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重度障害者の国会議員、天畠大輔氏が「あかさたな話法」で首相に質問 「温情主義的だ」と障害者施策を批判

重度障害があるれいわ新選組の天畠大輔氏が通訳介助者を通じた「あかさたな話法」で、参院予算委員会で障害者政策などについて岸田首相に質問しました。「温情主義的だ」と厳しく批判しつつ、首相が当事者に会って話を聞くとする約束を引き出しました。

重度の障害があってしゃべることができないれいわ新選組の参議院議員、天畠大輔氏が10月20日、参議院予算委員会で初めての質疑に臨んだ。

天畠氏は五十音を読み上げる通訳介助者に腕を引っぱる合図を送って、介助者が天畠氏の言いたい言葉を読み取り代読する「あかさたな話法」という独自の手法と、代読者を使って質問。

障害者政策や経済政策などについて「温情主義的だ」と政府の政策を厳しく批判しつつ、岸田文雄首相から障害当事者に会って話を聞くとする答弁を引き出した。

「あかさたな話法」と代読で質問 質問時間をカウントしない配慮も

天畠氏は、14歳の時に救急搬送された病院での医療ミスで、話すことも書くこともできない障害が残った。7月の参議院議員選挙にれいわ新選組の比例特定枠で立候補し、当選した。

天畠氏は10月20日に開かれた参議院予算委員会でまず、あかさたな話法を使って「れいわ新選組の天畠大輔です。日本で最も障害の重い研究者です」と挨拶をした。その後は、代読で質疑を始めた。岸田首相ら出席議員は、その様子をじっと見つめた。

最初は、日本も批准している「障害者権利条約」についてどのようなものか、そして、この条約で障害者に提供するよう求められている「合理的配慮」とは何かを岸田首相に質した。

岸田首相は「障害者権利条約は、障害者の人権及び基本的自由の享受を確保し、障害者の固有の尊厳の尊重を促進することを目的として、必要な措置等について定める条約です」と回答。

「合理的配慮とは、障害者に対するさまざまな配慮のうち、障害者の人権、基本的自由を確保する上で、必要かつ適当なものであって、障害者が置かれた個別の状況に応じたものであり、配慮を行う側にとって過度の負担とならないものを指すと理解している」と続けた。

天畠氏は代読者を通じて、「わかりやすく言い換えると、合理的的配慮は段差にスロープを設置するなど、障害者が生活する上でのバリアを取り除くために必要な対応や工夫をすることです。国会議員の皆さん、質疑をご覧の皆さんにぜひ、この考え方を知っていただきたい」と訴えた。

天畠氏自身、あかさたな話法で言葉を紡ぐのは時間がかかり、答弁に追加質問をしていると持ち時間が足りなくなる。あかさたな話法で追加質問の言葉を読み取る間は、委員長に「配慮をお願いします」と申し出て、質問時間の計測を止めてもらう「合理的配慮」を求めた。

「国会も合理的配慮に欠けていないか?」首相「どれだけ応えられるか、皆で考えていきたい」

国連は今年日本政府の障害者施策がこの条約に沿っているか審査を行い、9月には日本政府に対して勧告を出している。

その勧告の重要なポイントについて問うと、岸田首相は「地域社会での自立した生活、インクルーシブ教育、精神障害者の入院等、多岐にわたる事項が含まれている。法的拘束力を有するものではないが、今回示された勧告等については関係省庁において内容を十分検討していきたい」と答えた。

天畠氏は、「日本の障害者施策はパターナリズムです」と言い切り、「国連勧告の最も重要な懸念点は、日本の障害者施策がパターナリスティック、つまり温情主義的だというところだと思っている。つまり上の立場の者からの施しです」と厳しく批判。

「たとえば、私のような重度障害者は通勤、通学中や仕事中は原則、公的な介助費用が出ません。職場介助者を配置する助成金はありますが、実態は職場に頭を下げてお願いしなければならない。国が介助保障をすべきだと考えますが、現在は非常に温情主義的な制度になっている」とし、学業や仕事中の公的介助が当たり前に認められていない現実を指摘した。

さらに、「温情主義的なのは国会も同じです。本当の意味でも合理的配慮を理解されていない」と続ける。

「私の発話は時間がかかります。だから国会質疑では予定原稿は代読を入れます。そして、答弁に対してさらに質問したい時には持ち時間のカウントダウンを止めていただいています」

「しかし、カウントダウンを止めるかどうかの判断は、最終的には委員長の個人裁量に委ねられます。発言の権利がいつでも保証される仕組みは整っていません。健常者議員と同じ土俵に立てないのです。本来なら質疑時間を延ばす対応が必要ですがなされません」

その上で、首相に「合理的配慮の欠如と思われませんか?」と一議員としての見解を聞いた。

岸田首相は、「国会に関わる者全てがそうした指摘を重く受け止められなければならないと思います。国会の制度の中で、どれぐらいそのご指摘に応えられるか、皆で考えていきたいと思います」

天畠氏は「見えにくい差別をなくしたいです」として、「私は自分の意思を無視される経験を嫌というほどしてきました。だから同じように言葉を奪われてきた人たちの思いを背負って、国会から見えにくい差別をなくしていきたい。引き続き合理的配慮を求めていきます」と返した。

「精神科病院の身体拘束が10年で2倍」適正か、首相に質す

障害福祉関連法の改正や、精神科病院での身体拘束についても質した。

政府は障害者総合支援法や精神保健福祉法など障害福祉に関わる複数の改正案を束ねて、今国会に提出しようとしている。

精神科病院での身体拘束について調査してきた杏林大学保健学部の長谷川利夫・杏林大学教授を参考人として招き、精神科病院での患者の拘束の実態について説明させた。

長谷川教授は、2021年現在、精神科病院の入院患者26万人中13万人が医療保護入院で、「入院患者の約半数が自分の意思によらない強制入院」と指摘。

「医療保護入院は自傷・他害の恐れがなくても、強制入院させる制度です。しかも家族の同意で入院させる世界でも稀に見るおかしな制度」と批判した。

天畠氏は代読で、「今回の法改正では、患者に家族がいない場合に加えて、家族が意思表示をしない場合も市町村長の同意によって医療保護入院が可能になろうとしている。国連勧告では『障害者の強制入院による自由の剥奪を認める全ての法的規程を廃止すること』と強く勧告している。今回の改正は勧告に逆行しているのではないか」と疑問を投げかけた。

さらに、日本の精神科医療で長年問題となっている身体拘束の件数についても、2003年から10年間で2倍になっていると指摘。

長谷川参考人も「精神科病院では多くの人が身体拘束で亡くなっており、裁判も全国で起きている。昨年10 月には石川県の40歳の男性が身体拘束後に亡くなった裁判で、身体拘束開始時からの違法性が最高裁で確定した」と説明した。

そして、身体拘束の実施要件は、厚生労働大臣告示で決まっているが、この要件を要件を広げようとしていると指摘し、国会の審議を経ることなく人の自由を奪う要件が拡大されることに疑問を投げかけた。

天畠さんはあかさたな話法で「総理、これは人権の観点からおかしくないですか?」「身体拘束は10年で2倍に増えています。これは、欠くことのできない限度が2倍に増えたということですか?」と首相に質した。

岸田首相は「その実態について今一度確認すると共に、その意味の分析について厚労大臣ととも確認させていただきたいと思います」と答えた。

「当事者の声を聞いて」「ぜひお話を聞かせていただきたい」

岸田首相は常々、自身に「聴く力」があることをアピールしている。

天畠氏は、「『聴く力』というのであれば、私たち当事者の声を聞く機会を作ってください。総理、私たち当事者と会っていただけるのか、会っていただけないのか、二択でお答えください」と問いかけた。

岸田首相は、「具体的な会い方について検討いたします。ぜひお話を聞かせていただきたいと思います」と当事者の話を聞くことを約束した。

天畠氏は「ありがとうございます。そこは温情主義から脱せたのですね」と皮肉を飛ばしつつ、「私たちが総理宛に出した(障害福祉関連の)束ね法案提出反対の要望書はご覧になりましたか?」と質問。

首相は、「反対のご意見について現物は見ていないが、束ねに反対する意見があることは伺っている」と答え、こう理解を求めた。

「今回の法案では精神科病院での長期入院を見直していくための医療面の見直しや、退院後の生活への支援強化、難病患者の福祉や就労面での連携強化など、障害者の生活を総合的に支援することを目指す内容になっていることから関係法案の一体的な見直しが必要であるという判断に立っている。この点についてもご理解いただきたい」

天畠氏は最後に首相に、「今度会って意見交換をしましょう」と呼びかけて、質疑を終えた。あかさたな話法で文章を読み取る時間を認める合理的配慮を受けて、持ち時間の30分を19分超過した。