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感染リスクの高い「夏祭り」どうする? これまでにない感染拡大で何が起き得るのか?

全国的に感染拡大が止まらない新型コロナウイルスの第7波。これまでにない規模の数の死者が積み重なることも考えられる中、私たちはどう対処すべきなのでしょうか。公衆衛生の専門家と考えました。

新型コロナウイルス第7波の感染拡大が止まりません。

全国の医療機関で患者の受け入れが厳しくなり、医療者が危機感を募らせる中、繁華街の人出は相変わらず多く、感染リスクの高い会食も続けられています。

これまでに見たことのない感染者の数を前に、不安を募らせている人も多いと思いますが、このままで大丈夫なのでしょうか?

BuzzFeed Japan Medicalは、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに現状とこれから起こり得ることを聞きました。

※インタビューは7月25日夜に行い、その時点の情報に基づいている。

「自分だけは大丈夫」なんてない 必要な人が医療にかかれない状況も

——今の状況は「感染爆発」のようなものだと考えた方がいいですか?

私でさえ感染してもおかしくない状況になっていると思います。今回ばかりは、逃げきれないなと思っています。

オミクロンの亜系統「BA.5」の感染力の強さと、ここまで地域の中に感染者が広がった状況下にあるからです。私も覚悟を決めて、感染してもその期間を乗り越えられるように点検と準備をしているところです。

食料や市販の薬、そして検査キットなどの準備など、皆さんもしておくと良いと思います。

——基本的な予防策を知って実行できる人でも、それぐらい簡単に感染し得る状況なのですね。

間近に迫っていますね。「自分だけは大丈夫」なんていうことはないと思った方がいい状況です。

——これは今までにない感染状況ですか?

そうです。今までにない規模ですし、この2年半で最も身近にウイルスが来ている状態です。こういう時に友達と会食に行ったり、人が集まるイベントに行ったりすれば、感染してもおかしくないという前提で行動しなくてはいけません。

感染して発症すると、10日間ぐらいは人にうつす可能性があります。

感染症の困るところは、一番あなたの身近にいる人からもらいますし、うつしてしまうということです。今一度、周りに感染から守るべき人がいないか考えて行動する必要があります。


感染した場合は1週間〜10日間、外出できない、人に会えないということを想定が必要です。それが、お盆ぐらいまでは続くでしょう。個人レベルでも大事な仕事やイベントなどは中止になることを想定して、キャンセルできるか考えないといけないですね。

社会経済活動はだれにとっても大事ですが、こうした不安定な状態がしばらく続くことはどのような影響を与えるのでしょう。経済に詳しい方の見解などお聞きしたいところです。やはり一定の数、感染者が増える局面では感染を抑える対策は必要です。


今の状況はまだ始まりに過ぎないと考えています。まったく終わりが見えない状況に、医療従事者は気持ちが暗くなっています。


社会の中で医療が必要な人にしわ寄せが出始めています。高齢者もですが、若い人でも持病があったり、がんの治療をしていたり、ある日突然、怪我をしたりした時に、医療機関にかかれなくなっています。


感染者数を減らす動きを市民にも求めるべき時にきていると考えています。


その対策は必ずしもまん延防止等重点措置ではないかもしれませんが、経済との両立を考えても、一人ひとりが他の人にうつさない、リスクの高いところに行かないことに協力してもらわなければいけません。今はそういう方向にはまだなっていないのが問題です。

特に、まずは知事レベルでの呼びかけが必要です。まだ、そうした呼びかけは少ないように思います。

強い対策を市民に呼びかけるべき時に来ている

——7月14日の専門家分科会次の5つの取組をしっかりと行うけれど、それでも医療が逼迫した場合は、人々の行動や接触を抑えるような施策も選択肢の一つになり得る、としました。方針を転換すべき時期になっているということですか?

医療の逼迫をどう定義づけるかです。重症病床がどれぐらい埋まっているかを考えると、今回はまだ重症者がそんなに多いわけではなく、中等症以下が多い。

それでも第7波はこのまま行くと、第6波を凌ぐような死亡者が出てもおかしくないです。例えば、第6波を超える死亡者が出そうなことがわかった場合には、何らかの強い対策を市民にお願いすべきだと思います。

救える命を救うことはこれまでも示された考えですが、これも大事です。

高齢者だけでなく、若い人も持病を持った人、妊婦さん、子供、いろんな人が医療が必要になった時に、医療にかかれなくて新型コロナウイルスではなく、他の理由で亡くなる可能性がもう出始めています。

本当にそれでいいのか、市民に問いかける時期です。感染者を減らすための対策に協力を求めるべきだろうと思います。

——具体的にはどんな協力を求めるのでしょう?

基本的には「接触機会の削減」です。家族以外の人と人が会う機会を減らしてください、ということです。

自分のためでもありますし、自分が普段から大事にしている人のことを守るために行うべきことでもあります。

しかし今、そういう呼びかけが少なくなっていますね。

——コロナ対策にうんざりして、耳を傾けてくれなくなっている気がします。不安を感じつつも「赤信号みんなで渡れば怖くない」のように、いつもの生活を続けているような気がします。

私は、市民が聞いてくれなくなっているとは必ずしも思っていません。国や知事が、きちんと伝えられていないところがあります。そうした呼びかけが専門家からも少なくなっているという反省はあります。

「新たな行動制限はしない」と言っていますが、それぞれがより自衛意識を持ってしっかりと感染対策をしていただくのが大前提だったはずです。その大前提が伝わらないまま、「行動制限はしない」という言葉が一人歩きしています。

第6波までは、ある意味「パブリック(公共)」として公的なお金や幅広い要請をもとに対策してきたと言えます。しかし、ここまでの流れから、政府も市民もそうしたやり方を望まない声が強くなっています。

「2類相当から5類に転換を」という言葉に代表されるように、自衛や「私」に責任がシフトしています。

ただ、新型コロナウイルスの感染力や患者の数は、インフルエンザとは比較にならない状況に既になっています。その事実をきちんと受け止めて、再度、「パブリック(公共)」という観点から対応をすることになったら、その指揮をとるのが国や都道府県の役割です。

引き続き、一人ひとりが主体的に感染を広げないように気をつけていただくことがなによりも大事です。多くの人はやってくれていますが、「赤信号みんなで渡れば......」のような人もいて、リスクの高い行動が増えていないでしょうか。

感染リスクの高い「夏祭り」どうする?

——「接触機会の削減」を呼びかけるというのは、重点措置や緊急事態宣言ではない形で、お願いベースで呼びかけるという意味ですか?

今までも、「感染リスクが高まる5つの場面」などを作って呼びかけてきましたね。

感染しやすい場所は基本的に「しゃべる」「食べる」「集まる」場所で、これまでと変わりません。そういう機会をそれぞれが減らすことが必要です。

同居家族などいつも一緒にいる人との活動は維持しても、不特定多数の人が初めて会うような場面は、今は減らしてほしい。

そういう場面の最たるものが何かといえば、「夏祭り」なんですね。

私も祭りの主催者に相談を受けたり、祭り開催の議論に参加したりしているのですが、8月のお盆まで全国で夏祭りがたくさんあります。3年ぶりですし、経済との両立が叫ばれている時に、皆さん気合を入れて準備をしています。

しかし、多くの地域で、お盆の頃は医療逼迫が我々の想像をはるかに超えた状態になろうとしています。医療にかかれないで間接的に亡くなる方も増えるでしょう。

そのような状況で、感染リスクの高い夏祭りのようなイベントをやってもいいのでしょうか。祭りは自治体や地元の有力企業が運営や支援をしますから、そこが実施すれば、地域の他の場面も制限することが難しくなると思います。

でも祭りをキャンセルすればお金もかかるし、補償も必要となるでしょう。頭を抱える事態になっています。すぐに中止という議論ではなく、いかに感染対策をしっかりやるかを決めて実行すべきです。

「祭りに向けて一時的に感染者を減らそう、ワクチンを接種しよう」など感染対策を呼びかけることもできるとは思いますが、もう時間の猶予がないところも出ています。

——みんなこの3年間、我慢してきたという思いがありますから、地元の文化や誇りであるお祭りで爆発したいという気持ちがあるでしょうね。安全な開催の仕方はありますかね。

しゃべる、食べる、集まるがリスクですが、それがなければ祭りじゃないかもしれないですね。それでも、踊りや演技などを優先する方法はあり得ると思います。あとはワクチン接種の徹底です。検査の実施も手段ではありますが、運用は難しいです。

まずは、地域のなかで話し合いをして、感染拡大の場合にどうするかを考えるのでしょう。

旅行は同居家族だけで 飛行機で行くリゾート地で発症し、野宿も

——もう夏休みに突入していますが、帰省や旅行はどうですか?

旅行は家族単位で近場に行くスタイルならいいでしょうね。同居家族だけで近くの温泉に行って、家族だけで過ごして、車で行ける範囲で帰ってくる。すぐに帰って来られる距離に行き、体調を崩したら車で帰ってくる、ならありだと思います。

ただ、朝のバイキングの食事会場などで大勢が話しているところは要注意です。

飛行機に乗って行くような、北海道、沖縄のようなところは、行って、発症して、受診して、飛行機に乗れなくなって、ホテルも追い出されたら、泊まるところがない人も現地で出ているようです。レンタカーなどもいっぱいで、野宿状態にもなり得るような状況です。

現地で発症したら計画は狂いますし、行った人が全員感染することもあり得ます。そういう覚悟で行くか、キャンセルをする選択肢もそろそろ考えなければいけない時期になっています。

「若いから大丈夫」ではなくなってきているが......

——新型コロナが流行して2年半、オミクロンやBA.5などウイルスの性質も変化はしていますが、みんな基本的な感染対策は浸透していると思います。それでもここまで広がってしまうのは、致し方ない事態なのですか?

難しい問いですね。感染対策は、正確な情報を伝えて、それぞれ市民が判断して実行するのが基本だと思います。

ただ、事実としては、「BA.5」は今まで出てきた中で一番感染しやすいのですね。ワクチンの重症化予防の効果は保たれていますが、発症予防効果は落ちています。

発症したら人から人に伝わって、いずれ弱い人に感染が波及するのはこの2年半見てきた通りです。これから中年、高齢者、子供の感染により広がります。

確かに4〜6月は落ち着いていました。ワクチンの効果もあったでしょうし、季節的にも接触機会が減っていました。でも昨年と同様、7月に入ると広がりました。

感染拡大して、その傾向が止まっていない時は、何をやってもいいわけではないはずです。若い人でも今回、つらい症状が長く続いて、後遺症も一部出ていると聞きます。「若いから大丈夫」という感じでもなくなってきています。

濃厚接触者の隔離期間、短縮した影響は?

——感染拡大で対応が追いつかなくなってきて、検査も飽和状態になってきています。濃厚接触者の待機期間の短縮にも踏み切りました。この影響をどう見ていますか?

確かに濃厚接触者の待機期間を短くすることについては、医療者からも「どこにエビデンスがあってそんな決定をしたのか?」と疑問が投げかけられています。政府はその疑問にきちんと答えられていません。

あの方策を守ったとしても、4日目以降に発症する人も一定数おり、それによって感染は広がり得ます。

本当は、最後にウイルスに触れた可能性のある日から7日間はきちんと気をつけてほしいというメッセージを出しつつ、やむを得ないなら、7日目まで毎日検査をして、社会活動を、ということだったように思います。ただ、迅速抗原検査キットが相変わらず薬局でも入手困難になっています。

今回は最短で3日まで短縮されたわけです。社会としてそのリスクを許容するということになります。その短縮によるリスクは伝えないといけない。

我々専門家からも、この点についてはきちんと意見を発信すべきだと考えています。

ひたひたと迫る医療・介護の崩壊

——ここから何が起き得るのでしょう?


まず、考えられるのは、医療が崩壊して受診ができなくなることです。すでにそのような状況がはじまっています。


もう一つは、介護の崩壊です。沖縄でも大変なことになっているようですが、介護施設で大勢が集団感染して、陽性になっている職員が一人で高齢者20人の世話を継続しているような状況も出ているようです。


元々、介護現場は人手不足で知られていましたが、コロナ陽性になった人が歯を食いしばって施設に寝泊まりしながら、入所者の世話をしています。病院も入院を受け入れられなくなっているからです。目の前で人が亡くなっていく状況に無力感を感じながら仕事をしているのです。


こういうことが、これから各地で起こることが考えられます。今までとは違う、不可逆的な影響もより強くなります。「もうこの仕事を続けられない」とか、職員の離職とか、さまざまなことが起きるでしょう。


この波の終わりが見えないからです。


今までは「緊急事態宣言」や「重点措置」や「ワクチン」で出口が見えた。


でも第7波は入り口に入ったばかりなのにこのような状況で、減る見通しはありません。場合によっては8月末まで影響が続くことを考えると、医療者や介護者はつらい状況に終わりが見えないまま耐え続けなければいけません。


一方で、医療機関をなかなか受診できない人がクレームを医療者に浴びせかけています。医療や保健所の現場に怒りがぶつけられているのです。そういうことは慎んで頂きたいです。


この悲惨な状況を変えるためにお願いしたいのは、出口を見えるようにしたいということです。医療者のためだけでなくて、みんなのためでもあります。


治療中の人、来週手術の予定の人、来週出産の予定の人はみんな不安に思っています。それまでに自分が感染したら、手術は延期するし、分娩の受け入れ先も無くなります。


そういう状況の人たちも一緒に住んでいるこの社会で、感染を放置していていいわけではない、と賛同してくれる人を増やす努力をしたい。守るべき人を守る。


場合によっては重症化しやすい人を優先して、軽症の人は自宅で療養することもあるでしょう。救急車も本当に必要な人が使えるように、緊急でなければ呼ばないなど適正に使用する必要があるでしょう。


当事者は弱い立場ですし、元気もないので、声を上げられないかもしれません。声なき人たち、声が大きくない人たちが現状に大きな不安を抱いていることを、もう一度、皆さんに考えてほしいと思います。

(続く)

「『行動制限』は必要ないのだろうが、接触機会を減らすことは重要」

新型コロナウイルスの感染拡大において、社会として守るべき人をどう守るのか?

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。