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2年ぶりに帰ってきた「のんちゃんとコロナ」 マスクつける・つけない判断も人の顔色を伺う日本

音楽家と感染症の専門家が新型コロナ対策について語り合う「のんちゃんとコロナ」が2年ぶりに帰ってきた! 3年目に突入しても未だに消え去らないコロナとどう付き合っていくべきか、大いに議論します。

音楽家と感染症の専門家が新型コロナウイルス対策について議論する「のんちゃんとコロナ」が、2年ぶりに帰ってきた

ミッキーこと、世界的な指揮者の井上道義さんと、のんちゃんこと川崎市健康安全研究所所長で政府の新型コロナ対策分科会の構成員を務める岡部信彦さんの対談だ。

この2年間のコロナ対策は適切だったのか。3年目に突入した今、私たちはコロナとどのように付き合うのか。

小学生の頃、成城学園楠組の同級生だった二人が学校からよく散歩に出かけていた東京都世田谷区の砧公園(当時・砧緑地)の大きな楠の下で、再び大いに語り合った。

※対談は5月7日午後に行われた。

「雑草摘み」のクラスター対策、意味はあった?

井上:のんちゃん、2年前にここで会ってからまだ生きてますね。忙しかったんじゃないですか?

岡部:生きてますね。忙しかったよ(苦笑)。

井上:コロナの特効薬ってまだないわけ?

岡部:できているし、一部は使われているし。ただコロナだけをやっつけるのではなくて、他のウイルスもやっつける薬です。

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それから「中和抗体薬」って聞いたことはある? 点滴したりする薬だけれども、人工的に作った免疫物質を体に入れてウイルスをやっつける。文字通り「中和」する、そういう薬もある。

ただオミクロンだなんだと変異したウイルスが出てきて、敵、つまりウイルスが変わると効きが悪くなることもあるんだ。古いウイルスに合わせて作っている薬だから。

井上:(2年前の対談で)そういう変異するウイルスだと聞いた時に「じゃあ負け戦だよね?」と言った覚えがあるけれど......。本当にあの後びっくりするぐらいパンデミック(世界的な大流行)になったものね。

僕自身はコロナ問題に対して反感を持つのね。「どこでマスクしろ」「出かけるな」と言われるとね。世の中に対する反抗心で生きてきた人間だからね。中国は完全に出入国をブロックしていたし、いるけれど、他の国は違ったでしょう?

岡部:他の国でもイタリアはそうだったし、結構厳しい対策をとる国は多かった。

井上:日本はどちらかというとズルズルしていたでしょう?

岡部:そう。日本はどちらかというとズルズルで、外国からは「そんな対策で大丈夫か?」とよく言われたけれどもね。

井上:不思議ですね。「雑草を摘むように(陽性者の濃厚接触者を探して隔離するクラスター対策のこと)」とあなたは言ったけれど、雑草なんて摘みきれないでしょう? いくら摘んだって感染者は出てくるよ。

岡部:摘みきれなくなったのが、第4波とか5波とか6波になるわけだよね。それでも摘んだね。日本は。

井上:摘んで、その意味はあったの?

岡部:意味はあった。日本での拡がりは圧倒的に遅いし、小さい。

強いリーダーのいる欧米・中南米、なんとなくの日本

井上:ブラジルのやり方(当初はマスク着用やロックダウン、ワクチン接種などの対策に大統領が消極的で、60万人以上の死者が出ている)は結局はどうだったんですか?

岡部:アメリカも最初はそうだった。「亡くなる人が出るのもある程度は仕方ない」と思うのか、「いや、一人でも死者が出たら困るよ」と考えるのかで、政策は変わってくるからね。

井上:僕が聞きたいのは2年経って、これから3年目に入って、ブラジルのやり方は「酷い大統領だ」「酷いことをする」と言われていたけれど、それは結果的にひどいやり方だったと言い切れる数字なの?

岡部:ブラジルという特定の国についてはなかなか評価しにくいけれども、あるリーダーが「こっち」と言えばそちらに動きリーダーに全権を預ける国と、そうではない国がある。

見ていると欧米やラテン系の国は良い意味で言えば、リーダーが強いし、悪い意味で言えば間違ってしまうこともある。

日本は、そこはなんとなく対応してきた国なんじゃないかな。

井上:指揮者としては、その「なんとなく」は一番意味がないんだよね。音楽じゃなくても、絵を描くとか詩を読むとか、演劇で世の中を変えてやると言って劇団を作るとか、芸術やアートは、「なんとなく」「人の目を見て」「やっていいですか?演奏をここでやらせていただきます」というのでは話にならない。存在意義がないのだよ。

指揮者が指揮台に立ったら、「この人の言うことを聞く」という方法でオーケストラは成り立っている。もちろん指揮台を降りたら、ただの人。「役割」であって人格全てではない、

そういうやり方でちっとも構わないと思うのだけど、どうも日本は降りようと上ろうと、なんとなくズルズルしている。政治家の水先案内人としてのパワーの弱さも含めて、常に違和感を持っている。

ルールで縛るか? 自由を残すか?

井上:ただ、フランスもみんなマスクしたのは驚きだった。あの人たちがマスクをするなんて考えられないよ!

岡部:考えられない(笑)!。でもそれはね、法を決めるからだよ。日本はマスクをしろという法はない。「やってくださいね」「ああそうですか」という感じでしょ?

でも欧米や韓国などでは、マスクをつけなければいけなくなったんだよ。やらなければ罰金を払うとかそういうルールを作るわけでしょ? ルールがあるからやむなく従っているんじゃないかな。

オーケストラで指揮をやる時は、決められた中で自由を表現するのかな?

医学で病気を診るのは、実は定まった方法でガチガチにやるんじゃない。いやガチガチにやってはいけないと思うんだよね。

もちろん基本的な決まりはあるけれど、ガチガチのルールではなくてその場の判断、応用なんだよ。その人を診て、その場でその人にとって一番いいと思う方法を選ぶべきであり、選べるようにしておかなくてはいけないと思う。

井上:言ってみれば「即興演奏」?

岡部:そうそう。即興というか、その場の判断を要する。でもみんながコロナにかかって、みんなで防ごうとなると、そこに一定のルールを作ってルールに従わなければならないということになる。

体制は違うけれど中国のような国は、全部国が方針を決めてしまって、それに従う形を取る。

岡部:オーケストラは自由なように見えて、全部指示があるんじゃないの?指示をなぞるのがオーケストラで、医学とそこは違うと思っているんだけど。

井上:それは間違っていると思う。なぞると言っても、「歩く人は右側、車は左側」ぐらいのことよ。右足から歩いて、メトロノームで何秒で歩いてくださいと楽譜には書いてあるけれど、それをしなくてもいい。

楽譜の通りにしたらいい結果が生まれるとは考えない。演奏するホールの響き、オーケストラの能力、お客さんがホールに少ないか多いか、響きが伸びるか伸びないか、オーケストラのサイズが大きいか小さいかいろんなことで変わる楽譜は音楽の完成品ではない。

じゃなければ面白くないよ。それなら俺はやってないよ。小学校のお習字とは違うんだよ。

岡部:医療もそう。あるマニュアルがあって、マニュアル通りにいくと思いきや、患者さんは変わるんだよ。人って一人一人全然違うんだから。ちゃんとした医療や医学ができるかは、その時に適切な応用ができるかにかかっている。

でも全体がマニュアル化してくると、「そこから外れてはいけない」「こうやらなくちゃいけない」とルールができる。ほとんどはマニュアルで大丈夫だけれども、外れた人に対しては、フリーな裁量がないと本当の医学や医療はできないと思う。

井上:真の自由って何か、大事なところだね。

「マスクを外す」と決まったら危険なところでも外す問題

井上:僕たちお年寄りだけどさ、お年寄りが家から一歩も出ずに、人にうつしちゃいけない、うつしたら嫌だ、病気になったら死んじまうと言って、明日、明後日生きるために今日我慢することばかり考えてきた2年間だったんじゃないの? 毎日を生きるということが本当は必要なのに......。 そんなことはない?

岡部:僕も一歩も外に出ないというのは反対。ただし、混んでいるところには行かないで、ゆっくりこういう公園を散歩してください、と自分では言ってきたつもりなんだけれども、警戒する人はすごく警戒するよね。そこは本当に難しい。

警戒する人に向けて「大丈夫ですよ。外に出てください」と言うと、大丈夫だと思っている人がもっとリスクの高い他のことを「それなら大丈夫だろう」とやってしまうんだよね。

逆に大丈夫だと思っている人に向かって、「いやいやそれは危ないから止めてください」と言うと、警戒している人の方はもっと縮こまってしまう。ちょうどいいところを選ぶのは本当に難しいと思います。

井上:注意することはとても影響があったと思うのだけど、もうかなり時間も経ったし、みんなコロナに対して過度な恐れもなくなりつつある。「あれはちょっとやり過ぎたな」とか「これはやっておけば良かったな」という反省はある?

岡部:過去のことに対して揚げ足を取るようなことをするよりも、これからのことが大事だと思う。例えば今日、この公園でみんな楽しそうに歩けるようになった。これはすごくいいことだと思うんだよね。

でも、よく見ると、みんな注意深くマスクをつけている。こういう野外の場所で風がそよそよ吹いて、人がそんなにいないところでは、マスクを外してもうつらないんだよね。だからこういう場所では外していいんですよ、と言うのだけれど、日本の人たちは慎重で、注意をしてしまう。

でも、この人たちが大丈夫だと思ってマスクをつけなくなった時、本当はつけなくちゃいけないところでも、大丈夫だと思ってマスクをつけなくなっちゃう。

井上:そうかそうか(苦笑)。でもそれはちゃんと主体性を持って生きればいいんじゃないの?主体性を持てないの?

岡部:主体性を持っている人は大丈夫なんだよ。でもなかなか持てない人も多いね。

井上:そういう教育をしてないからなんじゃないの? 教育がものすごく一面的だよね。子どもたちに徒競走で順位をつけないとかさ。誰かが1番になったらビリになったやつがかわいそうだから。

岡部:僕らが小学生の時、他の学校の運動会ではご褒美が出ていたけれど、僕らは一切そういうことはなかった。ビリだからってどうってことはない。

井上:それは走るのが遅いだけで、そいつも英語がうまかったり、逆立ちがうまかったり、人には得意・不得意があるじゃない。それぞれの分野で思い切り競争しなきゃ、つまんなくない?

主体的に自分で考える力を

岡部:子ども一人一人の違いをどう活かしていくかはこれからもずっと大切なことだよね。

井上:でもノンが言うように、マスクを取ってもいい時になると、今度はしなくては危ないところでもみんなに合わせてしまって、しない。日本はかなりそういうところがあるよね。

岡部:だから外国はルールを作る。彼らは法に基づいてマスクを外していいとなったらみんな外してしまう。大体もともと彼らはマスク嫌いだからね。

井上:困ったもんだね。答えがないんだね。

岡部:さっきの医学のマニュアル化じゃないけれど、その場でパッと何かを考える力をつけさせないとダメだよね。医学とか芸術だけではなく、普段の生活もそうじゃない?

井上:そうね。僕なんか指揮をする時にマスクをすると相手の表情が見えないんだよね。僕自身はどんなにマスクをしろと言われても、フェイスシールドでやらせてもらっているのね。フェイスシールドでも息が苦しいんだけど。

演奏家の人たちはみんなマスクをしているんだけど、練習で「そこを強く演奏してください」と言っても、彼が同意しているかしていないのかマスクをしているからわからないの。これは本当に由々しきことで、「通じたのかな...いいのかな....」という感じで流してしまう。そうするとなんの表現もできないんだよ。

だから僕は「マスクを取ってください」と言っちゃうんだけど、マスクは自主性に任しているわけだから、取りたくない人は取らなくていい。「僕の希望としては取ってほしい」と言うわけ。

「上にいる人がそういうことを言うのは、ちょっとパワハラっぽくない?」と思われるかもしれないけれど、そんな大袈裟な問題じゃないんですよ。でも、そういう風に大袈裟になっちゃうんです。

(続く)

【井上道義(いのうえ・みちよし)】指揮者

1946年東京生まれ。桐朋学園大学にて齋藤秀雄氏に師事。1971年ミラノ・スカラ座主催グィド・カンテルリ指揮者コンクールに優勝。1976年日本フィルハーモニー交響楽団の定期演奏会で日本デビュー。1977年から1982年までニュージーランド国立交響楽団の首席客演指揮者、1983年から1988年まで新日本フィルハーモニー交響楽団の音楽監督、1990年から1998年まで京都市交響楽団の音楽監督、常任指揮者、2014年から2017年まで大阪フィルハーモニー交響楽団の首席指揮者、2007年から2018年まではオーケストラ・アンサンブル金沢音楽監督を務めた。

これまでにシカゴ響、ハンブルク響、ミュンヘン・フィル、スカラ・フィル、レニングラード響、フランス国立管、ブタペスト祝祭管、KBS響、およびベネズエラ・シモンボリバルなど世界一流のオーケストラへ登壇。

1999年から2000年にかけて新日本フィルハーモニー交響楽団と共にマーラー交響曲全曲演奏会を取り組み「日本におけるマーラー演奏の最高水準」と高く評価された。2007年日露5つのオーケストラとともに「日露友好ショスタコーヴィチ交響曲全曲演奏プロジェクト」を実施し、同プロジェクトを収録した「ショスタコーヴィチ交響曲全集 at日比谷公会堂」BOXを2017年2月にリリース。2014年4月に病に倒れるが、同年10月に復帰。2015年全国共同制作オペラ「フィガロの結婚」(野田秀樹演出)を総監督として、10都市14公演の巡回公演を成功させた。

1990年ザ・シンフォニーホール「国際音楽賞・クリスタル賞」、1991年「第9回中島健蔵音楽賞」、1998年「フランス政府芸術文芸勲章(シュヴァリエ賞)」、2009年「第6回三菱UFJ信託音楽賞奨励賞(歌劇イリス)」、2010年「平成22年京都市文化功労者」、社団法人企業メセナ協議会「音もてなし賞(京都ブライトンホテル・リレー音楽祭)」、2016年「渡邊暁雄基金特別賞」、「東燃ゼネラル音楽賞」、2018年「大阪文化賞」、「音楽クリティック・クラブ賞」を受賞。自宅にアヒルを飼っている。オフィシャルサイトはこちら。 

【岡部信彦(おかべ・のぶひこ)】川崎市健康安全研究所所長

1971年、東京慈恵会医科大学卒業。同大小児科助手などを経て、1978〜80年、米国テネシー州バンダービルト大学小児科感染症研究室研究員。帰国後、国立小児病院感染科、神奈川県衛生看護専門学校付属病院小児科部長として勤務後、1991〜95年にWHO(世界保健機関)西太平洋地域事務局伝染性疾患予防対策課長を務める。1995年、慈恵医大小児科助教授、97年に国立感染症研究所感染症情報センター室長、2000年、同研究所感染症情報センター長を経て、2012年、現職(当時は川崎市衛生研究所長)。

WHOでは、予防接種の安全性に関する国際諮問委員会(GACVS)委員、西太平洋地域事務局ポリオ根絶認定委員会議長などを務める。日本ワクチン学会名誉会員、日本ウイルス学会理事、アジア小児感染症学会会長など。