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気づかぬうちに失明や脳障害も 本当は怖い梅毒、日本で急増中

梅毒はどんな病気で、どんな人が気をつけたほうがいいのか。感染症専門医の今村顕史さんにじっくり伺ってきました。

梅毒が日本で急増しています。今年1月から11月18日(46週)までの累積報告数は6096人で、昨年1年間の報告数(5820人)を既に超えました。1970年以来6000人を超えるのは48年ぶりです。

梅毒が怖いのは症状に気づかずに放置していると、認知症のような脳障害や失明、脊髄麻痺などが起きるまで重症化する恐れがあることです。

20代の女性も増えているこの病気は、どんな特徴があり、どんな人が気をつけたほうがいいのでしょうか?

梅毒の治療に詳しい都立駒込病院感染症科部長、今村顕史さんに伺ってきました。

20代女性や地方でも急増中 性風俗での感染も?

ーー梅毒、急増していますね。どんな人に増えているのですか?

2011年頃から報告数が急増し、今年はとうとう6000件を突破しましたね。

しかし、この報告数も実態を表していないかもしれません。性感染症ということで会社に知られたくないなどの理由で、保険外でこっそり治療を受ける人もいて、届け出もきちんとなされないことがあります。実際は、もっと多くの人が感染していると思われます。

少し前までは男性同性間での感染が多かったのですが、最近では異性間での性的接触による感染の方が多くなっています。

20代では女性が非常に多く、特に20代前半では女性の方が男性を大きく上回っているのも特徴です。

ーー厚生労働省は来年1月から、性感染症法に基づく梅毒の届け出内容に、性風俗で働いたことがあるかや、性風俗を利用したかどうかを加えることになりましたね。感染経路をより具体的に調べるのですね。

昔から性風俗産業での感染が多いとされていますが、現在の性風俗は多様化していて、店舗型ではなくネット中心に運営したり、副業や個人のアルバイトとして働いている人も多くなっています。

営業形態には関係ありませんが、定期的な性感染症の検査など健康管理がおざなりになっているところはないかが心配です。

また、東京や大阪、愛知、福岡などの大都市が多いのはもちろんなのですが、10万人あたりの報告数を見てみると、岡山や広島、福島、熊本など地方でも多くなっているのがわかります。

初期は痛みもなく、症状に気づかないことも

ーーそもそも梅毒とはどのような病気なのでしょうか?

梅毒トレポネーマという菌が原因で、性的な接触によってうつる性感染症です。全身に様々な症状が出るのですが、1期、2期の典型的な症状が同時に出たり、症状の出方も進行速度も個人差が激しい病気です。

ーーどんな症状が出て、どのように進行するのでしょう?

今回は典型的な症状をお伝えしますが、これに当てはまらない方もいることにご注意ください。

典型的には、1期、2期と言われる初期を経て、症状が表に現れない潜伏期に入り、その後、晩期と言われる重症の状態に進みます。

【1期の症状】

感染すると1〜3ヶ月たってから、局部にしこり(初期硬結)ができてきます。

男性ならペニスや陰嚢の表面に、女性は外性器に耳たぶの軟骨ぐらいの硬さのしこりが現れます。直径1センチ前後が多いでしょうか。アナルセックス(肛門性交)をする人の場合、肛門部に出ることもあります。

そのうち、しこりの真ん中部分が崩れてきてじゅくじゅくしてきます。

初期の症状に痛みやかゆみはあまりありません。

次の2期もそうなのですが、この症状はいったん消えてしまいます。男性ならばペニスや陰嚢の裏側にできていたら気づきにくいですし、女性は外性器をなかなか見る機会がないですから、気づかないことも多いのです。

【2期の症状】

初期の局所症状が消えて、しばらく(4〜10週間が多い)たつと、手のひらや足の裏など全身に発疹が出ることもあります。どこに出るかも人によって様々ですが、発疹は間隔がまばらに出ることが多いです。顔には出にくいです。

また、喉に病変ができることもあります。下の写真のようにのどの奥の方にできることが多いですね。これも痛みがなく、違和感があるかどうかぐらいです。

初期の病変は見かけが心配で受診する人はいるかもしれませんが、症状がつらくて受診ということはあまりありません。行くのかどうか迷っているうちに自然に症状が消えて、潜伏期に入り、受診タイミングを逃すことが多いのです。

潜伏期を経て、失明や認知症も引き起こす晩期梅毒に!

ーー潜伏期はどれぐらいの期間なのですか?

これがよくわかっていないし、個人差もあるのです。潜伏期の最初の方までは感染力もあるので、気づかずに性的な接触をして、人にうつしてしまうこともあり得ます。

【晩期梅毒の症状】

治療しないまま潜伏期を過ごすと、数年〜数十年という長い期間の中で悪化して、様々な重い症状が出ることがあります。これを晩期梅毒と言います。

心臓の血管に影響を与えて大動脈瘤などを引き起こしかねませんし、ガマ腫というできものを体内のあらゆるところに作ります。

梅毒は神経にも入りやすいのですが、視神経に入れば失明することもあり、脊髄に入れば手足に麻痺を起こします。脳に入ると、認知症のような脳障害を引き起こすこともあります。

さらに、妊婦が梅毒に感染すると、流産や死産を引き起こしたり、先天性梅毒の赤ちゃんが生まれてきたりします。

このように、梅毒は気づかないで放置していると静かに進行して、重大な症状をもたらすという意味で、とても怖い病気です。症状にかなり個人差があるため、医師でも気づかないことがあります。

日本性感染症学会では一般医師向けに「梅毒診療ガイド」を公開しています。正確な診断や治療に役立ててほしいと願っています。

性行為で感染 オーラルセックスでもうつります

ーー性感染症ですから、もちろん性行為でうつるのですね。

そうです。病変があるところと相手の粘膜が触れ合うことで感染します。オーラルセックスでも喉にうつることがありますし、喉から性器にうつることもあります。

粘膜が触れ合えば感染してしまうので、コンドームでは防ぎきれないこともあります。キスでうつることもあるでしょうけれども、その可能性は少ないです。

一度治療しても、免疫ができず、何度でも再感染してしまうのも特徴です。ですからパートナーも一緒に治療を受けないと、互いに感染し合ってずっと治らないということもあり得ます。

検査や治療は?

ーーどのように治療するのでしょうか?

有効なペニシリン系の抗菌薬がありますので、それを1ヶ月間飲んで治療します。海外では注射薬をうつのが標準で治療も早いのですが、日本では販売されていません。

症状が重くなると、入院して点滴の治療をすることが必要になります。そこでなんとか治しても、後遺症が残る危険性もあります。早期に発見して、早期に治療することが大切です。

ーー検査や治療はどこで受けられますか?

一般の病院やクリニックでも受けられますが、保健所では梅毒の検査をHIV検査とセットで無料、匿名で行っています。

梅毒の検査は、その診断や治療判定が難しい場合も多くあり、経験の少ない医師が判断に悩むこともよくあります。たとえば、有効な治療を終えているのに、いつまでも治療が行われることもあるのです。

診療経験の少ないところにかかり、検査や診断で振り回されたという人もたくさん見てきました。

梅毒の治療の経験がある、性感染症を扱っている医療機関や、感染症の専門外来を持つ病院なら安心して治療を受けられるでしょう。また、女性器に病変ができた時には婦人科、男性器では泌尿器科の受診も可能です。

ーー潜伏期でも検査はできますか?

初期梅毒の後に続く「潜伏梅毒」については問題なく検査できます。本来は、感染直後から発症までの期間を「潜伏期間」と呼びます。その時期には検出できない場合があるので、感染直後については、しばらく経過してからの検査が必要となります。

ーーどんな人が気をつけたほうがいいですか?

やはり、不特定多数の人と性的な接触を持つ機会がある人は心配です。男性同性間の性行為による報告も、依然として多い状態が続いています。

梅毒は早めに治療を受けたら治る病気です。早期発見、早期治療があなたの健康を守りますから、思い当たる節のある人はぜひ一度、検査を受けてほしいですね。

【今村顕史(いまむら・あきふみ)】がん・感染症センター 都立駒込病院 感染症科部長

石川県出身。1992年、浜松医大卒。駒込病院で日々診療を続けながら、病院内だけでなく、東京都や国の感染症対策などにも従事している。日本エイズ学会理事などの様々な要職を務め、感染症に関する社会的な啓発活動も積極的に行っている。駒込病院感染症科のウェブサイトはこちら

追記

一部表現を追記しました。