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HPVワクチン、国や自治体はうたせたいの? 2人の娘の接種を決めた母親の疑問

HPVワクチンのお知らせが自治体から届き始め、接種を決めた人も増えてきています。しかし、娘二人に受けさせることを決めた母親は、手続きの過程で行政や医療機関の後ろ向きとも思える態度に戸惑っています。

子宮頸がんや肛門がんの原因となるヒトパピローマウイルス(HPV)への感染を防ぐ「HPVワクチン」。

小学校6年生から高校1年生の女子は公費でうてるが、国が積極的に勧めなくなり、自治体からお知らせが届かないままチャンスを逃す女子も増えている。

厚生労働省は昨年10月、お知らせとわかりやすいリーフレットを対象者に送るように自治体に通知を出し、接種を決める人も増えつつある。

大学生と高校生の2人の娘の接種を申し込んだ母親のなつみさん(仮称)(48)は、行政や医療機関の後ろ向きとも取れる態度に戸惑いを見せる。

「うたせたいのかうたせたくないのか、よくわかりません。大事なワクチンですから、迷うようなメッセージは出さないでほしいのです」

長女が定期接種対象となった年に起きた「副反応騒ぎ」

なつみさんの娘は、既に無料接種の期間を過ぎてしまった大学1年生の長女(19)と、今年度が最後のチャンスとなる高校1年生(16)の次女の2人だ。

HPVワクチンが公費でうてる定期接種となり、長女が小学校6年生になった2013年の春頃、接種後に痛みやけいれんが出たと訴える女子が相次ぐ「副反応騒ぎ」が起きていた。

「テレビで取り上げられていた『被害』が怖くて、騒ぎの真っ只中の時でした。国は(積極的に)推奨しないとニュースで大きく取り上げられた時です。今、急いでうたなくてもいいと判断しました」

特に怖かった映像は、接種した女子が「被害」を訴える内容だ。

「歩けないとか、痺れるとか、そんなことを本人がテレビに出て話していました。国も推奨しないと言っている以上は、無理にリスクを受ける必要はないと思ってしまったのです」

周りの同級生やママ友では話題にもしなかった。

「周りの人が受けたか受けていなかったか、こちらも聞かなかったし、私も話さなかった。論外という感じでした」

次女については、対象年齢になってもお知らせが届かなくなった。国が積極的に勧めるのを差し控える通知を自治体に出したからだ。

「次女が対象だとは知っていました。でもこちらからわざわざやらなくてもとは思っていました」

2020年10月、突然来たお知らせ

ところが、昨年10月末、突然、次女のもとにお知らせが送られてきた。

厚生労働省は10月9日に自治体に対し、対象者にお知らせとHPVワクチンの情報を伝えるリーフレットを送るように通知を出している。

「高校1年生(相当)女子の保護者さま」という宛名書きで、「今年度、お子様が定期接種(無料)として接種できる最終年度となっているため、お知らせいたします」とあった。

最近、SNSで医師たちがHPVワクチンの接種を勧めている発信をよく見るようになって、「受けないとまずいのかな」という気持ちにはなっていた。

「『色々な国でうたれているワクチンだし、がんになる危険性と比較したら予防接種しておかないとかえって危ないよ』というメッセージが色々なところから発信されるようになっていました。がんが予防接種で抑えられるなら、お金がかかってもやるのが親の責任だろうと思い始めていました」

それでも行動することなく時間が経っていったが、今回、自治体からお知らせが来て、ようやく受ける気持ちが固まった。また、娘の学校でも厚労省のリーフレットが配布された。

しかし、手紙やリーフレットには「積極的に勧めていない」という文言が

「行政や学校から送られてきたので、さすがにうった方がいいと思ったのです。ただ、『推奨していない』という内容がドカンと載っている。うーんと思いますよね」

長女は3回の接種全てが自費となり、合計5万円前後かかることはわかっていたが、話し合って受けさせることを決めた。

「姉妹で1人は受けたのに1人は受けないで、将来、受けなかった方が子宮頸がんになってしまったら、私の中で気持ちが収まらないですよね」

長女は新型コロナでオンライン授業が続き、交際相手もできている様子はない。

「リーフレットを読んだら、性的接触でうつるウイルスなので、お付き合いや性交が始まる前に受けた方がいいという内容が書かれていました。『今だな』と思いました」

病院の予約窓口 「接種を推奨していないですよ?」

1月に入って、かかりつけの病院にHPVワクチンの予防接種をやっているか問い合わせてみると、「やっています」と言われた。予約センターに連絡した。

「窓口の人が、『今はまだ推奨していないし、準備が整っていません』と言うのです。市からこんなお知らせが来ているのに、なぜこんな止めるようなことを言うのかなと思いました。あっさり受け入れてもらえると思っていたのです」

「『今、接種を推奨していないのはご存じですか? 厚生労働省のホームページを見ましたか?』と何度も聞かれるわけです。受けさせたくないのかなと思いました。後日、『準備ができました』とあちらから連絡が来た時も、『厚労省のホームページをちゃんと見てください』と言われました」

「しかも、『当日、受診して、診察を受けて、先生からの話を聞いて、受けないという判断をする場合もありますよ』と言われたのです。『その場合は診察料として3000円いただきます』とまで言われて......(苦笑)。別にいいのですが、聞きようによっては来てくれるなと言われているようでしたね」

不安な気持ちで電話をかけた人なら、この窓口の対応で心が折れるだろうとも感じた。

「お金をかけてまでうたなくていいかなと思ってしまうのではないでしょうか。結局、何がしたいのでしょうね」

接種する病院では1回目が2万2000円で、2回目と3回目が1万6500円。次女の場合は、2回目までは公費でうてるが、長女は3回とも自費だ。

「正直、この金額は悩みますよね。でもがんを防げるならお金には替えられません。共働きなので余裕がないわけではないのですが、新型コロナの影響で給料も減っています。もっと経済的に余裕がなかったら受けられなかったと思います」

無料接種のチャンスを逃した女子は、家の経済状況で予防接種を受けられるかどうかの「健康格差」が生まれ始めている。

副反応への不安は?

厚労省のリーフレットを読み、自分でも色々と情報収集をして、副反応への不安も薄らいだ。

「予防接種には全て副反応があります。その恐れもなく今まで受けさせてきたので、HPVワクチンばかりなぜ怖がるのだろうという気持ちにはなりました。熱が出たり、腫れたりすることはあるかもしれませんが、他の予防接種と同じだなと思えるようになりました」

HPVワクチンについては国内でも、うった女子とうたなかった女子で現れる症状に差はないことを示す研究(厚労省祖父江班の全国疫学調査名古屋スタディ)がある。

そうしたデータもこれまで知らなかった。SNSで発信される情報を読んだりしながら、少しずつ理解を深めてきた。

「正確な情報を伝えるのが、何が不都合だったのかなという気持ちにはなります。メディアも怖さとか副反応ばかり報道してきましたよね。インターネットやSNSがない時代なら情報を自分で取りにいけないので、絶対に受けなかっただろうと思います」

今回届いたリーフレットの情報ももっと早く知りたかった。

「具体的でわかりやすい。1クラスに何人が頸がんになるとか、娘が見てもわかるように書かれています。世界ではこれだけ接種が進んでいるとか、リスクに関する比較も載っています。でも、うった方がいいよとは勧めていない。これを見て自分で決めなさいという内容ですね」

情報を自分で見て、自分で決める。その情報提供の仕方はどう感じるのだろう。

「娘たちが小さい頃の予防接種の感覚は、受けなければいけない、受けさせなさいという強い勧めがありました。急にこのワクチンだけ『自分の判断で』と言われるのは正直、抵抗もありましたけれども、今の時代、自分で選択するものなのかと受け止めました」

行政は積極的に勧めて そしてチャンスを逃した女子に再チャンスを

一方、リーフレットや行政の手紙、医療機関が、受けようとした親子に「積極的には勧めていない」と告げるのは無責任だとも感じている。

「受けようと思っていてもそんな言葉を言われたら気にかかります。対象年齢になった時に『接種が始まりますので必ず受けてください』と自治体が言ってくれたら絶対に受けたと思います」

定期接種は、国が国民の健康を守るために税金を投入して受けることを勧める予防接種だ。それなのに、「積極的に勧めない」という文言をつけて紹介するのは矛盾した情報提供の仕方と言える。

「国や自治体がお墨付きを与えてくれるのは、親子の意思決定にすごく大きな影響を与えると思います。がんを防ぐ効果と副反応が起きる確率であるリスクの比較ができるデータを提供し、その上で、国や自治体は推奨していますよときちんと示してほしいです」

国や自治体が対象者にお知らせを送るのを止めていた2013年6月からこれまで、知らずに接種を逃した女子には無料で再チャンスを与えてほしい。

「お医者さんから『領収書をとっておきなさい』とアドバイスを受けました。もしかしたら、今後、再チャンスが与えられるかもしれませんから」

そして今、周りのお母さんたちにはこう言いたい。

「対象年齢になったら必ず受けた方がいいよ。赤ちゃんの時の予防接種と同じ感覚だよ」