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お年寄りが寝たきりにならないために 災害後に気をつけたい5つのポイント

災害リハビリテーションの専門家にお話を聞きました。

記録的な豪雨で甚大な被害が出ている西日本。NHKのまとめによると、9日朝現在、全国で93人が死亡、3人が意識不明の重体になり、58人の安否が今もわからなくなっている。

避難所に身を寄せたり、外出がままならなくなったりして、日常生活が送れなくなった人も多いだろう。その時に心配なのが、身体機能が衰えたお年寄りが、寝たきりや入院生活になってしまうことだ。

BuzzFeed Japan Medicalは、災害リハビリテーションの専門家で、大阪医科大学リハビリテーション医学教室准教授の冨岡正雄さんに、高齢者が気をつけた方がいい5つのポイントを聞いた。

1.元々リハビリを受けていた高齢者は専門家が支援

高齢者の中には、日常的にデイサービスやデイケア、訪問リハビリなどで歩く練習や立ち座りの練習をして、生活能力や足腰の身体能力を維持している人が少なくありません。それが災害でストップしてしまうと、すぐに能力は衰え、再び元の状態に回復するのが難しくなります。

それはいわば、普段、薬を飲んで体調を管理している生活習慣病の人が、飲めなくなって、血糖値が上がったり、血圧が上がったりするのと同じぐらい危険なことです。

3〜5日程度ならまだ大丈夫だと思いますが、1週間も経つと、せっかくリハビリで低下しないように保ってきた身体能力は一気に崩れてしまいます。リハビリの専門医、理学療法士、作業療法士などが早めに支援に入る必要があります。

2.生活不活発病の予防

以前は「廃用症候群」と言いましたが、長い間、寝ていたり動かなかったりすることで筋肉が衰え、関節の動きが悪くなって体力が衰え、気がつけば寝たきりになってしまうということがよくあります。

精神的な落ち込みや、自分がどこにいて、いつ何をしているのかがわからなくなる見当識障害も引き起こし、認知症につながる可能性もあります。

普通に歩いて避難所に来ていたとしても、高齢者は2、3日寝てばかりいれば、生活不活発病になる可能性が出てきますので、身体を積極的に動かす工夫が必要です。その方法は次の項目で述べます。

3.エコノミークラス症候群(深部静脈血栓症)の予防

避難所などで、ずっと同じ姿勢で座ったり、寝ていたりを続けていると、ふくらはぎの静脈に血栓ができることがあります。これが深部静脈血栓症です。この血栓が血液の流れで移動し、心臓を通って肺動脈を詰まらせる「肺塞栓症」を引き起こすと、死に至ることさえあります。

これを防ぐために、運動する、ふくらはぎを締める弾性ストッキングをはいて血液のうっ滞を防ぐ、水分をしっかり取り血液が固まりにくくすることなどが大事です。

さらに重要なのは「自分でなるべく動くこと」です。これは、5つのポイント全ての対策に共通することです。

リハビリの専門家は、そのために、その人の心身の状態を評価し、自分で動きやすくするために生活環境を整える「環境調整」をします。

避難所で床に雑魚寝していると、足腰が悪い人は立ち上がりにくかったり、バリアフリーになっていないとトイレに行きにくかったりすると思います。トイレに頻繁に行きたくないので水分も控えるようになり、それが血栓をできやすくします。

それに対し、高齢者には簡易に組み立てられる段ボールベッドや立ち上がりやすくする手すりなどの福祉用具を手配するとか、トイレの数を十分増やし、トイレまでの段差をなくすなどして、自分で動きやすいようにするのが「環境調整」です。

高齢者は、動かないから動けなくなります。これも数日以内にリハビリの専門家が現地入りして、現地の人の心身の状態を医学的に評価し、適切な環境調整をした方がいいと思います。

4.嚥下(飲み込み)障害を防ぐ

口の中の雑菌が気道から肺に入って起きる誤嚥性肺炎になる危険もあります。東日本大震災では当初、津波を飲み込んだことが原因の「津波肺」が警戒されましたが、実際は誤嚥性肺炎が多かったのです。

誤嚥性肺炎は水を飲むのを控えたり、歯磨きもままならなかったりすることで、口の中が雑菌だらけになっていることが原因になります。

元々ものを飲み込む能力が衰えた高齢者は、柔らかく炊いたご飯など食べやすい食事を工夫していますが、避難所で配られるパンやおにぎり、インスタントラーメンなどだと急に食べづらくなります。脳卒中を患った経験がある人などはなおさらです。

これらを予防するためには、嚥下リハビリを専門とする言語聴覚士や歯科医師、歯科衛生士などがチームを組んで取り組むことが必要です。お口の中を清潔に保つケアをし、入れ歯を消毒する洗浄剤を提供する支援もあった方がいいでしょう。

さらに喉にサラサラと素早く流れてしまう水分は、気管に入りやすく、最もむせやすいものであることに気をつけなければいけません。水分にとろみをつけるとろみ剤や水分を補給するためのゼリーもありますので、そうしたものを利用するのもいいでしょう。

5.「活動と参加」を促す

リハビリテーションの専門家は、その人が体を動かしにくくなっている原因を評価する時、身体に問題があるのか、周りの環境に問題があるのかなど、様々な角度から評価します。

災害の影響が長引き、近所づきあいなど地域のつながりが崩れると、高齢者は特に社会参加が減ってしまい、結果的に身体の問題に結びつく可能性があります。落ち着いたら、活動と参加を促す取り組みも必要になるかもしれません。

みんなでゲームや手芸、園芸などをしたり、交代で避難所の運営をするなどの役割を作ったりして、社会活動に参加してもらえば、生き生きと毎日を過ごすことにつながります。これによって身体だけでなく、心も元気になるかもしれません。



さらに詳しい災害リハビリの手法を知りたい人は、冨岡さんが広報委員を務める「大規模災害リハビリテーション支援関連団体協議会(JRAT)」が作った「大規模災害リハビリテーション対応マニュアル」も参考にしてほしい。