back to top

「欲しいのは敬意」 医学部教授秘書が告発する医療界の見下しの構図

医師からは触られ、医学生からも「教授の愛人なんでしょ?」と聞かれる。「私の仕事に価値を見出してもらえないのが辛いのです」

女性医師たちが、医療界のセクシュアルハラスメントを告発した「医師たちの #MeToo  医療の世界にも蔓延するセクハラ」。

この記事を読んだ西日本の大学の医学部教授秘書のマリさん(仮名、20代)が、「医師からだけではなく学生からもセクハラを受けたことがあります。医師免許を持っていないので見下されていると日々思います」と連絡をくれた。

2時間近く話を聞き、最後に彼女がポツリと述べたのが、「仕事に価値を見出してもらえないのが辛いのです」という言葉だ。

男性医師からだけでなく女性医師からも軽んじられ、職場で性的な視線を注がれるというマリさんの訴えに耳を傾けてみたい。

「欲しいのは敬意。敬意を払う相手にセクハラするはずがありません」と話すマリさん。
Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「欲しいのは敬意。敬意を払う相手にセクハラするはずがありません」と話すマリさん。

腰掛けのつもりの就職でセクハラの洗礼

大学の文系学部を卒業し、大学のあった都市での就職活動に失敗したマリさん。「ぶらぶらしているよりは就職してしまおう」と、実家のある西日本の街で改めて職探しをし、今いる大学医学部の教授秘書という仕事に就いた。


父親は医者で、事務職だった母と職場結婚をしました。私も、『医師と結婚しよう』と思い、最初は正直言って結婚狙いの就職でした。

教授はすぐにカッとなっては怒鳴るパワハラ気味の人ですが、それでもまだましな方で、女好きの部下の先生の方が、飲み会の席では隣に座り体を密着してくる人でした。職場で立ち話をしていると、いつもどんどん体を寄せてきて触ってくるのです。ある時、逆にぐいっと一歩前に踏み出して睨んだらようやく身を離してくれるようになりました。「可愛いね」と職場なのに見た目のことを言われるのも不快に感じていました。

学位審査の後や開業の時など教授室に挨拶に来る医師たちからは、周りに人がいない時に名刺を渡され、食事に誘われます。

ある医師からは何度も誘われたので、食事に出かけたことがあります。数回の食事の帰りに強引にキスをされて、真剣に付き合っても大丈夫な人なのか周りの医師に尋ねてみました。すると、既婚者だということがわかったのです。

次の約束が入っていたので、これが最後と思って会いに行ったら、「今度旅行に行こう」と誘われました。「でも結婚しているんでしょ?」と尋ねると、悪びれもせずに、「まあね。でもうちの妻は気にしないから」と返され、呆れました。帰り道に全ての連絡手段をブロックし、相手もそれ以上連絡を取ってくることはありませんでした。遊び慣れていたのでしょう。

学生たちからは下の名前でちゃん付けで呼ばれ、少し親しくなると、「誰の愛人なの?」「教授の愛人なんでしょ?」と言われます。ドラマなどの影響で「秘書は愛人」というイメージを抱いているのかもしれません。

それを言われるたびに不快になりながらも、「そんなことないよー」と笑って受け流していました。「学生にちょっかいをかけられたぐらいで」と狭量に見られるのが嫌でしたし、カッとなるとすぐ怒鳴り散らす教授なので、言いつけると大ごとになるかもしれないと思ったからです。

年齢も近いので学生たちからも食事に誘われたり、食事した帰りに性的に誘われたりしたことさえあります。学生同士で「あの秘書を落とそう」と競争しているという噂も聞いたことがありました。アカデミック・ハラスメント(大学内の嫌がらせ)の処分は厳しくなってきているので、どれだけ不快でもお客さん待遇で目をつぶろうと我慢していました。

周りを見渡してもひどいものです。ある既婚者の診療科の教授は研修医を妊娠させ中絶させたと医局の医師たちや他科の秘書、上司から聞きました。学内では公然の秘密です。入職した時に秘書仲間から「あの先生は女性スタッフだけでなく外来患者にまで手を出す人だから気をつけて」と注意されていた医師でした。

ちやほやされ、勘違いしてしまう土壌

前回の記事、「医師たちの #MeToo  医療の世界にも蔓延するセクハラ」でも医療界でのセクシュアルハラスメントを訴えた女性医師ミカさんは、以下のように語っていた。

「学歴社会のヒエラルキーのトップにいて、幼い頃から家庭でも学校でもチヤホヤされ、医師免許を取れば看護師や製薬会社の人に『先生、先生』ともてはやされる。医学生時代から男性医師との結婚を狙う外部の女子学生におだてられ、働き始めれば自分の指示で他の医療職を動かせる存在になります。周りもつけあがらせるし、増長する要素が揃っています」

マリさんも、セクハラをしても「相手は嫌がっていないだろう」と医師に思い込ませる土壌があると指摘する。


私も当初はそうだったので偉そうなことは言えませんが、食いっぱぐれない高収入の職種であることを狙って、結婚目当てで近づく女性は秘書でも看護師でもたくさんいます。

有名女子大や音大出身のお嬢さんが、腰掛け的に秘書になっているパターンは私の周囲でもよくあり、医師とLINEを交換しては、女性の方から飲みやデートに誘ったりしている姿を何度も見てきました。

医学生の頃から病院実習では「先生、先生」と呼ばれ、周りの人は自分の言うことを聞くと学生時代から勘違いしている人もいます。知人の女性は、医学生との合コンでいきなり「セフレにならない?」と持ちかけられ、とても怒っていました。そんなことを初対面で言っても許されてきたということなのでしょう。

学年が上がり、年を重ねていくうちに、秘書に対しても横柄な言葉遣いや態度に変わっていくのは面白いほどです。授業に出てこない学生の出席管理も秘書が行なっているのですが、先日は出席の取り方に、「なんでこんなやり方なわけ?」と上から目線で文句を言われました。

卒業して医師になったとたんに、新人であっても周りのスタッフに指示を出す職業です。よほど気をつけていないと増長してしまう。

それに、研修医の時には指導医やベテラン看護師から厳しい指導を受け、いったん人権を失うような扱いを受けていますから、それが終わった途端にちやほやされ出すと、そのギャップで自分が男性として魅力があるように錯覚してしまうのだと思います。

医師の世界は男性社会ですが、病院という組織は看護師など女性が半分以上です。そこで入れ食い状態を経験するのですから勘違いしてしまうのではないでしょうか。

ヒエラルキー社会 見下される構図

マリさんは父母の話や現在の職場から医師の世界を見ていて、医療界はヒエラルキー社会だとよく感じてきたという。

大学のランクや診療科、学年で上下関係が決まり、前回の記事でも触れたようにどの部活に入っていたかや、部活の先輩後輩関係が医師になって後も一生ついて回る。その人間関係の捉え方が、他の職種にも及んでいるとマリさんは感じている。


男性医師同士でもマウンティングは激しいです。競争社会で生きてきたせいか、人を見たら、自分より上か下かを即座に判断し、態度を決めていると感じます。

同窓会が頻繁に開かれ、先輩が後輩に学会の仕事や大学の仕事を押し付けるなど、上から下には何もしても許されるという文化が確立しています。

うちの医局に出入りしていた帝大系出身の教員は、学生を毎年8割程度しか進級させないことについて、「同じ人間だと思えないんだよね。それなりの対応をしてやらないと国家試験に合格できないからさ」と小馬鹿にした態度を取っていました。私からすると、「あなたこそが異星人です」と思いましたが。

ヒエラルキー社会の中で、医師は基本的に医師免許を持っていない人を下に見ているように感じます。看護師ら他の医療職さえ対等な仲間ではなく格下の存在。普段は人に公平に接していた父でさえも、看護学部の授業をする時に、「看護師がここまで知らなくていいか」とか「とりあえず看護師は変なことをしなけりゃいいんだ」と、明らかに下に見た発言を繰り返していました。

学部卒の看護師が大学院に来ると、医師から「生意気だ」と嫌われています。専門分野のガイドラインなどについて詳しく勉強している看護師が医師に指摘をすると、「現場のことを知らないくせに」「看護師が生意気に」などと否定されていました。

事務職はそのヒエラルキーの中でさらに見下され、その中でも秘書のような非正規職員は底辺の存在として見られています。ある医師に真面目な話をしたところ、「お前、賢かったんだな」と言われた時にはイラっとしました。

女性医師も、私たちが廊下などですれ違って挨拶しても返してくれる人は少数です。女性医師の中には、「馬鹿なくせに顔でちやほやされて」と秘書に敵意を見せる人までいます。

一つ一つの行為は小さなことですが、小さな傷がずっと積み重なっていくうちに、これは痛みじゃないんだと麻痺していくような感覚です。前回の記事を読んで、「ああ、これはやはり外から見るとおかしなことだったんだ」と気づきました。

仕事が評価されないという無力感

どの世界でも同じだが、花形職種の仕事は多くの裏方がいて回っている。医療の世界でもそうだ。しかし、医療界の事務職の仕事は労働環境からして正当に評価されていないとマリさんは訴える。そして、同じ職場の仲間から、対等に扱われていないとも感じている。


私は非正規雇用なので、朝9時から午後5時までフルタイムで働いても、手取りは13〜14万円です。実家から通わないと生活できず、自立できる給料ではありません。夏休みや冬休みもなく、ベテラン秘書は待遇に不満を抱いて辞めていきました。

最初に腰掛け気分で入った私も、医師の仕事を間近で見て刺激を受け、お金をもらっている以上は自分もできる限りのことをやろうとプロ意識を持って働くようになりました。教授や先生方の事務仕事を減らし、少しでも研究に専念できるようにと、物品管理や納品書の整理作業を効率化し、監査が入った時も問題にならないよう自分なりに考えて仕事の質を高めてきたつもりです。

それでも、医師たちから性的な対象として扱われ、学生たちからさえ「誰の愛人なの?」などと言われるのです。傷つきます。私の仕事に価値を見出してもらえず、敬意を払ってもらえない。代わりがきく人間だと誰もが思っています。ですから、相手の人格を認めないセクハラができるのだと思います。

もちろん、多くの医師は、仕事ぶりを間近で見て尊敬しています。「長時間のオペがやっと終わったよ」とぐったりして医局に帰ってきた医師が、「人が足りないから」とまたすぐに駆り出され、患者さんの命を救いに行く。すごいことだと思って、できる限り役立ちたいと思っています。でも、その思いが通じているかどうかは疑問です。

多くの医師は、自分の仕事だけが価値の高いものだと信じて疑っていないように感じます。でもその仕事は、あなたたちを支える数多くのスタッフによって成り立っているはずです。他の人の仕事に敬意を払うようになれば、職場のセクシュアルハラスメントはなくなるはずだと思います。

Naoko Iwanagaに連絡する メールアドレス:naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here.