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Updated on 2020年4月27日. Posted on 2020年4月23日

楽天のPCR検査キットに専門医らから批判殺到 楽天の見解は?

楽天が法人を対象に販売を始めた無症状者向けのPCR検査キット。医療者からは厳しい批判が相次いでいますが、楽天はどのような見解を持っているのか、取材しました。

楽天が新型コロナウイルスのPCR検査キットを法人向けに販売し始め、医療者らから厳しい批判を浴びている。

楽天

楽天が販売している新型コロナウイルスPCR検査キット

無症状の社員が、医師の診療も通さずに、自己採取で検体を取る方法で、通常、医療機関で行うPCR検査よりも精度は格段に低くなることが予想される。

実際は陽性なのに「陰性」と出て安心した人が感染を拡大させたり、実際は陰性なのに「陽性」と出て医療機関を受診したりなど、医療機関の負担が増えることも懸念されている。

BuzzFeed Japan Medicalは楽天や専門家を取材した。

無症状の人が対象 検体は自己採取

この検査は、ジェネシスヘルスケア株式会社が開発し、楽天株式会社が4月20日から法人向けに販売しているものだ(定価は1万4900円)。

厚生労働省は風邪症状や発熱が続くなどの症状を受診相談の目安としているが、楽天の検査キットは、「特定の症状が出ていないものの不安を感じられる方」と無症状の人が対象。逆に厚労省の受診の目安に該当する人は受けられない。

このキットで検査を受ける人は、自分で長い綿棒を鼻の穴に差し入れて、鼻の奥のぬぐい液を採取し、それを回収して検査に回し、「新型コロナウイルスに特徴的なRNA配列が検出されるかどうか」を判断してもらう。結果は3日以内に出るという。

NEJM. DOI: 10.1056

鼻の奥のぬぐい液を自分で適切に取ることができるだろうか? 感染症専門医の忽那賢志さんも「医師の私でも『無理ッス!』と断言できます」と書く

楽天は「本検査キットを用いたリスク判定は、いかなる意味でも診断や医行為を行うものではありません」と説明する。

結果をどう解釈して取り扱うかについては、「社会的状況も考慮しながら方針を決め、適切に対応いただくことが望まれます」と、法人に委ねている。

治療の最前線にいる感染症専門医も「推奨しません」

この検査について発表された直後から、SNSでは、医師らによる批判の声が上がっていた。

「精度の低い検査で陽性なのに陰性(偽陰性)と出たら、安心して行動し感染を広げかねない」

「(本当は感染していないのに陽性と出る)偽陽性となった人が医療機関を受診したら医療機関の混乱や負担増を招く」

「今日の陰性は明日の陰性を意味しない」

「自己採取では適切に検体が取れない」

などだ。

国立国際医療研究センターで感染者の治療に当たる感染症専門医の忽那賢志さんは「一般の方がこのPCR検査キットを使用することは推奨しません」とする記事も出して、利用を差し控えることを勧めた。

忽那さんは、感染者への接触歴や流行国への渡航歴がない無症状の人は感染している割合が低いため、検査すれば、偽陰性や偽陽性が多数出て混乱を招くことを指摘する。

自己採取では適切に検体が取れないとして「医療行為として手技に習熟した医療従事者が行うべき」とも訴え、さらに、偽陽性の人が改めて診断を受けるために医療機関を受診することで「かえって医療機関に負担がかかることになりかねません」と強く批判している。

政府の専門家会議の委員も務める釜萢敏・日本医師会常任理事も、4月22日に開かれた専門家会議の会見でこう懸念を表明した。

「検体採取は感染するリスクもありますし、確実に適正に検体が採取できるかどうかわからない。医行為に属するものではないと発売元は表明していますが、本来は医療の中でやるべきことなので、非常に危険を伴う」

「実際には陽性なのに陰性と出た人が、陰性ということを根拠に職場で働くと周りに広げる。体外診断用医薬品ということで、しっかり管理したものでないと国民に対して安心して提供できるものではないので、日本医師会として大きな懸念を抱いている。専門家会議でも懸念の意見がありました」

楽天 「具体的なデータは申し上げられない」「うまく採取できない可能性はある」

楽天の広報担当者は医療現場からも批判が相次いでいることについて、どう考えているのか。

BuzzFeed が取材したところ、まず医療機関で行うPCR検査と遜色ないことを強調した。

「検査の工程は、もともとジェネシスヘルスケア社が医療機関向けに提供しているものと全く一緒。国立感染症研究所のPCR検査法を厳守した解析手法で、医師が採取したものを送って検査するプロセスと同じです」

ただ、感度や特異度などの性能データについて尋ねると、「明確なパーセンテージはお伝えしていません。安全性や正確性があるかと言えば、国立感染症研究所のガイドラインに従っているとしか言いようがない」「キットの使用自体は医療行為ではないから具体的な数字は申し上げられない」として、開示を拒否した。

自己採取で適切に検体が取れなければ、適切な結果につながらないのではないかという懸念については、「個人で鼻の穴に突っ込んでいただくのでうまくできなかった可能性はある」と認めた上で、こうも述べた。

「医師が診断する場合は、PCR検査も出しつつ、総合的に陽性・陰性の判断をすると思うが、今回は医療行為ではないので、陰性・陽性を示すものではない。新型コロナに特徴的なRNA配列が出たかどうかという結果を示し、検出された場合は自宅待機などをお考えいただく一つの判断材料になる」

そして、通常、医師が指示して行うPCR検査も精度は低い(陽性を正しく陽性と判断する感度は30〜70%)ことを引き合いに、検査キットの精度の低さも製品として問題はないと強調した。

「医療機関であってもPCR検査は100%ではないと同じく、こちらの検査でも100%ではない」

「医療機関での採取と自己採取での誤差については、うまく取れなかった場合は偽陰性が出ることが懸念されると思うが、これはあくまでも感染の可能性を示す検査。結果が出なくても『大丈夫ですよ』ということを保証するものではない。それはこのキットに限らず、医師のやるPCR検査でも同じことです」

「無症状で広げることを防ぐステップになるかも」「助けになりたい」

その上で、キットを使う人として、どのような人を想定しているかについて、こう述べた。

「これは在宅勤務ができている企業は使えません。メインターゲットはこの状況下で、社会インフラを支えるために出勤して働いている従業員がいる法人。症状が出ていなくてもコロナを持っている可能性があって、知らぬ間に感染が拡大してしまうかもしれないという不安を抱えながら出勤している」

「そういう方々の不安を受け、法人が従業員とのコミュニケーションを取る上で使わせていただくということです」

だが、精度の高い検査で確認するならともかく、一般のPCR検査よりもさらに精度が落ちることが予想される検査では混乱を招き、医療機関の負担も増えることも考えられる。

実際に検査キットの結果、無症状でも陽性で、重症者の治療で逼迫している医療機関に再検査に来る例も見られ始めている。医療崩壊を後押ししかねないという指摘に対しては、こう答えた。

「無症状であるがゆえに感染を無自覚に広げているというのが法人の懸念。私たちのキットでは陽性・陰性の最終判断はできませんが、一つの可能性としての判定は出せる。もし出た場合は、自宅待機することでそれ以上の職場での感染拡大を防ぐ一つのステップになるかもしれない」

「結果的により多くの感染患者を増やすことを防ぐ。検査というものを使って社会インフラを支える判断の一助にしていただく、助けになりたいということでのサービス提供です」

今日の陰性が明日の陰性を意味しないことから、無症状で「陰性確認」によって、安心を得るなら毎日検査をしないと払拭されない。同社は1万5000円の検査を繰り返し受けることも可能としている。

建設業、医療機関、テレビ局などからも問い合わせがあるという。

専門家「倫理的にも問題」

これに対し、米国国立研究機関博士研究員で免疫学を専門とする峰宗太郎さんは、こう評価する。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

峰宗太郎さん

「そもそも検査の目的というのは、治療等医療上の対応が変わる、公衆衛生上の対応が変わる、といったことで、妥当な状況で適切な患者に対して実施するものであり、『安心を得る』ために行うものではありません」

「このキットの販売は検査の出口としての『結果』が出たのちの対応をどうするか考えておらず、社会に負担部分を押し付けたうえで、自分の商売さえよければよいという姿勢を感じますし、キットの扱い自体、体外診断薬を市場へ業として出荷(製造販売)することを規制する医薬品医療機器等法(薬機法)に抵触するのではないでしょうか?」

「このようなキットを販売する行為は倫理的にも問題で、不安商売や情報弱者商売にも近いだけでなく、社会で一丸となって取り組んでいる新型コロナウイルス対策をかき乱す可能性もある問題の多いものであると考えます」

体外診断薬を取り締まる厚労省監視指導・麻薬対策課によると、「検査キットをうたっていますが、市場に流通しているキット単独では検査結果を示すことはできないので、製品そのものを取り締まる薬機法では規制の対象にならない」とする。

医師の診療を介さないPCR検査が販売されてしまうのは、流行の拡大に伴い、通常の検査の受け入れ能力が大幅に不足していることも背景にある。

こうした実情を受け、従来のように「帰国者・接触者相談センター」から帰国者・接触者外来を通じて受けるルートだけでなく、地域の診療所を通じて、医師会などが運営する「検査センター」で検査するルートも作り、検査数を増やす取り組みも広がりつつある。


Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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