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「同性パートナーが治療の説明から排除」「男女どちらの入院部屋?」 LGBTが直面する壁

10月13日(土)、14日(日)の2日間、「LGBT医療福祉フォーラム2018」が東京で開かれます。

手術や治療の説明から同性パートナーが排除される、戸籍上は男だけど見た目や身体を女性に変えたため男女どちらの部屋に入院させられるかわからないーー。

身体を他人に見られることが多く、病名や病状など大事な個人情報を扱う医療や介護、福祉の現場では、LGBTの人たちが施設側の理解不足などで様々な困難に直面している。

対応を不安に思って受診が遅れ、病気をこじらせてしまう人も多い。放置しておけない問題だ。

精神面で問題を抱える性的マイノリティの支援団体「カラフル@はーと」共同代表で、看護師でもある浅沼智也さん(29)にLGBTが医療や福祉で直面している壁についてお話を伺った。

トランスジェンダーの看護師が見てきた医療現場の問題

浅沼さんは、女性から男性のトランスジェンダーである看護師だ。

短期大学の看護専攻で学んでいた時からホルモン注射で身体の男性化を始め、戸籍上の性別を変えないまま就職活動をした。最初の病院は「戸籍と見た目が違うと対応がわからない」と告げられ落とされた。

結局、大学病院に就職して、周囲には隠して働いていたが、2年目にいつの間にか、トランスジェンダーであることが勝手に広められていた。

「男性の医師には、『あそこってどうなってるの?』と興味本位に聞かれ、患者さんにも『顔も中性的だと思っていたけれど、そうだったんだね』といきなり言われました。患者にまでバラされていたのです」

同僚に対してもそんな無神経な態度だから、LGBTの患者への対応も全く理解がなかった。

最初に配属された救急救命科では、男性が急病で意識のないまま運ばれてきて、明らかにパートナーと思われる男性が付き添っているのに、医師は離れて暮らす家族を別に呼んで、そちらに病状説明をし、治療の同意を求めた。

「男性のパートナーと言えば女性を想定しているので、目の前にパートナーがいるのに気づこうともしない。私は新人看護師でまだ新人教育を受けている時でしたから、上司に申し入れもできずに悔しい思いでいました」

戸籍と見た目が一致しないトランスジェンダーの人への入院対応も、戸籍上の性別重視で、本人が自認する性に合わせた部屋があてがわれなかったりもした。

自身も奇異の目で見られる日が続き、うつ病になって辞めた。

メンタルに問題を抱えたLGBTを支援する活動を開始

休職中に子宮と卵巣を摘出する性別適合手術を受け、戸籍も男性に変えた。

すると、自分の中で何かが吹っ切れ、トランスジェンダーであることを周囲にカミングアウトした。そして、同じような苦しみを抱えている人の支援をしたいと考えるようになった。

「LGBTの人が医療現場で大変なのはなかなか医療者側が変わらないからだと思いました。トランスジェンダーで医療者である自分から変えていきたいと考えたのです」

派遣の看護師や水商売のアルバイトをしながら体験をブログに書き、当事者から相談を受けることが増えた。LGBTが抱える困難の啓発活動をしている市民団体に加わり、2015年にはその仲間と精神障害や発達障害、依存症など精神の問題を抱えている性的マイノリティを支援する「カラフル@はーと」を設立した。

宝塚大学看護学部の日高庸晴教授らの調査では、ゲイ・バイセクシュアルの男性は65.9%が自殺を考えたことがあり、自殺しようとしたことがある人の割合も14.0%いた。

「性的マイノリティの多くは、学校や職場でのトラウマ経験が原因で精神に問題を抱えるようになります。幼い頃からホモネタでいじめを受け、幼稚園でも女の子遊びが好きな男の子は、他の子の親から『あの子変よ。気持ち悪い』と言われたりする。幼少期から自分らしくいられないストレスは、確実にその人の心を蝕んでいきます」

現在、毎月、LGBTX(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー、セクシュアリティを定めきれないXジェンダー)それぞれに分かれて、仲間同士で語り合うピアサポートを中心に活動をしている。

その一方、LGBTが心身に問題を抱えた時、医療にかかりやすくなる環境づくりも模索してきた。

医療現場で続いている様々な問題

浅沼さんは現在、回復期の病棟で働いているが、日々、LGBTの患者に関する様々な対応が求められる。

先日は、ホルモン療法のみ行なっているため見た目は女性で戸籍上は男性のトランスジェンダーが入院することになった。自分のセクシュアリティをオープンにしていないため、その人の入院部屋をどうしようかという議論になった。

結局、その患者と相談し、女性の四人部屋に入ってもらって、名札は隠し、他の女性には伝えないままでいる。

また、トランスジェンダーでホルモン剤などを服用している場合は、血液検査の数値にも影響する。これもきちんと把握していない医療者は多い。

「例えば、ホルモン剤を飲んでいると肝機能が上がるのですが、トランスジェンダーはどういう治療があって、副作用がどう出るかを把握している医療者は少ないです。輸入薬を個人輸入して使っている当事者もいますから、医療者はそういう可能性を考えて対応しなくてはいけません」

そもそも、LGBTとは何かさえ、知らない医療者は多い。治療や症状にも大きく影響するにも関わらずだ。

「ゲイやバイセクシュアルであれば、HIVの可能性も考えるべきですし、アナルセックスによるA型肝炎も流行っています。性感染症も、女性と男性では感染しやすい種類や症状の現れ方にも違いがあります」

トランスジェンダーで、ゲイでもある浅沼さんは、ヘルペスにかかった時、見た目は男性だが、婦人科を受診すると医師から奇異な目で見られた。淋病にかかった時、今度は泌尿器科に行って「男性とのセックスで感染した」と伝え、自身のセクシュアリティについて説明しても、医師は理解できないようだった。

「トランスジェンダーでもゲイの人はいるのに、異性愛だという思い込みがあるのです。性には多様なグラデーションがあることを、少なくとも性感染症に対応する医療者なら最低限はわかっておくべきだと思いました」

受け入れ側が変わらないと、受診さえできない

GID(性同一性障害)とトランスジェンダーの医療調査では、医療アクセスをためらう人が半数以上にのぼった。戸籍を変えていないと、「受診の時にフルネームで呼ばれると晒し者になっている気がする」という悩みの声も上がる。

「悪くなってどうしようもなくなってからようやく病院に行く人は多いのです。受診のハードルを下げるためには、院内マニュアルなどを作って、LGBTとは何か、何に困っているのかなど、医療者側が最低限知っておくべきことを共有することが必要なのだと思います」

つい最近も、病院側に言われるままに個室に入れられ、あとで差額ベッド代を請求されたというトランスジェンダーの声や、自殺未遂をした女性の入院先に面会にきた10年来のパートナーが、ずっとお友達扱いされたという声も聞いた。

浅沼さんも自身が働く病院で、LGBT対応の院内マニュアル案を作って上司に提案したが、「今は直面していないし、緊急性がないから」と言われて保留となっている。

「目に見えない偏見や差別はこちらがキャッチする体制でいないと解消することができません。医療者が意識を変えていかないと、患者の思いを取りこぼし、医療者と患者のパートナーシップは築けません。患者といい関係を築けないと、いい医療を提供することはできないはずなのです」

「LGBT医療福祉フォーラム2018」を東京で開催

こうした問題に対し、2013年と14年に大阪で2回、「セクシュアルマイノリティと医療・福祉・教育を考える全国大会」が開かれた。

大阪の大会にも関わっていたトランスジェンダーの遠藤まめたさんは「東京でもやりたい」とこの問題に取り組む浅沼さんら医療、福祉関係者らに呼びかけて、工夫や知恵を共有する「LGBT医療福祉フォーラム2018」(カラフル@はーとなど主催)を東京で開催する。

10月13日(土)、14日(日)の二日間、東京大学駒場第一キャンパスで開かれる。

メインシンポジウムの「LGBTのいのちと暮らしを守る」を初め、「LGBTと貧困」「LGBTと性暴力被害」「LGBTの子供若者支援」「地域支援者のための入門セミナー」「LGBTと介護」など10の分科会に分かれ、その道の専門家が、実践している工夫や課題を披露する。

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実行委員長の遠藤さんは、「治療方針の説明や決定にしても、親族でないとダメという厳密なルールがあるわけではないのに、医療者側が前例を踏襲して、患者本人の意思を聞くのに慣れていないだけ」と指摘した上で、こう訴える。

「医療や福祉は本人の意思を尊重するのが大原則のはずなのに、LGBTの場合、そもそも当事者が自分の希望を言い出せない状況があります。そんな時に、病院がLGBTに対してしっかり対応するポリシーをHPなどで掲げていたら、言いやすくなるかもしれません」

「気づいていないから自分の病院や施設では何も問題はないと思っているなら勘違いです。専門家たちの現場での工夫を聞いて、まずは問題に気づき、当事者の意思が尊重される医療や福祉の環境を作ってほしいと願います」

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