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「みんながうてば子宮頸がんは撲滅できるはず」 HPVワクチン、確かにうった直後は痛いけれど...

一度はHPVワクチンをうつのを見送ったけれども、彼氏との初体験の前に接種した大学生。どんな注射だったのでしょうか? 国の政策で接種が遅れたことについて「政府は何を守ろうとしているのか?」と疑問を投げかけます。

若い女性もなる子宮頸がん(※)を防ぐHPVワクチン。

小6から高1の女子が無料でうてるようになった2013年当時、「うった後に具合が悪くなる」という女の子がたくさん報じられ、8年半もほとんどうたれない状態が続きました。

その後、とても安全なワクチンだということが証明され、日本も再び「積極的におすすめします」とお知らせを送るようになりました。

一度はうつのをやめていたけれど、後からうった先輩たちに体験を聞くこのシリーズ。津田塾大学総合政策学部4年、江連千佳さん(22)に聞きました。

テレビ報道で見送ったHPVワクチン

江連さんは2000年生まれで、HPVワクチンが無料でうてる「定期接種」というものになった2013年4月、中学1年生でした。

注射は嫌だなと思いながらもうつことを決めていました。しかし、ちょうどその頃、注射の後に痛みやけいれんなど様々な症状を訴える女の子のことを「ワクチンのせいだ」とする報道が続きました。

「テレビで何回も女の子が苦しむ映像を見て、母が『今回は見送ろうか』と言ってやめました。その時は、痛い注射を避けられて良かった、ラッキーと思っていました」

NZ留学や産婦人科医の性教育で変わる

気持ちが変わったのは、短期留学したニュージーランドの高校で性教育の授業を受けたからです。ウイルスが原因で子宮頸がんになること、それを防ぐワクチンがあるという説明に驚きました。

それでも自分のこととしては受け止めてはいなかったのですが、帰国後に産婦人科医を高校に招いた性教育の授業で、改めて子宮頸がんやHPVワクチンについて話を聞きました。

「そのころもまだ副反応の可能性が言われていたので、『お医者さんが勧めるんだ』と驚きました。自分の将来に関わる話なのだとやっと考えることができ、がんを防げるなら受けてみるのもアリだなと思いました」

その先生が「産婦人科にもっと気軽に来ていいんだよ。お喋りしにくるだけでもいいよ」と言ってくれたのも印象的でした。産婦人科は赤ちゃんを産む時に行くところで、高校生が行っていいところだと思っていなかったからです。

江連さんは生理痛がずっと重く、高校3年生の夏には失神するほど大変な苦痛になっていました。母親に痛み止めは高校になるまで飲ませてもらえず、ずっと我慢し続けていたのです。

「初体験の前にうちたい」 対立せずに母にも理解してもらう

近所に婦人科のクリニックが開業したのをきっかけに、「病気かもしれないから」と母親を説得して、通い始めました。定期的に通う産婦人科ができたことで自分の普段の体調のことや、薬のことも医師に相談しやすくなりました。

高校3年生になって性的な触れ合いも考えるようになり、「HPVワクチンを受けたほうがいいですか?」とも聞いてみました。

先生は「うった方がいいですよ」と勧めてくれました。ただ、その時、江連さんは自律神経が不安定で、だるくて学校にもなかなか行けない状態でした。今思えば受験のプレッシャーが影響していたのだと思います。

「今じゃない方がいいかもね」と先生に言われ、時期を見ることにしました。

「割とこの年頃で体のバランスを崩す子が周りに何人もいました。中高生や大学生の女の子だと、特に多いのではないかと思います」

大学進学後、彼氏もできて、初体験をする前にうちたいと思いました。

その頃には母もHPVワクチンについて情報を得て肯定的になっていました。高校1年生で無料接種の最後のチャンスだった妹についてうつかどうか検討したようです。妹はぎりぎりのタイミングでHPVワクチンをうち、体調不良を起こすことはありませんでした。

「私が『HPVワクチンはうった方がいいらしい』という話を家でよくしていたので、母も自分で調べて確かにうった方がいいという気持ちに変わったようです」

母親も生理が重く、生理痛も強い人でした。毎回、生理のたびに2日間ぐらい寝込み、夜用ナプキンも2時間もたないぐらいの量で、貧血にもなっていました。

「母の世代は『生理の苦痛は我慢するものだ』と教育されて我慢してきたのだと思います。私がミレーナ(子宮内に入れて黄体ホルモンを子宮の中に持続的に放出する用具)というものがあるみたいよと紹介すると、婦人科につけにいって楽になりました。『もっと早く知りたかった』と言っています」

HPVワクチンは、本人がうちたいと考えても「健康被害」報道の記憶が残る親世代が反対することも多いと聞きます。

これについて、江連さんは「親を説得する言い方だと、『親には親の考えがある』と反発されるかもしれません」と言います。

「私は『HPVワクチンをうちたい』と主張するのではなく、『うった方がいいのかなあ』と問いかける形で母に話していたので、母も自分で調べて考えてくれたのだと思います。『学校でこういうの習ったんだよね』と資料をそっと置いておいたのもよかったかもしれません」

「ワクチンをうち終わるまではしません!」初体験拒否

大学に入ってすぐ新しい彼氏ができましたが、互いに海外に行ったり江連さんが足の手術を受けたりして忙しく、性的にはなかなか進展はありませんでした。

しかし、体調も安定してきた1年生の冬、「2年生の夏休みには一緒に旅行に行きたいね」と話し合うようになっていました。

彼は、性的に求めてきたこともありましたが、「ワクチンをうつまではダメ」ときっちり拒否をしていました。

「手術で子供も諦めなければいけなくなった患者さんの話も聞いていましたし、漫画『コウノドリ』で子宮頸がんのエピソードも読んでいて、これはガチで大変な病気だと思っていました」

「子供を産みたいとは思っていないものの、がんになるのは嫌です。防げるものなら防ぎたいし、1回の行為が自分をがんにさせるかもしれないと思うと、無防備で性交渉をするのは怖過ぎます」

「治ることがわかっている膝の手術で入院するだけでも辛かったのに、子宮頸がんになって手術を受けるなんて、治ると保証されているわけでもないから絶対しんどいだろうと思いました」

交際についてオープンに話していた親からも、「ワクチンをうち終わるまでは彼氏と旅行とかはダメ」と言われていました。夏休みの旅行に間に合うように、1年生の冬からうつことを決めました。

3回目では強い痛み 4〜5日で収まる

江連さんがうったのは、ウイルスの型の中でも特に子宮頸がんになりやすい16型、18型と、性器にできる良性のイボの原因となる6型、11型への感染を防ぐ「4価ワクチン」です。3回で5万円の費用は親が支払ってくれました。

かかりつけの産婦人科のクリニックに行き、まずはパンフレットをもらって、一通り説明をされて、その日はそれだけで帰りました。

その翌週、再びクリニックに行って1回目をうちました。かなりドキドキしました。

「『腕とお尻どちらがいいですか?』と言われて、1回目は腕にうちました。液体が入ってくる時がものすごく痛かったです。コロナのワクチンはうった後がとても痛いですが、あの痛みが注入している間続く感じです」

ただ、うち終えると痛みは消え、その後はなんともありません。うった部分に少し鈍痛があるぐらいで、コロナワクチンほどの痛みは続きませんでした。

その2ヶ月後の2回目は、お尻にうってみました。

「結局、お尻も痛くて、腕と変わりませんでした。座る時に痛むので腕の方がいいなと思いました」

海外では2回接種の国も増えていることを知っていたので、2回で効果は発揮されるだろうと考えて、彼氏との初体験は2回目の接種後に解禁しました。

一番、きつかったのは3回目です。

「接種後3〜4日は痛過ぎて腕が上がりませんでした。痛過ぎて気持ち悪くなりましたし、寝られなかったです。コロナワクチンの後の感じです。でもその痛みも4〜5日経つと収まりました」

「数日経てば収まると事前に先生から説明を受けていたので落ち着いて様子を見ていました。1週間以上続くなら病院に行こうと思っていたのですが、行かずにすみました」

私はうって安心したけれど 納得してからうって

うった後は安心感が違います。

「子宮頸がん検診の時も、『自分はHPVワクチンをうっているし』という安心感があるのでドキドキしません。一応、検診は受けますが、がんになることを恐れなくても済むようになっています」

その後、江連さんの住む自治体は、定期接種の時にうちそびれて自費で接種した人に、かかった費用を返還する「償還払い」をすることを決めました。5万円の自己負担額の返還を先月、申請したばかりです。

今、江連さんは後から続く女性にこう伝えたいと言います。

「注射は確かに痛いけれど、がんになる痛みよりはずっといいんじゃないかなと思います」

逆に、このワクチンに強い不安を抱いている女子に対しては、無理に勧めない方がいいのではないかとも感じています。

「そういう子は逆にうった方が心に悪そうだから無理することはないと思います。自分が納得したタイミングでうてばいい。ただ、情報を調べないでただ怖がっているなら、まずは情報を調べたほうがいいです」

政府は何を大事にして、何を守ろうとしているのか?

江連さんは、自分と同じように一度はうつことを見送り、後からうったほうがいいと気づいた人が費用で接種をためらうことのないよう、無料接種の再チャンスを与える「キャッチアップ制度」を国に求める活動を続けてきました。

その活動は実を結び、2022年4月から25年3月まで、誕生日が1997年4月2日~2006年4月1日の9学年の女子は無料で受けられるようになりました。

「実現した時はめちゃくちゃ嬉しかったです。まさか国に聞いてもらえて政策が動くとは思いませんでした」

同じように健康被害が出たとする報道によって海外でも接種率が激減することはありました。しかし海外の国では、政府が推奨の姿勢を崩さず国を挙げたキャンペーンを続け、接種率はすぐに回復しています。

江連さんは日本の政府のあり方についてはこんな風に思っています。

「政府が何を守ろうとしているのかがわかりません。HPVワクチンに限らず、日本は女性の健康に関する選択肢が少なく、動きが遅い国です。中絶薬がなかなか導入されないのも、緊急避妊薬のアクセスが悪いこともそうです」

「HPVワクチンの対応が遅れたことで、何人の命が失われるのでしょうか。メディアにどう言われるかを気にして、政府が何を大事にしたいのかがわからない」

その中で、当事者が切実な声を上げて、国を動かした経験は大きかったと思っています。

「男子接種も無料化が実現してほしいです。男の子も中咽頭がんなど自分がかかるがんを防げます。そして、みんながうてば子宮頸がんはきっと撲滅できるはずです」

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