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人工呼吸器をつけた政治家が当選確実! 国会はどう変わる?

れいわ新選組の比例代表の特定枠に名を連ねていた舩後靖彦氏の当選が確実になりました。ALSで人工呼吸器をつけた初めての政治家誕生。国会はどのように対応するのでしょうか?

日本の政治史上、難病、ALS(筋萎縮性側索硬化症)で人工呼吸器をつけた政治家が初めて誕生することが確実となった。

NHKなどが報じた。

れいわ新選組の比例代表の「特定枠1」に名前を連ねていた舩後靖彦(ふなごやすひこ)氏。車いすに乗り、生活の全てに介助が必要な人が政治家になることで、国会はどう変わるのだろうか?

参議院事務局や支援者たちに話を伺った。

人工呼吸器と胃ろうをつけ、生活の全てに介助が必要

舩後さんは1999年夏、41歳の時に箸などがうまくつかめなくなる症状を発症し、翌年ALSという診断を受けた。ALSは全身の筋肉を動かす神経が侵され、意識ははっきりしたまま全身が動かなくなっていく難病だ。

2002年には気管切開をして人工呼吸器をつけ、胃ろうも造設した。声を発することができないため、現在は歯でかむセンサーでパソコンを操作しながら、意思疎通をはかっている。

車いすを使い、外出時には看護師かヘルパーらが同行している。

そんな身体状況で政治活動を行うために、何が必要なのだろうか?

国会の本会議場、委員会室 建物はバリアフリー?

車いすで移動している舩後さん。まず、国会の本会議場、委員会室、議員会館など、政治家の職場は車いす対応がなされているのだろうか?

答えてくれたのは、参議院広報課課長補佐の小野弘二さんだ。

「建物のバリアフリーについては、車いす対応は整備されています。議員会館から国会議事堂、委員会庁舎の行き来は、一部遠回りするところはありますが、通常の車いすでは問題なく通行できるようになっています。車いす対応のトイレもあります」

過去には参議院・衆議院で28年国会議員を務め、郵政大臣に就任したこともある八代英太氏も車いすで政治活動を行なっていた。

強度の弱視で参議院で初めて白杖を使いながら2期務めた堀利和氏もいる(衆議院では目が見えない高木正年氏が初)。

この車いすや白杖を使う場合、俗に「携杖許可」と呼ばれる許可を議長に得る必要がある。

「当選した議員には、様々な手続きを説明しますが、その中で『携杖許可』申請を出してもらう必要があることも伝えます。その後にご本人から申請いただいて、手続きすることになります」

ただ、垂直に座る通常の車いすをこれまでは想定しているが、舩後さんはリクライニング型の縦に長い車いすを使っており、本会議場の議員の席に入るサイズかどうかはわからない。

さらに、7、8段の小さな階段が国会内の様々な場所にあり、通常、車いすの人が通る場合は昇降機を使っているが、舩後さんの車いすには人工呼吸器やバッテリーなどが積まれており、重さがそれに耐えられるかはわからない。

本会議場の議員が座る席には電源もなく、人工呼吸器を使用する議員の場合、バッテリーだけしか使えないようにするのか、電源を確保する配慮をするのかも注目される。

「想定外でわからないことは、まずご本人の要望をお聞きし、議院運営委員会にはかった上で、議長の許可を得ながらそれなりの対応を図ることになると思います」と小野さんは言う。

ヘルパーは国会に付き添えるか?

ALSなど人工呼吸器をつけた重度障害者は、外出時には通常、たん吸引など身の回りの世話ができる1〜2人の看護師かヘルパーが付き添う。

本会議場や委員会には、原則、議員しか出席できないが、身体介助や移動、意思疎通の補助に必要なヘルパーは入ることができるのだろうか?

小野さんによると、過去には鳩山一郎氏が首相であった1955年に、病気で一人では歩行が不自由となり、秘書が本会議場に同行した先例がある。

鳩山内閣の外務相だった重光葵氏もやはり、爆弾テロで片足を失ったことから歩行が不自由で、秘書を同行させていたそうだ。

「もしヘルパーなどが本会議などに付き添うのであれば、国会記章がないと建物に入れませんので、まず秘書官などになる必要があると思います。同行にはこれも議長の許可を得る必要があるでしょう」

また、国会での表決には、「起立採決」「記名投票」「異議の有無」「押しボタン式投票」という4つの方法がある。

「起立採決」は文字通り起立して賛否の意思を示すものだが、舩後さんは立つことはできない。押しボタン式でもボタンを押すことはできず、これも付き添いの人が代わりにやるのか、どうやって意思を表明するかは先例がないため当選後に検討することになる。

「記名投票」については、登壇して票を投じる必要があるため、参議院の職員が代わりに出した先例も記録されている。

「これも議長の許可を得ることが必要ですが、問題なくできるでしょうね」

ヘルパーの費用負担は?

そしてヘルパーの付き添いにも当然、費用がかかる。

舩後さんのような人工呼吸器をつけている重度の障害者は、万が一人工呼吸器が外れるなどの事故があれば死につながるため、長時間の見守りができる「重度訪問介護」という制度が障害者総合支援法に基づき適用されている。

しかし、この重度訪問介護は、通常、通勤では使うことができないとされている。重度の障害を持って仕事をすることを想定していなかった時代の名残かもしれないが、今はパソコンや意思疎通のための機器や介助技術も進歩し、働けることもできるようになった。

さらに移動支援のための付き添いも、通勤や通学のために使うことを原則禁じている自治体がほとんどだ。

舩後さんは、最後の訴えで、「障害者は働くなと言うことでしょうか? この部分は絶対に変えなければいけません」と通勤のためのヘルパー派遣が認められていない現状を変えていく決意を語った。

舩後さんを選挙中にボランティアで支えた看護師、佐塚みさ子さんは、「自費で付き添いの人の人件費を負担するとなれば相当な金額になります。国会の中で職員を用意すると言っても、慣れや技術も必要なので簡単に対応できる人材が揃うとも思えません」と話す。

2016年に障害者差別解消法ができ、国や都道府県、市町村などの役所、企業は障害を理由とした差別をすることを禁じ、バリアを取り除くために「合理的配慮」をすることを求めている。ただし国会はこの法律の対象外だ。

国会活動をするために必要な付き添い人の確保や費用負担はどうするのだろうか。

「これも想定していない事態ですから、ご本人の要望に応じて検討することになるかと思います」と参議院の小野さんは言う。

国政に必要な移動交通費は支給される?

国会議員は国政調査権を遂行するために、JRの利用が無料になる「特殊乗車券」が支給される。選挙区選出の議員の場合は、地元と国会を行き来するために、航空券も無料になる。

車いすでももちろんJRに乗ることはできるが、健常者であれば歩ける移動距離を、車いすをリフトで持ち上げて乗ることができる、介護タクシーを乗って移動する必要があることも想定される。

舩後さんは選挙期間中、民間の介護タクシーや、訪問介護事業所の持つ介護タクシーを使って移動していたが、通常のタクシーよりも高いこの交通費は国会議員に対して想定されていない。

これについては、「現状では想定されていませんので、個人で負担していただくことになるかもしれません」と小野さんは言う。

「政治の場にいるだけで色々変わる」

いずれにしても様々な想定外の必要が起きることが予想される。

小野さんは言う。

「今、勉強をしていますけれども、どういうことが問題になりそうかはご本人の話を聞いてみないとわからないところがあります。要望に応じて、最大限議員活動できるように対応していきます」

舩後さんの選挙を応援し、ALSの人の生活支援を続けているNPO法人ALS/MNDサポートセンターさくら会副理事長の川口有美子さんは、「舩後さんが政治の場にいるだけで周りも変わらざるを得ないし、国会に色々と良い効果が生まれることを期待している」と話す。

これまで生活の場にいなかった重度障害者がすぐそばで活動することで、重度障害者のことを考えた法律や制度への配慮が国会議員たちに生まれてくるのではないかと言う。

「バリアフリーだけでなく、制度も変わるでしょうし、一緒に席を並べることになる国会議員の意識も変わるはずです。隣にいれば自然と手助けをする場面もあるでしょうし、人として自然と心が動かされていくるのを期待しています。インテグレーション(統合的)教育を自然と国会議員に行ってくれるのではないでしょうか?」

舩後さんの最後の訴えで応援演説に入った脊髄性筋萎縮症で車いすと人工呼吸器を使う自立生活センター東大和代表の海老原宏美さんは、こう期待をかける。

「私たちは命がけで自分たちの地域生活の権利や命の権利を勝ち取ってきた。生産性がないと言われているような私たちが安心して生きていける社会は、全ての人が安心して生きていける社会だと私たちが一番よく知っているからです」

「障害者は障害者のためだけに運動してきたわけではありません。全ての人が生きやすい社会をと思って運動を続けています。(中略)頭の凝り固まっている人たちがいる大人の価値観を揺さぶり、かき回し、変革していくためには舩後さんたちのような最重度を極めた重度障害者を国会の中に投入していくことが一番効果があるのではないかと思っています」

舩後さんの一見、何もできないように見える身体には、国会や国の政策に大きな変化をもたらす可能性が詰まっている。