• knowmorecancer badge
  • medicaljp badge
Updated on 2019年10月18日. Posted on 2019年3月7日

誰のための、何のための安楽死? 反論や批判にどう答えるか 幡野広志さん、安楽死について考える(3)

幡野広志さんインタビュー第3弾は、そもそも鎮静に理解のある医師とのつながりもあり、海外で安楽死の権利も得ているのに、なぜ日本で議論を仕掛け続けるのか。また、反対や批判にどう答えるのかを聞きました。

がん患者として、日本の安楽死の議論を引っ張っている写真家の幡野広志さん(36)。

Hiroshi Hatano

「安楽死の権利を持てば生きやすくなる」と話す幡野広志さん

安楽死は堪え難い苦痛を終わらせるために、致死量の薬を医師に投与してもらうか、処方された薬を自分で使って死期を早める方法だ。

だが、幡野さんは担当医からは、いざと言う時は薬で眠って苦痛を感じなくする緩和ケア「鎮静」ができると約束され、心ある緩和ケア医との交流もある。

それでもなぜ、誰のために安楽死の議論を仕掛け続けるのだろう。

誰のための、何のための、安楽死?

ーー幡野さんは「自分が苦しみたくないから安楽死を希望する」と最初のインタビューではおっしゃっていた。今は、制度を作ろうと大きなことを話しています。担当医は鎮静に理解があり、心ある緩和ケア医とも知り合い、海外で安楽死の権利も得ている。それでもなお、日本で安楽死を必要としているのはなぜですか?

ああ、僕のことね。

ーー幡野さんが、社会に向かって議論を仕掛けているのは、ご自身だけの問題ではないと思っているように見えます。最初の動機は「自分のため」。今は変わってきていますか?

ベースは自分のためですよ。でもおっしゃる通り、合併症や交通事故にでもあわない限り苦しまなくて死ななくてすむとおもいます。治療に関してもいろんな人の助けで優先的な治療を受けられるでしょう。

自分のことだけ考えたら、すでに目的は達成しているんですけれども、それは、たまたまそうなっただけですよね。

健康なときってお金稼ぎたいとかモテたいとか欲があります。だけど、自分がもうそんなに長く生きられないとわかってくると、そういう欲がくだらないと感じて、なくなってくる。自分のことだけでなく、だれかのためにと思ってしまうんですよ。

定年退職したおじさんが急にボランティアを始めたり、緑のおじさんのようなことをしたりするのと似ていると思います。

僕は知らない人を助けようとは思わない。それよりも自分の息子が将来生きやすい社会になってほしいなと思うんです。自分の息子が同じ病気になった時に苦しまないようにとは思います。

例えば、息子は30年後にきっと考えると思うんです。自分の父親が34歳で血液がんになって、自分もその年齢に近づいたら、もしかしたら俺もと思うでしょう。

僕は、今のがん患者の置かれている環境や医療が正しいと思わない。30年後にもうちょっと良くなっていてほしい。そのために、動いているという意識はあります。

ーー終末期の医療を良くするために安楽死が必要なのですか?

安楽死って、みんなちょっと誤解している。安楽死は、死ぬための最後の手段と思われているのですが、そうではなくて、安楽死の権利を持つことで生きている間の不安が解消されるんです。むしろそっちの方が効果としては、はるかに大きい。

これで、いつでも苦しまずに死ねるという安心感はすごく大きい。だからいまつらくても頑張ることができる。

ーー苦しまずにというのは、身体的な痛みだけではないということですね。

優秀な緩和ケア医がいれば、多くの身体的な痛みや苦しみをなくして逝けるでしょう。だけど死には精神的な痛みや苦しさがある。この精神的な苦しみに家族も苦しめられる。

生きるに値しない、と決める基準は危うくないか?

ーー寝たきりになったり、下の世話をされたり、家族の顔もわからなくなったりということを堪え難い苦痛として、生き死にを決める基準にされてしまうと、病気でそのような状態になっている人が生きたくても生きたいと言えなくなる可能性が出てくる不安があります。

そういう反論が安楽死に対しては一番多いですね。だけど、僕が反対する立場だったら言わないと思います。

例えば、難病の人や障害者の方が安楽死の同調圧力で死なされてしまうのではないかと反論された場合、安楽死を急進的に進めようとする人たちから、「じゃあそういう人に安楽死を認めなければいい」という再反論を生むでしょう。反論が簡単なんです。

HIroshi Hatano

生まれたばかりの自分が表紙になった写真集『写真集』を抱える優君

この同調圧力に僕が疑問を感じるのは、障害者であれ精神疾患の人であれ、本当にその人たちが死を求めたときに、今度は生きることの同調圧力で苦しめられるということなんです。

僕は他の病気の人の苦しみは理解できない、苦しみの質が違うから。でも共通点として感じるのは、本音を言えずに我慢しているのだろうなということです。

障害者の方や精神疾患のある人、線維筋痛症やALSなど難病の患者さんたちの中にも安楽死を望む人はいる。それを無視して、「安楽死の同調圧力があるから危険だ」として、じゃあ安楽死は助かる見込みのないがん患者だけにしましょうとしたとき、結果としてそういう人たちを苦しめるのではないかと思います。

「安楽死の権利を持てば、生きやすくなる」

ーーもし本音が言える環境になって、難病の人や精神疾患の人が生きているのが苦しいから死にたいと言ったら、安楽死の権利を認めることも考えた方がいいということですか?

安楽死の権利はみんなあった方がいいと思います。その権利を持つと、本当に生きやすくなるんです。

「安楽死の権利を持ったから、明日死ぬわ」ではないんですよ。「安楽死の権利を持ったから、まだ頑張れる」という安心なんですよ。

1年前は、僕にとってその安心は散弾銃だった。本当に苦しかったらこれで自分の心臓を撃ち抜けば、自殺も失敗する方がたくさんいるので、そういうリスクなく、かなり優秀な手段として鉄砲があったわけです。鉄砲の存在に安心を感じていました。

今は鉄砲を処分したので、そうすると不安が残るんですよ。本来は緩和ケアや鎮静がその役割を担ってくれればいいのだけれど、鎮静は問題が多すぎる。そこに鎮静に安心感はもてません。

この間の片木美穂さんの記事もそうでしたよね。

ーー医師によって、鎮静ができるかどうか左右されてしまうということですか。

まず、医師の性格によって左右されてしまう。そして、家族によっても左右されてしまう。タイミングも含めて、本人の希望は通せない。「先生、そろそろお願いします」といったところでやってくれない。医療者のさじ加減です。

肺炎で入院した時、僕からお医者さんに「最後に苦しむのだったら鎮静はできますか?」と聞いたら、「できますよ」という答えが返ってきた。

鎮静という手段を知っている患者に対しては施すわけですが、患者が知らなければ、医師は基本的にやりたくないから医師からは提案したがらない、それが現実だと思いますよ。

そんなものに安心感なんて抱けないですよ。緩和ケア医なら違うかもしれませんが、根本的にお医者さんは鎮静をやりたがらない。鎮静を負けや敗北とおっしゃる方も少なくないですし、医師としてのプライドもある。緩和ケア医でさえ鎮静は良くないという方もいる。

とにかく基準がバラバラだけど、ベースはやりたくない。SNSで発信しているお医者さんは優秀な方が多く、正義感があるし、強いですね。批判を受けても反論できるし、そういう医師が担当医ならいいですよ。

でも、みんな病気になったら近所の病院に行くはずです。そんな医師に当たるかどうかは運ですよね。

ーーそんなものに左右されたくない?

左右されたくないし、実際、苦しんで家族を看取っている人の話をたくさん聞いているので、最後の望みを鎮静に託せないです。鎮静を施されずに家族が苦しみながら看取った方と、そうでない方の生き方に落差がありすぎる。はるかに自殺の方が確実だと思います。

自殺を否定するのは自殺を止める手段として最悪

ーー自殺に関してはどう思いますか?

いまは減少傾向にあるかもしれませんが、1年間に2万人から3万人が自殺をされています。1番多い理由は病気です。自殺も本人が選んだものなので、僕は否定すべきではないと思うんです。

僕も自殺を考えましたが、その時にいろんな励ましがある。「生きていればいいことがあるよ」とか、「あなたが死んだら悲しいですよ」とか、いわゆる自殺を止める人の言葉ってありますよね。

はっきり言って、ひとっつも響かない。本当に自殺を考えている時は、そんな綺麗事は何も響かない。

今も安楽死のことを発言すると、反対する意見が耳に入ってきますが、安楽死をするのをやめようかなと思える意見はひとっつもないですよ。結局、当事者意識で考えている人は少ないです。

ーー安楽死が日本でできない今、自殺という手段を選ぶ人がいてもそれはそれで仕方ないと考えますか?

安楽死ができない以上しょうがないでしょう。自殺を反対するのではなく自殺を望んでいる人に何が提供できるかということですよ。

僕も自殺未遂をした人に取材しましたが、健康な人が見ている世界とは違います。僕は自殺を否定することが余計、自殺を望んでいる人を苦しめているという印象があるんです。

医療者の傾聴と同じかもしれませんが、まずは、一度受け止めてあげることが大切だなと思います。自殺を否定するというのは自殺を止める手段としては一番NGなんだと思いますよ。ただの否定だから最悪です。だけどみんな自殺を否定するわけですよ。

ーー死んでほしくはないですよね。

死んでほしくはないけれども、死んでほしくない理由って何ですか? 医療現場で起きているいろんな問題でもそうですけれども、死んでほしくない理由を突き詰めていくと、自分が悲しみたくないというエゴに辿り着くと思うんです。

それは、患者の望むゴールではなく家族や周囲の人間のゴールですよね。じつは身勝手な話なんですよ。患者のことを考えていない、当事者のことを考えていない。それに気づいてほしい。

(続く)

「死を目の前にして、苦しんで死にたくないと思った」 幡野広志さん、安楽死について考える(1)

鎮静は悪くない でもそれまでの苦痛に耐えられない 幡野広志さん、安楽死について考える(2)

「医者たちを焦らせたい」 安楽死なんてしなくてもいい社会に 幡野広志さん、安楽死について考える(4)

生きることも死ぬことも悪いことではない 幡野広志さん、安楽死について考える(5)

幡野広志 写真集の写真展。」が3月10日まで、TOBICHI東京とTOBICHI京都で開かれている。会場では、写真集購入特典「小さい優くんの写真集」も。

【幡野広志(はたの・ひろし)】写真家

1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。 2011年、独立し結婚する。2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。2016年に長男が誕生。2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書に『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所 )、初の写真集『写真集』(ほぼ日)。公式ブログ


Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

Got a confidential tip? Submit it here