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高い供託金、煩雑な手続き......“泡沫候補”、それでもなぜ出てくるの?

組織の後ろ盾もなく、選挙公約も見た目もぶっ飛んでいる”泡沫候補”。選挙取材歴20年以上の畠山理仁さんは「泡沫候補なんていない」と平等に紹介することを徹底します。この人たちは何で選挙に参戦するのでしょうか?

7月10日に投開票が行われる参議院議員選挙。

自分の選挙区でどんな候補者がいるかな〜と顔ぶれを見てみると、主張や見た目、選挙活動がぶっ飛んでいる人がいる!

そんな個性的過ぎる候補たちを、私たちは”泡沫候補”と呼び、大手メディアでは取り上げないことさえあります。

でも、選挙取材歴20年以上のベテランライター、畠山理仁さん(49)は「泡沫候補なんていない」と反論し、平等に紹介することを徹底してきました。

そんな候補者の取材記を『黙殺 報じられない”無頼系独立候補”たちの戦い』として本にもまとめている畠山さんに、この人たちはなぜ立候補し、闘いに挑むのかを聞いてみました。

「泡沫候補」なんて候補者はいない みんな意味がある

——選挙公約も選挙運動の方法も独特で、明らかに当選しそうもないなという候補者がどの選挙でも必ず出てきます。”泡沫候補”と呼んでいますが、畠山さんはいつも「泡沫候補なんていない」と主張していますね。なんでこうした候補者が毎回出てくるのでしょう?

ほとんどの人がそんな疑問を抱いていますよね。

自分の意見があって、被選挙権があって、訴える場が用意されているのに、その土俵に立たないということは、自分の声を小さくしてしまうことになります。

勝てないとしても、同じ土俵に立てるのが立候補のはずです。

でも、メディアはそんな候補者を取り上げません。供託金(参院選では選挙区300万円、比例区600万円)を同じように払ったのにおかしい、と彼らが思う気持ちはよくわかります。

当選しない人の掲げた政策はまったく意味がないかといえばそうではありません。例えば、公の選挙という場で訴えることで、今の世の中にはこういう問題がある、と表明できます。

負けたとしても、その主張をした候補者に票を入れた人が何千人も何万人もいるということが勝った候補者に伝わります。そうなると、落選した場合も、「この政策を取り入れてください」という主張に力が与えられます。

実際に落選した候補者の政策を、当選した人が実現することはよくあることです。

そういう意味で、どんな候補者の立候補にも意味がないわけではありません。

立候補しなければ当選はしない

——著書の『黙殺』では、何度落選しても、くじけずに再挑戦して自分の主張を世の中に訴えていく面白い候補者がたくさん出てきます。最新刊『コロナ時代の選挙漫遊記』でも、名古屋市長選に「どう考えても勝てないでしょう」と言いながら出馬した太田敏光氏のひたむきさに感動しました。

会うと全身黄色のファッションに身を包んだ面白いおじさんなんですが、でも選挙に堂々と出ることは大切なことですよね。

——選挙だけでなく、名古屋市議会にものすごい数の陳情を繰り返し、「市議会の傍聴席を増やせ」という陳情が実現したりもしています。

陳情をしても議会の直接の対応は「ききおく」だけで終わり、陳情した太田氏の手柄にはならないのです。それでも太田氏は私に「陳情をしておけば数年後に実現されることがある」と、議会に訴える意義を解説しています。

名古屋市長選も「勝てない」と言いながら、「本人としては何分の1か勝てるぞという希望があるからやっている。希望がない人生は面白くないでしょう」と言っていました。

意見がなければ伝わらないし、立候補しなければ当選もしない、ということを実践しているのが太田氏です。市民の声を届けるために大事なことを続けている人なんです。

高い供託金、煩雑な手続き......出なければ負けることすらできない

——供託金は立候補の乱立を避けるためと言われていますが、結構高いですよね。一定程度の票が取れなかったら没収されるリスクを冒してまで立候補するわけですね。

日本は世界一供託金が高い国です。供託金制度自体が存在しない国もたくさんあるし、供託金制度があっても、何百万円も取るような国はないですよ。

韓国が2番目ぐらいに高くて百数十万円です。政党公認の候補者は政党が出すこともありますが、独立系候補者は自分で出すし、借金して出す人もいます。

——熱意があるということですね。たまに「金持ちの道楽」のように見える人もいますが。

選挙に出るということはとても大変で、とても道楽では出られません。馬鹿にする人は一度、自分で立候補の手続きをしてみてくださいと言いたいです。無茶苦茶大変なんですよ。書類を集めたり、たくさん書類を書いたりしなければいけません。家族にも大反対されます。

「ふざけて出てるんだろ」という人には、「じゃああなたは出られるんですか?」と言いたいですね。実際に立候補しなくても、「もし、自分が立候補したら」と想像することは死ぬまでに一度はしてみてほしいと思います。

出馬しないと勝つことはできないし、負けることすらできない。逆に、出ないで馬鹿にするだけの人は、最初からその人に負けているということです。

——そこまでの熱意をかけて出馬する人に敬意を持っているわけですね。

大リスペクトですよ。参院選の被選挙権は30歳以上です。その中で何人に一人が被選挙権を行使するかと言えば、前回は25万人に一人しか選挙に出ていません。25万人に一人の人と自分の意見が合うかと言えば、マッチングアプリでもなかなか合わないレベルです。

それぐらいしか選択肢がない中で、貴重な選択肢になってくれた稀有な人なので、みなさんも敬意を払ってほしいと思います。

——若い候補がたくさん出たことで投票率が上がった事例も『コロナ時代の選挙漫遊記』で紹介していましたね。

千葉県知事選ですね。8人の候補のうち5人が30〜40代のアラフォー世代で、この世代に向けた政策も多く提示されていました。その結果、投票率が大幅に上がったのです。

投票に行かない大きな理由はいくつかあるのですが、「入れたい人がいない」が一つなんです。参議院だと25万人に一人、衆議院だと7万5000人に一人が立候補します。自分にマッチする人がいないから投票しない、という人がすごく多いのです。

多様な候補が出ることで選択肢が広がって、投票に行きたくなる効果も出てくるのです。

【畠山理仁(はたけやま・みちよし)】選挙取材20年以上のフリーライター

1973年、愛知県生まれ。早稲田大学第一文学部在学中より、取材・執筆活動を開始。日本のみならず、アメリカ、ロシア、台湾など世界中の選挙の現場を20年以上取材している。

『黙殺 報じられない”無頼系独立候補”たちの戦い』(集英社)で第15回開高健ノンフィクション賞を受賞。『記者会見ゲリラ戦記』(扶桑社)、『領土問題、私はこう考える!』(集英社)、『コロナ時代の選挙漫遊記』(同)

BuzzFeed NewsのLINE公式アカウントやInstagramに読者のみなさんから寄せられた「#選挙のなんでなん?」を、記者が取材しました。

7月10日に投開票日を迎える参議院議員選挙。

なんで選挙カーってあんなにうるさいの? ネット投票まだ? 投票方法から選挙の仕組み、選挙運動の謎までーー。