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「これが恐れていたオーバーシュートです」 この1年半で都内で感染するリスクは今が最大

「これがいつかおこると恐れていたオーバーシュートです」ーー。公衆衛生の専門家が厳しい見立てを示しています。どこまで感染者が拡大するか読めない中、オリンピックを利用した身を守る行動を呼びかけます。

これがいつかおこると恐れていたオーバーシュート(感染爆発)です

命を守る行動をしてください

これがいつかおこると恐れていた オーバーシュートです ここがピークかもわかりません 今日の感染は約10日前の出来事 目に見えた感染対策強化がない間は 増えるしかありません 命を守る行動をしてください できるだけ外出を控える 人に会わない というフェーズです 飲食の場は特に注意

Twitter: @kojiww

国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんが、厳しい見立てと強い注意をTwitterで呼びかけた。

このまま行動を変えなければ感染者は増え続けるばかりで、医療崩壊も差し迫っている。

東京都の新規感染者数が過去最多を更新した7月27日、BuzzFeed Japan Medicalは和田さんに緊急インタビューした。

加速度的な増加 どこまで拡大するか専門家もわからない状況

ーー今日(27日)強めの発信をされていました。「これが恐れていたオーバーシュート」だと。東京では新規感染者が過去最多になり、3000人に迫る勢いであることから注目されました。

強めの言葉を使ったのは、なかなかメッセージが届かないからです。

指数関数的な増加が感染爆発と言われますが、それを遥かに超えるペースで首都圏の感染者は増えています。こういう加速度的な増加が起きていて、どこまで増えていくのか正直わからない状況です。

ーー東京都内では今日(27日)、2848人の新規感染者が報告されました。一時は「3000人超え」と飛ばした誤報も出て、みんなびっくりしたようです。

明日(28日)は水曜日ですから、今日より多くなり3000人を超えるのではないでしょうか。

連休明けの月曜日に検査して、翌日に結果がわかり、発生届を書いて水曜日に保健所にデータを送り、それを都庁が集めて報告します。土日の分も積み重なっていつも月曜日の検査の数が一番多いから、水曜日の報告数が多くなるのです。

でも、こうなることはみんなわかっていたはずです。我々もわかっていて、何度も注意を促していました。

こうなることはわかっていたのに、ここにきてからみんな慌て出す。事前に活かせなかったのは残念です。

我々は忘れやすいのです。大阪で感染爆発が起きたのはほんの3ヶ月前なのに、もうあの危機感を忘れているのです。

医療崩壊? 一般診療が制限される事態も

確かに今、重症者は以前よりは数値としては少ないし、死亡者も減っていますが、酸素が必要な中等症の人のための入院ベッドがなくなっています。

今から感染して入院が必要になっても当面、入院する場所がないと思っていただく必要があります

ーー東京都はベッドが足りなくなるということで、都内の医療機関に対し、通常診療の制限も視野にコロナ病床を確保するよう要請しました

つまり、一般の診療が止まるわけです。抗がん剤治療やがんの手術などができなくなってくる。自分が抗がん剤治療をしていなかったら関係ないかもしれませんが、治療ができなくなる人にとっては命の問題です。

救える命が救えなくなる状況で本当にいいのですか?と問いたいです。

自分や誰か家族や大事な人が医療が必要になった時にかかれる状態ではなくなっています。

自分がそうなるかもと思えるかといえば、我々医療者はすぐ目に浮かぶのですが、元気な一般の方はなかなか想像が難しいでしょうか。

ーーでも事故とか急病で倒れることがあったら、救急で診てもらえなくなる可能性はみんなあるわけですね。

そうです。これはみんなの問題なんです。自分ごとにできるかですが、そこに想像力が必要です。限られた医療資源を大事にするということをもう一度見直してほしい。

みんなそういう厳しい現実は見たくないと思いますが、現実から目をそらさないでほしいのです。

ーーインフルエンサーの一部は、コロナの危機を伝える報道に、オリンピックで盛り上がっているのに水を差すなという発信をしています。

その方の意図がわかりませんが、ワクチンに反対して接種しないよう先導する人たちと同じく、一部の同じ意見の方が強く賛同するのでしょう。それに満足しているのでしょうか。

国のトップが慌てなければ、市民は危機感を感じ取れない

一番危惧しているのは、国のトップがこの状況をどう考えているかです。国のトップが慌てるのは見苦しいですし、オリンピック中ということもあるのでしょうが、この状況に慌てていないなら、市民は期待されるような行動はとらないでしょう。

やはりトップが「これは危機だ」と、まずは宣言しなければいけません。

緊急事態宣言を出しているからと構えているのかもしれませんが、トップはそれ以上の追加のメッセージをすぐに出すべきです。

政権の支持率は落ちているのかもしれません。メッセージを出せば責められることも多いようです。でも、トップにいる立場の人がコロナ慣れしたり、コロナ疲れしたりしている場合じゃない。

「今、言っても伝わらない」ではなくて、繰り返し、繰り返し、それでも伝えるのが、トップの仕事のはずです。

最近すごく気にしているのは、ワクチンをうった人が、「自分は大丈夫」と安心しているかもしれないということです。でも、まだ全体の人口の4分の1程度しかワクチンを2回接種できていない中で、常に接種していない人の不安な気持ちを考えて対策していかなければなりません。

オリンピックを利用し、ステイホーム観戦で減らせ

ーーツイートの中で、この感染者数は10日前の感染が現れているのだと言っていますね。つまり緊急事態宣言が出た後ですね。

そうです。

ーー宣言が出た後でさえこのように増加しています。4連休の結果はまだ先に出てくるわけですね。

まだまだ先です。増えるかもしれないし、地方に感染者が波及するという意味でも連休の結果がこれから出てくるかもしれません。

目に見えてしっかりとした対策が打たれないと感染者は減らないです。減る理由を意識的に作らないと減りません。1年半かけて対策してきたわけですから、減らし方はわかるはずですが、それがなされていない。特にデルタ株は減りづらいのです。

ーー緊急事態宣言は既に出ていて、東京五輪は開幕しています。メダルラッシュで盛り上がってもいます。具体的に今、何ができますか?

オリンピックを無観客にして、何百億円もの損失が出ると聞きました。

でも、「無観客にしたのだから、もういいだろう」ではなくて、ステイホームを呼びかけるためにオリンピックを活用すれば良いのです。家にとどまって観戦する理由になります。

「アスリートに負けないように、みんなでステイホームで応援して感染を減らしましょう」など、打ち出すメッセージは色々と考えられると思います。せっかく無観客にしたなら、無観客にした意味をしっかり説明し、どうやって感染を減らすのかを考えた方がいい。

オリンピック期間中に感染者を下げられなかったら、その後はステイホームのためのネタはありません。終わったらお盆もありますし、感染者を増やす要素しかない。

ーーオリンピックを利用して、自宅で応援してねというメッセージに変えていった方がいいということですね。

そうです。それでしっかりとオリンピック期間中に感染者数を下げる戦略はあるはずです。金銭的な損失以上のパフォーマンスを政府は目指すべきです。

感染を抑えないことには次のステージにはいけません。オリンピックをそういうふうに活用しようというメッセージが今はないですよね。

オリンピアンが安心して競技に専念できるように接触を減らして感染を減らす、という考え方もあって良いと思います。賛同しない方もいるかもしれませんが、私は悪くないと思っています。

ーーオリンピックを中止する可能性についてはどうですか?

中止をしたとしてもみんなびっくりはするでしょうが、中止したから直ちに患者が減るわけではないと思います。あのバブルの中で起きている感染者がそこから広がるわけではありません。少しバブルに穴は開いているようですが。

中止することによるびっくり効果より、まずやるべきことは感染の現状や医療の状況を市民に伝え、その上で何をすべきかメッセージを伝える。それは接触機会の削減です。人に会わないということです。会っているから感染が広がっているのです。

この2週間、アスリートに負けないぐらい家にいることに頑張ってほしい。そうしたら感染者数は下がるはずです。

目標を決め、感染者を下げる トップはメッセージを

ーーとにかく人に会わない、外に出ないことを徹底してほしいということですね。

そうです。これまでの1年半の中で都内は一番感染者が多くて、デルタ株で感染リスクは高くなっています。本当にこれがなかなか伝わらない。

この1年半で あなたが都内で感染する 可能性は今が一番高いです かといって、地方に行ってもいけません 地方に持ち込む可能性も今が一番高いです

Twitter: @kojiww

ーーワクチンで防ぐにはまだ接種率が低いですね。2回接種を終えた人は25%程度です。

高齢者は結構接種できたのは良かったですが、全体ではまだまだ足りないですね。集団免疫(接種率が上がり、ワクチンを接種していない人も感染から守られる状態)には、まだ程遠いです。

ーーということは一人一人の行動の変化で感染者を減らすしかないですね。

みんなでどうやって下げるかだと思います。

下げるという方針を首相や知事が出し、数値目標を示すべきでしょう。それが達成できなかったら、次はもっと強い対策であるこれをやると見せる。

次の段階では、4人以上の家族以外の集まりをやめてもらうなど、さらに厳しい対策を打ち出す必要があります。

これまでは個人に対しては要請だけしかできませんでしたが、将来、こうした状況においては、個人に対してもなんらかの法的な強い規制をかけられるようにする必要もあるかもしれません。

まずは現状を知ること。そして、次はどういう目標を立てて、どこまで下げるかを決めること。期限を決めて、オリンピックの期間にしっかりと家で応援して、人と会わないようにして感染者を下げる。そしてできるだけお盆を平穏に過ごす。

それが今、日本で一番大事なことかと思います。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を昨年6月11日に出版。