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「手伝い不要」と伝えたのに...なぜ娘の車椅子を理由に搭乗を断るのですか? 医師の父が感じた「社会の壁」

重度の心身障害がある次女と飛行機に乗ろうとしたら、搭乗を断られました。「手伝い不要」と伝えたにもかかわらず、「車椅子での手伝いを必要とする客」の人数制限を超えているというのです。問題はどこにあるのでしょうか?

「手伝いは不要」と伝えたのに、重度の心身障害がある娘と飛行機に乗ろうとしたら搭乗を断られた——。

そんな体験をフィリピン・マニラ在住の医師、座光寺正裕さん(40)が発信して話題になっている。

座光寺さんの次女のはるかさん(8)は脳性まひによって生活の全てに介助が必要で目が見えず、車いすを使っている。

飛行機に乗る時から降りるまで同行する座光寺さんが全ての介助を行い、航空会社のスタッフの手伝いはいらないと告げていた。

それでも、「車椅子での移動のお手伝いを必要とする客」の上限人数に達していたため、予約していたフライトの搭乗を断られたのだ。

障害者差別解消法は障害を理由にした「不当な差別的取扱い」を禁じている。

何が問題だったのか。関係者を取材した。

年に1度の福祉用具展へ行くためにフライトを予約

マニラで働き、はるかさんと二人で暮らす座光寺さんは4月12日にオンラインで、マニラ発、成田行き(180席)のジェットスター・ジャパンの航空券を二人分予約した。

15 日、16日に東京で開かれた子どもの福祉用具展「キッズフェスタ」にはるかさんと行くためだ。コロナ禍もあって、5年ぶりの参加になるはずだった。

「新しく長野県に建てる自宅に設置したいリフトや介護用のベッドなどを実際に本人に試させたかったのです。海外暮らしが長いので、他の当事者親子がどう成長しているのか、親御さんがどういう関わり方をしているのか、どんな用具を使っているのか、年に一度の貴重な交流の場でもありました」

長野県佐久市で離れて暮らす妻のるいさん(38)や友人らと会う約束もして、楽しみにしていた。

予約したその日に航空会社の24時間窓口に「車椅子の預け入れ」を申し込もうと電話したが、「コロナ対応のため営業時間短縮」のためつながらなかった。

翌日、改めて車椅子の預け入れの希望を電話連絡した。

すると、折り返してきたジェットスター・ジャパンの従業員が「車いすの客の上限人数を超えているため搭乗受け入れができない」と告げた。

「手伝い不要」と事前に告げたにもかかわらず...人数制限を理由に拒否

ジェットスター・ジャパンのウェブサイトによると、「車椅子での移動のお手伝いを必要とするお客様のご予約は、各フライトにつき2名様まで」とされている。

車椅子での移動のお手伝いを必要とするお客様のご予約は、各フライトにつき2名様までとさせていただいております。ご希望のフライトで人数の上限に達しているかどうかをご確認いただくため、フライトを予約される際、車椅子でのお手伝いが必要な場合は、その旨を当社までお知らせください。詳しくは、介助および移動介助に関する制限をご確認ください。(ジェットスター・ジャパンウェブサイトより)

しかし、座光寺さんは搭乗前に車椅子を預けた後は、同行する自分がはるかさんを抱いて搭乗し、降りる時まで全て自分で介助する。事前の電話でも、「航空会社の手伝いは必要ない」と伝えていた。

「航空会社が掲げている人数制限の要件には当てはまらないと思うのです。手伝いはいらないと伝えていたのですが、手伝いの人員が手配できないということで搭乗を断られてしまいました」

「別に誰か赤の他の人に車椅子を押してもらうとか、特別なタラップを準備してもらうとか、航空会社や周囲の乗客に迷惑をかけるつもりはなかったのです」

ジェットスターでは膝の上に乗る赤ちゃんについても9人までと人数制限を設けている。その赤ちゃんの枠は余っていた。座光寺さんは「赤ちゃんと同じような要件なのでその枠で考えてもらえないか」ともお願いしたが、それも無理だと回答された。

「親が抱っこして乗り降りする点では赤ちゃんや幼児と同じはずです。でも、『緊急時の脱出の時に万が一、介護者である親が怪我をしたら娘さんの脱出を手伝うのは航空会社なのでそこは譲れない』と言われました」

だが、赤ちゃんや幼児、杖をついたお年寄りなども同行する介助者が緊急時に怪我をしたら、スタッフが脱出を手伝う必要がある。条件としては、はるかさんと同じはずだ。

「緊急事態で家族が怪我をする可能性は障害児の親でなくともいくらでもあるし、みんなが無事でいることのほうが難しいのではないでしょうか」

座光寺さんは再検討を依頼したが、「やはり見通しがたたない」と曖昧な言葉が返ってきた。

日本行き自体を断念 過去50回のフライトで搭乗できなかったのは初めて

予定が定まらず宿泊先の手配や予定している友人たちへの連絡する必要もあったので「はっきりさせてほしい」と伝えた座光寺さん。フライトの13時間前となる4月14日の午前中に航空会社から「搭乗受け入れ不可能」と改めて連絡があった。

代替案として、愛知県の中部国際空港に到着する便への振替えと愛知から東京までの交通費の提供を提案された。

しかし、ただでさえ1泊2日の短い滞在時間で往復4時間以上のロスが生じれば多くの予定がこなせなくなる。長時間の移動で制限の多い娘の疲労が大きくなるのも心配だ。

日本で待つ家族とも相談の上、日本行き自体を断念することにした。

「計画がおじゃんとなり、モヤモヤが残りました」と座光寺さんは語る。

日本で待っていた妻のるいさん(38)も「びっくりしました」と言う。

「今まで同じ車椅子の重度心身障害児がいるお母さんから似たような話を聞いたことはありました。でもはるかは8年間で50回ほど飛行機を使ってきて乗ることができなかったのは初めてです。『こんなことが実際にあるんだ』と驚きました」

配慮をどこまで求めるか?「結局、当事者は声を上げづらい」

「乗客の安全」という錦の御旗を盾に取られると、ただでさえ「助けてもらっている」「迷惑をかけている」と社会から思わされがちな障害児の親はそれ以上強く要求しづらい。

「全て納得はいかないのですが、しょうがないなとも思いました。対応してくださった方や航空会社に言い分があるのは想像できます。しかし、動けない障害者のために社会がどこまで配慮するか、合理的な配慮ってどこまでなのか線引きは難しく、当事者は声を上げにくいと感じています」とるいさんは話す。

今回の旅の一番の目的だった福祉用具展に一人で行ったるいさんはこう思った。

「やはり娘を連れていきたかった。会場に本人がいないと乗せてあげたり試したりができないので、意味がないなと感じました」

座光寺さんもこう話す。

「今回はこの旅行に行かなければ命に関わるというわけではなく、より生活を豊かにするための旅行です。周りからは『そんなわがまま言わなくてもいいんじゃない?』という視線を感じます」

「どこまでが合理的な配慮で、どこからがわがままなのか。誰が決めるのかわからない中で、声を上げるのは怖い。おかしいと思っても障害児の親は声を上げる叶わない立場にあるように感じます」

しかし、健常者ならなんの制約もなく飛行機には乗れるし、その目的が生活に必須だろうが、遊びだろうが、社会に問われないはずだ。障害者差別解消法ができたにもかかわらず、障害者だけに過剰な制約がかかる社会の方に問題があるのではないか。

座光寺さんはこう言う。

「我々は当然のように1週間、2週間前に予約を取らなければならないし、当然のように日中の時間、電話をかけて交渉しなければならないし、JRの乗り継ぎの時間も『1時間は取ってください』と言われます」

「見えない壁はたくさんあります。障害があるとただでさえ社会参加や移動に難しさがあるので、こうした物理的、精神的なハードルはむしろ健常者よりも少なくあってほしいし、手続きも簡便にしてほしいです」

国交省専門官「説明不足」「客観的な理由を示せたか?」

これについて、「障害者差別解消法」の航空機に関わる分野を担当する国土交通省航空事業課専門官の村田高志さんは「個別の事案について判断はできませんが」と前置きした上でこうコメントする。

「おそらく8条1項の『不当な差別的取扱い』に当たるかが問われているのだと思います。この法律では、正当な理由なく障害を理由としてサービスの提供を拒否するのは禁止されています。この『正当な理由』については『国土交通省所管事業における障害を理由とする 差別の解消の推進に関する対応指針』に書いています」

「その中で、サービスや機会の提供を拒否する場合、『事業者は、正当な理由があると判断した場合には、障害者にその理由を説明するものとし、理解を得るよう努めることが望ましい』としています」

さらに、村田さんは、指針には事業者が「安全確保」などを理由に、「拡大解釈」をしないよう釘を刺していると話す。

「指針には、『正当な理由』を根拠に不当な差別的取扱いを禁止する法の趣旨が形骸化しないように、拡大解釈することや、具体的な検討なしに単に安全の確保などという説明のみでサービスを提供しないといったことは適切ではないとまで書いています」

「搭乗を拒否する場合は、お客さんに対して理由を説明して理解を得ることが望ましいとしている部分が、今回の場合どうだったのかなと思います。また、正当な理由については客観性が求められるので、その航空会社に説明を求めていただければと思います」

つまり、

  1. 拒否した理由に客観性があるか?
  2. 理由を説明して理解を得られたか?


が法律や指針に基づく論点となりそうだ。

少なくとも両親は拒否した理由の説明に完全には納得しておらず、幼児や赤ちゃんなど一人で行動するのが難しい乗客との取り扱いの違いの理由は客観的に示されていない。

障害者差別解消法に詳しい弁護士は?

障害者差別解消法に詳しい弁護士で社会福祉士の青木志帆さんは、「この航空会社の搭乗拒否は、合理的配慮の不提供ではなく『不当な差別的取扱い』に当たると考えられます」と指摘する。

「本件は、子どもが全介助の障害があるというだけの理由で搭乗拒否をしたものです。親が、何らかの合理的配慮を求めたものでもなく、『正当な理由なく、航空サービスの利用を拒否した』ものであり、障害者差別解消法で禁止される不当な差別的取扱いに当たります」

「運送約款上も、『特別な介助を要するお客様が事前手配をしなかったとき』には搭乗拒否できるとされていますが、本ケースはスタッフの介助を求めていないのでこの条項にも当たりません。この意味からも搭乗を断る理由はありません」

航空会社側が「緊急時の脱出の時に、父親が万が一怪我などをした場合は介助できなくなり、スタッフに介助の必要性が出てくる」と主張していることについてはこう反論する。

「障害者がまちを歩くと、必ず『何かあったらどうするんだ』と、あり得ない条件設定で『もしも』を追及されます。でも、それを言い始めたら障害者はなんにもできませんし、彼らが想定する『もしも』は、だいたい障害がなくてもどうしようもない場面であることがほとんどです」

「『そんな緊急事態の場面になったら、乗客全員、全介助になるでしょうに』と突っ込まざるを得ません」

ジェットスター・ジャパン「差別のつもりはないが...」

BuzzFeed Japan Medicalはジェットスター・ジャパンに取材した。

まず、「航空会社側の手伝いは不要」と伝えているにもかかわらず、「車椅子での移動のお手伝いを必要とするお客様」としての制限枠に当てはめた理由について聞いた。

ジェットスターは「上空では想定外の偶発的事象が起こる可能性がある」とした上で、「人的リソースを含めて十分な体制をもって全てのお客様が安全にご利用いただけるよう、特別なお手伝いを必要とされるお客様のご利用人数を2名様までとしています」と回答した。

しかし、繰り返しになるが座光寺さんは「手伝いは不要」と事前に伝えており、「特別なお手伝いを必要とされるお客様」ではない。

要件に当てはまらないのに、この制限枠を適用したのはなぜか、再度、質問をしたところ、こんな回答があった。

「お客様はお手伝いを必要としていないとおっしゃるかもしれませんが、万が一を想定しての運航をしております。もちろん何事も起こらなければいいのですが、突然の気流の乱れなどで何が機上で起こるかわからないところがありますので、その万が一を考えて...」

だが、上空で激しい気流の乱れなど「万が一」のことが起きれば、健常な乗客でも影響を受けるはずだ。または幼児や杖をついたお年寄りなどはよりケアを必要な状況に陥るだろう。障害者のみが影響を受けるわけではない。

ジェットスターは、そうした万が一の事態があった場合、障害者のみが影響を受け、健常な乗客は必ず無事でいるとでも考えているのだろうか?

ジェットスターは「それはございません」と認める。つまりそんな事態が起きれば、障害者だけでなく全ての乗客に影響がある可能性を認識している。

そうであれば、「上空での想定外の偶発的事象」を理由に、ことさら障害者だけ事前に制限をかけるのはなぜなのか。障害を理由とする差別ではないのか。

「私どもは差別という形にしているつもりは全くございません」と答えたが、なぜサービスの利用を断ったのか合理的な理由は聞けなかった。

また介助者の有無により制限枠の人数を変えていないことについては、限られたスタッフや体制で運航しているLCC(格安航空会社)であることを理由とした。

「徹底した合理化を図りながらお客様に低運賃を提供するLCCの運航を実現させるため、多くのスタッフが複数の業務を担当しています。また、LCCは多頻度運航を実現するために、折り返し時間を比較的短く設定しています」

「現在の限られたスタッフ・設備・体制で予定されたスケジュール通りに運航するために、2名までのご利用とさせていただいております」

その上で、障害者に対する社会の壁を取り除く障害者差別解消法の「合理的配慮」が来年度から民間企業にも義務付けられる中、法の主旨にそぐわない対応だったのではないかという指摘については、以下のように改善を検討する旨の回答があった。しかし、具体的にどう変えるかについては言及がない。

「お客様に、これまでにはなかった低運賃を提供する新しいビジネスモデルであるLCCを日本市場に定着させるために、お客様のご協力の下、合理化に努めてまいりました。その過程において、お客様にはご不便をおかけすることもありました」

「一定の定着が実現できたことで、今後はお手伝いを必要とするお客様を含め、より多くのお客様にご利用いただけるよう、対応の強化を図るべく改善を進めてまいる所存です」

LCC最大手のピーチ「これまで搭乗を断ったことはない」

他のLCCはどうか。

日本で初のLCCとして2012年3月から就航しているLCC最大手のピーチ・アビエーションも、座光寺さん親子が今回、搭乗できなかった「A320」という180人乗りの機種を主体に運航している。

そして、ピーチも数字は明らかにしていないものの「安全保安上の理由などにより」車椅子を使うなど、体の不自由な乗客の人数制限は設けているという。それは介助者が同行して、「介助は不要」と伝えた場合でもそうだ。

ただし、ジェットスターと異なるのは、2012年3月の就航開始以来11年以上、障害を理由に搭乗を断ったことは一度もないということだ。

ピーチ広報部は「可能な限りお断りすることがないように調整はしております。お身体の状態や受け入れ能力などを総合的に考慮し、やむを得ずお断りする場合もあるかもしれませんが、今まではそのようなことはなかったということです」と話す。

大手航空会社の対応は? ANA、JAL

大手航空会社はこうしたケースについて、どのような対応をしているのだろうか?

ANA(全日空)も緊急時の対応を想定して、車椅子利用の一人では脱出できない(介助がないと座席に着席が難しい)障害者の人数制限を設けている。

ただし、ジェットスターと違い、介助者がいる場合といない場合と制限数を分けている。

乗客400人以上の機種では介助者がいる場合は16人、障害者1人の場合は4人、乗客200〜300人ぐらいの機種では介助者がいる場合は8人、1人の場合は2人だ。100人も乗らない小型のプロペラ機なら介助者がいる場合は4人、1人の場合は1人となる。

ちなみに幼児の人数制限は乗客の約20%以内と障害者よりもかなり緩い。

ANA広報担当者は「この制限規定に引っかかって搭乗を断った事例はあまり聞かない」とするが、この人数制限を超えた場合はその機種の搭乗は断る。「同行する介助者が全て面倒をみて、手伝いは不要」と申し出た場合も同じだという。

ただし、そのフライトをより大きな機種に変更して人数制限の上限を増やすなどの調整は検討するとしている。

「人数規定に引っかかったとしても直ちに断ることはしません。実現できるかどうかはわかりませんが、公共交通機関として何とか乗れるようにできないかお客様とお話ししながら調整を努力する」と言う。

そのほか、車椅子の大きさや重さが機内の格納庫の基準を超えた場合も、搭乗を断る場合があるという。

JAL(日本航空)も、機種の大きさ別に車椅子利用の乗客について、介助者の有無別に目安の人数制限(非公表)を設けている。

ただし、「万が一その設定人数を超えてしまった場合でも、 安全を考慮したうえで、極力ご搭乗いただけるよう調整させていただいている」とする。

人数制限は絶対的なものではなく、柔軟な対応が可能なようだ。

障害者と接点を持ち、理解してほしい

るいさんは今回のトラブルについて、日本社会の「ゼロリスク」を求める特徴や、障害者と健常者が引き離されて生活している環境が影響していると感じている。

「リスクをなるべく取りたくないという守りですよね。日本の『何かあった時にリスクを取れない』という意識が前面に出ているなと感じます」

そしてこう訴える。

「障害のある人と接点を持ってほしい。みなさん知らないから、どういう助けが必要か、またはいらないのかがわからないのは当然ですよね。学校の教育から分離されているので、知る機会がないのが問題なのではないかと思います」

「知らないと恐いでしょうし、距離を取ってしまいます。もしかしたらジェット・スターの人も画面越しでもはるかに出会ってくれたら、違う結論だったかもしれません。私たちははるかのことをどんどん社会に紹介していきたいし、知ってほしいなと思います」

座光寺さんもこう願う。

「今回のことに関していえば、もう少し柔軟に対応してほしかったと思います。そもそも、もっと障害のある人との接点が増えて、みんなが自分ごととして捉えてくれる社会になるといいなと思います」