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医療関係者が選ぶ今年のニュース 重度障害がある国会議員誕生、人生会議ポスター炎上...

BuzzFeed Japan Medicalの寄稿者が選ぶ、2019年もっとも心に残ったニュースは? あの国会議員誕生やあのポスターが選ばれています。

BuzzFeed Japan Medicalの寄稿者である医療者や患者団体代表、ライターのみなさんが選ぶ今年の医療ニュース、後編です。

みなさんは何が一番心に残りましたか?

【重度障害がある国会議員誕生】

岩崎航さん(詩人)

Naoko Iwanaga / BuzzFeed
時事通信

参院本会議に出席するれいわ新選組の木村英子氏(左端)と舩後靖彦氏(右から2人目)

既に、重度障害者が使う「重度訪問介護制度」が仕事中や就学中に利用できないことや、新幹線の車いすスペースが使いにくいことを国会で問題提起し、改善に繋げようとしている。

自身も重度障害者でこうした問題に直面してきた岩崎さんは二人の活躍を期待します。

「その後の二人の活動は、今まで門前払いにされてきた懸案も議論の俎上に載せて訴えることに成功していて、社会への問題提起になっている。今後もその活動を注目して、応援していきたい」

彼らが活躍することで一般の人にも障害を持つ人の課題が知られることを願うと言います。

「重度障害者がどのように生きているのか、暮らしているのかは、家族や友人、支援関係者以外の市民にはほとんど知られておらず、具体的に何に困っていて、どう大変なのかまでは知られていない。またどのように制度や仕組みを整備すれば解消されるのかも知られていない」

「通勤通学、就業就学時間中も切れ目なく本人の生活支援の一環として重度訪問介護を利用できるように運用を変えるという提案もその解消策の一つです。二人の国政での活動が窓になって、多くの人に知られていくのは、どんな立場の人にも生きやすい社会に変えていくことの一歩につながっていくと思います」

【災害医療】

坂本昌彦さん(小児科医)

坂本昌彦さん提供

小児科医の坂本昌彦さんは、「台風19号による大雨で長野県でも大きな被害があったニュース」を挙げました。

時事通信

家屋の被害が激しい千曲川の堤防決壊箇所付近=10月14日午後、長野市の穂保地区

「長野県は大規模自然災害が少なく、台風接近などのニュースにもどこか根拠のない安心感がありました。長野県に住む誰もが『まさか』と思った千曲川の決壊は、『安全バイアス』の怖さと、備えの大切さを教えてくれました」

災害が起きたとき 子どもがいる家庭はどのように被害を防いだらいいのか?

その前の9月9日には千葉県の広域に大規模停電をもたらした、台風15号の被害もありました。

台風15号による大停電 千葉の呼吸器の子はどう生き延びたのか?

時事通信

台風の影響による停電で夜になっても消えたままの信号機=9月11日午後

坂本さんは改めてこう振り返ります。

「今年は千葉の停電など、想定外の災害も多く経験しました。大規模災害に対して『子どもの代弁者であるべき』小児科医としてどう関わるか、自らの存在意義を改めて問い直した一年となりました」

【政策・その他】

人生会議ポスターの炎上

天野慎介さん(全国がん患者団体連合会理事長)

天野慎介さん提供

全国がん患者団体連合会理事長の天野慎介さんは、「『人生会議』の啓発ポスターが炎上した問題」を選びました。

厚労省

議論が巻き起こった「人生会議」の啓発ポスター

「人生会議」とは、患者さんが最後までどのように医療やケアを受けながら生きたいかを、家族や医療者と語り合う「ACP(アドバンス・ケア・プランニング)」を広めようとして厚生労働省が作った愛称です。

この「人生会議」を一般に広めようと、お笑いタレントの小籔千豊さんを起用して作ったポスターについて、がん患者団体の代表を中心に「誤解を招く」「配慮がない」と批判が相次ぎました。厚労省はいったん配布を取りやめる事態となりました。

「患者にも家族にも配慮がない」「誤解を招く」 厚労省の「人生会議」PRポスターに患者ら猛反発

のちに日本緩和医療学会と全がん連との連名での意見書を厚労省に出した天野さんはこう振り返ります。

「ポスターに対して、かねてよりACPや人生会議に取り組んできた、または関心のあったがんや緩和ケアなどに関わる医療者や患者団体の方々と、ポスターで初めてACPや人生会議を知った一般の方々とで、その捉え方に大きな差がありました」

「いわゆる医療の専門家や当事者と、そうでない(またはこれから当事者になる可能性のある)一般の方々とに認識の差があったというよりは、その前者の方々が医療者や当事者だけで考えてしまう可能性を示す事例であったとともに、その後者の方々に対してどのように医療に関わるメッセージや情報を伝え、考え、皆で話し合っていくかで、様々な示唆や教訓を示す事例であったと考えます」

医師の働き方は改革できる?

黒澤一さん(東北大学大学院医学系研究科産業医学分野教授・統括産業医)

黒澤一さん提供

産業医で呼吸器内科医でもある黒澤一さんが選んだのは、「医師の働き方改革に関する検討会で報告書が出たこと」です。黒澤さんはこの検討会の委員でもありました。

お医者さんが健康でないと私たちの健康は守れない 「医師の働き方改革」まとまる

医師の働き方改革を「絵に描いた餅」にしないために 医師100人に面接してきた産業医がこれだけは言っておきたいこと

医療にかかる私たちにも大きく影響するこの改革。2019年4月から5年の準備期間を経て、2024年4月から本格的に始まります。

医師の自己犠牲的な長時間労働を抑えるために、年間の残業時間は原則「960時間」に、地域の医療を守るための特例や集中して学ぶ必要がある研修医などは「1860時間」にする上限が課されます。医師の健康を守るための対策も義務付けられました。

これでも働く時間が多過ぎるという批判もありますが、黒澤さんはこう語ります。

「医療を考えるうえで、医師が働くのは当然のことですが、医師の労務管理という視点が今まで抜け落ちており、見過ごされてきました。今回の報告書は、その観点で後世の転換点となったのではないかと思います」

菊地盤さん(産婦人科医)

菊地盤さん提供

産婦人科医の菊地盤さんは、「無給医問題」を選びます。

「無給医問題」とは、大学病院などで診療しても給与が支払われない問題で、2018年10月にNHKが報じたことで大きな話題となりました。2019年6月には文部科学省が全国で無給医が2191人に上るという調査結果も公表しています。

長年大学病院で働いてきた菊地さんはこう語ります。

「順天堂大学もそれでかなりの改革を強いられましたが、結局のところ大きく変わったわけではなく、そもそも現在の医療収入ではたちゆかないという大きな問題が浮き彫りになったように感じました。解決策は見えておらず、医療崩壊の足音が聞こえてきたようにも思います」

上手な医療のかかり方を広める事業も始まる

医師の働き方改革と裏表となりますが、筆者(岩永)も議論に参加した厚生労働省の「上手な医療のかかり方を広めるための懇談会」で提案したことが、実行に移され始める年でした。

患者が質の高い医療を受け続けられ、医療側の負担も減らすために医療のかかり方を見直すキャンペーンです。

阿真京子さん(一般社団法人「知ろう小児医療 守ろう子ども達の会」代表)

阿真京子さん提供

懇談会の委員で、今年も一緒に推進委員として事業の実行に関わっている一般社団法人「知ろう小児医療 守ろう子ども達の会」代表の阿真京子さんは、

「なんといっても、上手な医療のかかり方の母子保健事業が、始まるよ!!!これに尽きます」

と回答してくださいました。新米の親御さん向けに、子どもの病気や不安になった時にどう対処したらいいかを伝える事業です。

子どもの不調が心配で夜間や休日診療に駆け込んだり、大病院にいきなりかかったりすると、かえって大変な思いをして、質の高い医療が受けられなくなる問題をなんとかしようと始めます。

これが結果的に医師や医療機関側の負担を減らすことにもつながることも期待されています。

懇談会から積極的に議論に参加されていたデーモン閣下も、「上手な医療のかかり方大使」に就任されました。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

上手な医療のかかり方を広めるためのキャンペーンが今年から始まりました。一番左が阿真さん。来年、さらに本格化します

白衣の悪魔「上手な医療のかかり方大使」に 「日本の医療現場の危機を、国民の多くが知らなければ」

人間の健康のために力を尽くす悪魔のメッセージ 「日本の医療は危機に瀕しているぞ」

「上手な医療のかかり方」を広め、いのちと医療をまもる

来年は本格的にキャンペーンが始まりますので、ぜひご覧になって、少しでも自身の問題として考えてもらえればと願っています。

子どもの自殺や貧困対策

渋井哲也さん(フリーライター)

渋井哲也さん提供

若者の生きづらさについて取材を続けてきたフリーライターの渋井哲也さんは、子どもに関する3つのニュースを選びました。

  • 自殺者数減少にもかかわらず、子どもの自殺は減らないこと
  • 児童虐待事件が相次ぐ中で、児童福祉法が改正され、親の体罰が禁止になったこと
  • 子どもの貧困対策大綱が閣議決定されたこと


【産婦人科領域】

出生数が90万人割れし急減、86万人に

宋美玄さん(産婦人科医)

宋美玄さん提供

産婦人科医の宋美玄さんは、「出生数初の90万人割れ」というニュースを選びました。

宋さんはこれまで政府の少子化対策関連の会議で産婦人科医として意見を述べることが多くありました。

そして、人口の多い団塊ジュニアが子どもを産める時期に、子育てに対する経済的な支援や保育の充実など、産みたい人は産めるようにする政策を打てていないことに度々疑問を投げかけてきました。

このニュースを選んだ理由を宋さんはこう語ります。

「日本が完全に縮小再生産に入ったことが明確になった重大ニュースであるため。遅きに失する前から危機意識はあったのですが、お金がかかる政策を打てなかった」

お産ができる施設も減少

堀向健太さん(小児科医、アレルギー専門医)

堀向健太さん提供

小児科医でアレルギー専門医でもあるほむほむ先生こと堀向健太さんが選んだのは、ご自身の専門領域ではなく、「産科の撤退や分娩休止の報道が相次いでいること」です。

みやぎ県南中核病院が来年10月分娩休止 病院と仙南9市町、県に休止回避要請

ささやま医療センターの分娩休止検討 子育て世代の7割「継続を」

2020年に3医療機関で分娩休止に 尼崎

お産を担う産婦人科は、24時間、医師が常駐していなくてはならず、夜間や休日の当直を担える産婦人科医の数が十分いなくては、一人一人の医師に過重な労働の負担がのしかかってきます。

どこの医療機関も、そこで限界を迎えお産から撤退しているのです。しかし、分娩の役割や医師を一つの医療機関に集約するなどの解決策については、「近くに産婦人科がなくなると不便になる」という一般の声が強く、解決に結びついていません。

「地域の方は継続を希望されるという話題がセットになっているものの、産科医の待遇改善への議論には繋がっていないことに難しさを感じます」

「産科医だけでなく、医師の時間外労働の上限を1860時間に設定したことも、その難しさを表しています」

医師の働き方改革で、残業時間が規制されれば、この状況はさらに厳しさを増すことが予測されます。

医師の残業規制でお産できる施設が半減? 日本産科婦人科学会試算

これからも地域で安全に、安心して子供を産み育てるには、医療を受ける私たちもこれまでの便利さなどを少し手放すことが必要になります。丁寧な議論のために、これからも課題を報じていこうと思います。

診療報酬への理解は広まるか? 「妊婦加算」「管理料」への反発

産婦人科医の「きゅーさん」こと遠藤周一郎さんは、「妊婦加算凍結・再開協議のニュース」を挙げてくださいました。

遠藤周一郎さん(産婦人科医)

遠藤周一郎さん提供

2018年末に凍結され、2019年に再開が協議されたのは、産婦人科以外の診療科が妊婦さんを診る場合、妊娠に対する薬や治療の影響をしっかり調べた上で、丁寧に診療したら上乗せされる診療報酬です。

これに対し、女性たちから「妊婦税だ」「少子化を加速させる」と批判の声があがり、結局、診療報酬に盛り込むことが見送られました。

産婦人科医には直接関係ない診療報酬ですが、「妊婦を丁寧に診ることを促すチャンスだったのに」と惜しむ声が多いのです。

妊婦加算が炎上した理由、凍結は正しい? 小泉進次郎さんと産婦人科医・宋美玄さんが対談

「妊婦加算」の炎上 産婦人科医としてこう考えた

遠藤さんは凍結や見送りまでの報道や議論のあり方に疑問を投げかけます。

「ニュースの詳細を知らない多数の人の意見を取り込み、凍結するまでは早く、再開については費用対効果がものすごく悪い条件をつけようとする姿勢に辟易した」

同様に、月経困難症や子宮内膜症の継続的な治療に「管理料」を新設するという報道に「女性への罰金か」「性差別だ」という反発も起きています。

「管理料」は女性への罰金じゃない 子宮内膜症、月経困難症などに診療報酬を新設

しかし、診療報酬をつけるということはむしろ、女性の病気を丁寧に診てもらえるチャンスが広がるということです。自己負担は確かに増えますが、医療保険からそれをはるかに上回る金を受診者のために支払うことを決めることでもあります。

医療費抑制が叫ばれる中、女性特有の病気の診療を公的に後押しすることを制度で裏付ける意味があるのに、当事者に理解されないのはもったいない。BuzzFeed Japan Medicalでは今後も診療報酬の議論を丁寧に伝えていきたいと思います。

緊急避妊薬の議論

薬局薬剤師の高橋秀和さんは「緊急避妊薬を含む、産婦人科領域の医療に対して多くの女性の不満・批判の声が大きなムーブメントとなり、フェミニズムの高まりとともに海外メディア等でも取り上げられたこと」を選びました。

高橋秀和さん提供

望まぬ性行為や避妊の失敗の際に使われる緊急避妊薬は、「転売の懸念がある」「適切な性教育の機会を失う」などとして、日本医師会や産婦人科関連団体の根強い反対があり、2018年の議論で市販薬化が見送られました。

しかし、女性の不満の声は大きく、2019年も議論が続きました。オンライン処方の制限にも現場の産婦人科医から疑問の声が上がっています。

緊急避妊薬(アフターピル)市販薬化の是非 日本での薬剤師の立ち位置は?

緊急避妊薬(アフターピル)市販薬化の是非 市民的な議論は熟しているか?

アフターピル(緊急避妊薬)のオンライン処方 産婦人科医の6割超が「望ましい」

アフターピル、オンライン処方だけで終わらせないで 産婦人科医やNPO代表が市販化を陳情

【医療者による発信】

前編でもご登場いただいた小児科医の森戸やすみさんは、もう一つ、「Twitterで発信する医者が増えた」ことも今年のニュースとして挙げています。

森戸やすみさん(小児科医)

森戸やすみさん提供

確かに医療者のSNSでの発信は増え、発信する医療者による対面でのイベントも数多く開かれるようになりました。

医師であることを名乗ってブログとTwitterを始めたのは2009年からという、早期からの発信者である森戸さんは、こうした医療者による発信が増えたことには功罪両方があると指摘します。

「私が始めた頃は、SNS人口が少なかったこともあり、医者も少なかった。ニセ医者もいた。今は、いい加減な医療情報が明るみになった際、そういった医師たちによる否定が早いのがいい点です」

「悪い点は、患者さんのプライバシーを書いたり、人間性を疑うようなことを書いたりすることによって、医師への信頼が揺らぐ点があります」

一方で堀向健太さんは、「医療情報に『出典付き』のものが増えてきていると感じます。今後、ここに医療が改善されていく方向性があるのではと思います。いわゆる『出典のない医療情報』が淘汰されていくことを望みます」と医療発信の質の向上で医療が改善する可能性も指摘しました。

今年も色々ありましたが、様々なニュースから学んだことをより良い医療につなげることを目指して、BuzzFeed Japan Medicalも頑張ります。来年もどうぞよろしくお願いします。

UPDATE

堀向健太さんの回答を追加しました。

UPDATE

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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