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30代〜50代の男性が風疹ワクチンを 職場での感染を防ぐために企業や国が動け!

市民公開講座「風しんから妊婦を守るために」が開かれ、企業が対策に動くために、国が制度の裏付けを整備する必要性が訴えられました。

風疹が5年ぶりの大流行の兆しを見せる中、市民公開講座「風しんから妊婦を守るために」が24日、東京都内で開かれた。

主催したのは、感染者の報告を全国から集めて分析している国立感染症研究所感染症疫学センターの大石和徳センター長が率いるAMED(日本医療研究開発機構)研究班。

感染症や産婦人科の専門家のほか、妊娠中に風疹に感染して子どもに障害を残した当事者団体の代表者や、社内の風疹対策に取り組む企業担当者や産業医などが発表した。

皆、共通して、流行の中心となっている30代から50代の男性の感染を防ぐために、企業や国が急いで予防接種対策を強化するよう訴えた。

成人男性の5人に1人が風疹の免疫「抗体」を持っていない日本

風疹は、赤い発疹、発熱、リンパ節が腫れるのが主な症状で、咳やくしゃみなどのしぶきや直接の接触でうつる。ウイルスを吸い込んでから症状が出るまで2〜3週間かかり、症状がないうちから人に感染させる力を持つのも特徴だ。

怖いのは、妊娠初期に感染すると、赤ちゃんの目や耳や心臓に障害が出る「先天性風疹症候群(CRS)」をもたらす可能性があることだ。

国立感染症研究所で予防接種を専門とする感染症疫学センター第三室の室長、多屋馨子さんは、妊娠1ヶ月で50%以上、2ヶ月で35%、3ヶ月で18%、4ヶ月で8%の赤ちゃんに先天性風疹症候群が現れたとする日本のデータを紹介した。

「妊娠に本人が気づいていない時期にかかりたくない感染症です」

そして、日本では予防接種対象が、当初、女子だけに限られるなどしたために、中年男性を中心にワクチン不徹底世代がおり、「30代後半から50代前半の成人男性の5人に1人が抗体を持っていません。その人たちが今、かかっているのです」と示した。

さらに、感染者の74%がどこで感染したかわからず、「ここでかかったのではないか」と回答した人の多くが「職場で」かかったと述べていることを示した。

そして、「ワクチンを接種したか、風疹にかかったかわからなかったら、抗体検査を受けて、低かったらワクチンを考えてほしい」とし、「自治体で検査の費用助成をしているところは多く、ワクチンの助成をしているところもある。一度検索してほしい」と呼びかけた。

産婦人科医として 「緊急避難的に感染者から逃げろ!」

続いて、日本産婦人科医会副会長の平原史樹さんは、先天性風疹症候群の多くは妊娠20週までの風疹感染で起きることから話を始めた。

そして、妊婦は妊娠初期に風疹の抗体検査を受ける制度があるものの、「赤ちゃんの臓器ができてくる時期は、検査をする少し前から始まっている。本当は妊娠する前に検査を受けて欲しいのです」と訴えた。

市区町村では、妊娠を考えるカップル対象に風疹の抗体検査を無料で受けられる制度がある。自治体によっては抗体価の低い人にワクチン接種の費用も補助している。

「しかし、調べたところ、5%しか妊娠前の抗体検査を受けていないのです。まずは赤ちゃんを守るために、妊娠する前に検査を受けてほしい」と求めた。

平原さんも、女性が働くことが当たり前になった現代、風疹流行中の自衛策として、抗体があるかどうか判明するまでは、職場での感染を厳重に防ぐよう呼びかけた。

「妊娠したらすぐに職場の健康管理責任者に伝えて、職場で風疹感染者が出たら、教えてもらってください。そして、職場の健康管理者は、風疹の人がいたら公休扱いにして、出勤を控えさせてほしい。夫や家族の隔離もやむなしかもしれません。応急措置としてはそれしかありません」

そして、怒りを含んだ口調でこう訴えた。

「大人の風疹流行から、妊婦さんが逃げ回って避難しなければならないこの社会はいったい何なのでしょうか? 次世代の担い手を託され、我が子を大切に育む妊婦さんは、本来は社会が最も守らなければならない存在です。女性が安心して働き活躍できるように、皆さんの協力でワクチン接種を広げるしかありません」

娘を先天性風疹症候群で失った母も 「企業健診に組み入れて」

続いて、妊娠中の風疹感染で、長女の妙子さんが目、耳、心臓に障害を抱え、18歳で他界した「風疹をなくそうの会『hand in hand』」共同代表の可児佳代さんも、お母さんたちから、「職場で感染した」という悔しい思いを聞いてきたことを語った。

「職場のフロアで次々に男性が感染し、派遣社員として働いていたお母さんが不顕性感染(症状が現れない感染)で先天性風疹症候群のお子さんが生まれたということも聞きました。そのお母さんは、『誰も責任をとってくれない。本当に悔しい』と言っています」

そして、厚生労働省は妊婦やそのパートナーへの感染対策は行ってきても、流行の中心となっている30代から50代の男性の感染を防ぐ対策はしてこなかったことを批判する。

「国は来年度から成人男性の抗体検査も助成することを打ち出していますが、それだけじゃ足りません。企業健診に抗体検査やワクチン接種を組み入れてほしい。抗体価が低い場合は、ワクチン接種の証明を会社に出すことを義務付けるなどの対策をとってほしい」

そして、こう訴えた。

「風疹はワクチンをうてば排除できるのに、なぜ一人一人が自分のこととして考えてくれないのか悔しいです。私たちと同じ思いをしているお母さんをこれ以上出さないでください」

風疹患者が出た企業 「発生してからでは遅い」

さらに、2015年に社内で風疹患者が出て、封じ込めるために2ヶ月以上かかった企業の奮闘も報告された。

排気ガスを浄化する触媒を自動車やオートバイメーカーに卸している静岡県の会社「株式会社キャタラー」では、2015年4月、社員の1人が風疹にかかったことが判明した。

大手自動車メーカーなどを取引先に持つ同社としては、風疹患者を社内外に広げたら、企業の信用は地に落ち、万が一、先天性風疹症候群の子どもが生まれたら、生涯にわたる補償もしきれない。

直ちに全社員を対象とした説明会を開催した。

「どこか他人事だと思っていたのが、家族や同僚にうつすリスクや会社を長く休まなければいけない病気なのだと説明会の前後で従業員の意識が大きく変わりました」

同社はまず妊婦の社員全員に抗体検査を受けてもらったところ、抗体がない社員が1人いることが判明した。緊急に会社の規則を変更し、出勤しなくていい措置をとった。

さらにロビーにマスクを置き、社員はもちろん来訪者もマスク着用を徹底。抗体が十分あると確認できていない社員は取引先への訪問を自粛し、よそからの来訪も止めてもらい、代わりにテレビ会議で対応するなどした。

それでも、4月に3人の二次感染者が出て、毎日の健康観察票の記入を全社員に義務付け、全社員の抗体確認とワクチン接種の費用補助を実施。業務時間内に社内や協力医療機関で集団接種をし、社員の抗体保有率を27%から92%まで上げた。

5月の連休中に3次感染者が出たが、連休で出勤が控えられた効果もあり、6月半ばにようやく収束宣言を出した。

報告した取締役の河合裕直さんは、「痛感したのは、発生してからの対策では遅いということです。人手と費用がかかりますし、事業への影響も大きかった。発生しないようにすることが重要だと痛感しました」

「海外事業の拡大につれ、感染リスクや拡大リスクも増している」として、今回の流行に対しては、社員の抗体保有率100%を目指して、従業員にワクチンの全額補助をする計画だ。

企業での対策強化には、国の制度の裏付けが必要

そのほか、5年前の大流行時に独自に市民の緊急ワクチン接種事業を行った川崎市の取り組みや、産業医として企業に働きかけた取り組みも報告された。

現在は筑波大学で研究職につく福祉医療学分野助教の堀愛さんは、2013年の大流行時に、政府のワクチン接種推奨に対して20〜40代の男女がどう行動したのか調べた1889人対象のインターネット調査で、ワクチンを接種したのは5.2%に過ぎなかったことを示した。

さらに、子どもを作る希望のない男性で見ると、予防接種を受けたのは、2.5%のみで、政府の予防接種の勧奨を知っていたのも25.1%と情報自体が届いていないことが明らかにされた。

堀さんは、「でも彼らを責めても仕方ない。4割非正規雇用で、その人たちに休みに自腹で検査や接種をと言っても伝わるはずがありません。予防接種の機会が与えられなかったことで彼らを責めるのはおかしいし、ある意味、ワクチンを受けられなかった被害者です」

さらに、調査では無料なら7割以上が接種を希望していることも述べたが、経営が厳しい中小企業が多い日本では、企業努力に期待するのではなく、接種費用を補助するなど国の制度の後押しがなければ対策は進まないことを強調した。

全体討論でも、「企業の取り組みを国の制度で後押しを」

その後、全体討論があり、企業での取り組みが期待される中、キャタラーが先進的な取り組みができた理由について質問があった。

河合さんは、「多くの出張者が出入りするので、流行らせてしまったら全国に蔓延してしまうという危機感があった」と述べた。

また、「ワクチン接種の費用はだいたい1万円で障害で2回うてば免疫はつく。平均40年働くとして、1年あたり200円の支出と考えれば、福利厚生費としてはそれほど高くない」という合理的な判断がなされたことを述べた。

産業医の視点から堀さんは、「余裕のある企業だけで取り組みが進んだら、他の企業が取り残されてしまう。実動部隊として企業に接種の協力を求めるとしても、国が公費でワクチン接種費用を補助するのが大前提」と述べた。

さらに、多屋さんは「国の施策としてどんな形でもいいので、2020年度までに予防接種を徹底すれば、風疹排除に向けて随分力になるはずだ」と国の後押しを求めた。

他に、ワクチン不足に国が増産や緊急輸入で早急に対処すべきという意見も出た。