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厳罰主義が広がる時代 クラブカルチャー、そして若い世代への影響は? 深澤真紀さん、松本俊彦さん薬物報道を斬る(3)

ピエール瀧さんの摘発で、ドラッグカルチャーとの関連が取りざたされてきたクラブカルチャーへの悪影響が心配されます。そして、「厳罰主義」に傾く若者の気質まで話は膨らんでいきます。

クラブカルチャーの中で生きてきたミュージシャンのドラッグ摘発という意味で、これまでとは違う様相を見せるピエール瀧さんの逮捕。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

「薬物に関しては医師も厳罰主義が広がっている」と話す松本俊彦さん

獨協大学特任教授でコラムニストの深澤真紀さん、薬物依存症の専門家、松本俊彦さんの対談第3弾は、クラブカルチャーへの悪影響やピエール瀧さんと同じく1967年生まれの二人が過ごしてきた時代、そして今の若者の気質にまで話が膨らんでいきます。

シャブ山シャブ子の反応 医者にも根付いた厳罰主義

松本 ちょうど僕は、去年、結構衝撃を受けることがあったんですよ。一つは、テレビドラマ『相棒』に登場した薬物依存症の女性キャラクター「シャブ山シャブ子」のことです。ゾンビのように啓発運動が繰り返してきた間違ったイメージを演じて、偏見を広げると思いました。

深澤 なまじあの女優さんが頑張って演技しただけに、印象が強かったですね。

松本 彼女の演技を貶めるつもりはないのですが、あれが薬物依存症の人の典型的な姿だと思われたらたまらない――そう思って、その時にプレジデントオンラインにシャブ山シャブ子』を信じてはいけない」という記事を書きました。

それがヤフーのヘッドラインニュースに転載されたところ、コメントがなんと2500ぐらいつきました。

大半が悪口で、こんなに人から嫌われているのかと思って、山手線のホームに立つ時は柱を背にして立たないとダメなんじゃないかとまで思い詰めてしまいそうな事態でした。

でもそれ以上にショックだったのは、医師向けの医療サイトがあって、医師限定でコメントが書けるのですが、そこで「刑罰よりも治療」と書いたら、医者仲間で炎上したのです。

いわく、「犯罪者を税金使って治療する必要はない。そもそも、警察に通報しないのは犯罪の隠匿だ」といった論調です。

僕は大麻を合法化しろとは思っていないのですが、せめて医療機関に来て助けを求めた場合は、通報ではなくて、治療についての情報提供が必要なのではないかと思っています。

それが日本でできるハームリダクション(すぐに不健康な行動をやめられない時に、健康被害を少なくするような対策)だと思っています。ところが、それは本当に医療者の中では共有されていなくて、むしろそのサイトでは通報したことを武勇伝のように語る先生も多かったんです。

医師の守秘義務は刑法で定められていますし、「ヒポクラテスの誓い」にも書かれていることです。なぜこうなってしまうのだろうかと思いました。

僕も医学部の熱心な学生ではなかったのですが、振り返ってみれば医学部の6年間の中で薬物依存症の講義は、依存症全般を含めて90分1コマあっただけです。その中で薬物が少し触れられだけで、治療法や回復の可能性なんてまったく教えられませんでした。

そうすると今の若いお医者さんたちはどこで薬物や依存症に関する知識を得ているかというと、中学・高校の薬物乱用防止教室なんですよ。その感覚で医者になって、「1回使ったら人生終わるよね」という意識で患者を診ることになります。

今回、ピエール瀧さんの件でよかったのは、20代からドラッグを使っていても、別に人生が終わっていないということを逆に知らしめたことでしょうか。

クラブカルチャーの中でのドラッグカルチャーの存在

深澤 30年間気づかれず、むしろミュージシャンとしても、役者としていい仕事を続けてきたことについては、「どういうこと?」って思った人も多いと思うんです。

松本 でもそんな人はゴロゴロいるんですよ。

深澤 でもあのレベルの有名人で、ここまで気づかれなかったのは珍しくないですか?

松本 おそらく30年間ずっとコンスタントに使っていたわけではなかったのかもしれません。休み休み使っていたと思うし、常習性があるなら、コカインだと効いている時間が短いので、効き目が長い覚醒剤に移行してしまうことが多い。

だとすれば、逆に、コカインで踏みとどまっているのは随分自らを律している、という見方さえできるのかもしれません。

忘れてはならないのは、薬物を一回でも使ったら必ず依存症になるわけではない、という事実です。

たとえばアメリカで行われたある研究に、1回でも精神作用物質を使った人のうち、将来依存症になる人はどれぐらいになるかを調べたものがあります。その研究結果によれば、ヘロインだと大体35%です。結構大きい。コカインだと22%、覚醒剤だと15%。

そして驚くべきはアルコールで、4%なんですよ。だからアルコール依存症は母数を考えると結構いるということですよね。精神作用物質の健康被害や社会的影響については、もう少しニュートラルに伝えないといけないのだろうなと思います。

深澤 松本さんは依存症は人間関係の病だとおっしゃっていますよね。今回のようにクラブカルチャー的な人間関係で、薬物のやりとりがあったようだということについてはどう考えたらいいのでしょう。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

クラブカルチャーとドラッグカルチャーとの関係性について疑問をぶつける深澤さん

私たちが若い頃、クラブカルチャーはドラッグカルチャーと近しいものだと認識されてきました。『危ない1号』とか『危ない28号』(1995年から99年に発行された、ドラッグカルチャーのことも積極的に取り上げたアングラ雑誌)など、サブカルチャーとしてのドラッグが語られた時代もある。

これからの捜査で、もしも今でもクラブカルチャーとドラッグが近しいのだとわかったら、どう支援の手を差し伸べればいいのか、このあたりの問題は松本さんのご著書にもあまり書かれていないかと思うんですが。

クリーンなクラブカルチャーを目指すべきなのか?

松本 確かに書いていないですね。でも、クラブが使うきっかけだったという人はたくさんいます。そのあとはクラブ外で使うようになる。ただ、クラブだけで使っている人が医療に来ることはほとんどないです。

もしかすると、そんなに変な使い方になっている人は少ないのかもしれませんね。それは僕らにも分からないんですが。

深澤 欧米ではドラッグ回復支援団体が、クラブでの支援活動をすることもあるようですが、今回の逮捕で初めて日本での問題が顕在化したかもしれないんですね。

松本 そうですね。うちの研究部の研究者が、音楽フェスの時に、フェスに参加している人たちにアンケート調査をして、受けてくれるとドリンク1杯無料などをしているんです。

そうすると一般人口よりはるかに使用率は高いですね。ですから、クラブとか音楽フェスが薬物とかなり親和性の高い場であることは明らかといえそうです。

そういう意味では今回はおっしゃるように初めてクラブカルチャーの問題が出てきたんですよね。ここから先が悩ましいのが、じゃあクラブカルチャーを撲滅せよ、とか、あるいは、クラブカルチャーは完全にクリーンを目指して、レイブやっているハコは全部、麻取が定期的に巡回して監視・監督すべきかという話になってしまいます。

深澤 日本では2016年に風俗営業法が改正されて、条件を満たせばクラブの深夜営業ができるようになりました。DJやラッパーなどが、日本でも大人のナイトカルチャーを作っていこうと、さまざまな形で頑張ってきたわけです。

日本でもやっと深夜に踊れるようになった時に、今回の逮捕で「クラブでの薬物取引がやっぱりある!」ととりあげられると、「やはり深夜営業はダメだ」という、ナイトカルチャーを否定する動きに一気に振れてしまうのではないかと心配しています。

若者が使っているわけではない 多いのは中年以上

深澤 この問題については、どう考えればいいと思われますか?

松本 確かにクラブカルチャーはそうなんですけれども、若者に蔓延していると一般論で語るのは違うと思うんですよ。実は、うちの研究部が経年的に実施している全国の中学生を対象とした調査でも、実は薬物の生涯経験率は下がっているんです。

深澤 大学生なんて、私たちの時代から比べたら酒もタバコも激減していますから。

松本 15年前から、少年院と少年鑑別所に定期的に行っているんですけれども、15年前はいた薬物少年がいなくなっているんです。

深澤 シンナー少年もですね。

松本 シンナー少年なんて、今や完全に絶滅危惧種ですよ。

深澤 「私が中学生の頃、同級生が校舎の裏でシンナーを吸っていた」という話を講義でしたら、学生はポカンとして、「シンナーを吸う? なんのために?」という反応です。

松本 そんな感じです。確かに女子は昔から年上の男から影響を受けて使うというパターンはあるんですけれども、男子は暴走族とか、早くも暴力団の準構成員になっている、といったタイプがいなくなりましたからね。

じゃあ何をして少年院に入ったのかというと、典型的な例は、好きな女の子に告白できないから、女の子のカバンにウンチをしちゃったとかです。こうしたケースの多くが、自閉症スペクトラム障害などの発達障害を抱えています。

こういう子たちを少年院に入れて一体どう矯正教育をするのかという感じです。こんな状況ですから、若者の間では、薬物の問題はだんだん沈静化しています。

深澤 私たちが中学生の頃が、校内暴力や家庭内暴力が一番問題になった時代ですから。

松本 そうなんですよ。

深澤 だって私たちの時代の中学校なんて、男子は角材でトイレの便器や窓を割っちゃうし、屋上では根性焼きをやってるし、「アンパン(シンナーの隠語)」と言われたら、「それは木村屋の方?」って聞かないといけない(笑)。松本さんも私も関東の郊外で育ったから、同じような光景を見ていると思います。

金八先生が始まったのが1979年で、私たちが中学生の時です。第1シリーズの「15歳の母」はあるあるという感じでしたし、第2シリーズは「腐ったミカンの方程式」で有名ですが、校内暴力をテーマにして、そこで描かれた中学校に警察が介入するということも、珍しくはなかった。

若者は多様性に寛容な一方、厳罰主義に

深澤 そう考えると、現代の若者の犯罪率は下がっているし、交通事故率も下がっている。それなのに、若者が事件を起こすと「若者けしからん」となる。普段は「草食化」って批判しているのに、若者が元気があるのかないのか、どっちを叩きたいんだって思います。

そもそも瀧さんだって50歳過ぎてますし、もしクラブカルチャーとドラッグに関連があっても、それは若者の問題とはいえないでしょう。

松本 同じ年ですよ。僕ら、清原さん、ピエールさん、一番悪い世代(笑)。

深澤 私たちの世代は、自分たちが若い頃にダメだったから、今の時代の若者もダメだって思っているわけですよ。

でも、今の若者って本当にまじめです。ただそれは一度でもルートから外れたら戻ってこれないという強迫観念の裏返しでもあります。だから日本人全体の自殺率は減っても、若者の自殺率は高くなっている。

今の若者ちょっとしたことでも外れたら、もう許されない。私たちの若い頃は、「マッポ(警察の俗称)につかまるなんてかっこいい」みたいに語られることすらありましたから。

松本 それでも、そういう子が何十年かすると地元の商工会議所の中心的なメンバーになっていたりね。

深澤 ありますね、「昔はやんちゃだったから」と武勇伝にしてしまったり。だけど、今の時代は違いますよね。若者にとっては厳しい時代だと思います。

一方で若者は、多様性にはすごく寛容になっています。

昨年「平成はどんな時代か」というテーマでレポートを書いてもらったら、「ネットの時代」「スマホの時代」「災害の時代」というのが多かったんですが、その次に「LGBTとか女性などの権利が認められるようになった時代」と書いてくる学生が多かった。しかもそう書いたのは男子学生の方が多かったぐらいです。

男子学生は「不寛容な中高年世代」が嫌いなので、「少数者に寛容であろう」としています。そうやって多様性には寛容なのですが、その一方で、正義感がともて強くて、厳罰主義の一面もあります。

昨年オウム事件で死刑執行のニュースを講義で取り上げて、「私は死刑反対の立場」と言った時には、多くの学生に「先生は間違っている!」と怒られました。「でも先進国で積極的に死刑執行しているのは、日本だけだよ」と言ったら、「そんなの誰からも教わらなかったし、そうだとしても日本に死刑は必要だ」と言う。

他にも、「日本では残虐な少年事件があると、少年法の適用年齢を下げるけれど、特殊な案件に影響されるよりも、更生が大事だ」と言うと、「それでも、少年法の年齢は下げる方がいい」と言われるんです。

多様性には寛容なのに、正義感が強すぎて厳罰主義なんですよ。それは若い世代が、外れることも、戻ることも許されないからだと思うんです。

「犯罪」に対して厳しい若者たち

深澤 今回の薬物事件も講義で取り上げる予定ですが、たぶん「先生は甘い。治療なんかできるものではない」という反応が多いでしょうね。

中高年世代からみると、今の若者は「モラルは緩く、多様性に厳しい」というイメージでしょうが、実は逆で「モラルは厳しく、多様性には寛容」な若者が多いのです。

たとえばバイトテロも、若者のモラルの緩さだと思われがちですが、若者はバイトテロをする同世代にも非常に厳しいです。

「あれは本人だけじゃなくて、バイト環境にも問題があって、スマホを厨房に持ってこられないようにするとか、ワンオペをやめるとか、企業側にも対応が必要だと思う」と言ったら、「やったやつが悪いんだから、名前も出したほうがいい」ぐらい厳しいことを言う。

自分たちが苦労して守っているルールを、破っている人間は許せないと言うんですね。だから若い世代が窮屈なルールに縛られずに、過剰な正義感を持たなくてもすむような社会にしたいと思うんです。

保守的な高齢男性とリベラルな高齢女性

松本 若い世代ってそうなんだと思いながら聞いていたんですけれども、文春オンラインのアンケートで、ピエール瀧さんが出ている作品の自主回収に賛成か反対かと聞いたら、自主改正すべきと言うのが一番多かったのが70代男性だったんですよ。一番低かったのが70代女性で(笑)。

深澤 60代70代女性は、本当にリベラルですね。若いときから日本社会や男性社会にずーっと我慢していたら、結局変わらなかったじゃないかという怒りを抱えている。

私を講演に呼んでくれる団体は2つに分かれるんですが、1つはその高齢女性で、私の著書やメディアでの発言を理解した上で呼んでくれる。

もう一つは高齢男性ですね。この人たちは私が草食男子の名付け親だから、若者を叩いてくれると思って呼んでいるわけです。フタを開けたら、私は若者を褒めて、「日本のおじさん世代は先進国の中でも、勉強しないし、本も読んでいないから、もっと勉強してください」とディスるわけです(笑)。

一方で、若者は交通事故を起こさない、薬物も中高年の方が多い、殺人もしないのにと言ったら、その団体の一番偉い高齢男性が講演後に、私に「いやあ、今の若者は情けないねえ。人も轢かなきゃ、人殺しもしないなんて」と真顔で言うんです。

その認知の歪みはどこからくるの?と思いますよね。

(続く)

【深澤真紀(ふかさわ・まき)】獨協大学特任教授、コラムニスト 

1967年東京生まれ。早稲田大学第二文学部社会専修卒業。いくつかの出版社で編集者として勤め、1998年企画会社「タクト・プランニング」設立。2006年に日経ビジネスオンラインで命名した「草食男子」が、2009年流行語大賞トップテンを受賞。

『ニュースの裏を読む技術ーー 「もっともらしいこと」ほど疑いなさい 』(PHPビジネス新書)、『輝かない がんばらない 話を聞かないーー働くオンナの処世術』(日経BP)、『女オンチーー女なのに女の掟がわからない』(祥伝社黄金文庫)、『ダメをみがくーー"女子"の呪いを解く方法 』 (津村記久子との対談、集英社文庫など著書多数。公式サイト

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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