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初めての出産・育児 生活を変えない夫と心が離れた女性

既婚男性と遠距離で育むパートナーシップ

30代半ばのカスミさん(仮名)はほっそりとして眼鏡が印象的な知的美人。中学生の一人息子を育て、外資系企業でバリバリ働きながらも、おっとりとした上品な雰囲気を漂わせる。

「若気の至りで結婚は失敗してしまいましたが、この歳になって生涯のパートナーと出会えると思いませんでした。今は誰にも話せない関係なので、彼とのことを聞いてもらえるのがとても嬉しいんです」

取材中、「パートナー」と呼ぶ男性と旅先で二人で撮った写真を次々にスマートフォンで嬉しそうに見せてくれた。その「パートナー」も結婚して二人の子供がいる。

Nozomi Shiya / BuzzFeed

子供を産んでわかった夫の本性

結婚は20代前半。大学の同級生だった夫の第一印象は「ガサツ」だった。しかし飲み会でさりげなく仲間に話題を振ったり、笑わせて楽しませようと気遣ったりしている姿をみて、惹かれるようになった。

1年ほど交際し、大学卒業後、間もなく結婚。同じメディア業界に就職し、結婚後はカスミさんの転勤で離ればなれの生活が続いていたが、結婚2年目で妊娠した。

子供好きな夫は大喜び。長男を里帰り出産した後に夫の住む東京に転勤になり、再び一緒に住むようになった。新しい家族と共に、幸福な毎日を送れるはずだった。

ところが、離れて暮らしていた時は気づかなかったが、夫は家事育児を全くやらない人だった。

「私は母親になり、授乳やオムツの世話など生活ががらりと変わって毎日必死なのに、夫はそれまでの生活を全く変えようとしない。仕事も遅くまでするし、飲み歩いて午前様になることもあって、私が文句を言うと、『仕事なんだからしょうがないだろ』と逆ギレしてくるだけでした」

子供は可愛がるが、泣き始めたり、お漏らしをしたりすると、「はい」と返して、「いいとこ取り」しかしない。生後半年を過ぎたある日、いつものように飲んで遅く帰った夫に「何で私ばかり子育てしてるの? 何で何もやらないのよ」と文句を言った。夫は「うるせえな!」と怒鳴り、カスミさんの胸を突き飛ばした。

「床に倒れて、最初は何が起きたのかわからなくてびっくりして。元々、怒るとものを投げることはあったのですが、私に直接暴力を振るうことはなかった。直後は強がって何でもないふりをしたのですが、夜、いつものように3人で川の字になって布団で寝ていたら悲しくて、悔しくて涙が止まりませんでした」

初めて「別れたい」と思ったが、「息子を父親なしで育てるのは不憫だ」という気持ちが先に立った。

カスミさんはそれまで仕事にやりがいを持って働いていたが、夫の協力が見込めない中、仕事と育児を両立できないことに気づき、仕事内容を変えざるを得なかった。

「夫は好きなように仕事を続けているのに、私だけ子供のために生き方を変えなくてはいけない。もちろん子供は可愛いから自分でも納得したつもりでしたが、生活を変えることがない夫を見ながらイライラが募りました」

度重なるDV、離れる心

初めて暴力を振るって以来、夫の怒りの沸点はどんどん低くなり、腹をたてるとすぐ手や足が出るようになった。たまに皿洗いなどをしてくれても汚れが残っていることを指摘すると、「うるせえ!」と蹴られ、突き飛ばされる。

「私も文句を言わなければいいのかもしれないですが、自分ばかり我慢しているという不満があるから、どうしても文句を言ってしまう。どんどん暴力が悪化していきました」

ある時は、後ろから尻を膝蹴りされ、まともに歩けなくなって病院に行き診断書も書いてもらった。年末に家族3人で海外旅行に出かけた時は、慣れない海外生活にイライラが募った夫が、帰りの機内でカスミさんの顔面を拳で殴り、目の周りに青あざができた。

「惨めで涙が止まらないし、それ以来、毎日コンシーラーを塗らないと外出もできない状態になりました。さすがに離婚しようと弁護士に相談し、『まず別居を』と言われたので、話し合いをしましたが、世間体を気にしてどうしても別居に応じません。夫は子供を可愛がるので私も迷っていたこともあり、『次に暴力をふるったら離婚』『子育てに協力する』ことを約束させて、その時は別居を見送りました」

それ以来、夫は週1回、保育園のお迎えのために早く仕事を切り上げるようになり、カスミさんは、出産以来、行けなかった夜の飲み会にも出かけられるようになった。夫とは心が離れたまま、「両親としての役割を果たすだけでいい」と割り切って生きることを決めた。

ストレスや寂しさから深酒 虚しい関係を繰り返す

元々、アルコールはそれほど弱い方ではなく、飲み会では陽気にストレスを発散しているつもりだった。しかし、楽しい時間もつかの間、家に帰ると必要なこと以外は口もきかない夫がおり、暴力を常に警戒して怯える自分がいる。

「子供は大事で可愛いのですが、私には頼れるパートナーはいないし、両親にも夫の暴力のことは心配をかけられないので言えない。夫婦としての触れ合いもとっくにありませんでしたし、とにかくその頃は寂しくてたまりませんでした」

たまの飲み会で酒量が過ぎ、記憶がなくなるまで飲むことも増えた。ある時、仕事や夫の愚痴を話していた上司と飲みに行って酔いつぶれ、ハッと気づくと二人でホテルのベッドの上にいた。

「相手も妻帯者で、『ああ、やっちゃった!』と思いましたが、夫への恨みもあったのでそれほど落ち込みもしませんでした。流されるままに、月に1回ぐらい相手と会ってセックスもする薄い関係を3年ぐらい続けました。そうすると夫に仕返しした気分になって気持ちがすっきりし、また日常に帰っていくための原動力になっていました」

その上司との関係が自然消滅した後も、数回、一緒に飲んだ知り合いに誘われてホテルに行くことがあった。

「人肌が恋しかったし、求められることで精神的に癒されていました。今思うと心が壊れていたんでしょう。終わった後は、いつも虚しかった」

夫は直接カスミさんに暴力を振るうことはなくなっていたが、腹をたてると、リモコンを投げつけて壊したり、ちゃぶ台をひっくり返したりする行為を続けていた。

「息子もそんな夫婦関係を見て傷ついているだろうし、申し訳ないと思いましたが、それでも進学や就職など子供の将来のためには父親がいないと不利になってしまうと思い込んでいました。離婚にはどうしても踏み切れず、私自身、追い詰められていました」

そんな時、出会ったのが「彼」だった。

尊敬から始まった関係 「今までとは違う人」

5つ年上の彼は、当時、同じ業界で働くライターで、記者会見で鋭い質問を投げかけ、的確にまとめた記事を読むうちに気になるようになった。

「最初の印象は、男性としては意識せず、『仕事ができるな』という尊敬の気持ちでした。同じ年の子供がいることもあり、仕事先で出会った時は親しく雑談を交わすようになっていました」

そのうち、ランチに一緒に行くようになり、「いつか昼酒をしたいね」という話で盛り上がった。仕事が暇なお盆の頃、東京・新橋で昼間から空いている居酒屋で待ち合わせ、仕事のこと、子供のこと、3時間も夢中で語り合った。

「もう少し飲みたいな」

別れがたくて、そのまま京浜急行に乗って、少し前に話題にあがった神奈川県の三崎港に二人で向かった。三崎名物のマグロとビールで軽く飲んだ後、ほろ酔い気分で港の周りを散歩した。

「彼がじっくりと耳を傾けてくれるので、私はいつのまにか夫からDVを受けたことも、深酔いしてはよその人と虚しい関係を繰り返したことも全て打ち明けていました。すると、彼もよその男性に心を傾けていた奥さんに拒否され、10年以上セックスレスで苦しんでいたことを教えてくれました。これほど深く、人と心の内をさらけ出し合ったのは初めての経験でした」

その日はそのまま互いの自宅に帰ったが、カスミさんは彼のことを男性として好きになっていることに気づいた。後日、仕事帰りに飲みに誘い、ビアガーデンで一緒に飲みながらカスミさんの方から告白した。

「あなたのことが好きなんです」

「ありがとう」。それが彼の答えだった。

「ああ、これは脈がないのだな、ダメなんだなと。私は好きでも相手は戸惑っているのだと思いました」

しかし、2軒目のバーに行くと、彼は「眼鏡を外した顔を見てみたい」と囁き、眼鏡を外したカスミさんをじっと見つめた。どちらからともなく唇が合い、その後、タクシーでホテルに向かった。

「それまでの一時的な関係とは全く違う喜びでした。それまでの関係は受け身で、言われるがまま、なされるがまま。そこに自分はありませんでした。彼には自分を飾ることなく素直に見せることができて、その上で受け入れてもらった。彼もずっと奥さんに拒否され続けて孤独だったことを打ち明けてくれて、ようやく分かり合える人を見つけたという思いでいっぱいでした」

それから1週間に数回、1回に会う時間は20分でも空いた時間を見つけては彼と会った。自宅が近所だったこともあり、早朝に近くの公園で待ち合わせて、一緒にジョギングもした。夜に会うときはラブホテルにも行ったが、セックスをしない時もあり、互いのことを知り、言葉で労わりあうことが何よりも幸せだった。

「話すだけで、一緒にいるだけで満たされる。高校生の恋愛のように、互いのことが知りたくて、互いの子供の頃の話から、実家の家族の話、学生時代の話まで、出会うまでの時間を埋めるように語り合い、話題が尽きませんでした」

そんな時間を重ねるうちに、互いへの気持ちは深まり、「彼こそが人生のパートナー」と思うようになった。「一生、一緒に生きていこうよ」。そう思いを伝え合い、子供が18歳になったら今の配偶者と離婚して結婚することを約束した。

彼の妻は専業主婦で、離婚してもすぐに自立はできない。夫婦で寝室も別にし、ほとんど口もきかない状態だが、彼の子供は母親を慕っている。子供が小さいうちは仮面夫婦を続けるという説明に納得した。

彼の転勤 それでも深まり続ける想い

しかし、出会ってから2年後、二人に試練が訪れた。彼の転勤が決まり、最低2年は遠距離で過ごすことが決まった。

「泣きそうになりましたが、彼にとってはチャンスの仕事だったので、おめでとうと伝えました。これからどんな生活が始まるかは想像もできませんでしたが、私たちだったらきっと続けていけるとも思いました」

家族と赴任した彼と会えるのは年2回の長期休暇の時だけ。LINEで毎日、その日にあったことを報告し合い、「おはよう」「おやすみ」の挨拶を交わす。

時折、互いに夜更かしをして、お酒を飲みながら一緒にいるような気分に浸り、テレビ電話もする。寂しくならないための工夫だ。

「仕事の悩みや、子育てで悩んでいる時も、相談するのは彼。彼の地方にないものを送ってあげたり、彼の体調を心配したり、悩みを聞いたりするのは私。彼は奥さんのことを『子供の面倒をみる同居人』と呼びます。法的な配偶者ではなく、互いのことを本当のパートナーだと感じています」

夫とは昨年、別居に踏み切った。「夫もかわいそうな人なのかもしれない」とは思うが、愛情は戻らない。子供も父親の様子にうんざりし、すんなり別居を受け入れてくれた。

彼とは離れ離れになって2年が経つが、二人ともこの関係が続くことに自信を持っているという。

「離れているのに気持ちは離れるどころか、どんどん深まっていく。私には彼がいる、彼に求められていると思うだけで生きる力が湧きます。できればもっと早く、最初から彼と出会えていたらよかったですが、大事な子供も授かることができたし、お互い辛い経験をしたから素直に思いやり合える。『今出会えてよかったんだよね』と自分に言い聞かせて、彼と一緒になる日を待っています」

「彼」側に取材した記事も過去にヨミドクター(読売新聞)に書きました。「セックスレスに悩んでいた男性(上)偶然目にした妻のメールに……」「セックスレスに悩んでいた男性(下)年下女性と婚外恋愛…『彼女こそ人生のパートナー』」


BuzzFeed News では、新たなふうふ(組み合わせは男女に限りません)やパートナーシップの形を模索しているカップルの取材を続けます。よろしければ下に表示してあるメールアドレスに情報提供をお願いします。これまでの記事はこちら。

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