ALS(筋萎縮性側索硬化症)の女性患者に、医師二人が薬を投与して殺害したとされる事件。
この事件について、作家で元東京都知事の石原慎太郎氏が、前世の悪行の報いでかかる難病を意味する「業病(ごうびょう)」という言葉を使ってALSを表現し、医師を罪に問うことを批判するツイートをしていることがわかった。
ツイートの中で石原氏は、薬を使って死なせたことを「武士道の切腹の際の苦しみを救うための介錯の美徳」と表現し、肯定し、立件した検察を批判している。
この発言に難病当事者や支援者は「呆れて言葉も出ない」「時代錯誤と的外れもここまでくると眩暈がする」と強く批判している。
突然のツイート「武士道の切腹の際の苦しみを救うための介錯」
問題のツイートは7月27日午後1時14分に発せられたもので、これまでこの事件について全く発言していなかった石原氏が突如、コメントした。
業病のALSに侵され自殺のための身動きも出来ぬ女性が尊厳死を願って相談した二人の医師が薬を与え手助けした事で「殺害」容疑で起訴された。武士道の切腹の際の苦しみを救うための介錯の美徳も知らぬ検察の愚かしさに腹が立つ。裁判の折り私は是非とも医師たちの弁護人として法廷に立ちたい。(石原氏のツイートより)
「業病」に対する辞書の記述はこうだ。
- 大辞泉:前世の悪業の報いでかかるとされた、治りにくい病気。難病。
- 三省堂国語辞典:(悪いことをしたためにかかると考えられた)なおりにくい病気
ALSを「業病」とまるで、本人が犯した罪の報いのように表現した上で、「自殺のための身動きも出来ぬ女性が尊厳死を願って相談した二人の医師が薬を与え手助けした」と今回の行為を表現した。
その上で、「武士道の切腹の際の苦しみを救うための介錯の美徳」とこの行為を肯定し、「検察の愚かしさに腹が立つ」と嘱託殺人容疑で捜査している司法を批判した。
難病支援者、難病当事者「呆れる」「恥ずかしい」
ALSとなった母の介護経験があり、患者の生活支援に取り組むNPO法人「ALS/MNDサポートセンターさくら会」副理事長・川口有美子さんは、「差別発言の伝道師のような人で今回の発言も驚きはない。呆れて言葉も出ない」と話す。
石原氏が都知事の時、ALSとなった学習院大学名誉教授の篠沢秀夫さんと共に、東京都の難病相談員を増やしてほしいと陳情に行ったことがある。
「その時、篠沢教授を指差しながら、そばにいた医系技官に『この人あと何年生きるの?』と言い放った人です。本人が聞いているところでそんな言葉が言える神経の人ですよ」
「業病」「武士道の切腹の際の苦しみを救うための介錯」という言葉にも、長年、患者が生きるための支援をしてきた立場からすると言葉を失う。
「病に対する偏見を助長しますし、患者本人もそんな目で見られるならば死んだほうがましという考えを強めてしまう。患者に対する誤った同情だと思います。また、殺すのではなく、病とどうやって生きていくかを伝える役割がある医師の仕事を誤解しています。差別発言もいい加減にしろと言いたい」と憤る。
筋ジストロフィーがあり、人工呼吸器と胃ろうをつけて生活の全てに介助を必要とする詩人の岩崎航さんは以下のコメントを寄せた。
これまでも人権感覚について疑問を持たざるを得ない言動をされてきた方ですが、この事件に寄せて、武士道、切腹、介錯の美徳、と言葉を連ねる。時代錯誤と的外れもここまでくると眩暈がします。所感を持たれるのは自由ですが、こうした発言をする人が、かつて国会議員も都知事も務めた政治家、そして作家と呼ばれているのが恥ずかしい。
繰り返す暴言「あの人たちに人格ってあるのかね」「(同性愛者は)やっぱりどこか足りない」
石原氏はこれまで障害者ら社会的に弱い立場の人に対する暴言を繰り返してきたことでも有名だ。
1999年9月、当時、都知事1期目だった石原氏は、重度障害者施設を視察後、「ああいう人(入所者)ってのは人格あるのかね」と発言している。
2000年には陸上自衛隊の式典で「三国人、外国人が凶悪な犯罪を繰り返している」と発言した。
2001年11月の雑誌『女性自身』のインタビューでは、学者の言葉を引用する形で、「文明がもたらしたもっとも悪しき有害なものはババァなんだそうだ。女性が生殖能力を失っても生きているってのは無駄で罪ですって」と語って批判を受けた。
2010年12月7日には、同性愛者について「どこかやっぱり足りない感じがする。遺伝とかのせいでしょう。マイノリティーで気の毒ですよ」と発言。過去に米・サンフランシスコを視察した際の記憶として、「ゲイのパレードを見ましたけど、見てて本当に気の毒だと思った。男のペア、女のペアあるけど、どこかやっぱり足りない感じがする」とも語った。