流行が止まる気配を見せない風疹。国立感染症研究所によると、今年に入ってから4月14日までに報告された感染者数は、前週よりも64人増えて1276人となった。
そんな中、島根県益田市の山本浩章市長(49)を含む二人が風疹を発症したと5月1日島根県や益田市が発表した。

山本市長の2日付のFacebookによると、既に体温は平熱に戻ったが、4月21日以降に接触した人に感染させている可能性がある。発熱や発疹がある人は医療機関に連絡の上で受診することを勧め、行政の相談窓口(0856-31-0214)も設けている。
風疹が怖いのは、妊婦が妊娠初期に感染すると、目や耳や心臓に障害が残る「先天性風疹症候群」の赤ちゃんが生まれる可能性があることだ。
国は現在流行の中心となっているワクチン不徹底世代、1962(昭和37)年4月2日~1979(昭和54)年4月1日生まれの男性に3年間、無料で検査やワクチン接種を提供する追加対策を行っている。
そしてこの世代にあたる山本市長はワクチンを受けたことがなかった。
行政トップでさえ危機感が薄い現状に、患者団体は対策強化を呼びかけている。
26日から微熱、その後高熱、発疹で気づく
益田市立保健センターの斎藤輝実センター長によると、市長が体調の変化に気づいたのは4月26日のこと。微熱が下がらず、28日から熱が39度を超え、発疹も出た。
その日に休日診療を行っている当番医に受診したところ、風疹か麻疹(はしか)を疑われたが、検査ができなかったため、30日に紹介された診療所にかかり検査をした。5月1日に結果が出て、風疹と診断された。
市長は27日まで小学生の相撲大会での挨拶などの公務を行っていたが、28日以降の日程はキャンセル。発疹が出る1週間前から感染させる力があるため、21日以降に接触した人に注意を呼びかけ、市民に向けても警戒を呼びかけた。
一方、島根県は1日、29日に別の同市内に住む40代男性と市長の二人が同じ4月26日に風疹を発症したと発表している。
斎藤センター長によると、市長とこの男性に接触があったかはわからない。市長がどこで感染したかも不明で、感染の可能性のある期間、公務で市外や県外にも出かけていた。ワクチンをこれまでうったことはないという。
益田市では3年間で約4500人、初年度にあたる今年は約2000人に風疹の抗体検査や予防接種のクーポンを配る予定だが、今年は5月下旬までに送付するため、まだ対象者に届いていない。
「発熱や発疹、リンパ節の腫れなどの症状があったりしたら、まずは医療機関に電話して、その指示のもとで受診してほしい。クーポンが届いたら、積極的に検査も受けてほしい」と呼びかけている。

患者会「これをきっかけに検査やワクチンを受けて」
行政のトップも風疹にかかったーー。
このニュースを聞いて、愕然としたのは「風疹をなくそうの会『hand in hand』」のメンバーたちだ。
自身が妊娠中に風疹に感染したために、子どもに先天性風疹症候群をもたらしてしまった辛さを抱えて、ワクチンで感染を防ぐよう地道に啓発活動を重ねてきた。

自身が妊娠中に感染し、先天性風疹症候群の娘を18歳で亡くした「風疹をなくそうの会『hand in hand』」共同代表の可児佳代さんはこう気持ちを吐露した。
「他人事だったのだと思います。風疹も麻疹もどこか遠くで流行っているもので、まさか自分のところで、自分が罹患するとは思ってなかったのでしょう。大型連休明けが怖いと思っていたところにこのニュースで、 現実を見せられたと思いました」
その上でこう語る。
「罹患した市長を責めるつもりはありません。ひょっとしたら風疹のことも先天性風疹症候群の事もご存じなかったのかもしれません。 周りに風疹をうつしてないように、周りの職員や市長と関わった方に妊婦さんがいませんようにと願うばかりです」
「これをきっかけに、市長が指揮をとり、速やかに益田市としての風疹対策を打ち出してほしいです。風疹の心配はない市に生まれ変わってほしいのです」
同じく妊娠中に風疹にかかり、三女に軽度の難聴が残った大畑茂子さんもこう注文をつける。
「接触者全員をリスト化して妊婦さんの有無を調べ、その後の経過をきちんと追ってほしいです。ご自身も大変な思いをされたでしょうけれども、これを好転させて、『僕みたいになったらいけないから、 クーポンが届いたら調べてくださいね!』と率先して予防接種を進めてください」
そして二人は口を揃えた。
「これを他人事とせず、他の地域の人もクーポンが届いたら利用してください。どこでも起こり得ることなのですから」