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テーブルのアルコール消毒、ビュッフェの手袋使用、意味はありますか? 接触感染対策を考える

新型コロナウイルスではあまりないとされる接触感染。それでも飲食店などではテーブルのアルコール消毒などさまざまな対策が行われていますが、今後も続けた方がいいのでしょうか。5人の専門家に聞きました。

新型コロナウイルス感染症の対策緩和に政府が舵を切る中、どの対策を止め、どの対策をこれから続けていくのか議論がある。

BuzzFeed Japan Medicalでは京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんの協力の下、5人の感染症の専門家(坂本史衣さん、小坂健さん、矢野邦夫さん、岡部信彦さん、西浦さん)に対策の仕分け作業を行ってもらった。

第5弾で議論するのは、接触感染(※)を防ぐ対策だ。

※ものについているウイルスに触れ、その手で目や口の粘膜に触ってしまうことで起こる感染経路

※取材は2月上旬に行い、その時点の情報に基づいている。取材した順番に掲載している。

共通の質問に5人の専門家が回答

5人の専門家に、以下の8項目の接触感染対策について尋ねた。


  • まめに石けんで手洗い
  • 宿泊施設や飲食店などの入り口での手指消毒
  • 飲食店でのテーブル消毒
  • 共有物品の消毒回数の増加
  • ホテルビュッフェでの使い捨て手袋の使用
  • ハンドドライヤーの使用停止
  • お茶出しやお取り分けサービスの中止
  • トイレのふたを閉めて流すよう呼びかけ


この8項目について、

・科学的に意味はあるか
・これからも必要か
・その他当てはまるものがあれば選択(社会的・経済的合理性がない、持続可能性が低い、推奨されたことがないか過剰反応、流行状況によって実施を推奨)

を回答してもらい、その回答に基づいてインタビューした。

【協力専門家】

西浦博さん(京都大学大学院医学研究科教授)
坂本史衣さん(聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャー)
小坂健さん(東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授、医師)
矢野邦夫さん(浜松市感染症対策調整監、浜松医療センター感染症管理特別顧問)
岡部信彦さん(川崎市健康安全研究所所長)

ものをきれいにするより、手を洗うほうが効率的

感染管理に詳しい聖路加国際病院、QIセンター感染管理室マネジャーの坂本史衣さんは接触感染の対策について、手を洗うことが一番大切だと話す。

「接触感染については、ものをきれいにするよりは、手をきれいにする方が効率的です。コロナ以外の病原体も防いでくれますし、コロナをきっかけに手洗いをまめにするようになったなら続けてほしいです」

宿泊施設や飲食店などで入る時に求められる手指消毒も、「手をきれいにする機会が増えたのは良いことだ」と言い、コロナ対策としてだけでなくこれからもあっていいという。

飲食店でのテーブル消毒や共有物品の消毒は科学的合理性はあるとするが、今後は続ける必要はないとする。

「食卓をきれいにするのはいいことですが、消毒まではいりません。普通に水拭きすればいい」

「共有物品の消毒は、それによってどれほどリスクを回避できるのか、手間とのバランスで考えたらいいです。病院や高齢者施設はハイリスクな人が多いので当然やりますが、一般の人は手洗いや手指消毒を食事の前やトイレの後といった、効果的な場面で行うのがいいと思います」

ホテルのビュッフェの手袋やトイレのハンドドライヤーは科学的に意味がないし、「誰が言い出して取り入れたのかもわからない」と言う。

スーパーなどレジ打ちの人がつけている手袋についても「あれは汚い。意味がないし、むしろ害が大きいと思います。汚れているのに安心して触れてしまう」とバッサリ斬る。

トイレの蓋を閉めて流すことについては、科学的合理性はあるものの、実際にどの程度感染を抑制するかは不明だとする。

「便器のなかの水がどの程度跳ねるのかは、洗浄方式によっても異なります。高い位置から水面に落水させる方式では飛沫が生じやすく、近年普及しているような、複数の吐水口から出た水がぐるぐる回りながら流れる方式だと比較的抑制されると考えられています」

「またコロナではなく、病院の中で流行する下痢を起こす細菌を使った実験があるのですが、トイレの床に細菌が少量飛び散っていることがわかりました。ただそうした環境汚染が下痢のリスクを高めるかどうかはわかっていません。ふたをしないとリスクが高まると言えるほどではなく、微妙です」

手洗いや手指消毒を毎回やるかは微妙

小坂健さんは、厚生労働省クラスター対策班で感染対策を検討してきた。東北大学大学院歯学研究科国際歯科保健学教授で医師だ。

まめに手洗いや手指消毒について科学的合理性はあるとしながら、場合によって行うかどうか決めたらいいという考え方を取る。

「石けんで毎回手洗いをしなければいけないかというと微妙です。国は30秒洗うことを推奨していますが、30秒手を洗っても、手を拭いた瞬間、物を触ったら終わりです。一般の人は手術を執刀するわけではないのですから、何をするために手を洗うのか、ということになります」

「手指消毒もそんなにやらなくていいと自分は思っています。日本において、手を通じて新型コロナが感染することはそれほど多くないだろうと思っています。ご飯を食べる前に手洗いすれば十分だと思います」

「こちらは基本的な対策の効果を複数の論文を統合的に検討した論文の要約です」

「マスクの着用は新型コロナ発症のリスクを半分ぐらいにして、フィジカルディスタンスも少し減らす。手洗いも半分ぐらいにしますが、振れ幅が大きい。コロナ対策でどれだけ手洗いをやらなくてはいけないかは微妙です」

小坂さん自身、施設や飲食店の入り口に置いてあるアルコール消毒はほとんどやらないという。

「しょっちゅう消毒していたら手が荒れるし、手荒れによって皮膚のバリア機能が落ちることもあります。やっている感を示すために、意味がないことをする必要はありません」

飲食店でのテーブル消毒や、共有物品の消毒、ホテルビュッフェでの手袋使用、ハンドドライヤーの使用停止、お茶出しやおとりわけサービスの中止、トイレの蓋をしめて流すことは科学的に意味はないし、今後も全ていらないとする。

「接触感染はほとんど起きないことはわかっています。でもお店側としてはお客さんに『対策してますよ』と見せないと不安なようですね。でも意味がないことはやめた方がいいと思います」

手洗いや手指消毒は全ての感染症対策として大事

まめに石けんで手洗いすることについては、浜松市感染症対策調整監で浜松医療センター感染症管理特別顧問の矢野邦夫さんは「すべての感染症対策として推奨されます」と語る。

手指消毒についても今後も続けた方がいいという意見だ。

「新型コロナが残してくれた財産の一つです。病院でもいつも手洗いやアルコール消毒をスタッフにお願いしているのですが、なかなか徹底されません。コロナで習慣として根付いたなら、残したいところです」

「飲食店でのテーブル消毒」「ホテルビュッフェでの手袋使用」「ハンドドライヤーの使用停止」「お茶出しやおとりわけサービス」「トイレの蓋をしめて流す」については、科学的に意味はないし、今後、止めたほうがいいと言う。

「結局、環境表面を介してのウイルス伝播については、コロナに関しては1万分の1の確率しかないことがわかっています。過剰な消毒はいらないし、こんなことをするぐらいだったら手を洗えばいいのです」

新型コロナで接触感染はほとんどない

川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは「まめに石鹸で手洗い」や「宿泊施設や飲食店などの入り口の手指消毒」については科学的な合理性あり、とする。

「手洗いはどんな時も続けたほうがいいですし、手指消毒は流行に応じてやったほうがいいです」

「飲食店でのテーブル消毒」「共有物品の消毒」「ホテルビュッフェでの手袋使用」「ハンドドライヤーの使用停止」「お茶出しやおとりわけサービス」「トイレの蓋をしめて流す」はすべて科学的に意味がないと言う。

「たとえば『飲食店でのテーブル消毒』は新型コロナにとってはあまり意味がありませんが、他の食中毒などには良い効果があると思います。今後も適度に続けてほしいですが、コロナ対策で必要かと言われるとあまり意味がないのではと思います」

「新型コロナでは接触感染はほとんどないのです。ただ他の感染症もひっくるめて考えると、続けたほうがいい習慣はたくさんあります」

接触感染対策は過剰なものが多い

京都大学大学院医学研究科教授の理論疫学者、西浦博さんも「まめに石けんで手洗い」は科学的根拠があり、今後も続ける必要があるとする。

「コロナに限らず、感染症の標準予防策の一つとして根付いています。それが習慣化できるなら、続けるといいと思います」

一方、宿泊施設や飲食店の入り口の手指消毒は、科学的合理性はあるものの、今後は必要ないとした。

「消毒をすること自体は合理的なのですが、家族で宿泊に行った時に、家族同士で消毒して、同じ部屋ではベタベタ触ったら、何をしたいんだっけ?ということになりますよね。誰とこの後接触するから予防したいのかが明らかではない対策です。社会的な合理性や持続可能性は低いと思います」

「飲食店でのテーブル消毒」「共有物品の消毒回数の増加」「ホテルビュッフェでの手袋使用」「ハンドドライヤーの使用停止」「お茶出しやおとりわけサービスの中止」「トイレの蓋をしめて流す」は科学的根拠はないし、今後は必要ないとした。

「それで新型コロナが防がれるかわからないし、そもそもなぜ始まったかもわからない過剰な対策も少なくないですね」

(続く)