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HPVワクチン、厚労省が10月にも積極的勧奨再開の検討へ ワクチン製造会社も政治に強く働きかけ

子宮頸がんの原因となるウイルスへの感染を防ぐHPVワクチン。厚労省が10月にも積極的勧奨再開に向けた議論を始めることがわかりました。一方、ワクチン製造会社が政治家に対し、製造中止を散らつかせながら10月までの積極的勧奨再開を強く迫っていることも明らかになりました。

子宮頸がんや肛門がんの原因となるHPV(ヒトパピローマウイルス)への感染を防ぐHPVワクチン。

厚労省が8年2ヶ月以上差し控えてきた積極的勧奨について、10月にも再開に向けた議論を始めることが関係者の話でわかった。

昨年10月から自治体で始まった個別のお知らせによって国民の理解が進み、接種率が上がってきたことが理由とみられる。

一方、接種率の低迷で大量のワクチンを廃棄せざるを得なかった製薬会社が、政治家に対し、日本への供給停止の可能性を散らつかせながら、10月までの積極的勧奨再開を強く求めていることも明らかになった。

8月26日に開かれた自民党の「HPVワクチンの積極的勧奨再開を目指す議員連盟」(会長=細田博之・衆議院議員)で示された。

日本の接種率低迷に大きく影響してきた「HPVワクチンの積極的勧奨の差し控え」が8年以上の時を経て、正常化に向けて大きく動こうとしている。

個別のお知らせ再開で接種率が向上

HPVワクチンは、2013年4月から小学校6年生から高校1年生までは公費でうてる「定期接種」となった。

ところが、接種後に体調不良を訴える声が相次ぎ、それをマスコミが「副反応」や「薬害」としてセンセーショナルに報じたこともあり、同年6月に国が積極的勧奨を差し控えるよう通知。安全性への不安が広がり、日本の接種率は一時、1%未満に激減した。

一方、この8年間、国内外で安全性、有効性を証明する研究は積み重ねられてきた。名古屋市の3万人の女性を解析した「名古屋スタディ」では、接種していない人も同様の症状が見られるため、HPVワクチンの成分と症状は関係ないと結論づけている。

他にも、世界保健機関は「弱いエビデンスに基づく政策決定は、安全かつ有効なワクチンを使用しないことにつながり、実害をもたらしうる」と日本を名指しで批判し、産婦人科医の団体も積極的勧奨再開を繰り返し国に要望してきた。

また、積極的勧奨が差し控えられて個別に対象者にお知らせが送られなくなったことから、自分が対象であることも知らずに無料接種のチャンスを逃す人が増えている。

これを重くみた厚労省は、昨年10月、自治体に個別にお知らせを送るよう通知し、今年7月28日時点で対象者に情報提供した自治体は61.6%に上った。

適切な情報が周知されることで接種率が少しずつ回復していることから、厚労省は「国民の理解が広がっている」と評価。10月までに積極的勧奨再開を副反応検討部会で議論し、再開の通知を出すための準備を始めている。

製薬会社からも政治に強い働きかけ

一方、ワクチンを製造販売する製薬会社から、政治家に対する働きかけが強まっている。

細田会長はこの日の議連の冒頭、製薬会社の動きについてこう述べた。

「日本でうたれているHPVワクチンはほとんど4価と2価。他の国はほとんど9価になっている。そこで日本向けに(4価と2価を)作っているメーカーがこの夏をもって、日本むけにいくら作ってもうたないのだから、在庫になって全部廃棄にしなければならない。このようなことではもはや日本向けの製造を中止せざるを得ない。こういうことを通告してきました」

そして、今月30日にも菅義偉首相、加藤勝信官房長官、田村憲久厚労相に対し、改めて積極的勧奨の再開を求める要望書を提出する。

「新型コロナ感染の拡大を契機に、世界共通の課題として、ワクチンの重要性や限られた生産供給の配分に関する様々な国際的な議論が活発に行われている中、万が一、日本が貴重なワクチンを廃棄するという事態になれば、将来の世代の健康に大きな禍根を残すことになるばかりか、世界の公衆衛生の観点から日本への信頼を損なうことに損なうことになりかねない」としている。

一方、ワクチンの製造販売会社が加盟する米国研究製薬工業協会ワクチン委員会の副委員長も議連の中で発言し、「10月に積極的勧奨を再開していただきたい」と要望が出された。その理由として以下の4点が挙げられた。

  1. 有効性や安全性についてのエビデンスが各国で蓄積しており、8年前に積極的勧奨の差し控えの課題になった疑問点は解決している
  2. 10月に再開しないと今の高校1年生は年度内に無料で3回の接種を終えることができない
  3. 国として積極的勧奨の再開をすることでHPVワクチンの有効性や安全性について打ち出すことが、同じ筋肉注射ワクチンの新型コロナワクチンへの若い人への信頼を向上する
  4. 10月の再開に向けて供給が準備されており、もし予定が遅延すると用意したワクチンが使用期限切れで廃棄せざるを得ず、公衆衛生の面から許容されない


海外では男子の公費接種も進み、HPVワクチンの争奪戦が起きている状況だ。

自身も子宮頸がんを経験した厚労省副大臣の三原じゅん子氏はこう述べた。

「このような状況を生んでしまったことを心から謝罪したい。今回のことは製薬会社からの最終通告だと私自身受け止めている。8年間製薬会社が作ってくださったものを廃棄し続けてきた。今回も信頼を裏切るようなことがあってはならない」

「製薬会社の皆様が『もう作るのは難しい』とおっしゃっている。コロナワクチンなどの重要性から(ワクチンに対する)国民の理解は深まっている。接種をしたいと思った女の子たちが出てきたとして、その時にワクチンはありませんということは許されない」

一方、MSD幹部は製薬会社を代表して、こう述べた。

「今まで差し控えられている8年間も、積極的勧奨の再開に向けての準備でもMSDは必要なワクチンを確保し、供給してきたし、これまでも安定的に供給したいと考えている」

「さりとて、10月を目指して準備しているワクチンを廃棄しないようにするのは世界的な視点でも重要で、(政府による)買い取りは考えていないが、通常の定期接種のワクチンの確保に準じて、厚労省と話し、要請をいただいて、世界的に供給が逼迫する中、日本で本格的に積極的勧奨を再開するのだということについて理解を得て信頼をしてもらって確保しているところだ。それについて10月の再開を希望している」

厚労省の考えは?

国のHPVワクチン政策に関わってきた関係者は、BuzzFeed Japan Medicalの取材に対し、「個別通知で接種率が向上したことが明らかになったため、10月にも積極的勧奨再開を副反応検討部会で議論し、その了承を得た上で再開の通知を出すべく準備を進めているのは事実。しかし、コロナ対応や選挙もあり、時期についてはどうなるかはわからない」と話す。

一方、議連に出席した厚労省の林修一郎・予防接種室長は、厚労省が10月に積極的勧奨を再開するという話については、「メーカーや議連の主張であることは今日の議論でも明らかだが、私がそういうことを言ったことはない。厚労省の要請に基づいて10月にワクチン供給の準備をしているとメーカーは言っているが、要請したという認識はない」とし、

「積極的勧奨の再開については8年前からずっと検討している。慎重に検討する」と、副反応部会で検討する時期などについては言葉を濁した。

また、製薬会社が供給停止する可能性については、

「直接、製薬会社が製造を停止するという話は聞いていない。永田町界隈でそういう話があったのかもしれないが、真偽はわからない」と答えた。