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重点措置の延長では後悔する  「これからの大波を乗り越えるために再び緊急事態宣言を」

東京五輪開催まで3週間を切る中、東京では再び感染者が増加しています。公衆衛生の専門家は、まん延防止等重点措置の延長では、東京も含めた関東で最大の流行を引き起こしかねないとして、再びの厳しい対応を訴えます。

東京五輪開幕まで3週間を切ったが、感染拡大が止まらない。

東京は7月11日にまん延防止等重点措置の期限も迎えようとしているが、その先どのような手をうつべきなのか。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

再びの緊急事態宣言の必要性を訴える和田耕治さん

厚生労働省の専門家助言組織「アドバイザリーボード」に名を連ねる国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんに聞いた。

※インタビューは7月5日夜に行われ、その時点での情報に基づいている。

4連休までに東京の感染者レベルを減らしたい

ーー東京は徐々に感染者が増加してきています。今後どうなると見ていますか?

東京都を含めた関東は、感染者が急増ではないにしても増加が続いています。下げるためのなんらかの手を打つべきです。

ーー7月11日に期限を迎える重点措置を延長するという話も出てきています。

重点措置でなんとか減らしたいと政府は考えているのかもしれませんが、そのまま延長するだけでは増加を容認することになりかねません。本当にそれでいいのか、危機感を覚えています。

一方で何をしたらいいのかは、手詰まり感があります。再び緊急事態宣言をやりたくない気持ちもありますし、酒の提供を再び止めるという話が出ると、「またか」とうんざりする声も出てくるでしょう。

「酒の場で本当に感染が広がっているのか根拠を示せ」という問いに対して、いわゆる「データ」として出すとなると難しい面もあります。

重点措置に切り替えて感染者が再び増えてきていることを考えると、飲食の場面への要請は必要です。

神奈川県は1週間平均で230人を超えたら措置区域内の酒類の提供を中止することを知事が6月18日に発表していました。今の状況からすると今週中にはそうした事態になる地域が出てきそうです。

こうした状況において、東京はどうするのか具体的に決まっていないことにも危機感を強めています。

ーー今、感染が増加しているのはどういう場面なのですか?

今は東京の中でも15〜29歳、30〜49歳の感染の地域ごとでみると東京全土に広がっている状況です。繁華街などのホットスポットから、すでに日常の場にまで広がってきています。

第41回厚労省アドバイザリーボード

東京の感染者は繁華街だけでなく全域に広がっている

ですから、生活の場面においても接触の機会を減らさないと、今後は感染者数が減らない可能性が高い。

飲食の場がどの程度この増加に影響しているかはこのデータではわかりませんが、結局、感染するのは、マスクを外して誰かと対面で話をする場面です。会議室での会話もあるかもしれませんが、感染するのに効率がいいのはマスクを外して人と人とが話している場です。


オリンピックがあろうがなかろうが、7月22日から25日に4連休があります。それまでに東京で感染者数をかなり下げておかないと、ここから人の流れが北海道や沖縄などの観光地に向かえば、再び地域に感染を広げることになります。


都道府県を超えた移動をしないことが今、求めるべきことですが、一方でオリンピックも開かれます。まさにこの「矛盾したメッセージ」について、どう市民に理解を求めていくのかが重要になってきます。

出口は見えている 今、感染爆発はもったいない

ーーワクチン接種も進んできていますが、間に合わないですね。

一番強調したいのは、出口は見えつつあるということです。ワクチン供給が遅れ始めているという話も出てきましたが、それでも10月、11月ぐらいまで行けば、かなり見える風景は変わってくるはずです。

10月過ぎて気候も落ち着いてくると「今頃、オリンピックを開催すれば良かったのにね」ぐらいの雰囲気が出てくる可能性もあります。

この夏は厳しい状況を迎えます。

ワクチン接種はまだまだ不十分です。10月から11月になればかなり落ち着くはずなのに、この夏に大きな波を作ってしまうのは極めて惜しい。この夏に感染した場合、特に重症化するようなことがあったとしたら数ヶ月後には悔やまれる事態が想像されます。

第41回厚労省アドバイザリーボード

東京都の年齢別感染者予測。ワクチン接種が進む60歳以上はかなり抑えられる予測が出ている

これから起きる波は、65歳未満に広がり、重症者は40〜59歳の人で一番増加するという推定があります。高齢者はワクチン接種が進み、アルファ株からさらに感染性の強いデルタ株へと置き換わる中で、接種が進んでいない40〜59歳に感染が広がっていく。

この年代で感染すると1割ぐらいは酸素が必要となり、その半分ぐらいは人工呼吸器が必要なぐらい重症化します。この夏は、こうしたことを自分事にして考えていただきたいのです。

ですから、「ワクチンをまだうてていない人、または2回接種して2週間過ぎていない人には、なんとかこの夏は自分を今まで以上に守ってください」と呼びかけたい。

ここまで1年半耐えてきたのに、ここで感染してしまうのはできるだけ避けたい。もう少しで生活は変わるので、この夏はしっかりと3密を避けて自分や自分の大切な人たちを守ってほしいのです。

デルタ株が広がる中で感染対策も少し緩めば、この1年半のなかで個人の感染リスクが最も高まってしまうとご理解いただきたい。

それを理解しないまま無防備で過ごして感染してしまうのは極めて惜しいです。10月、11月は落ち着いてくるのに、ここで感染してしまったら、ものすごく悔やまれることになります。

この夏は今のままでは、かつてない大きな波になる可能性が高いのです。

ーー今までにない波になる理由は、デルタ株の感染性の大きさとオリンピックですか?

その通りです。

危険な夏を通り過ぎた先に見える風景

ーー我々はこの1年半ずっと我慢を繰り返してきました。ワクチン接種が進む中で、今後はどんな風景が待っているのでしょう。

最近、働く年代の人や企業の人たちと話していると楽観ムードが漂っているように感じます。夏休みは久々に遊ぼうと考えている人も多いようです。

医療従事者や高齢者のワクチン接種が進んでいますが、基本的にワクチンは2回の接種を終えてから2週間たたないと期待される免疫がつきません。

つまり、今日ワクチンの1回目をうつと、2回目は3〜4週間後ですから、お盆までに間に合うかどうかです。「どうぞ自由にお盆を過ごしてください」とはなかなかなりません。

ワクチンをうって実家に帰りたい思いもあるでしょうけれども、感染拡大している東京から地方に行くのは、この夏は避けるべきです。まだ、全体の人口からすると14%しか2回の接種ができていません。

高齢者では東京都では37%が2回の接種を済ませています。10月以降になれば、これが他の年代にもかなり行き渡っていきます。

日常場面の中で、リスクの低いこと、しかも社会的意義の高い場面から優先して活動の再開を広げていくことを考えるならば、まずは高齢者施設や医療機関でワクチンを接種した者同士の面会が考えられると思います。

高齢者施設や医療機関では、これまで新型コロナウイルスの感染力が強いことや入所者、患者の重症化リスクが高いことから、家族との面会を厳しく制限してきました。

しかし、高齢の方や入院治療を受けている患者さんにとって家族に会えないのは精神的な負担も大きいですし、大事な機会を逃すことは避けたいものです。

大部屋での面会はまだ難しいので、双方がワクチン接種を2回行い2週間経た状態であれば、マスクをつけた上で個室で会うことは可能になるでしょう。もちろん、面会する人の生活圏の感染がある程度落ち着いていることが条件となります。

医学的な理由で接種ができない人については最大限の配慮が必要ですが、秋になってワクチン接種が進めば、このように少しずつできる範囲を広げていくことが期待できます。こうした一歩がさらなる場面の社会活動の再開につながります。

変異ウイルスの影響も考慮しながら、慎重に進めていくことになるでしょう。

デルタ株の割合が大きくなる中で、感染リスクが低い行動、中程度の行動、高い行動があったら、低い行動から徐々に広げるべきです。それなのに、もう既に「飲み会どうしよう」というハイリスクな行動を取ろうとしている。

命に関わることなので、ここは一か八かではなく、安全策をとってほしい。ワクチン接種が進む中で、接種が済んだ人から徐々にリスクの低い活動を再開するという形をとってほしいのです。

そのために今、厳しい制限を 再びの緊急事態宣言?

ーー接種が進んだ先に社会生活を再開する希望があることはわかりました。翻って現在は、感染者が増えている中で、7月11日には重点措置の期限を迎えます。8日にも延長を決めるという報道もありますが、それでは足りませんか?

接触機会を減らすようなお願いをするなら、今のタイミングだと思います。重点措置を12日以降に4週間延長するという対策では、極めて危険だと思っています。

重点措置を始めることでしばらく様子をみるということになりかねないからです。まさに大阪でこの春、経験したことを繰り返そうとしています。個人的には重点措置の延長だけすることには反対です。

措置を延長すると、2週間、3週間は様子を見ようということになります。そうすると、7月19日の週にはもう4連休を迎えます。そこで感染者が増加しても、五輪の開会式直前に強い措置を打つのはおそらく無理です。そのための時間も取れません。

そうなれば、26日の週にはもう感染者の増加の立ち上がりが早くなっていきます。以下のグラフは京都大学の古瀬祐気先生の予測ですが、オリンピック開幕時には急激に新規感染者数が上がってきます。

第41回厚労省アドバイザリーボード

1日2000人ぐらいになっていても「まだ様子を見ましょう」としてしまうことは絶対に避けるべきです。

すでに旅行の予約もとっているのでしょうけれど、今さら「この4連休に旅行に行くな」というのは無理でしょうか。

しかし、このまま何も対策を変えなければ、全国的に拡大しかねません。

ーー7月12 日からは緊急事態宣言に切り替えるべきだということですか?

そうですね。ただ、12日というタイミングが国民の納得感を得られるかはわかりません。

しかし、ただ重点措置を延長した場合は、増加を見守るだけになると思います。延長から数日で緊急事態宣言に切り替えるわけにもいかないでしょうが、「○○人超えたら緊急事態宣言」と条件を決めるぐらいのことはしていただきたいです。

重点措置のままだと入院者は3000人を超える

ーーそうなると、医療機関も逼迫してきますか?

先に宿泊療養施設が足りなくなってくるでしょう。1日の新規感染者数が1000人になるということは、毎日1000人が積み重なって、1週間に7000人の感染者とその家族などへの対応をどうするかという話になってきます。

自宅待機は止むを得ず取る対策であって、本来は隔離のための宿泊療養施設や病院に入っていただくべきです。デルタ株の家族内感染の広がりの強さを考えると危険ですし、一人暮らしでも呼吸が苦しくなったら危ないです。

自宅よりは宿泊療養のホテルに入ってもらったほうがいいわけですが、東京五輪も控え、人も東京に集まることを考えると、宿泊療養施設のためにホテルを新たに貸してくれることは難しくなります。その間に感染者がどんどん積み重なれば自宅で、となります。

こうした状況では医療機関もワクチン接種をする余裕もなくなっていきます。

それを考えると、11日、12 日になんらかのハンマーを打つべきです。

東京五輪で外国の要人なども来るのなら、ここでいったん減らしていく措置は外交的にも国益にもプラスになるはずです。ただ、休業要請などをする人たちには補償などが必要です。すでに都内のホテルなども多くの予約を受け付けているようです。

第41回厚労省アドバイザリーボード

ーー時期をずらして重症者や死者も増えていきますか?

重症者は、40代、50代の感染者では1割から5%ぐらいです。重症者の数は抑えられるのではないかと見られていますが、感染者の増え方によってはわかりません。

東京都では6000の病床が確保されていることになっていますが、患者が3000床を超えるようになると実際には一般診療もできなくなることがわかっています。

重点措置のままだと、7月末に入院者は3000を超え、入院対応は現実として逼迫感が出てくると予想されています。また、抗がん剤の治療や交通事故への対応など、一般診療の継続も難しくなります。

強い制限に応えてもらうために政府は何をすべきか?

ーーもし緊急事態宣言をうつとなると、どんな対策が考えられますか?また飲食店の休業要請でしょうか?

飲食店についてはなんらかの要請は必要そうです。飲食店もリスクは様々ですから、できれば会話や滞在時間によってもう少しリスク分類をしながら、必要最低限な要請ができないかと考えています。

それに加えて、都道府県をまたぐ移動を避ける。また、接触機会、特に普段合わない人との接触をさける。テレワークも良いかもしれませんが、それが接触機会を減らすことにつながっているかは確認が必要です。

ーーそこまで強い制限に国民が協力するには、矛盾したメッセージのままでは無理でしょう。最低でも五輪の無観客は避けられないのでは?

我々専門家も八方塞がりの状態です。政府や知事もそうかもしれません。

ーー最低でも五輪は無観客で、休業補償をこれまで以上に手厚くするとかでしょうか。

政府は、無観客という決定を、最後の切り札として持っているのかもしれません。そのカードをもし切るなら、どのように効果的に切るのかは、政府にきちんと考えてほしい。なし崩し的に無観客ではなく、感染対策をきちんとやるというメッセージとして積極的に打ち出すべきでしょう。

それにしても、山手線を深夜2時ぐらいまで動かすとも聞きましたが、大変驚きました。

ーーまさに矛盾したメッセージです。五輪のためなら人の動きを深夜まで促していいのかと思います。

なぜそんなことをするのでしょう。あとはスポーツバーなどに人が集まらないようにしないといけません。

ーー我々国民はたくさん要請を聞き、我慢してきました。政府へは何を注文しますか?

国民に何が必要かを理解し、説明して信頼を作ることでしょうね。首都圏でも感染者は1%程度で、知り合いで感染したという人も1割程度しかいません。

そんな中でもみんなすごく辛い思いをしながら乗り越えてきたことを慮って、もうまもなく違う風景が見えることを示すべきです。

日本はゴールが目の前に見えているのに、最後に大きな失敗をしようとしている状態です。

コロナ疲れでもう生活を制限する要請が聞けないという気持ちはわかりますが、対策が疎かになる結果、人が重症になり、後遺症がでて、そして中には亡くなる方が出ます。もちろん経済的に苦しくて自殺ということも、絶対に避けなければいけない。

しかし感染者が増えている中では感染者を抑えないと、誰もが次の段階にはいけません。

ーー国民は「ここまで1年半、私たちはすごく我慢して頑張ってきた。それなのに、あなたたちは我慢せずに東京五輪を断行する。政府も少しは何かを我慢すべきでは?」という不満を抱いていると思います。目の前の大波を抑えるために、政府は何をすべきですか?

私の周りでも「オリンピックにより生活がどうなるか不安です」という声を聞きます。日々の生活が脅かされることにすごく不安を感じています。

それでも、ここでしっかりと接触機会を減らすことが必要です。重点措置の延長だけにするならより厳しい措置が必要ですし、緊急事態宣言をやるにしても厳しい制限をするために市民の納得感を得ることが必要です。

今すぐにできることは、できるだけ4連休までに感染者数を減らし、首都圏そして、地域の感染を抑える。

東京五輪開幕の日をできるだけ安心して迎えたいなら、今が最後のチャンスです。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を昨年6月11日に出版。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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