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「子どもを殺そうとしている」誹謗中傷の声があっても、小児科医たちがSNSの発信をやめない理由。中の人に話を聞いた

医師の医療発信は増えましたが、大学医学部の教室が一般向けの発信をするパターンはほとんど見当たりません。大学アカウントのトップランナー、新潟大学医学部小児科学教室の中の人にどんな思いで発信しているのか聞きました。

インターネットの医療情報は玉石混交で何を信じたらいいのか分からない。

そんな声がよく聞かれ、SNSで自ら発信する医療者も増えている。

しかし、大学医学部のアカウントが、一般向けの発信をしているパターンはほとんど見あたらない。

その中で、一般向けの発信を熱心に行っている大学アカウントのトップランナー、新潟大学医学部小児科学教室のアカウントは、どのように運営されているのだろうか?

イラストをたくさん使って子どもの親にわかりやすく伝え、コロナなどのデマにも正確な情報やユーモアで対抗するコツは?

BuzzFeed Japan Medicalは中の人(35)に取材してきた。

当初は小児科PR コロナ流行で一般への発信中心に

取材した12月12日時点でフォロワー2万4886人を誇る「新潟大学医学部小児科学教室」の歴史はまだ浅く、2020年4月からスタートしたばかり。

始めた時期から見て、新型コロナウイルスの流行がきっかけなのかと思いきや、違った。

「元々は小児科の仕事を学生や研修医にPRしようと思って作られたアカウントです。少子化で小児科の仕事は先細りすると言われていますが、少子化だからこそ大事な仕事でやりがいがあるのだと若い人向けにアピールする狙いでした」

とはいえ、子どもがよく発症する突発性発疹の解説やぜんそくで気をつけることなど一般向けの情報も発信していた。

「基本的な子どもの病気のまとめを作っておいて、研修医が救急外来で診る時に親御さんに説明できるようになり、親御さんも読んで『なるほど』と思ってもらえるようなものをと考えていました」

そうこうしているうちに、新型コロナの流行が始まり、コロナに関する発信も増えていく。

「流行当初、小児科にかかって感染したくないという思いから受診控えが問題になりました。『不要不急の外出は控える』という言葉が広がりましたが、大事な予防接種や受診は決して不要不急ではないのですよ、と発信していました」

中の人は専門医たち 信頼できる小児科医の発信を研究

中の人は専門医の資格を取っている30代、40代の中堅どころで、大学だけでなく関連病院で診療している様々な立場の医師だ。

「情報の見極めができて、診療経験を積んで、ある程度疑問にしっかり答えられ、論文を正確に読める小児科専門医に参加してもらっています」

当初はチームで作戦会議を開き、既に信頼できる発信を続けている小児科医の投稿の仕方を研究し、参考にしながら発信を始めた。

「小児科医でフォロワー数も多く、正確な情報発信をしているほむほむ先生(堀向健太先生)教えてドクター!森戸やすみ先生Dr. KID先生NS@小児科医先生ふらいと先生たちの発信をみんなで研究しました」

「わかりやすくまとめ、根拠を示して情報発信をする。皆さんがフォローするようなアカウントになるには、一定の法則があるのだろうと思いました。中の人たちは誰もtwitterをやっていなかったので、若い先生に効果的にSNSを発信しているアカウントを教えてもらいました」

当番を決めて、外来の隙間時間や移動中にネタを考え、それぞれが発信するスタイルが定着した。

オリジナル情報だけでなく、最新の研究や学会の情報を噛み砕くことも

投稿はオリジナルな発信だけでなく、最新の研究論文や日本小児科学会などが出している情報をイラスト入りでわかりやすく伝えたり、信頼できる医師の発信をさらに噛み砕いてリツイートしたりもしている。

"BA.5" が流行してから子どもの感染者が急増し、入院が必要になる、重症化する子どもが増えてしまっています 以前から使われている新型コロナの重症度の定義や一般の方の持っているイメージと実際に起きていることの相違が大きく、入院が必要な子どもも定義上「軽症」にかなりの数が入ってしまいます https://t.co/xZpmNCoaBo

Twitter: @Niigata_u_ped

子どもの新型コロナ感染2-6週で "MIS-C" という重症な病気を発症することがあります(引用ツイート参照) デンマークからオミクロン感染後のMIS-Cについて報告されました オミクロン感染後のMIS-Cは ✅デルタよりも発症頻度は低い ✅ワクチン接種で発症は0.11倍に減少する https://t.co/ZU8U7DsYng https://t.co/5njWAQLEkI

Twitter: @Niigata_u_ped

イラストをたくさん使って、子どもがいる親が見やすくなる工夫も欠かさない。

「経口補水液をすぐ欲しいけど、買いに行く暇がない」という方は自作することもできます💡 水1リットルに 砂糖 大さじ3 塩 小さじ2分の1 を混ぜるだけ! 果汁やジュースなどを少量混ぜて風味を変えると飲みやすいかもしれません https://t.co/DDPQKShe9Q

Twitter: @Niigata_u_ped

最初にバズった投稿が何だったかはよく覚えていない。

ただ、第5波で新潟県内の医療機関が逼迫していた2021年8月に県内で開催された野外音楽フェスティバル「フジロック」前日、「今からでも参加は辞めた方がいいでしょう」と呼びかけたツイートは、賛否両論を巻き起こしながらシェアされた。

新潟県内は非常に新型コロナが流行していて、県外の方は地元に新型コロナを持ち帰る可能性がありますし、新潟の病院はどこも限界ですので、#フジロック 中に体調が悪くなっても充分な対応ができない可能性が高いです 明日からとのことですが、今からでも参加は辞めた方がいいでしょう https://t.co/0RLfp2zhAT

Twitter: @Niigata_u_ped

「中止を求めているように受け止められてしまいましたが、あの時は重症度の高いデルタ株が新潟全域に広がって、患者を受け入れたくても受け入れられないような状況になっていました。そういった実情を知ってほしくて思い切って投稿すると、様々な反響がありました」

攻撃やクレームの声も増加 デマへの対抗策も

困ったのは、コロナ全般の情報でそうだが、特にコロナワクチンについて発信し始めると、攻撃の声やクレームの声も一気に増えたことだ。

「子どもを殺そうとしている」

「金儲けをするためにワクチンを勧めるのだろう」

そんな誹謗中傷の引用リツイートをされることもある

「気にしていても仕方ないので、冷静に受け止めています。公的機関のアカウントなのでブロックはしていませんが、コロナ情報に関してはコメント欄を閉じて対応するようになりました」

子どもたちの命や健康を脅かすデマ情報に関しても、対抗の仕方を模索する。

#新型コロナと妊婦・授乳婦 小児科ではありますが、一般外来で非常に質問が多いということもあり、まとめを作っていました やっとTwitterでもツリーでまとめられる段階になりましたので、共有いたします 2021年7月13日現在での話ですので、新しい知見が出てきたら内容を更新したいと思います

Twitter: @Niigata_u_ped

「根拠を示して正確な情報を発信し続けることが一番のデマへの対抗方法だと思います。コロナワクチンが出る前は『不妊になる』などのデマが広がることが予想されたので、事前に妊婦さんへのワクチンの安全性をまとめた発信をして、先手をうちました」

妊婦の時にコロナワクチンをうったせいで胎児が感染して、生まれた赤ちゃんが肺炎になった、というデマに関しては、大人の肺のレントゲン写真が付けられていたので、対抗ツイートも工夫した。

医学生の皆さん。こちらのレントゲンは明らかに新生児ではなく大人の方のレントゲン写真なのですが、どういった点が『新生児のレントゲン写真』と矛盾しているのか考えてみてください! 矛盾点はたくさんあるので、コメント欄に是非書いてみてください! https://t.co/6EKBO7GoRL

Twitter: @Niigata_u_ped

「医学生に向けて、新生児のレントゲン写真とどこが矛盾しているのか質問する引用リツイートを投稿しました。大学が教育機関であることを利用したツイートで対抗した形です」

これを受けて、ツイ主はデマ投稿を削除した。

好意的な反響 発信が診療や知識のアップデートにも活きる

こうした地道な発信は子どもを持つ親にも歓迎され、反響やフォロワーは徐々に増えている。

「わかりやすい」

「どんな情報を見たら分からなかったけど、これを見てよくわかった」

「信頼できる大学からの発信なのでシェアしやすい」

手応えを感じると共に、自分たちの診療での説明でも、SNSでの発信が役立っていると思うことがある。

「簡潔にまとめた後に、外来で親御さんに説明しようとする時、要点や強調したい点を伝えることができるようになってきました。140文字でまとめる工夫が、診療現場にも活かせていると感じます」

発信するために勉強することは、自分たちの知識をアップデートする効果があるとも感じている。

「年次が上になるにつれて専門分野には詳しくなっていくのですが、小児科でよく診る便秘の対処法やぜんそくの受診の目安、けいれんの時の対処法などについて発信するために勉強すると、改めて学ぶことがたくさんあります。そういう意味でも役立っていると感じます」

教授も後押し 若手の発信を応援

こうした中堅の医師の発信について、小児科学教室トップの齋藤昭彦教授は「安心して任せている」と語る。

「我々医師が一般の方々がわかっているだろうと思っていて、実は伝わっていないことはたくさんあります。例えば『風邪に対して抗菌薬は使わない』などの情報は医療者の常識ですが、一部の小児科の先生でさえ、まだそれが伝わっていないことがあります」

「だからむしろ保護者の方に啓発して、抗菌薬を処方されたら『風邪の時は使わないと聞いたんですけど』と医師に伝えてほしい」

コロナでは、特にワクチンについて、子どもの体の中に入って将来も長期にわたって悪影響を与える、生殖器に影響を与えるなどというデマが広がった。

「ワクチンを接種せず重症化した患者さんの情報を多く聞くにつれ、本来のワクチンの目的である重症化予防の重要性を伝えたい。でも伝えたい人達のほとんどは医療機関に来ないわけです」

「その様な方々にどう伝えるかという意味では、SNSは非常に重要で、そこからのアプローチは大事だと思っています。若い先生たちのセンスの良さを信頼し、今後もその活動に期待しています」

繰り返し大事なことを伝え、中の人が変わっても持続可能に

今後、中の人たちはこのアカウントをどのように発展させたいのだろうか?

つい目新しい情報を発信することがいいことのように思われがちだが、大事なことを繰り返し伝えていくことも必要だと考えているという。

「新しく親になる人は毎年、常にいるので、風邪をひいたらどうするか、予防接種や健診は大事だということなど、基本的な情報は繰り返し伝える必要があります」

これからの季節、年末年始の医療体制が手薄になり、普段よりもかかりにくくなることも伝えたい。

「病院に行くとコロナをもらうから行かない、と受診控えする人と、いわゆるコンビニ受診の人と両方います。我々が一番伝えたいのは、この症状だけは救急車で絶対に来てほしいという情報。そして自宅で様子をみていい状態や、おうちでのケアの仕方がわかれば、安心してどうすべきか判断できるはずです」

実はTwitterの1ヶ月前に開設したInstagramでの発信にも力を入れている。

「Instagramはデマが広がりやすいSNSなので、しっかりした情報を視覚的に伝える工夫をしています。まだフォロワーは少ないのですが、こちらもぜひ参考にしてほしいです」

実はこの中の人、来年は別の病院に移る予定で、新潟大学での発信は卒業となる。しかしSNSの運営マニュアルやガイドラインを共有しているので、誰が引き継いでも質の高い発信は続けられるはずだと自信を持つ。

「今後も一般の方に寄り添う情報発信を心がけていきます。小児科っていい仕事だなと思ってもらえる発信を続けていきたいです」