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HPVワクチンの無料接種を逃した女性への救済策 なぜ東京都千代田区は国に先駆けて制度を作ったのか?

HPVワクチンの無料接種の機会を逃した女性への救済策「キャッチアップ接種」の導入が議論されています。しかしそれより前に独自の救済制度を作った自治体があります。東京都の千代田区長に聞きました。

厚生労働省の審議会で、HPVワクチンの無料接種の機会を逃した女性への救済策「キャッチアップ接種」が導入に向けて議論が進められている。

しかしそれより前に、独自の救済制度を作ってより多くの女性の健康を守ろうとしている自治体がある。

BuzzFeed Japan Medicalはそんな制度を10月に打ち出していた東京都千代田区の樋口高顕区長にインタビューした。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「自治体レベルでも女性の健康を守るためにできる限りのことをしたい」と話す樋口高顕・千代田区長

保護者や産婦人科医からの要望受け「区でできることはないか?」

ーー千代田区は2021年度時点で高校3年生までの女子に対して、11月から2023年10月まで無料接種の期間を延長しました。また、定期接種の期間を過ぎて、今年10月までに自費で接種した人にも費用を助成します(償還払い)。国に先駆けてなぜこのような制度を導入したのですか?

元から都議会議員をしていて都民の声は集まっていたのですが、2月に区長に就任してから、それ以上に区に対する期待が直接的に来るようになりました。

まず、春ごろからTwitterや直接の連絡を通じて、中高生前後の娘さんがいる保護者からHPVワクチンに関する要望が立て続けに来たのです。これはそういうニーズがあるんだなということで動き始めました。

「国は(積極的勧奨の再開を)できないのだから区でしてくれ」と言われましたが、それは国がしないとできません。区でできることは何かないかなとずっと考えていました。

もう一つは産婦人科の先生とのやりとりがあり、都議時代からお付き合いしてきた産婦人科の先生もいます。そこから強く要望がありました。

国がコロナ禍での定期接種の2年延長通知を出しましたが、HPVワクチンは積極的勧奨を再開していなかったこともあり、コロナ禍で機会を逃した方も多いと思います。期間を逃せば不安になっていると思いますし、自費で接種した人もいます。

区ができる限界もありますが、救える部分はこの通知をもとに対応しようと思いました。第5波の厳しいピークを綱渡りで乗り越えた後、HPVワクチンを動かしたいと話し合いました。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「広報千代田」に載せた定期接種の期間延長と自己負担で接種した人への助成のお知らせ

そしてまず、HPVワクチンは積極的勧奨は控えているけれどこういう定期接種がありますよと、9月13日にはまず個別通知を定期接種の対象者1300人以上に送りました。10月28日には、定期接種の期間を過ぎた848人に個別にお知らせを送りましたし、20日にこの救済措置について区の広報にも載せました。

ーー反応はどうでしたか?

9月13日に個別通知した直後は1日20〜30件の問い合わせが数日続き、救済措置の個別通知を送った直後の11月初旬には1日50件ぐらいの問い合わせが来ました。50件のほとんどがこの延長対応についての問い合わせです。

結局9月から11月初めまで合計211件の問い合わせが来ました。「予診票がほしい」などが主な内容ですが、それまではほとんど問い合わせはなかったので、個別通知の効果でしょうね。予診票も100件送りました。

国の積極的勧奨の差し控えで8年個別通知はしてこなかった

難しかったのは、うちが踏み込み過ぎると、積極的勧奨が再開されていないので、区が背負う責務も生まれてきます。保健所長や担当職員と相談し、できる限りの対応をというのが今回の方法でした。

それでも限られた今回の対応でも喜んでくれる声はたくさんありました。時宜に適ったことであったようです。

ーー2013年6月に積極的勧奨を差し控えるように厚労省から通知が出てからは、HPVワクチンについてどう広報していましたか?

個別通知は送っていなかったです。広報も差し控えていたところがあります。

最近になって国から情報提供して良しという通知が出たので、今年9月に対象年齢の方全員に個別に送ったということです。

ーー国は2020年の10月に対象者に個別通知をしてくださいと通知を出しています。2020年度は送っていないのですか?

昨年は間に合わなかった。今年9月に8年ぶりに送ったということですね。

ーー国が積極的勧奨を8年5ヶ月もの間、差し控えてきたことについてどう評価していますか?

国が8年以上差し控えていた背景には、様々な経緯もありました。多様な症状と言われていますが、10代前半は体の成長もあって出てきた症状だと思います。こうした経緯や議論については仕方ないことだと思っています。

一方で疫学的にも様々なことが検討された上で、国の部会で再開が了承されたというのは喜ばしいことです。私の肌感覚的にも、それを求める区民の方や産婦人科の先生方の声が多くありました。我々基礎自治体が一番そのような声を受けますから。

予防接種を担う保健所が一番そのような声を受けていますが、そういう市民の声が届いたことは喜ばしいと思います。

ーー区民の声の中で「こんなワクチンがあるなんて知らなかった。どうして知らせてくれなかったのか?」というクレームはありましたか?

「知らなかった」というよりも、「もっと上の世代でうてなかったのだけれども、自分たちはダメなの?」という声がよくありました。

救済制度をツイートした反応は? 賛同の声がほとんど

ーーワクチンに反対する人たちのクレームはありましたか?

それが来ていないのです。私自身のTwitterでも期間の延長や補助についてのツイートは「いいね」がたくさんつき、リツイートも多かったです。

本日記者会見。 うち1つはHPV(子宮頸がん予防)ワクチン 国では積極的勧奨の再開について議論がされています 一方でコロナ禍で接種機会を逃したなど区民の皆さまの声を頂いてきました。 区で出来る対応として、 公費で接種できる期間の延長などを発表。 詳しくはこちら↓ https://t.co/c8yXJQubVQ

Twitter: @higuchi_takaaki

反響が大きかった区長のツイート。肯定的な反応がほとんどだった

いろんな考え方を持つ人がいる中で、ワクチンに疑念を持つ人の声はほとんどない。今回は賛同の反応がほとんどでした。ツイートした時のウェブサイトへのアクセスもものすごく伸びました。

Twitterの世界では、女性の体や健康にみなさん関心があり、こまめに情報共有していると思います。その中で珍しく私の発信も注目されたのだと思います。

千代田区の人口は6万7000人しかいないのです。その中でこれだけリツイートされたりシェアされたりしたということは、相当関心が高いのだと思います。

新型コロナワクチンでも積極的に発信

ーー千代田区は新型コロナワクチンについてもYouTubeのチャンネルと文章で「ワクチン接種を迷っている妊婦の方へメッセージ」を産婦人科医の宋美玄さんに発信してもらっていますね。ワクチン全般に熱心なのでしょうか?

YouTubeでこの動画を見る

youtube.com

とにかく打てる手は全て打とうとと考えていました。ワクチンを確保し、高齢者の接種はスムーズに進みました。その後、今度は働く世代だ、となった時に、どうやったらうってもらえるだろうかと考えました。

この頃、「副反応が...」「モデルナアームが...」など、様々な不安を訴える声が広がっていて困ったなと思っていました。最初は感染症の専門家で、麹町に診療所を持っている水野泰孝先生に出てもらいました。ワクチン接種全般について話してもらったのです。

次は若い女性や妊婦が接種に不安を持っているということで宋先生に頼みました。宋先生も丸の内にクリニックがあります。宋先生にも会いに行って出演を依頼しました。

あの時はちょうど千葉県でコロナに感染した妊婦が入院の受け入れ先がなくて赤ちゃんが亡くなる痛ましい事故がありました。その少し前に撮ったのです。ウェブサイトの宋先生のページへのアクセスは12万アクセスありました。うちの人口を超えて読まれることになりました。

Twitterは正直苦手なのですが、「こういうことに関心があるのだな」とか「こういうことで不安に思っているな」ということがよく見えてきます。ワクチンに関する情報収集に役立ちました。

そして、水野先生はテレビの世界、宋先生はSNSで影響力を持つ。その力を借りられたのもよかった。いわゆるインフルエンサーの影響です。3人目は神田で代々続いているお医者さんに出てもらいました。地域のインフルエンサーです。

予防接種の最前線にいる我々自治体が、知恵と工夫を絞るところでした。

都議時代から温めていた課題

ーーそういうやり方でHPVワクチンも市民の声をキャッチし、対策を打ち出したのですね。

実は都議時代からも要望はもらっていました。3年近く前です。HPVワクチンの啓発をしている「みんパピ!」の代表の稲葉可奈子先生の京大医学部時代の友人が私の友人でもあり、紹介してもらったのです。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

千代田区長に都議時代からHPVワクチンの課題を訴えてきた産婦人科医の稲葉可奈子さん

その頃から稲葉先生にHPVワクチンの課題を聞いていて、もっともだなと思ってはいたのですが、1議員が動かすには重い課題でした。東京都にとっても重かった。

やはり国が動かないとできることがない。都議の時は難しかったのですが、基礎自治体のトップになると保健所を持っていますから、できることを探せるのです。

3年前から課題意識は持っていたから、区長になってからの理解も早かった。この問題がまだ残っているんだなと認識しました。

ーー都議時代から温めてきた課題に手をつけたということなんですね。

温めたというより、地域の保護者の皆さんや思春期のお子さんたちの声が私に届いたということだと思います。その声が高まっているという温度感は春以降ありました。まさに民主主義のプロセスです。

ーーそして国も同じタイミングで再開やキャッチアップ接種について動き始めました。

とても良かったと思いますし、キャッチアップの接種もまさに今日(11月15日)予防接種・ワクチン分科会で議論が始まりました。ぜひ実現していただきたいです。

HPVワクチンは早期にうつのが望ましいですが、そうは言ってもキャッチアップ世代の人たちも効果は認められるそうです。ぜひ一人でも多く子宮頸がんから救うために、国には積極的な議論や決定を進めていただきたい。

積極的勧奨の差し控えが自治体の足かせに

ーーキャッチアップ接種は2022年4月にも始まるようです。自費で接種した人への償還払いはどうなるかわかりませんが、区の制度と重なると、意外と早く区の対策の役目は終えるかもしれません。

それはとてもいいことだと思います。

むしろ積極的勧奨の再開やキャッチアップ接種が始まるのに合わせて、我々自治体も環境や体制を整備しないといけないと保健所長とも相談を始めています。

10代特有の体調の変化や成長に伴って色々な悩みを持っているし、接種後の体調不良や接種の不安を感じるならば、相談窓口や相談体制は必要です。

情報提供の仕方も、目の前に住民のみなさんがいる基礎的自治体だからこそ、より丁寧なことをしていきたい。保健所で対応することになると思いますが、保健師さんの中でも想定できるQ&Aを作り、積極的に普及啓発をしていくことが必要です。

ーー定期接種の費用については既に国から交付金として相当額が自治体に支給されているはずです。それなのに対象者に接種してこなかった責任も問われるのではないかとも言われています。地方自治体の責任についてはどう考えますか?

法定の定期接種であるのに、対象者に通知したのかといえばやっていない。厚労省は昨年10月から認めているのに、千代田区も今年9月になって動いたわけです。

そういう問題はあったと思います。そんな状況で「対象者に情報を送ってほしい」という声が私が就任して以降高まっていました。これまでだってやれることはあったのではないかなと、この立場になると思います。

ただ、どこの自治体も大変だったと思います。積極的に個別にお知らせを送って、「これは積極的勧奨じゃないのか?」と指摘されたらどう答えるか。所長や区の責任は重いです。それを考えると、国の通知がある以上軽々には動けません。

「積極的勧奨ではないです。でも定期接種です」と伝えるのは、大変なことです。本当に自治体は悩んできたと思います。国が積極的勧奨再開に動き、自治体も動きやすくなることを歓迎しています。

【樋口高顕(ひぐち・たかあき)】東京都千代田区長

2007年3月、京都大学法学部卒業。株式会社電通国際情報サービスの営業職、東京都議会議員(2017年7月〜21年1月)を経て、同年2月に千代田区長に就任。趣味は読書、茶道、ジョギング。家族は妻と娘(6歳)。Twitterアカウントは @higuchi_takaaki

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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