• medicaljp badge
Updated on 2020年6月29日. Posted on 2020年6月26日

誤訳? 意図的? 厚労省はなぜ「国際薬物乱用・不正取引防止デー」を「国際麻薬乱用撲滅デー」にするのか

6月26日は国連薬物・犯罪事務所の定める「国際薬物乱用・不正取引防止デー」。日本でもこの日に合わせて啓発活動が行われていますが、国際デーの翻訳がおかしく、依存症支援団体が問題視しています。

6月26日は、国連薬物・犯罪事務所(United Nations Office on Drugs and Crime)が定める「国際薬物乱用・不正取引防止デー(The International Day Against Drug Abuse and Illicit Trafficking)」。

日本でもこれに賛同して厚生労働省がキャンペーンを繰り広げているが、依存症の支援団体が、この国際デーの翻訳が誤訳だと問題視している。

厚労省が掲げるのは「6・26 国際麻薬乱用撲滅デー」。

市販薬の乱用もあるのに「麻薬」として、「不正取引防止」に一切触れていない名前になっているのだ。

厚生労働省

厚生労働省の啓発用ポスター。右下に国連のマークを使って「6・26 国際麻薬乱用撲滅デー」とうたっている

依存症に困る人の支援や啓発活動を行なっている公益社団法人「ギャンブル依存症問題を考える会」代表の田中紀子さんは、ブログ「厚労省カンマ課は英語が読めないのか?」で問題を指摘し、「毎年国連が国際協力を呼び掛けている発信とは全く違う方向にこのキャンペーンを行っているのは問題だ」と訴えている。

昨年も訂正を求めるも

田中さんらが問題としているのは以下の3点だ。

  1. 薬物問題は麻薬だけではなく、市販薬の乱用も問題であるのに「麻薬」と訳していること
  2. 「不正取引防止」が名前から抜け落ちていること
  3. 「ダメ。ゼッタイ。」という標語を使い続けていること


United Nations / Via un.org

国連の「国際薬物乱用・不正取引防止デー」のページ

田中さんは、日本ではむしろ薬局などで買える市販薬の乱用の方が圧倒的に多いのに、なぜ「麻薬」と違法薬物だけを強調するのか問題視している。

また、海外ではむしろ末端の使用者の少量の自己使用は非犯罪化して、健康被害を減らす対策に力を入れ、薬物を売買する組織の摘発が重視されている。

一方、日本のキャンペーンでは個人の使用摘発や防止啓発に力を入れていることを指摘。

「不正取引に目を光らせるべきなのに、キャンペーンの名前からも抜け落ちている」と批判した。

さらに、元々国連が提唱したのは「Yes To Life, No To Drugs(人生にイエスと言い、薬物にはノーと言おう」だったにも関わらず、厚労省は前半をカットし、後半部分を抜き出して使用者の糾弾を強調しているとして、こう述べている。

「今年の国連のキャンペーンのテーマは『Better Knowledge for Better Care』です。直訳すると「より良いケアのためのより良い知識」。つまり『みなさん、知識を深めて、困っている人に正しいケアを提供しましょう』と呼びかけています」

「大切なのは『ダメ』ではなく『ケア』なんです」

田中さんは、昨年も、翻訳を国連の正式名称に合わせるよう申し入れを行なったが、今年も変更はされなかった。

厚労省の見解「定着しており、変えるつもりなし」

こうした指摘に対し、このキャンペーンを担当する厚労省監視指導・麻薬対策課はどう答えるのか。

同課では、毎年6月26日に合わせて、上記の「6・26 国際麻薬乱用撲滅デー」を掲げ、6月20日から7月19日まで各都道府県などと協働して「ダメ。ゼッタイ。」普及運動を行っている。

同課長補佐は、「英語の名前をそのまま訳しているわけではなく、国連の宣言を踏まえて、厚労省独自のキャンペーンとしてやっている。正確に訳すべきではないかという声があるのは承知しているが、長年定着している文言であり、変える予定はない」とする。

「麻薬」と訳していることについては「市販薬も含めて薬物の適切でない使用を防止する啓発をしており、掲げている言葉に限定されるものではない」と回答した。

さらに「不正取引防止」が抜け落ちていることについては、「各論ではなく、薬物の不適切な使用が危険だということを広く一般に知ってもらうことを目的にしている。不正取引を問題としていないわけではない」とした

厚労省が薬物使用の問題を強調したキャンペーンが、薬物使用をスティグマ(負の烙印)化し、薬物からの回復支援を妨げているのではないかという指摘については、「そんなことはどこで言われているのか? 差別があるのか?」と質問で返し、問題を認識していないことを明らかにした。

一方、厚労省がこのキャンペーンを広げるために出した報道発表資料には、以下のような説明書きがあった。

国連が 1987 年にウィーンで開催した「国際麻薬閣僚会議」の終了日である6月 26 日を、
「国際麻薬乱用撲滅デー」とすることが決定。国連加盟各国では、麻薬撲滅に向けた様々な
取り組みを行っています。

この資料でも「The International Day Against Drug Abuse and Illicit Trafficking」の翻訳として「国際麻薬乱用撲滅デー」という不正確な訳を使っていた。

田中さんコメント「排除の理論ではなく、ケアや治療を」

田中さんはこうしたキャンペーンについて、以下のコメントをBuzzFeed Japan Medicalに寄せた。

「ダメ。ゼッタイ。」のスローガンは、一般市民に「ダメと言われているものに手を出す人間が悪い。そんな奴はどうなってもよい」という差別と排除を生みだしてきました。


実際、SNSなどでも回復努力をしている人にさえ「一度でもやったやつは人ではない」「どうせまたやる」「一生刑務所に閉じ込めておけ」「死ね」といった心ない言葉が寄せられています。


こうした排除の理論は、薬物問題に苦しむ方々とその家族を孤立させ、事態を深刻化させてきました。


薬物問題を抱えた人は「ダメ人間」と烙印が押され、ひどい時には「そんな人間を育てた親もダメ人間」と烙印が押され、親御さんが職場を追われたケースもあります。


このような「排除や辱めによる政策」は、世界各国で1970年代から始まりましたが、いずれも失敗に終わり、2011年には薬物政策国際委員会が敗北宣言を出しました。


そして薬物問題を抱えた個人には福祉的ケアや治療の提供が促されるようになりました。今では「誰も置き去りにすることのない政策」が提唱されています。


しかし、日本はこの敗北宣言から方向転換ができていません。その間、多くの薬物問題を抱えた人たちが回復の道を閉ざされてきました。


「ダメ・ゼッタイ」は、「それでも手を出してしまった人をどう助けだすか?」という思考と行動を奪います。


来年で敗北宣言から10年を迎えます。この節目に日本の政策の速やかな転換と、国際社会と歩調をあわせグローバルな協力体制が展開されることを望みます。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here