• hpvjp badge
  • medicaljp badge

HPVワクチンの基本的な役割を理解していない人が7割以上 日本医療政策機構アンケート

基本的な知識を持つ人ほど、「HPVワクチン接種をすすめるべき」と回答する割合が増えました。

日本で年間約1万人がかかり、約2700人が死亡している子宮頸がん。その原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染を防ぐ「HPVワクチン」を国が積極的に勧めるのを中止して既に5年以上の歳月が過ぎた。

このHPVワクチンについて、医療政策について調査提言する民間のシンクタンク「日本医療政策機構」が一般人1000人にアンケートしたところ、「HPVへの感染や前がん病変を予防する効果がある」という基本的なワクチンの役割を理解していない人が7割以上にのぼることがわかった。

理解が浸透していないことが明らかになったが、この調査では、基本的な知識を持つ人ほど、接種をすすめるべきと回答する割合が増えている。

予防接種行政に詳しい川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは、「ワクチンの安全性や有効性のデータは既に十分出ているので、丁寧にわかりやすく伝えていく努力が行政、医療者、メディアに求められている」と話している。

ワクチンの役割、世界の承認状況などを知る人は3割弱

調査は、2018年6月、調査会社パネルのモニターである全国の20歳以上の男女1000人を対象にインターネット調査の形で行われた。調査票を配布したのは1359人。

日本医療政策機構は2006年から日本の医療に関する世論調査を続けているが、他の先進諸国と異なり、日本だけ接種率が激減している事態を重く見て、今回初めてHPVワクチンについて尋ねた。

HPVワクチンについては、まず基本的な知識の有無について尋ねた。

その結果、「HPVワクチンはHPVへの感染や、がんになる一歩手前の状態になるのを予防する効果があるとされている」という項目について、知識がある人は27.5%にとどまった。

また、「HPVワクチンは現在世界の多くの国で承認され、国によっては公費助成による接種が行われている」という世界の状況について知っていた人はさらに少なく、26.6%のみ。

日本では「子宮頸がん検診」について、20歳以上の女性は2年に1回受けることが国の指針で推奨されているが、42.3%(2016年)の受診率にとどまっている。

がん検診はがんになる一歩手前の「前がん病変(異形成)」を防ぐことはできず、そこで見つかっても手術で早産や流産になる可能性も高まり、再発の可能性も完全には防げない。検診とワクチンを両方受けることが予防効果を高めるとされている。

ところがこれについても、「ワクチン接種と子宮頸がん検診の2つを組み合わせることで、子宮頸がんの予防効果がより期待できる」ことを知っていた人は、31.2%だけだった。

「インフルエンザワクチンなどすべてのワクチンにおいて、副反応がみられることがある」と理解していた人は56.6%だった。

HPVワクチン接種をすすめるか、67%が「判断できない」

日本では2013年4月に公費で受けられる「定期接種」になったが、接種直後に原因不明の痛みなどを訴える声が相次ぎ、このワクチンに対する不安が広がった。

厚生労働省は同年6月に、HPVワクチンを定期接種の対象として維持する一方、対象者の自宅にはがきや手紙で接種を促す「積極的勧奨」とすることを、一時中止した。

この国の判断については、「評価できる」が14.4%、「どちらかといえば評価できる」が57.2%となり、7割以上が厚労省のこの対応を評価していた。

さらに、この一時中止の措置について、「接種をすすめるかについて判断できない」とした人は67%にのぼり、多くの人が今も迷いを抱いていることが伺える。

同じ質問で、「接種をすすめるべきである」と答えたのは18.6%、「接種をすすめるべきではない」と答えたのは14.4%にとどまり、ほとんどの人は判断を保留していることになる。

基本知識がある人ほどワクチン接種をすすめるべきと回答

さらに、基本的な知識の有無が「ワクチン接種をすすめるべきか」という判断にどのように影響するか、組み合わせて分析した。

その結果、

「HPVワクチンはHPVへの感染や前がん病変を予防する効果がある」

「ワクチンと検診を組み合わせることで子宮頸がんの予防効果がより期待できる」

「HPVワクチンは世界の多くの国で承認され、国によっては公費助成による接種が行われている」

という3つの基本的な知識について、一つ以上知っていた人は「HPVワクチン接種をすすめるべき」と回答した割合が26.4%であるのに対し、一つも知らない人は13.5%にとどまった。

基本的な知識があるほど、接種に肯定的になる傾向が伺える。

焦らずに丁寧に正しい知識を伝えることが必要

厚労省の検討会の委員として、HPVワクチンの積極的勧奨一時中止にも関わった川崎市健康安全研究所所長の岡部信彦さんは、「この結果から見ても、専門家がただ、大丈夫です、安全ですと説得しようとしても無理なことがわかります。結局、積極的勧奨を再開することだけを焦ると不信感を招くだけでろくなことはありません」とこれまでの経験を踏まえながら語る。

厚労省は今年1月、HPVワクチンについて、この5年間で発表された調査研究を盛り込んだ一般向け、医療従事者向けのリーフレットを新たに作成した。しかし、専門用語も多いため、一般の理解が進んだかどうかを改めて調査する予定だ。

岡部さんは、「HPVワクチンの安全性や有効性を証明するデータは、この5年の間に十分、国内外で積み上がってきています。我々、医療者や行政、メディアはそれを不安を抱く一般の人向けにわかりやすく届くようにしなければなりません」と話す。

そのために必要なこととして、医療者やメディアの勉強も必要だと指摘した。

「対象者の女子や親御さんに直接説明しながら実際にワクチンを接種する街中のクリニックの医師も、正しい情報を一般の人に噛み砕いて伝えるべきメディアも、最新の調査研究について詳しく知っているとは限りません。一般の人への啓発だけでなく、専門家同士やメディア向けに最新の情報を理解してもらう努力を、専門家や行政はさらに進めなくてはいけないと思います」