• hpvjp badge
  • factcheckjp badge
  • medicaljp badge

HPVワクチンと接種後に報告されている症状は関係ない 名古屋市7万人調査が論文として世界に発信

名古屋市の女子7万人を対象としてHPVワクチンの安全性を検証した「名古屋スタディ」。ワクチンと、接種後に現れたと報告されている24の症状との因果関係は示されなかった。

子宮頸がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を予防するHPVワクチン。2013年4月、小学校6年生から高校1年生までの女子を対象に公費で受けられる定期接種となったが、その約2ヶ月後、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、国は積極的に勧めるのをストップしている。

この問題を受けて、名古屋市が名古屋市立大学に委託してワクチンをうった女子とうたなかった女子で現れる症状を比較した調査の結果をまとめた論文が、HPV研究の専門誌「Papillomavirus Research」に採択された。

「月経不順」「関節や体が痛む」「身体がだるい」など、接種後に現れるとされている24の症状について起こりやすさを比較したところ、いずれも統計的に意味のある差は見られなかった。

解析した同大学大学院医学研究科公衆衛生学分野教授の鈴木貞夫さんは論文で、「HPVワクチンと有害な症状との因果関係がないことを示唆している」と結論づけている。

5年近くも事実上接種がストップしているHPVワクチンの安全性を証明する重要な根拠の一つとなり、ワクチンをうつのに迷いを感じている親子を安心させる材料となりそうだ。

日本初 ワクチンの安全性を確かめる大規模調査

「名古屋スタディ」と呼ばれるこの調査は、2015年1月、ワクチンの薬害を訴える「子宮頸がん予防ワクチン被害者連絡会愛知支部」が市に実態調査を要望したのを受けて、河村たかし市長が実施することを決めた。

日本で初めて、HPVワクチンと接種後に訴えられている体調不良との関連を調べる大規模な疫学調査で、ワクチンの安全性を検証する重要な研究として注目を集めていた。

調査は、2015年9月、名古屋市に住民票がある1994年4月2日生まれから、2001年4月1日生まれまでの女子7万1177人(当時14歳から21歳)を対象にアンケート形式で行われ、3万793人の回答があり(回答率43.4%)、有効回答2万9846人分を解析した。

ワクチン接種後の症状と訴えられている「月経不順」「関節やからだが痛む」「ひどく頭が痛い」「身体がだるい」「身体が自分の意思に反して動く」などの24症状を発症したことがあるかを主要な評価項目とし、この症状で医療機関を受診したことがあるか、今も症状が残っているかどうかなども併せて尋ねている。

結果は・・・24症状いずれも差はなし

まず全体で発症者が多い症状をみたところ、最も多かったのは「生理不順」で回答者の26.3%が訴えていた。「足が冷たい」(12.3%)がそれに続き、「ひどく頭が痛い」「身体がだるい」「すぐ疲れる」「めまいがする」「異常に長く寝てしまう」「皮膚が荒れてきた」が回答者の1割以上で見られた。

そして、ワクチンをうった女子とうっていない女子では年齢構成が異なり、年齢が高くなると、経験した症状は増えるため、年齢の影響を取り除いた結果が以下の表だ。

その結果、「ワクチンに関連する症状」としてメディアや「被害者支援団体」、一部の医師によって報告されている24症状のいずれも、接種者と非接種者との間で統計的に意味のある差はなかった(左列)。

ただ、この症状で病院受診をするリスクを見てみると、うった女子の方がうたない女子よりも、「月経不順」が1.29倍、「月経量の異常」が1.43倍、「ひどく頭が痛い」が1.19倍であった(中央列)。

また、現在も症状が残っているリスクについては、「月経量の異常」は1.41倍うった女子の方が高かった(右列)。

症状の有無で見ると、ワクチンとうった女子とうっていない女子では差がない。ところが、この症状で病院に行ったり、症状が長引いたりしているなど、条件を変えて見てみると、うった方がリスクが高く見える症状もある。

しかも、接種前からあった症状の影響を除くため、症状が出た時期を限定して解析してみると、受診についてのリスクだけが、さらに高くなった。

これについて、鈴木さんは、3つの可能性を検討した。

  1. うった方が症状が重かった。
  2. 副反応かもしれないという心配から受診した。
  3. このワクチンをうったというインパクトが強かったため、症状を頭の中で関連づけて、症状が接種後に起きたように思い込んだ。


1については、重い症状が増えるなら軽い症状も増えないと説明がつかないが、この調査ではそのような結果にはなっていないので、考えにくいと判断した。

よって、論文では、2、3の理由で、接種者は一部の症状のリスクが高まっているように見えると分析している。

「様々な条件で解析しましたが、受診したかどうかだけが違うパターンを示していました。これは、ワクチンの成分が症状に関連したと考えるよりも、接種した人が『自分の症状はワクチンのせいではないか』と不安になったことが受診に繋がったと考える方が自然です。全体で見ても、ワクチンにネガティブな意見が年を追うごとに増えたため、その心理的影響を受けたと思われるデータも見られました」

この結果が予防接種行政に与える影響は?

名古屋市はこの調査について、2015年12月に「ワクチン接種の有無で症状に差は見られなかった」とする速報を発表したが、最終報告では非接種者を1 とした場合、接種者はどれぐらい症状が起こっているのかを比較する数字(オッズ比)を削除して市のウェブサイトに掲載している。

鈴木さんが市に提出した最終報告書で、この論文と同様に、24症状全てで接種者に発症の多い症状は見られなかったことをオッズ比を含めて報告したにも関わらずだ。

名古屋市の健康医療課は、実態調査を要望した「子宮頸がん予防ワクチン被害者連絡会愛知支部」や、薬害を主張して集団訴訟の原告を支援している団体「薬害オンブズパースン会議」から、速報公表後に解析方法などについて抗議や意見書が届いたことを踏まえていたことを認めている。

その上で、「集団訴訟の被告となっている製薬会社が名古屋市の調査速報をワクチンとの因果関係を否定する証拠として訴訟に利用していることも知り、公正中立の立場から、市としては最終解析までは公表しないことを決めた」と説明している。

今回、調査結果が論文として公表された後も、市としての最終報告の内容を見直す予定はないという。

国が2013年6月以来、積極的に勧めるのをやめて4年8ヶ月。70%以上だった接種率は1%未満に減った。今回の調査が論文化されたことがどのように影響するだろうか。

鈴木さんは「これまでHPVワクチンの副反応と報告されてきた症状は、私たちの研究では接種とは関連がないという結果になりました。HPVワクチンに対する現在の国の姿勢をこれ以上放置するのはよくないと考えています。積極的勧奨の再開を検討するための材料としていただければと思います。少なくとも、こうした症状がうった人で増えることはありませんから、子宮頸がんにかかるリスクも考えて、接種するかどうかを決めてほしいです」と話している。