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HPVワクチン積極的勧奨の差し控えの後 まともな検証は行われてきたのか?

積極的勧奨が差し控えられて8年、いまではほとんどうたれなくなったHPVワクチン。その後の8年間、小児科医はどう動いてきたのでしょうか? 感染症を専門とする小児科医、森内浩幸さんに聞きました。

子宮頸がんを防ぐHPVワクチンはなぜ日本でこれほど接種されなくなってしまったのか。

接種率を大幅に下げた積極的勧奨の差し控えから8年3ヶ月、厚労省の審議会「副反応検討部会」で再開すべきかどうか議論が始まった。

長崎大学小児科学教室主任教授で日本小児科学会のワクチン担当理事、森内浩幸さんのインタビュー第2弾は、積極的勧奨差し控え以降の動きを振り返る。

Capuski / Getty Images

積極的勧奨が差し控えられた8年間で、接種のチャンスを逃して子宮頸がんのリスクが放置された女子がたくさん積み重なった

日本の副反応監視システムの不備

ーーHPVワクチンの副反応疑いの問題が起きた直後に、厚労省に「副反応検討部会」ができ、有害事象(※)の報告が検討されるようになりました。後手に回ったとも言えると思いますが、そういうシステムがそれまでなかったことについてはどうお考えですか?

※因果関係は問わず、ワクチン接種後に起きたあらゆる望ましくない出来事。そのうち因果関係が否定できない症状を「副反応」と呼ぶ。

日本は色々なところで予防接種の体制が整っていませんでした。ワクチンに関連が深い幾つもの学会がそれ以前から、そうした報告制度を作るべきだという議論を行っていました。

また今の日本のシステムでは医療従事者や製薬会社から上がってくる報告を集めます。アメリカのVAERS(Vaccine Adverse Event Reporting System、ワクチン有害事象報告システム)のように、接種を受けた人たちからも報告が集まる仕組みも必要です。

何より日本は「有害事象」という言葉をちゃんと使ってほしいです。

ーー副反応検討部会でも当初、有害事象の数を「副反応」として表示していました。途中から「副反応疑い」となりましたが。

「疑い」がついたとしても「副反応」という言葉をいまだに使うので、医療従事者も報告をためらうのです。

ずっと言っていることですが、こうした報告システムでは、ワクチンを接種した翌日に自転車でぶつかって怪我をしたことでも、つまり「疑っていない」ことも有害事象として報告すべきです。

どこで線を引くかを考えると、医療従事者も「副反応」という言葉がある限り、「自転車で転んだのはワクチンに関係あると思えない」としてなかなか上げません。

もし報告されないと、「これはワクチンと関係があると思う」と訴える被接種者が「無視された」と憤慨して、YouTubeや SNSに載せるようになれば、「こんな副反応が起こっているのに、医療関係者や政府は都合が悪いことをみんな隠している」と受け取られ、逆効果になります。

関係があるかどうかは、集まった報告を見て後で決めることであって、まずは接種を受けた本人も医療者も気になることは全部報告できるシステムを作ることが必要です。

少なくとも検討すべきものとして記録に残していけば、思い掛けないことが「副反応」としてあぶり出されることが起こり得ます。

自転車でぶつかった、道で転んだということも1件1件を見ればワクチンと関係ないように見えても、集まった数字を分析したらワクチン接種後の3日以内はそんな怪我をしやすいと表れてくるかもしれません。

このワクチンを接種してから3日以内は機敏な反応ができないとか、判断力が鈍るということが起こりうるワクチンだとわかるかもしれません。

届出をするのはあくまでも有害事象です。どうしても「副反応」というと、医師は自分のうったワクチンで何か問題が起きたのかと身構えてしまいます。肩の力を抜いて届ける形にすべきです。

接種医師、学会のアクションは?

ーーまた、接種をしていた内科医、小児科医のその後のアクションも鈍かった気がします。先生や関連学会は、差し控え後にどういう風に動きましたか?

学会にもかなり責任はあると思います。

確かに接種の対象者は、小児科医が診るには微妙な年齢になってきているのですが、ワクチンによって防げる病気を防ぐというスタンスで、もっと積極的勧奨の再開に向けて色んなアクションをすべきだったのではないかと思います。

その頃、一部の高名な小児科医が、HPVワクチン反対の動きをしていたこともあり、動きが鈍いところがあったかもしれません。

シンポジウムや様々なところで接種を推奨するために動き、政府にも積極的勧奨の再開を要請していたのですが、それを社会に強く訴えていくところまでには至りませんでした。予防接種推進専門協議会と一緒に動くこと以上の目立った動きにはなりませんでした。

最近になってようやくHPVワクチンの啓発団体「みんパピ!(みんなで知ろうHPVプロジェクト)」の活動を小児科関連の団体が応援するスタンスを出したりしています。少し踏み込んだことができるようになりました。

それまでは学会の中でも、これだけ大きな社会問題に積極的に関わり過ぎると、逆に接種後の症状に苦しんでいる人たちをまるで攻撃しているかのように見える、それはいかがなものかという議論があったのです。

ワクチンのせいであるかどうかは関係なく、被害を訴える子どもたちも、私たちにとって守るべき大切な存在です。

でも、その時の構図では、ワクチンを強力に推進するスタンスを取ることそのものが、マスメディアに「学会は苦しんでいる人を『ワクチンをダメにした悪い奴ら』と攻撃している」と捉えられることを危惧したわけです。

それが動きづらかった一つの要因ですが、それは言い訳だったとも私個人は思います。

小児科医は知っていた? 思春期に起こる体調不良

ーーそもそも小児科医の先生たちは思春期の時代にワクチンとは関係なく痛みやだるさなどの症状が現れることは知っていたのではないでしょうか? 特に児童精神科医の先生は知っていたはずですが、それがなかなか表に出てこなかったのはなぜなのでしょう?

それは全ての小児科医にとって完全に当たり前の概念ではなかったと思います。

「そんなことがあるよね」ぐらいは皆さん知っていたと思いますが、症状にどんなバリエーションがあり、どれぐらい起きるものなのかはピンとこない人もいました。私も今回のことで学んだところがたくさんあります。

中には、診察しても検査をしても異常がなく、人前では症状が出るのに一人でいる時には出ないとなると、「これは詐病だ」と誤った捉え方をする人もいました。

そういう訴えをしてきた患者さんや養育者に対して、全否定するような言い方で、より傷を深めてしまったことが残念ながらあったと思います。

小児心療内科医や児童精神科医はよく知っている概念だったとしても、それ以外の一般的な小児科医にとって、よく知っていることではなかった。

ただ大学病院などに長引くけいれんで運ばれてきた患者が、結局何もなかった、脳波でも何も出なかったということはあった。

ただ多くの場合そういう人たちに「検査しても異常はなかったですよ」と言うだけで帰していたのです。本当はもう少し踏み込んで、認知行動療法のような治療も含めて、その子たちが困っている状態から抜け出せるサポートまでするべきでした。

それを専門としている医師の数が少なかったことが大きな理由ではありますが、その先につなげることがないまま、放置してしまうことを繰り返していたと思います。

思春期の診療は、特に心身医学の領域は、医療の中で抜け落ちた分野だったことも影響したと思います。

子どもの頃は病気にもかかるし予防接種も多いので小児科医と関わりが深いのですが、ちょうどHPVワクチンの年齢層はほとんど小児科に行っていない時期です。そろそろ親がかかっている内科にかかろうかなという時期でしょう。

新型コロナのワクチンも「子どもに関してはできるだけかかりつけ医のところで個別接種」と言っていますが、思春期の子どもはそもそも何年もどこにもかかっていないことが多いのです。

一方、日本では何もない時に産婦人科の先生にかかることもなかなかない。だからHPVワクチンは「どこでうつのかな」と迷いながらうったし、その後、変調があった時も、「どこに相談したらいいのか」と迷ってしまった。根深い問題だと思います。

薬害仮説「HANS」をどう見たか

ーー一部の神経内科などの先生を中心に、HPVワクチン接種後に訴えられた症状を薬害と見る「HANS(HPVワクチン関連神経免疫症候群)」という仮説も一時主張されました。被害を訴える患者の支持を集める様子をどう見ていましたか?

どんな時も医療従事者の中でそういう運動に走る人は出てきます。

ある程度なら、それ自体は悪いことではないのです。

政治の世界で野党が与党の政策に反対するように、与党が突っ走るのに対峙し、間違っているところがないか探す姿勢を誰かが持っていることは安全弁になります。

しかし、HPVワクチンについては少し度が過ぎていました。

HANSはまともな医学雑誌はどこも取り上げなかった概念です。あの診断基準に基づくと、どんなことも症状の原因になり得ます。

脳の中にこんなことが起きている、神経伝達物質がこうなっている、MRIではこうなっていたとか色々な研究を出してくるのですが、そもそものスタート地点でその原因がワクチンかどうかは明らかにしていません。

「患者の気のせいではない」ということを証明するのはいいのですが、でもそれはワクチンと関係があることなのかを明らかにする研究ではない。

診察や各種検査で身体の器官に異常が見られない「機能性身体症状」と言われながらも、詳しく調べてみたらこんな異常があった、と示したのは素晴らしいことだとも思います。

「機能性身体症状」と言われるものの病態を理解し、認知行動療法だけでない、新たな治療法を見つけていく上で役立つかもしれない。

でも、ワクチンが原因かどうかを突き止めた研究ではない、という根本のところはほったらかしたままです。

どんなに優れた医学研究者であったとしても、全てのステップをきちんと押さえているわけではないし、自分の専門の興味のあるところを深く掘り下げていくことはあるでしょう。

でも、そもそもの議論はワクチンと関係があるかどうかを示すことだったはずです。それは名古屋スタディのような疫学研究で示されることであって、脳の中を様々な手法(神経生理学的、神経薬理学的、分子生物学的など)で調べてどうにかなることではないと思います。

HPVワクチン検証の報道、どんな思いで協力してくれたのか?

ーーHPVワクチン接種後に訴えられた症状は、ワクチンをうたなくても思春期の時によく起きるということは、2015年から医師の村中璃子さんがウェッジで連載したことで注目されるようになりました。

インパクトのある記事だったと思います。それまではもう少しオブラートにくるんだ形でしか言われていなかったのを、活字として出してきたのは大きかった。医師が出したことである程度、説得力を持つものになったとも思います。

ーー当時、読売新聞にいた私もその頃から取材を始めて、当時の学会の重鎮たちからはことごとく取材協力を断られた記憶があります。森内先生はその中で引き受けてくださった貴重なお一人だったのですが、どういう思いから表で発信しようと決めてくださったのですか?

当時の状況では、誰であれ、どんなに説明しようと、たぶん袋叩きにあうということはわかっていました。

多くの仕事を抱える中で、色々な脅迫や雑音に対応せざるを得なくなると、本来の仕事が蔑ろになってしまいます。自分の患者を守らなければなりませんし、学生に教育もしないといけませんし、HPVワクチン問題だけに追いまくられてしまうことを避けたかった気持ちがあるのは当然です。

私自身もそういう恐れが全くなかったわけではありませんが、幸か不幸か色々言われたからってあまり気にしないたちなのです(笑)。

また、誰かが言わなければならないなとも思っていました。逃げているうちはいつまで経っても解決しないので、小児科医の立場としてもこれは必ず言わなければならないことだと思いました。

ただ私よりもインパクトのある先生はいっぱいいたので、自分からしゃしゃり出るつもりはなかったのですが、誰もしないならやろうかと深く考えずに決めました。

学内外から受けた攻撃 読売新聞が記事削除も

ーー本当にありがたかったです。でもその結果、先生も学内外から攻撃に遭いました。申し訳なかったのですが、クレームが殺到した読売新聞が記事を削除するという暴挙にも出ました。

【BuzzFeedに再掲した記事】HPVワクチンで救える命を見殺しにしていいのか? 大手新聞社が握りつぶした幻の記事を再掲

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

当時、筆者が編集長を務めていた読売新聞の医療サイト「yomiDr.」に森内さんが寄稿し、読売新聞によって削除された記事

記事が出た後、大学病院の広報担当の人が真っ青な顔をしてやってきましたね。その人たちにとっては、HPVワクチンの問題は両論併記の時代だったのです。

「被害を訴える人は現にいるわけだし、その中で片方に偏った記事を出すと先生一人に攻撃が来るだけではありません。大学病院としても大変なことになるので、撤回するべきじゃないですか!」と言われたのですよね。

ただ幸い、その時の大学病院長が産婦人科の教授の増崎英明先生(現・佐世保市総合医療センター院長)で、「誰も言わないことを森内君、よく言ってくれたね。広報は病院が攻撃を受けることを守る仕事なら、君たちの仕事は森内君が酷い目に遭うことを防ぐことだよ」と言ってくれたのです。

ーー読売新聞はこの記事を削除しました。記事削除は新聞社で滅多にないことです。本当に申し訳ないことをしたと胸が痛みます。どう思っていましたか?

残念といえば残念でした。ただ、いったん世に出たものは本当の意味では消えるわけではありません。皆さんコピーを取っていましたし、逆に「メディアがこういう記事を削除したのだ」ということで、広がっていくこともありました。

削除される、ということは別の意味でキャンペーンを張ることにもなると思っていたので、訴えたいことが通らなくなったとは捉えなかったです。むしろ「削除なんてとんでもないことだ」と考える人たちによって広げてもらい、重要性をアピールすることにつながったのかなと思いました。

名古屋スタディが出た段階で積極的勧奨を再開すべきだった

ーーその後、接種していない女子も接種した女子と同様の症状が出ることが、厚労省の研究班「祖父江班」の全国疫学調査や「名古屋スタディ」から出てきました。日本でも出てきた安全性に関する知見をどう評価していましたか?

これは歴然とした結果だったと思います。

名古屋スタディの実施を命じた名古屋市長は、最近も金メダルをかじって物議を醸した人ですが、あの調査は元々、被害者団体から名古屋市長に「ワクチンのせいでこんな目にあったことを証明してくれ」と要望されて行ったものです。

しかし市長は大々的な調査をした挙句、結果が予想と真逆だったものだから、分析結果は出さないようにするなど訳のわからない行動を取り、逃げまわったようにしか見えませんでした。

ああいう大規模な調査をしたからには、責任を持って、「こういうデータを見る限り、このワクチンによって仮に何か起きるとしても極めて微々たるもので、ワクチンのメリットの大きさとは比較にならない」としっかり言うべきでした。

あれは明らかなデータであり、一生懸命、訳のわからない解析方法でケチをつけようとしても見苦しいだけです。

私は名古屋スタディでいい加減、決着をつけてほしいと思っていました。この結果が出た段階で、積極的勧奨は再開すべきでした。

あの結果が出てもなお、厚労省や行政の動きが鈍かったのは残念なことでした。

(続く)

【森内浩幸(もりうち・ひろゆき)】長崎大学小児科学教室主任教授(感染症学)

1984年、長崎大学医学部卒業。1990年以降米国National Institute of Healthにおいてウイルス研究と感染症臨床に従事し、1999年から長崎大学小児科学教室主任教授。

日本小児感染症学会理事、日本ウイルス学会理事、日本小児科学会理事、日本ワクチン学会理事、日本臨床ウイルス学会幹事、日本小児保健協会理事、日本感染症学会評議員。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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