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HPVワクチン接種率が激減した2000年度生まれは検診の異常率が再上昇 阪大研究グループが報告

国が積極的勧奨を差し控えた結果、接種率が激減したHPVワクチン。激減世代の最年長である2000年度生まれの女子で、細胞診の異常率がワクチン導入前レベルまで再上昇していることがわかりました。 現実に健康被害が出始めています。

子宮頸がんなどを予防するHPVワクチン。

無料でうてる定期接種でありながら、副反応への不安が広がり、積極的勧奨が差し控えられて対象者にお知らせが送られなくなった結果、接種率は激減した。

その激減世代の最年長に当たる2000年度生まれで、99年度以前生まれに比べて20歳の時の子宮頸がん検診の異常率が上昇していることが大阪大学の研究グループによって明らかになった。

積極的勧奨の差し控えの影響により、特定の世代で現実に健康被害が増え始めていることが初めて確認された。

解析した八木麻未さんは、「2000年度生まれ以降は、今後、接種世代と比べて将来の発症や死亡リスクが上がる可能性があるので、再び接種のチャンスを与えるキャッチアップ接種を推進し、子宮頸がん検診をしっかり勧奨する必要がある」と接種率が激減した世代への対策強化を訴えている。

HPVワクチン「導入前の世代」、「接種世代」、「接種率激減世代」の検診結果を比較

この研究は論文「The looming health hazard: A wave of HPV-related cancers in Japan is becoming a reality due to the continued suspension of the governmental recommendation of HPV vaccine(迫り来る健康被害:政府によってHPVワクチンの積極的勧奨が差し控え続けられたために現実のものとなった日本のHPV関連がんの波)」としてまとめられた。

12月12日に総合医学誌のオンラインジャーナル「The Lancet Regional
Health - Western Pacific」で公開された。

研究グループは、全国24自治体からの提供データをもとに、子宮頸がん検診における細胞診の結果とHPVワクチン接種率を生まれ年度ごとに解析した。

日本では子宮頸がん検診は20歳から始まる。

積極的勧奨差し控えで接種率が激減した2000年度生まれは2020年度に初めて検診を受け、接種率が減った影響を見ることができるようになった。

研究グループは、

  • 導入前の世代(1989〜93年度生まれ)=3万2081人
  • 接種率が60〜70%程度あった「接種世代」(1994〜99年度生まれ)=4万454人
  • 接種が10.2%まで落ち込んだ2000年度生まれ=1211人

の検診結果を比較。

勧奨差し控えによる接種率の減少が、細胞診の異常率(ASC-US以上)にどう影響したのかを検証した。

2000年度生まれで、導入前世代のレベルで異常率が上昇

その結果、導入前の世代では、子宮頸がん検診で受ける細胞診の異常率は、生まれ年度が後になるにしたがって上昇する傾向にあった。これは、性的な活動の低年齢化などが影響していると見られる。

  • 1989年度生まれ:2.23%
  • 1990年度生まれ:3.08%
  • 1991年度生まれ:3.21%
  • 1992年度生まれ:4.26%
  • 1993年度生まれ:3.94%


また接種率の高い接種世代でも細胞診の異常率は上昇傾向を示していた。

  • 1994年度生まれ:3.52%
  • 1995年度生まれ:3.56%
  • 1996年度生まれ:3.83%
  • 1997年度生まれ:3.06%
  • 1998年度生まれ:4.12%
  • 1999年度生まれ:3.94%


ただし、ワクチンを接種した世代では、細胞診の異常率が導入前世代の上昇率から予測される率よりは低く、緩い上昇カーブとなっている。HPVワクチンが効果を発揮し始めている可能性が示されている。

ところが、接種率が一気に10.2%に激減した2000年度生まれは、異常率が5.04%と急上昇した。

  • 2000年度生まれ:5.04%


2000年度の異常率(ピンクの棒グラフ)は、本来、ワクチン導入後の予測ライン(黒の点線)に重なるはずだったが、ワクチン導入前世代の異常率の予測カーブ(青の点線)とほぼ同じライン上のレベルとなった。2000年度生まれがワクチン導入前と同レベルに身を守れなくなっていることが明らかになった形だ。

研究グループは「HPVワクチンの積極的勧奨再開に加えて、接種を見送り、対象年齢を越えた女子へのキャッチアップ接種の機会の提供や子宮頸がん検診の受診勧奨の強化を速やかに行う重要性・必要性を示しています」とコメントする。

論文の筆頭筆者の八木麻未さんは、「日本では積極的勧奨の差し控えで、接種率が激減した状況が8年以上も続いています。前がん病変の治療による将来の早産のリスク、子宮頸がんによる子宮摘出や死亡のリスクを下げるためにも、一刻も早く子宮頸がん予防策を見直す必要があります」と訴える。

今回の研究の段階では検診を受ける20歳に達したのは、接種率が10.2%だった2000年度生まれだけだったが、さらに接種率が下がって1%程度になった2001年度生まれ以降の検診結果も研究グループは観察を続ける。

主任研究者の同大学産科学婦人科学講師の上田豊さんは「、私たちは2000年度生まれは『子宮頸がん倍増世代』と呼んでいます。2001年度生まれ以降は2000年度生まれより接種率が低いため、さらに細胞診の異常率が増すことが予測されます。せめて子宮頸がん検診に行くように仕向ける努力をしなければいけません」と話す。

積極的勧奨差し控えの影響で2000年度生まれ以降は将来の発症や死亡も増える予測

HPVワクチンは、日本では2010年度から中1~高1の女子を対象に公費助成が始まり、2013年4月からは、小6~高1を対象として、公費でうてる定期接種となった。

ところが2013年4月前後から接種後に痛みや震えなどの様々な症状が訴えられ、メディアも「薬害」のようにセンセーショナルに報じたことから、厚労省はわずか2ヶ月後の同年6月に積極的勧奨を差し控えた。

その結果、対象者に個別にお知らせが送付されなくなり、自分が無料接種の対象者であることも知らずに、接種チャンスを逃す女子が増え、接種率は激減。

この研究グループは、これまでも生まれ年度ごとのワクチン接種率を算出し、2000年度以降生まれのHPVワクチン接種率が激減していることを研究で明らかにしている

また、積極的勧奨中止の影響で、接種を見送った女子の将来の子宮頸がん罹患・死亡の増加数を推計した研究も実施。

2020年度まで積極的勧奨が再開されなかったことで、導入前世代である1993年度生まれと比較して、2000~2004年度生まれでは合計2万2081人も上乗せで子宮頸がんを発症し、5490人も上乗せで死亡者が増えると予測している。