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地域の「名指し」、合理的な対策のために必要か? 新たな分断を生むのか? まん延防止等重点措置の捉え方を考える

大阪、兵庫、宮城県に適用された新しい制度「まん延防止等重点措置」。再び緊急事態宣言を出さないための効果的な対策になるか、対象となった地域への差別を生むことにならないか。公衆衛生の専門家に聞きました。

緊急事態宣言解除後、再び感染拡大する大阪、兵庫、宮城県の要請を受け、4月5日から5月5日まで「まん延防止等重点措置(重点措置)」が適用される。

全国的に幅広い地域に網をかける緊急事態宣言と違い、知事と政府が地域を特定し、ピンポイントで対策をうつこの新しい対策だ。

どんな効果、また課題が考えられるのか。

和田耕治さん提供

「まん延防止等重点措置を効果的に使うために、私たちには成熟した捉え方が求められる段階に入った」と話す和田耕治さん

厚生労働省の新型コロナウイルスの専門家会合にも参加している、国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんにお話を聞いた。

※インタビューは4月3日夕方、Zoomで行い、その時点での情報に基づいている。

対象地域を決めるには? 知事と市区町村の連携が不可欠

ーー「まん延防止等重点措置」はどういうことができるように新たに創られたのでしょう?

一言でいうと、緊急事態宣言をできるだけ出さないようにするために作られた制度です。感染拡大に関連する業態で、例えば飲食店への時短要請を行い、補償金も出すことができます。一方で、それに協力してもらえない店には罰金も科します。

もう少し意思決定が迅速に行える制度だと思っていたのですが、今回初めて適用してわかるように、政府が都道府県と連携して決める形になっています。

「まん延防止等重点措置」は、期間と地域、対象となる業態も決めるのが特徴です。

この指定が難しくて、大阪府でも「対象地域は大阪市だけでよかったのか?」とか、兵庫県でも「対象地域が広すぎるのではないか?」という疑問が出ています。色々な意見がある中で、知事が決めないとなりません。

「なんでうちだけ?」とか「なぜうちは対象にならないの?」という不満が出てきます。今後感染状況のデータを見ながら、対象となる地域を決めることになります。

都道府県と特に大きな自治体である政令市との連携は必ずしも良いところばかりではありません。今後、首都圏に必要となった場合には、地域の決め方などの運用は難しそうだとも思っています。

特に東京都の23区は財政も含めて独立性を持って運営していますから、知事と区長との間にどういうコミュニケーションを取るかが重要になります。

新しい武器は増えたのですが、この武器は使いこなすのが難しい。そのためには今まで以上に地域の流行状況をきちんと見ること、地域と知事が連携して一体となることがないと、効果は期待できません。

3府県、タイミング、妥当か?

ーーこの3府県以外、東京もずっと増加傾向が続いています。宮城県はかなり早い段階から感染拡大が進んでいます。緊急事態宣言でなくていいのか、3府県の範囲でいいのか、遅過ぎたのではないかという批判もありますが、どう考えますか?

緊急事態宣言は全国で感染が拡大して止まらないというのが一つの要件になります。特に広がっている地域を対象にまずは「まん延防止等重点措置」をやりましょうという判断でした。

ただ宣言で求められるような移動や外出の制限などはやらなくていいというわけではなく、対象地域やその近隣地域では宣言に準じた措置として捉えていただく必要があります。

タイミングは難しい。早く出し過ぎても聞いてもらえない可能性があります。

「特別措置」の適用の前に自治体としての努力も大事です。宮城県は独自の緊急事態宣言も出していましたね。でもその判断は少し遅かったように思います。

宮城と大阪・神戸の違いは、宮城は比較的第3波を抑えていたことです。それが今までにない1番の大きな波を迎えているのが宮城の特徴で、特に深刻な状況がうかがえます。

ーー大阪、兵庫の急増は変異株の影響もあるのでしょうか?

あるかなしかで言えばあるでしょうけれども、どの程度の影響かというのはまだわかりません。もちろん、わからないことがあるからなにもしないというわけではありません。

変異株を理由として移動の制限をどうするか、外からの往来を減らすべきかは考えないといけませんが、変異株の影響があろうがなかろうが感染拡大地域の往来は減らすことが必要です。

ーー「特別措置」の範囲では飲食店の時短営業が中心的な対策ですね。既にどこでもやられているわけですが、時短強化で効果は出るでしょうか?

「特別措置」は、それさえやればいいということではありません。あくまで法的な措置でお金が絡む対策であり、その上に外出の自粛などを一緒にお願いしていかなければなりません。

「特別措置」を生かすも殺すも自治体次第です。何を上乗せして市民にお願いするかは自治体にかかっているのです。

時事通信

大阪府の新型コロナウイルス対策本部会議後、取材に応じる吉村洋文知事=4月1日

大阪府では知事が一生懸命「マスク会食を」と言っていますが、感染対策から考えると、実効性には疑問があります。特に飲酒の場面ではかなりの慣れや工夫が必要そうです。

地域を名指し、差別につながらないか?

ーー緊急事態宣言が解除されたらリバウンドするだろうというのは予想された事態でした。全国に感染が広がっていく兆しも見えますが、その場合は「特別措置」の対象地域を広げるのか、3度目の緊急事態宣言を出すのかどちらになりそうでしょう。

適用したばかりの「まん延防止等重点措置」をきちんと実行して感染を抑えることが大事です。

感染者が増えている時は、県内の全ての地域が満遍なく増えているわけではありません。特に流行初期に増えているのはピンポイントの地域や特定の集団です。

繁華街だけではなくて、職場クラスター、運動に関係するクラスター、外国人クラスターと時間が経つにつれて流行する場は様々に変わります。これからは、地域の流行状況を観察し、ピンポイントで効果的な対策を迅速に打っていかなくてはなりません。

その中で問題になりそうなのは、該当する「地域」を名指しすることなんですね。それをみんなが正しく捉えられるかが重要です。

例えば、職場のある区が「重点措置」の対象になったとして、顧客から「営業や作業に来ないでくれ」ととお断りされることもあり得るわけです。そのお断りが「差別」なのか、「感染対策」なのかの判断は難しい。

私なら感染拡大が明確になっている地域に不要不急の用事では行きません。家族がもし重点措置の地域に出張だと言っても、「それは本当に今いかなくてはいけないの?」と聞くと思います。

今回は都道府県内という身近なところで、そうしたことが課題になり得ることを今からでも考えておく必要があります。

地域間に対策の差をつけること 分断につながらないか?

つまり、私たちはまた新たな応用問題への取組が求められています。感染拡大している地域への往来を避けることを「差別」と呼ぶのかという問題です。

この「まん延防止等重点措置」では地域を個別に指定するので、その地域の取り扱い方をどう整理していいのか僕もまだわかりません。どう考えたらいいと思いますか?

ーーおそらく緊急事態宣言でみんなが苦労することを日本人は受け入れますね。みんなで大変な思いをするのは受け入れますが、「他の人は普通の生活をしているのに、自分の地域だけ我慢しなければならない」と格差がつくのは受け入れがたい人が多そうです。

地域を指定して、ピンポイントで対策を立てていくことは合理的ですし、経済へのダメージも減らすことができるはずです。

千葉の場合、千葉市の中心部も、離れたところでもこれまでは一律の対策を行っていましたね。東京都でも繁華街とそれほど感染が起きていない地域で同じ対策を取っていました。本来必要のなかったところにも網をかけていたわけです。

「合理的な対策」という名の下で地域が名指しされることに関して、我々はどういう心持ちで臨むのか。これはものすごく大事な論点です。どう考えたらいいのかみんなで議論しなければなりません。

「大阪や神戸、仙台に今は行かない」というのを「差別」と捉えるのか。「リスク回避」と捉えるのか。おそらくなんらかの一線を超えると好ましくない「差別」になるのでしょう。

今後は、例えば東京都の場合、特定の区が指定されたりすると、その地域の方だけテレワークとするのか、また営業や作業で行くのを今は避けるのかといったことが議論になり得ます。

これまで以上に自分の住む都道府県の中で対策に違いが出るわけです。

ーー個人的な話ですが、昨年11月にGo Toトラベルを使って父の法事のために長崎に行きました。その時に繁華街のあちこちに、関東や県外から来た客を断る張り紙がありました。今回も「まん延防止等重点措置の適用地域から来たお客さんはお断り」ということがあり得るということですね。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

2020年11月、長崎市内の飲食店に貼られていた関東や県外の客を断る張り紙

たしかに、自分が同じ立場になったとしたら良い思いはしないでしょう。ただ、飲食の場面で感染が広がるとしたら、地元を守るということであれば納得できないわけでもありません。

そこにどういう気持ちがあるのかが大事なのでしょう。言葉の捉え方も様々です。

最近は、新大阪の駅に関東から行くと検温されるということですが、それも地元としてできる限りのことをしたいということなのでしょう。

捉える私たちもマイナスに捉えると、分断を呼びます。まさにこうした時代のなかでお互いさまとも言える関係性があれば、わかり得ないこともないでしょう。

もう少し科学的に、ある意味で寛容に、考えないといけないのかもしれません。「差別・偏見だ」と糾弾して、分断することは簡単です。

でも適切なリスク回避まで「差別・偏見だ」ということにはしたくない。私もまだ考えないといけませんが、皆さんとももう一歩踏み込んだ議論が必要だと思います。

この1年間、様々な場面で社会の分断が見られましたが、私たちにより成熟が求められているとも言えるかもしれません。

「まん延防止等重点措置」の対象地域、そこまで行動制限されるべきか?

ーー「まん延防止等重点措置」の対象地域だとしても、住んでいる人のほとんどは感染していないはずです。例えば、「重点措置」地域だから東京でのコンサートのチケットが取れない、というような行動制限を課すのはやりすぎではないですか?

どこまでを制限とするのかによりますが、そうした対応は不当とも思えません。ただ、伝え方や受け止め方も大事だと思います。

ーーそれは分断を生みそうです。公衆衛生の観点からは「合理的な感染対策」とも考えられるということですか?

合理的という言葉は聞こえがいいですが、過去に感染症対策として、「感染者を社会から隔離する」という行き過ぎた対策が取られた歴史を忘れてはなりません。

ですから、私たちがもっと具体的に、何が合理的かを日々考えていく必要があるように思います。温かい気持ちや支援があり、対象になった方にも配慮があれば合理的と認識されるでしょうし、そうでなければ合理的ではないでしょう。合理的であるかどうかには多角的な視点が必要です。

ただ、これがうまくいかないと、また、緊急事態宣言で都道府県内全体に網をかけなければいけなくなります。

ぜひ、皆さんも考えてみてください。合理性を盾に相手を傷つけて良いわけではありません。

ーー医療従事者の場合はワクチンの接種も進んでいます。6月以降、一般の接種も進めば、「ワクチンパスポート」ではないですけれど、接種した人は対象地域であっても行動制限を免除されることがあり得るのしょうか。複雑な方程式になりますね。

新たに今まで経験したことがない問いが突きつけられています。我々はどういう心持ちで向かっていくべきなのか。ワクチンも含めて我々は新たな応用問題を解いていかなければいけません。

夏頃には「私はワクチンうったから旅行する」「ワクチンをうったからマスクはしない」という人も出てくるでしょう。ただ、ある程度社会の中で接種率が上がらないと対策は緩められないと思います。

私たちの社会はどうあるべきか、様々な問いを考えていかなければいけません。

対象地域もそうでない地域も「基本を徹底」が大事

ーー最後に、新たな対策が打たれる中、対象地域とそうでない地域の人が気をつけるべきことは何ですか?

基本的には3密を避けるなど、対策は変わらないわけです。

対象地域の人は緊急事態宣言と同様の心構えで、感染拡大を収めるために人と人との接触機会を減らしてほしい。

ちょうど年度末の異動の時期や入学式のシーズンですが、会食や飲み会はやめてほしいです。そうでない地域の人も不要不急の往来を避けて、みんなで感染を抑えることに協力してください。

第3波がどうだったのかを点検して、もう一度、感染対策の基本を徹底してほしいのです。私の周りは手詰まり感を覚えてなのか、「飛び道具」や「新たな秘策」を求める人が最近増えています。

今やっていることの質をあげる、やらなくていいことも見極めて、3密を避けるなどもう一度基本を徹底してもらいたいと思います。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を6月11日に出版。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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