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薬物に過剰に厳しく、アルコールに甘い日本

コンビニでもスーパーでも発泡系飲料の棚の大半のスペースを占めるようになったストロング系チューハイ。薬物依存症研究の第一人者は、日本の規制のいびつさにも言及します。

最近では、コンビニでもスーパーでも、発泡系アルコールの棚のスペースの大半を占めるようになったストロング系チューハイ。

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所薬物依存研究部長、薬物依存症センター、センター長である松本俊彦さんは、日本のいびつな規制状況に疑問を投げかけます。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

記者が持参したストロング系チューハイの表示を眺める松本俊彦さん

違法薬物よりも健康被害がありそうなアルコール

ーーストロング系チューハイの議論で気にかかっているもう一つのこととは何なのでしょうか?

私は薬物依存を専門としていて不思議に思うことがあります。

世間では、「違法薬物は怖い、怖い」と言いますが、実は、健康や社会に対する被害という視点に立ってみれば、アルコールが一番、問題のある薬物なのです。

権威ある医学雑誌ランセットに載った、イギリスの精神科医、デビッド・ナットという人の論文では、個人に対する健康被害と社会に対する被害を足して一番有害な薬物はダントツでアルコールなんですよ。

特に、覚醒剤に依存している人は内にこもってしまうので、個人や家族の被害で終わることが多いのです。

でも、アルコール問題を抱えている人は外に出て行くし、外で飲んでいるし、対外的な暴力につながる問題があります。

その社会的な被害がダントツに大きいのですね。

だからアルコールを規制しろと言っているわけではありません。

なんとなく薬物が怖いとか、沢尻エリカさんが逮捕されたMDMAを1回やったら廃人になるとか、世間の人は強調します。

違法薬物を続けながら、社会的な活動を問題なく続けている見本がたくさんテレビにも出ているにもかかわらず、薬物に対するスティグマ(負のレッテル)が異常に強いのです。

健康や社会に対する被害を公平に見た方がいい

ーー違法薬物を1回やると、社会からつまはじきにされるのに、アルコールで失敗を重ねてもそんなことにはなりませんね。

だからもっと公平に見てみようよと問いかけたいのです。

例えば、ストロング系が最高にヤバいのは気づかれているはずです。

僕自身、年末にそういう内容の原稿を書いているときに、夜の街を帰り道に歩いていたら、忘年会で阿鼻叫喚の状況で、道端に酔っ払って倒れていたり、半分尻を出して路上に横たわっている人がいたりしました。

これは酷い国だなと思ったのです。

覚せい剤でも危険ドラッグでもこんな有様にはなりません。アルコールはこうなってしまうから困るのに、それに目をつぶるのはなぜなのだろうかと思います。

日本は薬物に異様に厳しい一方、アルコールにはとっても寛容です。健康被害や社会や他者に対する被害を鑑みて、もっとニュートラルに判断してほしいというメッセージも、実はあったのです。

「酔うというよりわからなくなるための酒」

ーー先生の最初の投稿は、かなり拡散されました。ストロング系の問題について、勘付いている人は多かったということでしょうか。

ここまで拡散されると思わなかったから、驚きました。たぶん、気づいている人も多いということなのでしょうね。

Tuaindeed / Getty Images

ストレス社会の解消策としてストロング系が飲まれているところもある

ーーストロング系を飲んでいる人の言葉も、お酒を飲んでいるというよりも、麻薬を摂取しているような感想がよく見られますね。

SNSでの投稿のまとめを見たのですが、こんな言葉が並んでいて愕然としました。

「ストロングゼロ、『酔う』というより『わからなくなる』ためのお酒だとおもっている」

「ストロングゼロは脳みそのブレーカを落とすステキな魔法」

「ストロングゼロは酒という嗜好品としての文化も文学も持たない、酩酊のためだけに造られたアルコールであることは間違いない。酔っ払わなきゃ向き合えない現実がある、でも金はないみたいな人から支持されてそれを救ってるって意味で福祉なんだろうな」

「ストロングゼロは『こんなもん好きで飲んでいる訳じゃない』って気持ちになる辺り本当に嗜好品ではなく麻薬ですね」

「ストロングゼロという名称のゼロは飲んでる俺たちがゼロという意味です。ストロングはなんとなくつけました。本質はゼロです」

すごいですよね、この声は。診療をしている実感としても、本当によくわかります。あれは酔うために飲んでいる。忘れるために、頭をゼロにするために飲んでいるなと感じるのです。

口当たりを良くして飲ませる必要があるのか?

ーーそれは今の社会状況が若い人、安くて効率的にアルコールを摂取できるストロング系を飲むような人に、かなり厳しいものになっていることと関係していると考えていいのでしょうか?

そういう意見が、よく聞かれますよね。「飲む福祉なんだ」「貧民の麻薬を取り上げるな」とか言われています。

それはそうなのですが、それを言ったら、昔からたばこもお酒も、そんな風に使われていますよね。しんどい人が気持ちを紛らわせるために、やっていた。

それはみんな同じなのですが、ストロング系はここにきて、すごくとっつきやすいものが出ちゃったなという気がするんですよ。

つらい人がお酒を飲むのは本人の自由だと思いますが、飲みやすくする必要はあるのだろうかと思います。

以前、カフェイン中毒の話をした時に、カフェインが必要な人はコーヒーをたくさん飲めばいいと思うと言ったのですが、それは健康被害を起こすとしても、胃を壊すぐらいで歯止めが効くからです。それぐらいなら自己責任でいいじゃないかと思う。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

バズフィードの編集部でもエナジードリンクを飲みながら仕事をしている記者が

カフェインは我々に翼を授けてくれるのか、それとも翼をもぎ取るのか

でも、子供が飲めるような甘いジュース系のエナジードリンクにする必要があるのだろうかという思いがあったのですよね。

お酒もお酒らしい味でいいじゃないかと思います。何もお酒じゃない味にして、お酒が苦手な人にまでアルコールを摂取させなくてもいいじゃないかと思うのです。

それは「痩せ薬だよ」と言って、覚醒剤をあげるのと同じことだと思うんです。

ーー酒造メーカーが、ごまかして売ろうとしていると感じるのですね。

そうです。ごまかして飲ませて、気がついたら、依存が出来上がっていてやめられない状態に追い込んでいるような気がします。

ーーカフェインが欲しい人は苦いコーヒー、お酒が必要な人はお酒らしい味のものとなれば、飲み過ぎない歯止めになるでしょうか?

そうだと僕は思っています。お酒を作っている人たちもプライドを持って、お酒の味を追求して頑張っているのだろうと思うのです。

そういう文化を大事に守っていけばいいと思うのですよ。それを、理科の実験で作ったような飲み物を出さなくてもいいじゃないかと思うのです。

つらい状況は福祉を充実させる アルコールをあてがうべきではない

ーー「飲む福祉」のように、アルコールで紛らわせなければいけない根本問題は、どう解決すればいいのさと言われそうです。規制されてストロング系が手に入りにくくなっても、つらさやストレスは残る。また別のものに頼るんじゃないかという声がありそうです。

そうですよね。あくまでも一つの思考実験として試しにいってみるのですが、たとえばビールの酒税を少し下げてみるという方策はどうなのでしょうか。

安く飲みたければビールを飲みなよと。アルコール度数もここまで高くないし、すぐにお腹が張ってしまって、そんなには量が飲めない。

アルコール度数に従って酒税を高くした方がいいとは思いつつ、一方でいきなりそれができない事情もわかる。焼酎や泡盛などの生産者は立ち行かなくなるとか、日本酒を古くから造る酒蔵はどうなるのかという議論はあるから、そこまで過激なことを言うつもりもない。

しかし、アルコール度数が健康被害にパラレルであることは誰もがわかっていることだから、そこも一定の視野に入れた税法のようなものがあってもいいのではないかと思うんですよね。

ーー酒税法の改正でこれからビールとチューハイの酒税の差は縮まりますから、それでビールに流れるにしても、つらい状況はつらい状況で残りますね。

本当につらい状況は、飲んで紛らわすのではなくて、福祉サービスを充実させることが大事です。そのための消費税増税だったはずなのに、軍備の強化に使われているという気がちょっとするんです。

健康被害や社会の影響を見て酒税を見直せ

ーー「規制を」という言い方をされていましたが、実際は規制はされませんよね。

規制はされないでしょうし、個人的にも、販売禁止にしたり違法薬物に指定したりするのは、意味がないだろうなと思います。

ーー専門家としての立場で言うならば、どんな対策が必要だとお考えですか?

アルコール健康障害対策基本法」という法律に基づけば、健康被害や社会の影響のバランスを見ながら、酒税率をもう1回見直してほしいです。理想はアルコール度数に従ってかけることですが、歴史的な経緯があるから、完全にその通りにはできないし、すべきではないだろうと思う。

でもそこを一点考慮してほしいのです。

危険ドラッグを規制すればするほど、後から出てきたものがさらに危険になっていったのと同じように、ビールに対する税率を高くしたことが発泡酒を生み、発泡酒の税率も高くしたことがこれを生んだ。財務省はモンスターを生んでしまったのだと思います。

国税庁「酒のしおり」

国税に占める酒税の割合は戦後、減少し続けており、1950年度の18.5%から、2017年度には2.1%となっている

ーーそもそも全ての税収の中でのアルコールの税収の割合が下がっていることはみんな分かっています。酒税は国の税収としては旨味がそれほどなさそうですね。

そこはわからないです。たばこなんかを高くすることによって禁煙する人が増えて、実際に税収は下がっているのかどうかもわからない。

ーーたばこは税を上げて価格を上げることで、喫煙率がガクッと下がります。酒税は10%未満の「新ジャンル」と言われる発泡系飲料の税率が低いから、9%のストロング系を売り出そうというインセンティブが上がりました。350ml缶は100円もしないですね。

驚きですよ。100円もしないなんてジュースよりも安い。確かに「飲む福祉」だなと思います。

依存するから消費するのではなく、消費することが依存を生む

ーーもう少し社会への影響を考えて、ビールとの差を縮めた方がいいと。酒税改正でビールの酒税は下がって、チューハイ系は上がりますけれども依然としては残ります。

僕はビールよりも税率を高くした方がいいと思います。アルコール度数が高いですから。

今はコンビニに行くと、アルコール飲料のところは列をなしてストロング系ですね。そして、ソフトドリンクは列をなしてエナジードリンクです。日本全体にアディクション(依存症)が進んでいる感じがするんですよ。

ーーそれはアディクションの専門家としては望ましくない?

望ましくないです。

ーー日本全体がストレス社会になっているということなんですかね。

それは間違いないこと、確かなことなのでしょう。でも、よく嫌煙家で禁煙運動をしている人は、「たばこはストレス解消の役に立つ」と言っていますが、違うんですよ。

「あなたは吸うことによって、ストレスを作っているんですよ」とよく言うんですよ。要するに、つらい状況で吸うことによって、気づいてみるとない状態が余計つらくなって、依存する。

それは喫煙者である僕も認めます(笑)。そうだろうと思います。お酒も同じ状況なんです。ストレスは認めますよ。でも、飲んで一時的にストレスを解消しても、根本的な問題は何も変わっていないんですよ。

それどころか、冷静に振り返ってみると、しらふのときつらさが以前よりも増していることが少なくない。

ーー酒飲みの私も、たばこ呑みの先生も胸にグサグサ刺さる言葉ですね...。

そうそう。依存症の恐ろしさですよね。

それでも国が依存症を後押しすべきではない

ーーわかっていても飲んでしまう。それでも、国がそれを後押しする環境を作るべきではないと考えるんですね。

はい、そう思うんです。ストロング系が出る前から、若い人の飲酒量は年々下がっています。これを危惧した酒造メーカーが、需要を作り出すために作っているようなものです。そこで需要を作る必要があったのかということなんですよ。

ーーメーカーも生き残りをかけて、なりふり構わずやっている。

そうだと思います。企業が売れる商品を作ろうとするのは、営利企業のミッションだから、それを責めるつもりはありません。ただ企業にそういう決断をさせてしまったのは誰なのかというと、僕は財務省だと思うんです。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

ストレス解消のために飲んでいるつもりが、飲むことがストレスを生み出すことになると指摘する松本さん

ーーある程度、安全に楽しめるように酒税でコントロールすることが必要だと。

そうですね。これはヨーロッパではやっていることだから。

ーー酒税を決める際に依存症の専門家が関わることはないのでしょうか?

少なくとも日本で聞いたことがないです。海外ではあり、フィンランドではまさにそれを考えたわけですよね。

こういう混ぜ物のお酒の流行は、不自然な規制が行われると出てきます。カクテルの華やかな文化を引っ張ってきたのは、アメリカだと思いますが、禁酒法の影響なんです。

粗悪な工業用のアルコールを含有するアルコール飲料が出回り、そのマズいお酒をどうにかしておいしく飲みたいという欲望が、あのアメリカのカクテル文化を生み出した。

カクテルはおしゃれなイメージですが、日本ではストロング系なんですね。

つらい状況がある人は、依存しやすい

ーーお酒は、誰でも飲み過ぎると依存症になるものなのですか?

一般論として依存症心理教育プログラムなどで伝えているのは、日本酒換算3合を365日飲んでいると、男性の場合、だいたい10年間で依存症になり、女性だと6年間でなるということです。

要するに、人が生涯において「安全に飲めるお酒の量」というものはあらかじめ決まっているわけなのです。

例外がいっぱいあるのは事実。依存症にならずに、歳をとったら量を減らしていい飲み方をしている人もいますし、そんなに飲んでいないのに依存症のような変な飲み方になっている人も事実です。

でも基本的には飲酒量や頻度に健康被害は関係します。

ーー個人差はあるけれども、若いうちから飲み過ぎない方が健康にはいいわけですね。

まず顔が赤くなる人は依存症になりにくいですが、その代わり食道がんにはなりやすいんですよね。あとはやはりトラウマを抱えていたり、苦痛があったりする人はそんなに飲んでいないのに、変な飲み方になることも事実なんです。

ーーということは、つらい状況を紛らわすために強いアルコールを飲んでいる人は、依存症のリスクが余計高いですね。

基本的に飲んだ量や頻度に従って、依存症になるリスクが高くなってくることを考えれば、若いうちから9%に慣れてしまうのはよくないです。最近では12%が出てきていて、12%だと500ミリリットル1本で多量飲酒者ですからね。

そこはやっぱり問題なのではないかと思います。こんな飲みやすいアルコールは、ぺろっと1缶飲んでしまう。そんな状況に追い込まないように、大人がもう少し環境を整えた方がいいと思うのです。


財務省、厚労省にも話を聞きました

こうした依存症専門家の指摘を受けて、酒税を決める財務省、アルコール対策を健康面から考える厚労省はどう答えるのでしょうか?

時事通信

酒税を担当する財務省

まず、ビールとその他のアルコールに酒税の差が開いていることについては酒税を担当する財務省税制第二課はこう説明します。

「昔はビールや特級酒、ウイスキーなどは高級品という扱いでしたから、税を支払う力に応じた高い酒税が課されていた名残です。時代とともに平均所得が上がり、一般家庭で楽しむアルコールになったため、2017年度の改正では引き下げることになりました」

これまでの酒税の改正で、メーカーが度数が高く、安いストロング系チューハイの製造・販売に力を入れ、健康被害が出かねない状況になっているという専門家の指摘についてはこう答えます。

「酒税は、財政をまかない、課税の公平を期すという観点から設定しており、健康や需要の減少を促す観点では決めていません。健康対策は厚労省の管轄分野であり、消費量を減らすために酒税を決めるという考えは財務省にはありません」

だが、アルコール健康障害対策基本法の11条では、

政府は、アルコール健康障害対策を実施するため必要な法制上、財政上又は税制上の措置その他の措置を講じなければならない。       

(アルコール健康障害対策基本法より)


という条文もあります。これについては、こう述べました。

「2017年度の酒税改正でビールとチューハイとの酒税の差が縮まることで、健康に関する施策にも資するものがあると思います。健康管理や青少年の健全育成という観点から、各省庁の考えも踏まえながら今後の税制度を検討していくことになります」

一方、国民の健康増進を目的とした「健康日本21(第2次)」で、生活習慣病に影響するような飲酒をしている人の割合減少を目指す厚労省健康課はこう話します。

「ストロング系が1本でも多量のアルコールを摂取するものであることは承知しており、どれぐらいのアルコールを飲んでいるのか消費者にはわかりにくくなっていることも理解しています。消費者の選択の自由もあるが、生活習慣病のリスクを高めるような飲み方にならないよう、啓発を強めていきたい」

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】

国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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