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職場で感染者が出た。保健所には頼れない。 そんな時、どうする?

新型コロナの感染拡大で職場での感染も他人事ではなくなっています。でも業務に追われる保健所にはなかなか相談できない今、企業はどう対応したらいいのでしょうか? 産業医でもある公衆衛生の専門家に聞きました。

全国で感染拡大に歯止めがかからない新型コロナウイルス。

職場での感染も他人事ではなくなっているが、感染者が増え過ぎて業務に追われる保健所には頼れなくなっている。

あなたの会社で感染者が出たら、どう対応したらいいのか。

和田耕治さん提供

職場での感染の相談が増えているという和田耕治さん

最近、企業からそんな相談が増えている国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに聞いた。

※インタビューは8月20日午前に行い、その時点の情報に基づいている。

なぜ企業が感染者対応? 感染爆発で保健所は無理

ーー職場での感染が増えているのに、感染爆発で保健所が対応できない事態になっているのですね。

感染者に対応している企業は最近困っています。しかし、保健所は業務が逼迫していて相談さえできない。企業内で判断しなければいけません。

産業医が専属で常駐しているのは大企業だけですし、非常勤だと契約の日でないとなかなか相談しづらい。

産業医など医療職の支援がなく、適切な判断や対応ができずに職員に感染が広がれば、判断した人の責任が問われるかもしれませんし、やり過ぎると過剰だったと言われかねません。とても難しい状況ですので、だれかにだけ押しつけるのではなく、複数の管理職で考える必要があるでしょう。

しかし、この非常事態で完璧な対応は無理ですから、規模の小さな会社でも「できることをする」という姿勢で臨みましょう。

社員から感染報告、まずは「お礼」と支援の気持ちを示す

ーーまず社員から「感染しました」と連絡があったらどう反応すべきでしょうか?

職場の上司や同僚はびっくりすると思います。これはある意味ピンチなのですが、社員と企業との間での信頼関係を深めるチャンスにすることもできます。

常々言ってきたのですが、もし社員から感染したと言われたら、まず報告したことにお礼を言ってください。

感染しました、という報告を受けた時には、まずすぐに「報告をしてくれてありがとう。今はしっかり休んでください。今後、職場に戻れるようにこちらも支援しますからね」という言葉をまず最初にかけられるよう、上司や同僚としては練習をしておきたい。

Twitter: @kojiww

感染した個人を責めたり、不当に扱ったりした場合は、今後、同様のことがあっても報告してもらえなくなり、それによって職場で感染を広げることにもなりかねません。

ただ保健師からの話では、中小企業だと社長や取締役が職場に感染を持ち込むことが多いといわれています。いろいろな人と会うのが仕事だからでしょうね...。

感染した本人は「職場に迷惑をかけるのではないか」と心配していると思いますので、まず安心させてあげてください。

「しっかり休んでくださいね。職場に戻れるように支援しますよ」などと声をかけ、一人暮らしの場合は「生活物資はあるの?」とか、「仕事で引き継ぎは必要?」など、支援が必要かどうかを確認してください。

企業が感染者にどういう対応をするのか、周りの社員もみんな見ています。管理職が間違った対応を取らないように、普段から経営者は指示しておくべきです。

そこで社員を大事にしてあげたら、戻ってきた時に仕事を頑張ると思います。物資を送ってあげて、時々「大丈夫?」と電話をかけてあげる。戻ってきたら温かく迎える。優しい対応をすれば、結局、企業の今後にとってプラスになるはずです。

ただし、会社に保健所がやるような健康観察の責任までは負わせられません。体調が本当に悪くなると、呼吸が苦しくなりますが、今は救急車を呼んでも来てもらえない可能性があります。一人暮らしの場合には実家の家族との連携なども考えてほしいです。

  1. 感染を報告した社員にまず「よく報告してくれたね。ありがとう」などとお礼を言う
  2. 生活物資や引き継ぐべき仕事があるかどうかを聞き、必要な支援を確認する


大事なのは、感染者を叱ったり、責めたりしないこと。そして、保健所の保健師がやっているようなことを企業の人が急にやるのは難しいので「できるところまでやる」と割り切ることが必要です。まずこれを強調したいです。

規模の小さい企業ほど対応は簡単ではありません。それでも、できることをお願いしたい。

感染を社内に広げないために 何を確認すべき?

ーーその人から感染が拡大しないように防がなければなりませんね。まず本人から何を確認すべきですか?

最低限、確認しておくべきことは以下の3点です。

  1. 発症日
  2. 最終出勤日
  3. 発症日の2日前から飲食、会話、会議をした人(目安は1mで15分以上。マスクの装着は問わない)


1の発症日ですが、代表的な症状は発熱、咳、喉の痛みです。受診日ではなく、発症した日ですから、「具合が悪くなったのはいつ?」と聞いてください。

2の最終出勤日ですが、「いつまで職場に来てましたか?」と聞いてください。

3つ目は、発症日の2日前から感染を広げる可能性がありますから、その頃から飲食や会話、会議をした人を聞いていただきます。

マスクをつけていたかどうかは問わずに、どのぐらいの時間、一緒に飲食、会話、会議などの行動をとっていたかを聞きます。目安は1m以内の距離で15分以上です。その中でも接触時間が長い順、食事や密接の時間が長い順にリストアップします。

その対象者に体調を確認したり、注意を促したりするために、感染したことを伝えていいか本人に確認します。本人から「だめ」と言われても、なんとか説得してください。

「要管理者」にどう対応するか

ーー企業の人がいきなり濃厚接触者をリストアップするのは難しいと思います。職場の調査のために何か参考になる資料はないですか?

その前に「濃厚接触者」という言葉は保健所が調査の上で指定する場合に使いますので、企業では使わないことをおすすめします。「要管理者」ぐらいの呼び方がよいでしょう。

本来、保健所がやるべき仕事なのですが、この感染爆発でダムが決壊して、急に自分たちでやらなければならなくなったのが今の状況です。災害のような状況ですのでご理解ください。

医療職向けの濃厚接触者を追う手引きはあるのですが、かなり踏み込んでいます。行動を聞くにしても飲み会から趣味の集まり、性風俗まで聞くことになっています。守秘義務の問題や聞いた上での対応ができないことなどから、一般的な職場で使うことは想定されていません。

「要管理者」については次の2つの課題があります。

  1. 「だれ」を要管理者にするのか
  2. 具体的に「どう」対応するのか(検査、テレワークなど)


リスト化した人の中から「だれ」を要管理者にするのか、ですが、発症前後に会議をしていたり、食事をしていたりしていたら対象者になるでしょう。その他、たとえば打ち合わせをした、車に同乗したなど様々な場面があり得ますが、それは個別の判断が必要となります。

ーーそういう基準を決めておいた方がいいですか?

事前に基準を作るのはなかなか難しいですよね。基準を決めるとそれが縛りになって柔軟な対応ができなくなる可能性もあります。

ーー正直言って、どんな行動をしていたのか会社の人に聞かれても逐一は報告しなそうですよね。

現実的にそういうところはあると思います。言えない行動もあるし、正直に言えばどう評価されるかわからない。企業としては、「できることはやっておく」ぐらいのスタンスでいいと思います。

だからこそ、信頼関係が重要になります。教えてもらった情報を管理することも重要です。中には会食していたことを報告する場合もるでしょうけれど、社長などに伝わって叱られたり、その後の昇進にも関わったりすることがあると困ります。

ーー最初に本人に確認する時にマスクの有無を問わないのは、デルタ株の感染の強さからですか?

まずは広くリストアップして、あとは接触した時間などを考えて絞っていくという意味です。例えば8時間一緒にいた人と15分いた人は違う。そこでマスクを外して飲食していたかでも違います。総合的な接触の程度から優先度を決めて、「要管理者」を決めます。

ーー取引先も調査の範囲内とすべきですか?

それは難しいです。それもそれぞれの企業が判断しなければなりません。

ーーもし感染した自社の社員が取引先と濃厚に接触していたら、検査の費用や自宅待機中の生活費などももつべきですか?

それは難しい。これまでは、保健所が介在していたので行政検査は無料でできていました。また、民間検査で自己負担があったとしても、現実的には多くは「お互い様」で終わっていたと思います。

ただ職場に来なければ給料がもらえない非正規の人などはかなり割を食いますよね。それをどうするかは考えないといけません。

ーー経営体力のない中小企業だと「そこまで責任を取っていたら保たない」と黙っておくことになりそうですね。

そうなんです。やらなさ過ぎるのは困るのですが、「できることをやってください」としか言えません。

検査、自宅待機、どうする?

ーー要管理者を決めた後、具体的にどう対応すべきなのですか?

そこで具体的に何をするかなのですが、まず検査をするのか。検査をするとしたら費用の負担はどうするのか。会社なのか、それとも自費なのかという問題が出てきます。

公衆衛生の専門家としては、原則、「要管理者」としたならば、検査をした方がいいと考えます。検査をしたほうが良いとしか言えません。

そして、基本的には会社がその費用を負担するべきです。

検査もPCR検査なのか、抗原検査なのか、どこで受けるのか。ネットで申し込む検査なのか、民間の検査なのか、医療機関で受ける検査なのか決めなければいけません。

そして、陽性だったらどうするか、陰性だったらどうするかも決めなければいけません。

テレワークが可能な職種なら、追加の費用もかからず、すぐ対応できますが、だれでもできるわけではありません。

これまでは、検査で陰性でも濃厚接触者として保健所が指定した場合は、接触があってから2週間は自宅待機としていました。「陰性だったから出勤しなさい」という指示でいいかというと、後で感染が判明した場合には対応が悪かったとなるリスクがあります。

要管理者を「自宅待機」とした場合に、賃金を7割に減らすなどの対応をしている企業も中にはあります。これは法的には可能なのかもしれませんが、そうした厳しい措置をとると、今後、給料のために隠す可能性もあります。

ある企業では、そうした時期にテレワークができない人には、スキルアップ研修を自宅からオンラインで受けていただいているそうです。将来を見据えたとても良い取り組みだと思います。

和田先生が実際に受けた相談は?

ーーデルタ株の感染力の強さは、以前に感染の可能性を考えていた基準と少し変わってきていますよね。

そうですね。基準というよりも、具体例をもとにお話した方がいいかもしれません。

まずオフィス職場で社員が1人感染したケースの話をしましょう。こういう時期だからダメだと知りつつも、仕事の関係者とランチを食べていました。発症する2日前のことです。

発症してからはすぐ休んだのですが、発症の前の日まで職場に来ていました。打ち合わせなどで基本的にマスクはしていますが、いろんな同僚と少しずつ会話を交わしています。

この会社ではランチをした人には濃厚接触の可能性を伝えました。そして、発症の2日前や前日には会議をしていたので、一緒に出席していた人たちを、要管理者としました。

今は医療が逼迫していて検査もしづらいので直ちに検査はしないけれど、症状は毎日確認することにしました。テレワークできる人はテレワークしてもらいました。

出社頻度を減らす感染対策をして、全員に対し、もし症状が少しでも出たら検査に行ってもらうという形で収めました。

こうしたやり方が正解かと言われると難しいです。悩みながら決め、合格点だとは思いますが、保健所の対応と比べれば、感染対策は不足しているのかもしれません。

しかし、100点を目指さずに合格点を目指そうということです。これ以上やれと言われてもきっと難しいと思います。

もう1社のパターンは、3人で行動していて車に同乗していました。その後、3人のうちの1人が発症し、車内でしゃべっていたこともわかりました。マスクはしていたようです。

しかしマスクをしていても狭い空間ですから、この3人に関しては自宅待機にしました。検査をどうするかは今、悩んでいるところです。これが現実です。

「要管理者」を増やさないために、職場でできる予防策

ーーこうした「要管理者」を増やさないために、企業としては普段からどんな予防策を取るべきでしょうか?

対策強化として企業活動で行うべきこととして、次のようなことがあげられます。

  1. 昼ご飯など飲食の場面では黙食とする。
  2. 車に同乗した際はしゃべらない。

  3. 会議はオンラインを基本として2人以上の対面での会合は当面行わない。
  4. 会話や電話の際は必ずマスクをする。
  5. 会話や食事が多い時はこまめに窓を開ける。


感染拡大の時期にどう事業を継続していくのか、事業継続計画を含めて考えておくことが重要な局面となっています。

ーー家族が感染して自宅で濃厚接触がある場合、出勤してもいいものですか?

今のような感染状況だと出勤は停止してもらった方がいいでしょう。

保健所では、家族が感染している場合に同居していると、20日以上の自宅待機を指示します。長いです。企業としては、この人たちにどういう風に休業保障をするかは難しい問題です。

もう一つ、「濃厚接触者の濃厚接触者はどうしたらいいか?」という質問がよく来ます。つまり、家族が濃厚接触者になって自宅待機になった社員が、自宅待機前までに接触した職場の人です。

これについては、今は市中でも感染する可能性はあるので、その人たちが症状がない限りは特別扱いする必要はないと思います。体調確認を強化する程度でいいでしょう。

ーー妊婦さんが感染して、自宅療養中に入院先が見つからずに出産し、新生児が亡くなるという痛ましい出来事がありました。これほど市中感染が広がっている時期だと妊婦さんとか糖尿病など重症化リスクの高い人はテレワークとか自宅待機の方がいいのではないですか?

大変残念な出来事でした。まさに災害です。しかし、これを教訓にしてその他の地域でもこうしたことがおこらないようにしていただきたい。

妊婦さんについては、ここまで流行している中でまだワクチンを接種していなければ、会社はそうした配慮をしていただきたい。ハイリスクなのは妊婦さんだけではないですが、とりあえず妊婦さんは早めにワクチン接種してもらい、テレワークできるならしてもらった方がいい。

ただし雇用機会は守ってあげないといけません。「妊婦は一律休みで賃金なし」とするのは不当です。ただ、感染対策のための休業の保障の話は国に考えてもらうべき案件でしょうね。

今は非常事態です。リスクの高い出勤者は減らしていかないと企業が事業を継続できなくなる可能性も考えて対策を練らなければいけません。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を昨年6月11日に出版。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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