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⼤⿇の健康被害をもたらす要因が明らかに 成分というより、元々その人が持つ「生きづらさ」が鍵を握る?

日本初の大麻使用者に対する大規模調査の二次解析で、大麻の健康被害をもたらすリスク因子として、若い頃からの使用と本人や家族の精神疾患などがあぶり出されました。この結果から何が言えるのか、調査した二人の研究者に聞きました。

国が「使用罪」の創設を目指し、規制を強めようとしている大麻。

その大麻使用者に対する日本初の大規模調査の二次解析で、大麻の健康被害をもたらす要因が明らかになった。

大麻の成分が悪さをしているというよりも、その人が元々持っていた精神的な脆弱さや生きづらさをもたらす成育歴などが関係しそうなことがわかった。

調査した研究グループの中心メンバー、医療用大麻の啓発団体「一般社団法人Green Zone Japan」代表の医師、正高佑志さんと、国立精神・神経医療研究センターの薬物依存研究部部長、松本俊彦さんに解説してもらった。

「若い頃からの使用」「家族に精神障害や依存症、⾃殺などを経験した人がいること」などが健康被害の要因

まずは論文の概要を紹介しよう。

この結果をまとめた論文は、「Risk factors for cannabis use disorders and cannabis psychosis in Japan: Second report of a survey on cannabis-related health problems among community cannabis users using social networking services(日本における大麻使用障害と大麻精神病のリスク要因 SNSを利用する大麻使用者の大麻関連健康問題についての調査第二報)」。

2022年12月19日に医学誌「Neuropsychopharmacology
Reports」に掲載された。

今回の調査は、2021年12月24日に国内の査読学術誌『アルコール・薬物医学会雑誌』に掲載された「SNSを活用した市中大麻使用者における大麻関連健康被害に関する実態調査第一報 」の調査を二次解析したものだ。

大麻を使用した経験がある人から2021年1月21日〜2月3日、オンラインの調査フォームを使って4138件の有効回答があった。

第1報では、依存症と呼べる状態(大麻使用障害)の人は、経験者のうち8.3%で、現在使用している人の中では9.5%だったことがわかった。

二次解析では現在使用している3142人の回答を分析。「⼤⿇依存症」がある人、慢性的に幻聴や被害妄想などの精神症状が見られる「⼤⿇精神病」がある人はそれぞれ何がリスク要因になっているのかを検討した。

その結果、「大麻依存症」については、「若い頃からの使用(初回使用年齢の低さ)」「大麻使用前に精神疾患を発症」「家族に精神障害や依存症、⾃殺などを経験した人がいること」「乾燥大麻以外の有害物質の濃度が高い製品の使用」がリスク要因となっていることがわかった。

「大麻精神病」については、「若い頃からの使用」「家族に精神障害や依存症、⾃殺などを経験した人がいること」が関係していた。

抱えてきた苦痛を楽にするための「自己治療仮説」が浮き彫りになる結果に

——まず「大麻依存症」のリスク要因として、「若い頃からの使用」「大麻使用前に精神疾患を発症」「家族に精神障害や依存症、⾃殺などを経験した人がいること」「乾燥大麻以外の有害物質の濃度が高い製品の使用」が明らかになりましたが、これは納得できる結果ですか?

正高 他の国で行われている先行研究でも指摘されている要素が出てきました。日本においても、ルールは違えど他の国と起きていることは近いのだなと感じました。

松本 二つの観点からとても興味深い結果です。そもそもインターネットで市中の使用者たちを調べてみようと考えたきっかけとなったのは、私が9ヶ所の医療機関から集めた71人の大麻患者調査でした。これでも日本の研究では最多の規模だったのですが、この調査とほぼ同じ調査票でやってみようと考えたのです。

今回の結果は、早くから大麻を始めたり、乾燥大麻以外のダブやワックスなどTHC(大麻の有害成分)を多く含んでいる製品を使ったりしていると使用障害につながっていることがわかり、患者調査と一致しているところがありました。

要するに、これは、アルコールも若いうちから飲んでいる人は依存症につながりやすいし、ビールを飲んでいる人よりもアルコール度数の高いウイスキーやジンを飲んでいる人の方が依存症になりやすい、というのと同じことです。

これは当たり前のことですが、大麻も依存性薬物としての特徴を持っていることがわかったのです。

「ネットで集めたサンプルだから偏っているよね」と言う人もいますが、少なくとも医療機関でやったサンプルと似たような結果が出ています。これはこの調査が一定の妥当性を持っていることを間接的に担保していると考えられます。

我々の71例の調査ではサンプルサイズが小さかったのですが、今回の調査は規模が大きい。だから、依存症になりやすい要因として、遺伝的な要因や体質的な要因、他の精神疾患、つまり、何らかの生きづらさを抱えている人の方が依存症になりやすいことが見えてきました。

私はこれまで薬物依存症になるメカニズムとして、折に触れて「自己治療仮説」を紹介してきました。

実は薬物は快感によってハマっていくというよりは、それまで抱えていた苦痛が強ければ強いほどそこから解放され、楽になることが報酬になっているのだ、という仮説です。

その仮説が大麻の場合にも当てはまる可能性があることを、大規模な調査ゆえに浮き彫りにすることができたと思います。

依存症の問題は、物質の依存性や早くから始めることも関係しているのですが、物質を使う人がどのような状況の中で生きているのかということも大事だとわかる。

単に薬の禁止だけでどうこうできるわけではないのではないか、ということも、この結果から読めるのかなと思いました。

若い頃から使っているとなぜまずい?

——若い頃から使っていると健康被害が起きやすいのは、使う量などをコントロールしにくいことなどが影響しそうなのでしょうか?

松本 アルコールなどどの物質でも言われている一般論でいえば、いくつかの説明がなされてきました。


まず、そもそもそんな若い頃からそんな物質を必要としているということは、相当生きづらい状況にあり、それゆえに依存症になるリスクも高いのではないか、という説明があります。


それから、早くから始めると使用期間が長くなるためである、という説明も可能でしょう。


また、若年者は依存性物質に対して脆弱であり、使用にあたってもコントロールを失いやすい、という説明も可能かもしれません。


今回の大麻使用者に関しても、そういった複数の考察ができると思います。

正高 今回の調査では「使用期間」も検討しているのですが、統計的に有意な差は出てきませんでした。

だから、依存になるかどうかは人によりけりで、ならない人はどれだけ長く吸っていてもあまりならない特徴がありそうです。これが今回の調査でわかった重要なことの一つです。

「大麻精神病」の診断は決めつけの可能性も

——もう一つ、「⼤⿇精神病」についても、「若い頃からの使用」と「家族に精神障害や依存症、⾃殺などを経験した人がいること」が関連していました。これはどのように見ていますか?

松本 これも二本立てで説明できると思うのですね。

まず一つ目の説明としては、その人があらかじめ抱えている生きづらさの影響です。この生きづらさには、遺伝的、体質的な脆弱性のような「先天的な生きづらさ」もあるし、環境やストレスといった「後天的な生きづらさ」もあるでしょう。


次に、もう一つの説明として、若い脳は脆弱なので早くから大麻を始めるとぶっ壊れてしまいやすい、という可能性も否定はできないですね。こちらの説明は、「ダメ。ゼッタイ。」的な立場の人たちから歓迎されそうなものです。

正高 気を付けないといけないのは、薬物を使わなくても、若い時というのは精神の変容を来す病気、例えば「統合失調症」などをよく発症しやすい年齢でもあるのですね。

突然、幻覚、妄想が出てきたことで病院に行き、仮にその時大麻を使っていたら、ほぼ間違いなく「これは大麻のせいで、大麻精神病ですね」と決めつけられてしまうでしょう。

でも、昨日の夜カレーを食べたからといって、「これはカレー精神病だ」とは誰も言いませんよね? でもなぜ大麻だけはそうやって簡単に原因とされてしまうのか。

実はそういう先入観のせいで、大麻とは関係なくただ統合失調症を発症しているのに、「大麻精神病」と診断されてしまうケースがあるのではないか。実は「大麻精神病」という診断にはそういう思い込みがかなり混ざり込んでいるのではないかと思います。

それが初回使用年齢が低いことと、大麻精神病が関連している一つの要素になっているのではないかと思います。

松本 実は、私たちが以前行った71例の調査では、「大麻精神病」に関しては納得できる要因を抽出することができませんでした。

でも、今回は調査の規模が大きく、そのため統計パワーが強く、関連する項目を同定できた可能性があります。とても貴重な知見だと思います。


今回のデータで何よりも貴重なのは、使用期間の長さやTHC濃度の高い大麻製品の使用が、大麻精神病に関係していなかったということです。


大麻精神病はこれまで、大麻による脳へのダメージが蓄積されることによって起きるものだと考えられてきました。


しかし、高THC濃度製品の使用や長期間の使用とは関連がないわけですから、大麻によるダメージの蓄積だけで精神病の発現を説明するのは無理があると言えるでしょう。

大麻の成分というより、元々のその人が持っている要素が関連?

——大麻の成分が悪さをしているというより、その人が使用する背景や元々持っている体質的な要素の方が大きそうだということでしょうか?

正高 薬物と人があったら、人の側の要素が大きいのではないかということです。

——ということは、大麻をやめさせたら全て解決する、というものではなさそうということですね。

松本 海外の診断基準では、数ヶ月以上薬物をやめているのに幻覚や妄想が続いている場合、薬物使用による精神病ではなく、統合失調症と診断されます。


一方、日本の精神科医のなかには、「そんな診断はおかしい。海外の人たちは薬物の本当の害をわかっていない。薬をやめて何年経っても害をもたらす恐ろしい薬物なのだ」と主張する方もいます。

しかし、たくさんの薬物依存症患者の診療を行ってきた立場からすると、薬物使用によって慢性持続性精神病を発症するのは、むしろきわめてレアなケースなのです。

むしろそうしたケースは、もともと精神障害に罹患していて、その症状を和らげようとして薬物を使用していた、あるいは、精神障害の発症時期がたまたま薬物使用開始時期と重なっていた、と考えた方がよい場合が多いのです。

今回の結果を見ると、薬物の害というよりは、元々本人の持っている脆弱性が大きいような気がします。

でも、厚労省のウェブサイトを見ると、大麻を長く続けていると「大麻精神病」になったり、無気力になる「無動機症候群」になったりすると書かれていますね。

こういった啓発資材での説明は、もしかすると今後見直しを検討する必要があるかもしれません。

いずれにしても、少なくとも国内には、今回の分析を否定できるような規模の研究は他に存在しないということは、強調しておきたいと思います。

大麻を使っている人の健康被害は、薬物だけの影響か?

——今回の分析で大麻に関連して言われる健康被害の要因が明らかにされました。今回の結果を、この人たちが生きやすくするためにどう使っていけばいいと思いますか?

松本 まずは、乱用防止啓発のあり方を再考すべきです。これまでの乱用防止啓発では、薬物の健康被害をことさらに強調されてきました。しかし、そうした健康被害は、本当に薬物が原因なのか、薬物の影響を過大に評価しすぎていないないのか。


正高 日本の薬物政策の要所要所で、精神科領域の専門家ではなく、薬学の専門家が関わっていることが非常に大きな影響を与えてきたと考えざるを得ません。


——成分が悪さをしていると主張する専門家が、薬物政策を決めるのに深く関わっているということですね。


松本 薬物による健康被害が、「個人の脆弱性」と「薬物の成分」のいずれが問題なのか。薬学の専門家からすれば、「薬物の成分」が問題ということにしないと立場がないし、研究費も獲得できない。


さらにいえば、そういう主旨の研究の方がはるかに政府からの研究助成を受けやすいのです。

それどころか、研究助成公募の時点で、「有害性・危険性を明らかにする」という研究課題ばかり提示され、最初から規制当局が望む結果へと誘導する道筋が作られていることもあります。

事実、かつてアメリカでは、そうした、「研究助成による知見の誘導」が批判されたことがあります。

正高 利益相反(※)ですよ。

※研究機関や研究者が国や製薬会社などからの資金提供や役務提供といった連携関係が強くなることにより、結果の内容について、国や企業にとって有利な方向に事実が捻じ曲げられてしまう恐れのある状態をいう。

健康被害をもたらすリスク要因にどんな支援ができるか?

——健康被害をもたらしているリスク要因として明らかにされた内容について支援したり、ケアしたりするとしたら、司法で取り締まり罰する、という従来のやり方ではなく、ものすごく気長で手間のかかることをやらなければいけなそうですね。

正高 近道はないと思います。人々の生きづらさに対していったい医療は何を提供できるのか。むしろ医療だけの問題ではなくて、社会全体の問題、社会保障の課題だと思います。

置き去りにされている人たちに対して、我々の社会はどのように有効な手を差しのべていくのか。

それは薬物依存症の人だけの話ではありません。知的障害のある人であったり、発達障害のある人だったり、様々な人に対する問題であると思います。

——これまでのような罰則で排除するという方法は、今回炙り出されたリスク要因を考えるとあまり有効でなさそうな印象があります。

松本 法務省のデータベースを使った再犯の予測因子に関する研究でも、やはり精神障害があることは重要な再犯リスク因子でした。


そして、今回のように使用障害(依存症)のリスク因子を見ても、やはり精神障害が絡んでいるわけです。


となると、なかなか薬物をやめられずに再犯を今後繰り返す人のなかには、薬物だけが問題ではなく、他のメンタルヘルス問題を抱えている人が少なくないと考えるべきでしょう。


一般にメンタルヘルスの問題を抱えている人は、ただでさえ孤立しやすい傾向があります。そこに加えて、刑罰という形でスティグマ化する(負のレッテルを貼り付ける)ことによってさらに排除するわけです。

はたしてそれで本当に薬から離れる人生につながるのかどうか、そこを考えなければいけません。


また、精神科医療の現場でも、ある患者さんが「薬物の問題」を抱えているとわかった瞬間に、通常のメンタルヘルスの問題として扱ってもらえず、「専門病院に行ってください」と、いわば門前払いとなってしまう。薬物問題を抱えた人を診てくれる病院はとても少ない。


加えて、統合失調症やうつ病などの精神障害により生活に支障を来していても、過去に薬物使用歴があったり、薬物依存症が合併していたりすると、精神障害者手帳の等級は低く評価されやすく、障害年金に至っては受給対象から外されてしまいかねない、といった実情もあります。


要するに、薬物問題を抱えているだけで、すべての生活障害は「薬物のせい」と見なされて、「自業自得だ」といわんばかりに、障害の程度に応じた障害福祉サービスが提供されなくなってしまうのです。


そのような福祉的支援から疎外され、コミュニティから排除され続ければ、最終的には、薬物使用者のコミュニティにしか居場所はなくなり、最悪、「生活するために売人をするしかない」といった状況に追い詰められます。


薬物問題を抱えている人、特になかなかやめられない人のなかには、様々な精神障害を抱えている人が数多くいます。その意味では、障害福祉と司法の問題を変に分離する政策は良くないと思っています。

日本でもエビデンスに基づいた薬物政策の議論を

——正高先生は今回の研究を具体的にどう役立てられると思いますか?

正高 政策に科学的根拠が反映されづらい世の中ではありますが、そこに一石を投じたい。今、大麻についても使用罪を新たに設ける動きになっていますが、エビデンスに基づいて議論することが大事です。

今のように薬物を使う人たちを切り捨てていった末に起きることは、貧富の格差が開き、それが治安の悪化につながり、結局誰も幸せにならない未来ではないでしょうか。

ボロボロになった人たちが世の中に溢れていって、僕たちは受け止めきれなくなっていくのではないかと懸念しています。

松本 かつて僕が委員をやっていた有識者会議「大麻等の薬物対策のあり方検討会」で、大麻使用による健康被害の根拠としてあげられたいたのは、その大半が日本語で書かれた、ごく少数例の症例報告でした。

率直にいって、症例報告というのは、医学領域におけるエビデンスとしては低水準のもので、一般的にはさほど重視されない論文です。


そもそも、日本語の症例報告というものの多くは、「これは珍しい症例に遭遇した、ラッキー」とばかりに、駆け出しの医者が「論文執筆、人生初挑戦」みたいな感じで書くことが多い。

あの検討会は、そのような程度のエビデンスを根拠に議論がなされたのです。


でもその後、こうやって大規模な研究結果が出てきました。もちろん調査の方法や調査対象とした集団の偏りについては、多少ツッコミどころはあるかもしれません。

しかし、少なくとも現状では、これを凌ぐ調査・研究は国内にはないのです。しかも、今回の論文は、きちんとした査読を受けたうえで国際誌に採択されたものです。


医学の世界で、日本語の症例報告と、英文で書かれた多数例の調査報告のどちらを重視するかは明らかです。


政策を作る時や、国として薬物の健康被害について国民に啓発的な情報を発信する時には、エビデンスに基づいた情報発信をすべきです。

【正高佑志(まさたか・ゆうじ)】内科医、一般社団法人 GREEN ZONE JAPAN代表

1985年京都府生まれ。熊本大学医学部卒業。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年に医療大麻に関する科学的根拠に基づいた一般社団法人GREEN ZONE JAPANを設立し、研究・啓発活動を続けている。

著書に『お医者さんがする大麻とCBDの話』(彩図社)がある。

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本精神救急学会理事、日本社会精神医学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)、『誰がために医師はいる』(みすず書房)など著書多数。

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