイルスがたくさんできていて、HIVが薬の効きにくい形に変化していた。

毎年、私は2,3回、入院して、同じような状況の友だちがたくさんできた。でも、同時に、亡くなっていく人もいた。毎年、ひとり、ふたりと亡くなっていった。

そこは、戦場だった。「次は自分かな」って、みんな思っていた。でも、言葉には出さなかった。亡くなる人には、自分より若い人もいた。なんであの人が。なんで、どうして。誰も、答えることはできなかった。

ある日、入院中に仲良くなった人に、新宿2丁目に連れて行ってもらった。20歳になったばかりのノンケにとっては、刺激にあふれた世界。大人の世界を垣間見た気がした。みんな、とても魅力的だった。

そして、なんでだろう、とても楽しくて、ちょっと切なかった。

私の母は、よく、女の子がほしかったと言っていた。私が男で生まれてきて、どうして女の子じゃなかったんだろうって、ちょっと落ち込んだらしい。

でも、あきらめきれなくて、私に女の子の格好をさせたり、ぬいぐるみやリカちゃんハウスなど、女の子用のおもちゃを買ったりしていた。

お客さんにお茶を出すとか、料理や裁縫の手伝いをするとか、母は、私を女の子として育てた。でも、私は女の子にはならなかった。

20歳を過ぎたある日、母と一緒にお酒を飲んでいた時、新宿2丁目に行った話をしたら、母は「あーあ、あなたもせめて、オカマならよかったのに」と言った。世の中には、いろんなニーズがあるなと思った。

そして私は、こんな素敵な母親の元に生まれてきたことを、感謝した。

23歳の時、免疫不全の状態が進み、医師から「1年後の生存を保証できない」と言われた。ついに自分の番が来たと思った。でも、同時に、1年以上生きたら勝ちなのかなと思った。

医師は「新薬ができるまでガンバレ」と言った。どう頑張ったら良いかはよくわからなかったけど、とりあえず頑張りますと言った。

それから数年、生と死の間を行き来した。何度か、本当に危険な状態になったけど、なぜか生き残った。そして5年後、新薬が開発された。

あと半年、新薬の開発が遅かったら、今日ここにいなかったろうと思う。どうして、新薬が間に合ったんだろう。新薬が驚くほど効いて、無事に今日まで生き延びた。

人が、死ぬ。人が、生きる。その凄まじさを、私は見つめていた。

人生の、凄まじさを、私は見つめていた。

今日、ここに叔父さんはいない。りょうちゃんはいない。いない人がいて、いる人がいる。なんでだろう、どうしてだろうと尋ねても、だれも答えてはくれない。

人生には、問いだけがあって、答えなんか無いんだから。

去年、ひとりの女性と結婚した。彼女は、なんで私と結婚したのだろう。人生は、問いの連続だ。生きている限り、問いかけが続く。

問うことは、大事なことだ。生きることは、大事なことだ。死ぬ瞬間まで、生きることを大切にしよう。

私は、今日も、問い続けながら生きている。答えは、見つからなくて良い。問いの中に、人生の全てがある。

ミラーボールを掲げて、会場に光を振りまく武田さん(左)と、イベントを企画したマダム ボンジュール・ジャンジさん(右)
Naoko Iwanaga / BuzzFeed

ミラーボールを掲げて、会場に光を振りまく武田さん(左)と、イベントを企画したマダム ボンジュール・ジャンジさん(右)

幼い頃から血友病、HIVという重荷を背負い、「なぜ自分が?」「なぜ仲間が?」と答えのない問いを繰り返してきた。

それが一瞬落ち着いたのは、大学に入り、V・E・フランクルの本『それでも人生にイエスと言う』を読んだ時だ。ナチスの強制収容所に囚われ、両親と妻を亡くしたこの精神科医は、こう書いていた。

「私たちは、生きる意味を問うてはならないのです。人生こそが問いを出し私たちに問いを提起しているからです」

武田さんは、これを読んで気が楽になったという。

「人生の方が、自分が生きる意味を問いかけてきているのだと思いました。自分はそれに懸命に答えていけばいい。人生から投げかけられた問いに、自分なりに答えを出していくのが生きていくということなのだとその時は納得したのです」

答えなんて出さなくていい

ところがその少し後に、武田さんを次の試練が襲い、気持ちは覆る。

突然、母親から「あなたのお父さんは本当の父親ではない」と打ち明けられたのだ。遺伝上の父とは1歳になる前に別れ、再婚したのが今の父だと知らされた。

「私は、両親から愛されて育ってきたと自信を持って言えます。今の父親のことは大好きでしたし、血のつながりがないと聞かされても、その信頼関係が崩れることはありませんでした。むしろ、真の意味で私の父親になってくれたことに感謝しました」

「しかし、同時に、それまで疑いもしなかった自分のルーツが、当たり前と思っていた基盤が崩れた気がしました。そして、フランクルの言う、問いを出す『人生』に対して、ふざけんな!と怒りが湧いたんです。血友病にHIVが重なって、その上、父親が違うってどういうことなんだって。もうこれ以上、人生が突きつける問いに答えるのはいやだと思いました」

また悶々と考え抜いた武田さんは、「問いの主体を自分に取り戻したい。人生が出してくる問いに、答えなんか出さない。自分が徹底的に問いかけてやる」と決意する。薬害エイズで亡くなった叔父のこともずっと引っかかっていた。

「答えを出した途端薄っぺらくなる、と気づいたんです。人生の当事者でない自分が、後付けで『おじさんだって生きた意味があったんだ』と意味をつければ納得できるかもしれませんが、答えを出してしまうと忘れてしまう。心にけりをつけてしまう。それは正しくないことだと思いました」

複雑な人生を複雑なまま受け止め、持ち運んでいくには問い続けることだーー。

「おじさんがなぜ亡くなったのかという問いは、最初は怒りと共に、徐々に寂しさと共に、今は懐かしさと共に問い続けてきたものです。問いの内容は変わっていっても、僕は問い続けなければならない。問いを発した時に、おじさんと一緒にいると思えるからです」

朗読に登場する「りょうちゃん」は、2010年に初めて開かれた「Living Together」で舞台に立った薬害エイズの仲間、藤原良次さんだ。今年亡くなり、今回の舞台に立つことはできなかった。

「言霊ではないけれど、その人の名前を呼んで問うた時、もう一度その人がこの場に現れる気がするのです。忘れたくない。一緒に生きていきたいのです」

フリーライターを経て、NPO法人日本慢性疾患セルフマネジメント協会の事務局長として活動する武田さんは、昨年結婚した。「彼女は、なんで私と結婚したのだろう」。この幸せを手放さないための問いだ。

「妻がなぜ僕と結婚したのか、本当のところはわかりません。わかった気になって、安心しちゃいけない。ずっと一緒にいられるよう、妻はなぜ僕と生きることを選んだのかずっと問い続けていきたいと思うのです」




Naoko Iwanagaに連絡する メールアドレス:naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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