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迷ったらすぐ心臓マッサージやAED 「死戦期呼吸」とは?

新潟の高校で女子マネージャーが突然死 防ぐにはどうしたらいいのか

新潟県の高校で7月、野球部マネージャーの女子高生(16)が練習終了後に走って学校に帰った直後に倒れ、低酸素脳症で亡くなったと報じられた。

朝日新聞の報道によると、倒れた直後に駆けつけた指導者は、「呼吸は弱いけどある」と判断し、AED(自動体外式除細動器)は使わなかったという。

これについて、SNS上では「突然、心停止になった時に起きる『死戦期呼吸』を見逃したのではないか」という推測が広がった。この女子高生が実際に「死戦期呼吸」をしていたのかどうかは定かではないが、この聞き慣れない名前の呼吸、突然倒れた人が発している危険なサインの一つだ。

BuzzFeed Newsは、心臓病や不整脈に詳しい、立川病院病院長で日本AED財団理事長でもある三田村秀雄さんに、「死戦期呼吸」とは何か、突然目の前で人が倒れた時にどのように対応したらいいか、お話を聞いた。

突然心停止を起こす原因は? 「死戦期呼吸」とは?

そもそも、突然、若い人が倒れて低酸素脳症に至る原因としては何が考えられるのだろうか。

「低酸素脳症とは、何らかの理由で心臓が止まった後、頭に十分に血液が流れなくなって酸素不足が続き、脳の働きに障害が起きた状態のことを言います。心臓が止まる原因としては、中高年では心筋梗塞が多いですが、若い人では色々な可能性が考えられ、いずれも心室細動という重い不整脈が突然発生して起きることがほとんどです」

「心室細動になると、心臓は規則的に拍動せず、細かく震えるだけで血液を全身に送り出すポンプの役割を果たせなくなります。いわゆる心停止の状態です。若い人の場合、冠動脈の奇形や肥大型心筋症など先天的な病気が潜んでいる場合や、少し前に風邪をひいたことによる心筋炎や野球のボールがぶつかるなど心臓に強い衝撃を受ける心臓しんとうなどの後天的な原因が影響する可能性もあります」

「心室細動を起こすと、通常、3秒でめまいがし、5秒で意識を失って倒れます。その後10秒ぐらいで呼吸が止まるのですが、しゃっくりのようにゆっくり喘ぐ、不規則で異常な呼吸をしばらく続けることがあります。これがいわゆる『死戦期呼吸』です」

なぜ「死戦期呼吸」は起きるのだろう。

「メカニズムははっきりとわかっていませんが、心室細動が起きて、脳に血流が届かなくなっても、すぐに脳の全てが活動を停止するわけではありません。酸素が不足した脳が何とか血流を取り戻そうとあがいて、無理に呼吸のような顎の動きを起こさせるのかもしれません。この異常な呼吸も、通常数秒から数分で止まります。人が老衰などで亡くなる時に下顎を上げてする下顎呼吸に近いものがあります」

意識が戻らなかったらすぐ119番通報と心臓マッサージ

心室細動を起こしたら、救命するには素早い心肺蘇生と電気ショックが必要だ。人が倒れた瞬間を目撃した場合、まず私たちがやるべきことは何だろう。

「健康そうな人がいきなり目の前で倒れたら、最初から心室細動を疑って行動することが必要です。まずは駆け寄って、『大丈夫ですか?』と声をかけながら、肩などを軽く叩き、意識が戻るか確認しましょう。立ちくらみやめまいの場合は30秒以内で意識が戻りますから、それ以上戻らなかったら最悪の事態を想定してください」

「意識が戻らなかったら、まず、周囲に頼んで119番通報をかけましょう。あとは救急車が来るまで電話を切らずに、消防の指示に従って動いてください。死戦期呼吸は見分けにくいですから、規則正しい呼吸をしていないと思ったら、すぐに胸骨圧迫(心臓マッサージ)を始めます。同時に、誰かにAEDを持ってきてもらうよう応援をお願いしましょう」

胸骨圧迫の基本は1分間に100〜120回、乳首と乳首の間の硬い骨のあるところを、胸が5センチぐらい沈む強さでリズミカルに圧迫することだ。これにも気をつけるポイントがあるという。

「心臓に的確に力を伝えるため、肘を曲げずに、力の方向を垂直にし、斜めに押さないようにしましょう。また、1回1回手を倒れた人の体から離さずに密着したまま繰り返してください。押す場所がずれると、肋骨に無駄な力がかかり、折れる可能性が高くなります。また、ほかの人と交代する時でも10秒以上休まず、あとは本人が拒否するか、救急車が来るまで続けてください」

AEDが届いたら

AEDとは、倒れている人の胸に装着すると、電気ショックをした方がいいか自動的に判断し、電気ショックの応急処置ができる器械だ。電源を入れると音声で指示が流れるので、特に医療の知識がなくても扱うことができ、正しく使用するための講習も広く行われている。

「心停止をしていない人に心臓マッサージやAEDを行なっても大きな問題は起こりませんので、迷ったらとにかくすぐに開始してください。電気ショックが1分遅れるごとに救命率が7〜10%低下します。通常、10分過ぎるとほぼ絶望的と言えますが、救急車が到着するのは、倒れてから10分以上たっていることがほとんどです。あなたが迅速に対応することこそがその人の命を救う鍵となります」

さらにもう一歩、できれば普段から準備しておいてほしいことがあるという。

「屋外で倒れた場合は、救急車が正確な位置情報をつかむのが難しいので、スマートフォンのGPS機能をオンにして119番通報してください。また、自分一人しか居合わせない場合は、スピーカーフォンに切り替えて、司令室とやりとりしながら、応急処置をとってほしいのです」

「人工呼吸はよほど自信がない限りやらない方がいいです。訓練を受けていない人が心臓マッサージと両方行おうとすると、両方ともおろそかになる可能性があります。また、今回のように女の子が倒れた場合、心臓マッサージやAEDなどを行うのに躊躇する場合があると思います。救命のために行う行為が問題になることはありませんが、司令室の指示を受けてやれば、その心配は軽減されるのではないでしょうか」

女の子の突然死から生まれた「ASUKAモデル」

今回、新潟で起きたような事故は過去に他でも起きている。2011年9月に、さいたま市で小学6年生の桐田明日香さんが駅伝の練習中に突然倒れた死亡事故。現場に居合わせた教員らは「脈がある」「呼吸がある」と捉えて、心肺蘇生やAEDによる救命行動を取らなかったことが問題になった。

さいたま市教育委員会では、専門家の協力でこの事故を検証し、再発予防のために2012年9月、「体育活動時等における事故対応テキスト」、通称「ASUKAモデル」を作成した。教職員が事故発生時の対応を普段から訓練し、救命講習を定期的に受ける仕組みだ。

教育委員会は、このテキストをウェブサイト上で公開し、具体的な方法を映像でわかりやすく示したDVDの貸し出しも行なっている。現在も、さいたま市立の学校だけでなく、全国の学校や団体などがこのモデルやDVDを使って安全管理を行なっているという。

このモデル作成にも関わった三田村さんは、「あの時も再発防止のためにこのモデルを作ったのですが、今回、同じような事故が起きて残念です。若い人はスポーツ中に倒れやすいですし、倒れた時に目撃されやすいですから、特に学校内やスポーツの現場では普段から救命対応の仕方を訓練しておいてほしい。教職員だけでなく、子供の頃から繰り返し訓練することで、社会に出た時にも、救える命を救うために抵抗なく動ける人が増えることを願います」と話している。

心肺蘇生やAEDの使い方については、日本救急医学会の「市民のための心肺蘇生」が詳しいので参考にしてほしい。