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妊娠8ヶ月で相談しに来た女子高生も コロナ禍で過酷になった女子の性の健康

コロナ禍で家に居場所がない女の子の性の健康が脅かされています。無料で産婦人科医療を提供するプロジェクトとタッグを組んだColaboの仁藤夢乃さんに、今、必要な支援を聞きました。

お金がなくてピルを飲めない人や性感染症の治療などができない人に、無料で産婦人科医療を提供する「無料プロジェクト」。

産婦人科医の宋美玄さんが始めたこの取り組みに女性を紹介しているのが、繁華街を徘徊する女の子を支援している一般社団法人「Colabo」だ。

若い女性たちは今、性の健康に関してどんな問題を抱えているのか。そしてどんな支援が必要なのか。

BuzzFeed Japan medicalは、「Colabo」代表の仁藤夢乃さんに話を聞いた。

性暴力被害に遭った女の子が、ワンストップ支援センターや産婦人科を避けるわけ

——どういう女性に声をかけているのですか?

女の子たちから「生理痛でピルが飲みたい」とか「避妊のためのピルが欲しい」とか「アフターピルが欲しい」などと言われて紹介することが多いです。また、レイプされても、「性犯罪・性暴力被害者のためのワンストップ支援センター」には行きたくないという子もいます。

——なぜ行きたくないのでしょうか?

正直、女の子たちがワンストップ支援センターに相談して何かしてもらえた経験がほとんどないからです。私たちから相談しても、「警察に行って」とか「事件にするなら動けることもあるよ」と言われただけのこともあります。

しかし、Colaboとつながる女の子たちは家に帰らずに生活していたり、警察に相談したくないと思っている子がほとんどなので、警察に言いたくないから、ワンストップ支援センターに電話しているのです。

ある支援センターは、夜に女の子からSOSをもらった時に電話して、「今からでも対応してもらえる病院はありませんか?」と聞くと、「警察に行ってもらうしかないですね」と言いました。「Colaboではいつもこういう時にどうしているんですか?」とも聞かれて、驚きました。

その時は、性虐待を受けた女の子が「今は訴えたくないけれども、証拠は保存しておきたい」と言うので、膣や体についた加害者の体液を採取して、冷凍保存してもらいました。そこでは夜でも対応してくれる婦人科と連携していたのです。

でも東京では「訴えたいなら警察に行ってください。紹介できる病院もない」と言われたことが複数回あり、「ワンストップ支援センターとして機能していないのではないか」と思わざるを得ませんでした。中で活動する複数の相談員の方からも、そうだと聞いています。

諦めて、数年前からは相談もしなくなりました。でも自分たちで産婦人科を探そうとしてもいいところがなかなかないのです。性暴力診療に慣れた医師がいることも必要ですし、女の子にとって便利な場所にあることも大事です。

女の子の地元の病院に同行した時は、性搾取(買春)の被害に遭っていたことが伝わると、「体を売ってそうな顔してるわ」と高齢の男性産婦人科医から言われたこともあります。

ピルやアフターピルが欲しいと言える子は、自分を大事にしようとしている子

——専門家なのに酷いですね。

女の子が自分で「アフターピルが欲しい」と言ったら、「なんでそんなことしちゃったの?まだ若いのに」と責める医師もいるのです。こういうことは日常茶飯事です。

むしろアフターピルが欲しくて病院に行っている子は自分を大事にしようと思っているわけですから、良い行動なはずです。妊娠したらまずいと思って予防する行動ができるのだから、私たちの出会っている女の子の中でも危機対処レベルは高い方です。

それなのに、そういう子ですら医師から怒られたり、「親の同意がないと出せない」と言われたりして、何も処方してもらえずに帰ってきてしまう。

そもそも、そんな危機対処レベルの高い子も、お金がなければかかれません。基本的にColaboが出会うような女の子は、路上をさまよって、性買売や性搾取の被害に遭っている子が多いので、お金の問題で受診できないことも多いのです。

よくあるのは、行くところがなくて、彼氏や友達の家に泊まって性行為をした、という例です。そんな時、本人は「仕方なかったし、自分もいいよと言っちゃったんだよね」と言います。

でも、家に帰れないから友達の家を転々として、お金がないから危険な性行為に応じているんです。その結果、妊娠の可能性を心配して、自分を責めている。

高校に通って家に帰るとご飯が出てくるような一見普通の家の子でも、正しい性の知識がないし彼氏との関係も対等ではないので、求められたら断れず、応じた自分を責めています。

「そんなことを彼氏がしてくること自体が性暴力なんだよ。嫌だと言えなくても、あなたが悪いんじゃない。言えなくて当然なんだよ。相手はあなたが抵抗できない状況を利用して、そういうことをやっているんだよ」と伝えます。

「彼氏はどういうつもりなの?」と聞くと、そういう子は「彼氏もお金がない」と彼の方の心配もしていて、対等に話せる関係性にはないことが多いです。


私たちは「彼氏は責任も取れないのに、なんでそういうことをするの? それで本当に大事にしてくれているとは思えないな」と伝えながら、その子については否定するわけではなく、「具体的にできることをやっていこう」と寄り添います。

今まではそういう時に相談できる病院もなかなか見つからなかったのですが、そんな時に宋美玄さんが無料の診療プロジェクトに声をかけてくれたんです。とてもありがたい話だと思いました。

「タダでピルがもらえる」が支援につながるきっかけに

——女の子たちにはどう呼びかけているのですか?

SNS(TwitterInstagramFacebook)などで「避妊に失敗したり、生理痛が重かったりして悩んでいる女の子へ。ピルの服薬やアフターピルの処方について相談に乗ってくれる連携病院があります。お金の心配はいりません。必要な人は気軽に声をかけてね」ととカジュアルに呼びかけています。実際に紹介し始めたのは2021年5月からです。

でも、予約をしても行かなかった子もいるんです。

——宋先生からも聞いているのですが、なぜすっぽかしちゃうのですかね?

約束して時間通り行くことが難しい子もいるんです。宋さんのクリニックは午後4時までしか開いていないのですが、夜中は街をさまよっていて、その時間までに起きられない子もいます。

病院まで行く交通費もなかったり、今日食べるもの、寝るところ、服もない子も多いので、そもそもそんなことのためにお金を使えないという優先順位になるのです。保険証を持っていなかったり、使うと親に怒られたりする子もいるので、宋さんは保険証なしでも診てくれています。

——きちんと起きられて、クリニックに行き着けた子は、ピルを処方されたりするわけですね。処方してもらって、どう言っていますか?

ピルも半分以上が継続しているそうですね。続けて病院に通うなんて、なかなかできない状況にある子たちが、継続して医療にかかれることはすごいです。

ピルが欲しいと言ってくることをきっかけにして、私たちも女の子とつながることができるので、こういう悩みを相談してもらえるハードルが低くなるのは私たちにとってもありがたいことです。タダでピルがもらえるから相談してくれるわけですから。

来た女の子に「何があったの?」と聞くと、性暴力の被害や彼氏との関係を話してくれる。その背景には、家に居られない事情などがある。

アフターピルや無料のピルがあれば解決、ではありません。なぜそれが必要な状況に至ったかについても聞いて、その先の力になるような支援のきっかけになっています。

コロナ禍で相談の場も余裕を失う 8人が中絶できない週数で相談

「彼氏に生でされた」とか「中出しされた」という性暴力は、一般の高校生の中で起きまくっています。でも、それを人に言えない。生理が来るまでみんな一人で「大丈夫かな」と不安に思いながら過ごしています。路上をさまよっている子だけの問題ではありません。

そういう子がこういう呼びかけをすることで、「実はね」と相談しにきてくれます。

場合によっては知識がなくて、性交から72時間以上経っている場合もあります(アフターピルの効果が高いのは性交から72時間以内)。そういう時も、「次の生理予定日からこれぐらいで妊娠検査薬が使えるから、その頃また来てよ」と、夜のバスカフェ(※)に来てもらうこともあります。

※Colaboが週に1回夜の渋谷と新宿・歌舞伎町に出して、街を歩く少女たちに無料の食事や飲み物、衣類など生活に必要なものを提供しているバス。相談支援につながるきっかけにしている。

無料のアフターピルをきっかけに介入できるのです。不安にも付き添えるし、妊娠検査薬もできるし、もし妊娠していたら一緒に病院に行くこともできる。

コロナ禍で妊娠関連の相談はすごく増えています。2020年度には、バスカフェやColaboに来てくれた女の子のうち8人が、もう中絶できない週数になってから相談してきました。

それはコロナ禍で相談してくる女の子が平年よりも1000人増えてしまって、相談を受けるこちらに余裕がなくなっているからでもあります。

元々私たちは自分から相談してくる子ではなく、路上にいる子たちに出会うために活動しているのですが、コロナ禍でバスカフェを目がけて集まってくる人が増えました。そういう子は支援が欲しい気持ちが強く、私にも話を聞いてもらおうと積極的に話しかけてきます。もちろんそういう子の話も聞きます。

でも路上に出ている子は、助けを求めることなんて考えてもいない、諦めている子が多いのです。バスの中がこれまでとは全然違う雰囲気になってしまっていて、そういう子が、話せない雰囲気になっています。

本当はそういう子は、私たちが暇そうにしていると、「実はね...最近生理きてないんだよね」とポロッと言ってみてくれたりする。これまでは、そういうつながり方によって支援の必要性に気づけていたのです。

妊娠8ヶ月で相談に来た女の子も

それがコロナでこちらにもそんな余裕がなくなって、8人の子はおろせない状態になってからやっと相談があった。ここまでくると、どこで産むのか、産んでからどうするのか、大変になります。

本当はもっと早く、産む・産まないも含めて一緒に考えていれば、そこまで大変にはならなかった。

妊娠8ヶ月で制服で来た高校生もいます。学校の先生にも親にもバレていないと言っていましたが、先生も親もその問題を見たくなかったんじゃないかなと思います。

彼女は子ども家庭支援センターにまず相談したそうですが、保健師さんが病院に同行した後、「お父さんに出産費用を相談しようか。話してきてね」とだけ言われて帰されたそうです。

8ヶ月の高校生が未受診でこんな状態になっていること自体が既におかしいことです。虐待があるのではないかなど、支援者は疑わなければいけないことがたくさんあるはずです。

実はその子は「生理が来ないかも」と気づいたぐらいの時にもバスに来ていたのです。さらにその後、「妊娠したかも」と気づいた頃にもまた来ていました。

だけど自分から主張できる子ではないし、信じたくない気持ちもあって、積極的には話さなかった。こちらが忙しそうにしていたから、話せなかったこともあると思います。

——コロナ禍で相談が増えたというのは、女の子たちにどんなストレスが加わっているのでしょうか?

他の団体でも妊娠の相談が増えているそうで、SNSによる誘拐の事例が増えたという調査も見ます。

コロナで親もリモートワークになって、自分も学校が休みになって、家に一緒にいる時間が増えることによって、虐待のリスクは高まっています。

今までは、学校に行ってバイトして帰ってくる生活だったのが、学校もバイトもなくなって、お金もないからファミレスに逃げたくてもそういう時間も取れない。家にも居たくなくて、外でさまよう子が増えているのです。

早期発見のためにも「無料受診」が役立つ?

——そんな女の子の問題を早めにキャッチするためにも、無料で産婦人科に紹介できるこの試みが役立つかもしれないのですね。

そうです。自分から積極的に助けを求める子も宋先生には対応してもらっていますし、路上で危ない生活をしている子にも「ピルを飲んだ方がいいんじゃない?」とか、「性感染症の検査を無料で受けられるよ」と声をかけています。

路上にいる子は性感染症にかかっている子が多いのに、お金がなくて検査も治療も受けられていないのです。そういう生活をしている女の子同士で「臭いでわかる。こいつ今カンジダだよ」とか気づいて、「病院行った方がいいよ。知り合いの先生がタダで診てくれるから行ったら?」と友達に伝えてくれたりしています。

でも予約を入れても、そういう子ほど朝起きられなくて、何回も予約をすっぽかしてしまいます。そういう事情を理解してくれる先生はあまりいないのです。

宋先生は「全然大丈夫です!こっちも4時までしか開いてなくてごめんね〜」と言ってくれます。新宿では最近、対馬ルリ子先生の「女性ライフクリニック新宿」が診てくれるようになったので、そちらにも紹介できるようになりました。

最初の頃、宋先生のところで、クラミジアの薬の処方箋を書いて渡してくれたそうなのですが、「お金がないから薬が買えなかった」と言われて、そうか!と気づきました。

言えばいいのに、そういうことを自分からは言わないのです。宋さんは「気づかなくてごめんね。じゃあ薬はこちらで用意する」と言って、クリニック内で渡せるようにしてくれました。

せっかくクリニックに行って、診断もついて処方もしてもらったのに、「お金ないから薬買えないや」と言えないままになってしまう。こういうこともあるので、気軽に困ったことをなんでも言ってもらえる関係が必要です。

それから「アフターピルを渡す時には性教育をお願いします」とお願いしています。「タダで薬もらえてラッキー」で終わらないように、困ったことがあったら相談できる先生だ、と思ってもらうことが大事かなと思います。

変わるべきは女の子ではなく、大人

——宋先生のお話を聞いても思ったのですが、もしこの無料診療を広げるとしたら、関わる側もそれなりの覚悟が要りそうですね。

特別なことに思ってしまうからできないのでしょうね。確かにそこでためらうような先生だと、結局、女の子が行っても嫌な思いをしてしまうかもしれません。

——宋先生は、お礼を求めるような支援者では難しいかもしれないと言ってました。

難しいのですが、良かれと思って「女の子の自立のために」とお礼を強要しようとしたり、押し付けがましい支援をしてしまう人は多いですね。女の子がどういう状態にいるのかイメージができないのだと思いますし、支援を簡単に考えているなと思います。

女の子たちに「教育プログラムを」とか言われることもあります。「その子のために」と本人に問題を押し付けるのではなく、その子の権利保障のためにできることをしたいと思ってくれる医師が増えてもらえたらうれしいです。

お医者さんには普段の診察と処方をしてもらいつつ、診療の時に、性暴力を受けている彼氏との関係を見つめ直すようなコミュニケーションや、何かあったときに相談できる、頼れる存在だと思ってもらえるような関係性づくりを医師にもしてもらいたいです。

中絶するにしても、「無料で簡単におろせた経験」になっては良くない。そうならないためには、悩みを相談できて、選択肢や、この先の生活について一緒に考えてくれる大人との関係性が必要です。でもそこまで医療者に求めるのはなかなか難しい。

とにかく、今回の無料プロジェクトはとても助かっているし、女の子たちが気軽に行ける医療機関ができて、私たち以外にも相談できるところがあったらいいなと思います。

はじめは私たちを通して予約をし、1回行ったら、次回からは私たちを通さずに受診していいよと伝えています。アフターピルが必要な場合は別で、私たちが状況を聞いて、性暴力被害などへの対応も考えながら、病院に依頼しています。

頼り先が増えて、力になってくれる大人が増えていくことが彼女たちにとって大事です。

変わらなければいけないのは大人の方なのですが、女の子の方に変わることを求める大人が支援者の中でも多い。

女の子が生活や状況を変えるためには、まず支えが必要です。信頼の回復はそんなすぐにどうにかなるわけではありません。


Colaboに相談したい人はこちらへ(LINE @colabo 、Twitter @colabo_official 、Instagram @colabo.official 、メール info@colabo-official.net )

【仁藤夢乃(にとう・ゆめの)】一般社団法人「Colabo」代表

1989年生まれ。中高時代に街をさまよう生活を送った経験から、10代女性を支える活動を開始。夜の街でのアウトリーチ、シェルターでの保護や宿泊支援、シェアハウスでの住まいの提供などを行っている。Colaboでは、10代の少女たちと支援する/される関係ではなく「共に考え、行動する」ことを大切にしており、虐待や性暴力被害を経験した10代の女性たちとともにアウトリーチや、虐待や性搾取の実態を伝える活動や提言を行っている。

明治学院大学国際平和研究所研究員。第30期東京都「青少年問題協議会」委員。厚生労働省「困難な問題を抱える女性への支援のあり方に関する検討会」構成員を務めた。

主な著書は『難民高校生-絶望社会を生き抜く「私たち」のリアル』(英治出版、筑摩書房)、『女子高生の裏社会―「関係性の貧困」に生きる少女たち』(光文社新書)。

2015年「エイボン女性年度賞」、日経ビジネス「次代を創る100人」、文藝春秋「日本を代表する女性120人」、日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー「若手リーダー部門」、2019年「Forbes Under30 Asia 2019社会起業家部門」、2021年「国際女性デー | HAPPY WOMAN AWARD 2021 for SDGs」などを受賞。