全国で再び感染が拡大している新型コロナウイルス。
Go ToトラベルやGo Toイートといった人の動きや飲食を促す経済政策も盛況な中、風邪やインフルエンザの本格的なシーズンも到来します。
医療機関も徐々に余裕がなくなっていますが、私たちは何に気をつけて過ごしたらいいのでしょうか?
公衆衛生や感染症を専門とする国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんにお話を伺いました。
※インタビューは11月14日にzoomで行い、その時点の情報に基づいています。
感染者が増えたら早めに減らす動きをとることが大事
ーー全国で感染者が増えています。ここで食い止めないといけませんね。
一番お伝えしたいのは、感染者が増えてきた時には、早めに減らそうという動きを持てるようにすることがすごく大事だということです。
みなさん忘れてきているかもしれませんが、いったん増えた場合に、減らそうとしてからその減少の効果が見えるまでに3週間ぐらいかかります。ところが、今回、減らそうという方向への声が少ないです。特に首長からの声が少ないようです。
ーー新型コロナにいい意味でも悪い意味でも慣れが生じていますよね。
減らそうという声が出ない一つの理由はなぜかというと、どこを締めたらいいか自治体の人もわかりかねているためだと思います。「夜の街」がことさら多いわけでもないし、家庭内での感染や職場での感染も増えている。
感染状況を分析して、今、知事が発信すべきは、体調がおかしいかも、風邪っぽいかもという人が自宅療養をしたり、外に出なかったりすることがすごく大事だということです。それをもっと呼びかけてほしいと願っています。
飲食店は午後10時までで閉店としてもいいのですが、今、一番大事なのは、地域の中での感染の可能性が上がってきているので、「ちょっと喉がゴロゴロしているかも。咳が出るかも」というような体調の悪い人は、外出しないように徹底することです。
みなさん「第3波が来た」などと言っていますが、私はむしろ、今の状況を見ていると、これこそがいわゆる大きな「第1波」になり得る気がしています。
ーーどういう意味ですか?
つまり、これまで言われていた「第1波」「第2波」と言われていた流行は、今回の大流行の予兆に過ぎなかったと思えるほどの大きな流行になり得るということです。対策を今こそ打たなければそうなり得る危機感があります。
ーーこれまでのは予兆だったと思えるほどの流行に?
アメリカやヨーロッパはみんなそういう流行を経験しています。日本もこのまま放っておけば、このウイルスではそうなり得る。だから危機感を持ってほしいのですが、新型コロナが日本に現れてから既に半年以上経っていてみんな疲れているし、メッセージが届きづらくなっています。
この冬はとても大事な冬です。このコロナとの初めての冬をどう乗り越えるかによって来年の過ごし方が決まってきます。
「この冬なんとか乗り越えようキャンペーン」のようなことをいまからでもやりたいと思っていますが。今、札幌などが大変な状況になっています。感染者の急増は、我々がコロナとの共存ができていないテスト結果とも思っています。
4つの症状があれば外に出ないことを徹底する
ーーオリンピックなどは夢のまた夢になりますね。
オリンピックは選手だけ囲ってしまえば理論上はできないわけではないと思います。接触の多いスポーツは課題が多いですが。
「経済と感染対策の両立」は大事ですが、感染対策をして感染者を押さえ込まないと経済も結局は回りません。ですから、増えてきたらみんなで減らそうと呼びかけなくてはいけません。
そして、減らすためにどうしたらいいかを丁寧に説明しなければいけません。
今は、東京や札幌も含めて感染者が増えているところで「体調がちょっと悪いかも」という人は、外になるべく行かないようにしてほしい。仕事は休めるようにする。飲み会などにも絶対に行かないことがすごく大事です。
ーー体調が悪いと言っても色々ありますが、先生が以前の取材で示された4つの症状ですか?
- 熱
- 喉の痛み
- 咳
- 味覚・嗅覚障害
今、日本ではクラスター(集団感染)が分散化していていろんな場所で感染が広がっています。その中で基本となる対策は、「体調がちょっとでも悪い人は今はできるだけ外に出ない」。そして、コロナに関連する症状があれば検査を受けていただくことも大事です。
医療が必要な症状のある人は早めに受診してもらうことが大事ですが、他の人との接触を避け、うつさないことがとても大事です。
感染増加期はGo To利用を控えてというメッセージを
ーーと言いつつ、Go To トラベル、Go Toイートと移動や飲食を促す政策が続いています。改めて何に気をつけるべきですか?
少なくともGo Toトラベルで感染者が増加している地域の人がその地域外に出る、または外から感染増加地域に行くことは避けてほしいです。
せめて、新規感染者が増えている時期は減らしてほしいのです。今、都道府県別に見ると、感染者が増えていない都道府県もありますね。そういうところ同士なら行き来してもらってもまだ大丈夫かもしれません。
でも、東京から島根に行くとか、岩手から札幌に行くとかは避けてほしい。地域の感染が拡大しているところの行き来は、「今でなければだめ」という特別な事情がない限りは避けてほしいのです。
特に、医療体制が脆弱な地方の人が東京に来て、感染して、その後また地方に戻って、他の人に広げるようなことは避けていただきたい。
Go Toの制度を使うのは個人の自由としか言えないかもしれませんが、使い方については自治体や国は指針を示すべきです。
ーー西村経済再生担当相は、「使って旅行されるかどうかは国民の皆さんの判断だ」と会見で言っていましたね。あのメッセージはダメですか?
ダメでしょうね。個人の判断に委ねるということではなく、国がやっている事業なのですから、そこは責任を持って運営してほしいです。
特定の地域を除外して使えなくするかどうかは次の段階の話ですが、せめて、「感染拡大して増えている地域は行き来しないでくれ」と呼びかけるべきだと思います。
言うべきは今 注意しなかったことを後悔する時が来る
今回、北海道の鈴木直知事もそうですし、他の県の知事もGo Toトラベルについて発言が弱い。地元の観光産業や経済に配慮してのことだと思います。
もちろん最後に決めるのは個人でいいのです。しかし、注意はすべきですし、安全な旅行のスタイルを提案してもいい。温泉に行って旅館で誰とも会わずに過ごすなら安全でしょうから。
でも、昔の友達に会ったり、飲み会をしたりというのはやめてくださいと示した方がいい。こういうハイリスクな旅のスタイルはやめてくださいと具体的に示すべきだと思います。
そして注意を呼びかけるのだったら、まさに今、言うべきです。言わなかったことを後悔する日がそう遠くない時期に来ると思います。
ーー年末年始の帰省はどうしたらいいでしょうね? 今の状況だったら全国大移動はしないほうがいいというお考えですか?
帰省にもいろんな種類がありますね。目的によると思います。分散化してほしいのは、大前提です。
しかし、この人たちだけは帰省させてあげたいという人はいます。おじいちゃん、おばあちゃんと今会わなければ二度と会えないような人とか、病気の家族がいるとか、優先度の高い人がいます。
ーー札幌、東京のような状況ですと、やはり優先度の高い人だけに留めてほしいという感じですか?
そうですね。冬は何が起きるかわかりませんので、旅行会社もある程度キャンセルできるようにしておかないと、具合の悪い人が無理に旅立つことによって、感染拡大します。
インフルエンザのピークは例年1月の2週目ですが、これは帰省によることがはっきりしています。人が交わる機会で密になってまた戻っていく。やはり帰省の分散化は必要です。
Go To イート 飲食の単価を上げることも検討を
ーーもう一つのGo Toである飲食の場はどのように気をつけるべきですか?
飲食の機会は、日常生活で一番リスクが高い場面です。感染が増えている時期はやはり使うのは控えてほしいです。
食事をする場は、少なくとも今後2〜3年は、感染者が増えてくればやはり客足が減るし厳しくなる。その見通しの中で客単価を上げていくことも今後は必要になってくるということです。
リアルに人と会う場は、単価を高くしないと経営が難しくなるのではないかと思います。感染対策上、密にならないようにすると、客数を減らさざるを得ません。
我々消費者としても、客単価が上がることを容認するようなことが中長期で必要となると思います。みんなでどうやったら感染対策しながら、営業を続けられるか考えなくてはいけません。
ーーみんなが経済的に厳しくなっている時に、単価を上げれば客足が遠のくかもしれませんね。難しいです。
そうですね。飲食店など現在厳しい業態は、中長期の視点を持たなければなりませんね。1年過ごしてみて、数ヶ月ごとに感染者が増えると飲食店は最大限気をつけるということが繰り返されてきました。客足が減ることが今後も起こり得ることを想定して、今後の営業を考えないとならないでしょうね。
そこで単価を上げるという改革もある。消費者も意識を変える必要があるでしょう。旅行も含めてです。
今まで食のコストが日本は低かったのです。海外からの旅行者は、「なんでこんな美味しいものが1000円で食べられるのだ」と驚いています。ヨーロッパや米国では1000円で美味しいものがこれほど食べられる国はあまりありません
そういう価値観を変えていくことが、事業者側も、消費者側も必要です。国はそういうことを支援すべきでしょう。Go to eatはそうした活用方法もあったのではないかと思います。
感染拡大 冬という季節は関係あるのか?
ーー感染者が増え始めたのに、冬という季節は関係ありそうなのですか?
気温は関係ありそうですね。寒くなると、室内での人との交わりが増えるので、人と人との距離が短くなります。接触機会も増えます。それがまず一つ原因としてあります。
そこで、換気と湿度を調整すればいいじゃないかということになりますね。それでもやはり、人と人との交わりの機会は減らすことは大事です。
換気は大事だというのは最近、つくづく思うところです。二酸化炭素モニターを持っていると、「ここは換気されているようだ」と見た目で思っても、実際にはあまり空気が入れ替えられていないことがあります。
居酒屋の個室などはリスクが高い場です。もし、飲み会をするなら、その日にお互いに喉が痛いとか、咳が出るとか、鼻水が出るということはないよねと確認し合っておかないと、狭い個室で4人などで飲んだら感染します。
ーー湿度の話も出ましたが、新型コロナは湿度に弱いというエビデンスは出ているのでしょうか?
湿度に関しては40%以上という目安があり、湿度も大事だと言われていますが、かっちりとしたエビデンスはありません。
一方、1月、2月と本格的な冬になってきた時に、公共の場で換気をしながら湿度を40%にするのは厳しいです。
みなさん今、公共の場ではマスクをしているので、口の中の保湿効果はそれなりにあると思います。
「何が何でも40%だ!」と、バケツに水を入れて置いておくとか、濡れタオルを干すとかやっていただいていますけれど、まぁそこまでは必要ないのではと思います。私はそこまではしないです。
加湿については、少なくともみんなマスクをしている保湿効果を考えながら、目くじらを立てないようにしてほしいです。
病院の入院病棟にコロナの患者がいても加湿器は使いません。病院でやらないことはやらないでいい。あまり加湿にとらわれないでほしいです。
換気は適宜やった方がいいです。湿度と換気のどちらを優先するかと言えば、公共の場においては換気を優先すべきだと思います。
ただ家の中で誰も感染者がいない時に一生懸命換気をする必要はないと思います。具合が悪い人がいれば、その人を別の部屋にいていただくようにする方が大事です。
再び緊急事態宣言の可能性は?
ーー今後、感染がさらに拡大して医療機関も逼迫してきたら、再び緊急事態宣言を発出する必要性が出てきますか?
緊急事態宣言は最後の手段なので、そこに至るまでに様々な段階を踏んでいくことが大事です。いきなり緊急事態宣言を出しても期待する効果は得られません。
緊急事態宣言は、目的とタイミングが重要だと思います。
今、各自治体で警戒レベルを段階的に上げていっています。このレベルが厳しくなっていくと、人と人との接触頻度を下げるための極端な対策をうつ必要が出てきます。
ただ経済的に苦しくなれば自殺が増えることもあり、「ハンマー(強行的な対策)」は簡単に振り下ろせません。
最初の流行の頃は予算もあって補償もできましたが、長期化するに従って、そうした配慮がだんだん難しくなっていきます。
人と人との距離が短くなっている冬場に感染拡大の要因は増えています。その中でどうやって抑え込んでいくのか、一人一人が考えなくてはなりません。みんな「俺は対策してるよ」と思い込んでいますが、意外ときちんとできていないので、もう一度確認していただきたい。
分科会が出した感染リスクが高まる5つの場面すら「避けるのは難しい」という人がいるようです。
でも、自分を守る、大事な人を守る、地域を守る思いやりに満ちた生活様式をしていくことが基本なんです。これは簡単なようで、継続するのが難しいことです。
この冬を抑え込むという意識を
ーー最近、繁華街はどこも混んでいますし、公共交通機関にも人がたくさん乗っています。みんなマスクをしているものの、元の生活に戻った感がありますね。
デパートなどあまりしゃべらない場所で人の動きがあるのはそんなにリスクになっているとは思えません。やはり、話す場面、食べる画面が感染リスクは高い。飲食店には人がたくさん訪れています。
ーーみんな対策に飽きがきていますね。対策を徹底している店もありますが、一部はかなりゆるい対策しかしていないところも見られます。
2回の流行をなんとか抑え込んできたことで、日本は多くの知見を得ました。しかし、冬の流行は初めてですし、これまでと同じ方法で抑え込めるかどうかはわかりません。やはりこれまでより強い対策をしないと乗り切れないと思います。
ーー冬の問題として、この時期流行る風邪やインフルエンザとの見分けがつきにくいということも指摘されていますね。
インフルエンザより、風邪とコロナの見分けが難しいですね。ですから、体調の変化があったら、みんなが早めに気づいて、外に行くのをやめるとか、食事は一人でしようとかの気遣いをするだけで大きな効果があると思います。
特に感染者の増加している地域は、そういう症状に敏感に反応して大げさに対応することが大事です。新型コロナは症状の出始めが一番感染リスクが高いことがわかっています。
普通の風邪だと、症状の出始めはまだみんな余裕があるし、予定もあるし、仕事もあるし、つい動いてしまいますよね。でもそれが新型コロナだった場合は感染が拡大します。
食事の約束をしていてキャンセルするのはすごく抵抗があるかもしれません。でも、こういうご時世ですから、少しの症状であっても念のためキャンセルして仲間を守ることがすごく大事です。
冬場なので風邪と紛らわしい症状なのに動いてしまって感染するという事例は増えているはずです。もう一度、風邪の初期症状と見分けにくいということを思い出して、行動に慎重になってほしいです。
うつす距離感にある人は自分にとって大事な人
ーー感染者が増えている今、改めて気を引き締める必要がありますね。
私は関係ないと思わないでほしい。後遺症についてもだんだんわかってきていますが、若い人ならかかっても大丈夫ということは全然ありません。
やはりかからないことが一番ですし、さらに自分が感染して親や祖父母に感染させれば重症化して命を失う危険性もあります。
この感染症をうつすような距離感にある人は、より身近で大事な人であることが多いですね。大事な人を苦しめないように感染しない、感染させない行動を改めて徹底してほしい。
食事をする場面、話す場面では相当に気をつけて、場合によっては頻度を減らしてください。どうしても行く場合は互いに体調確認をして、少人数で、短い時間で。特に今のように感染者が増えている時は予定そのものを減らしてほしいです。
ーー開発中のワクチンの効果の高さが喧伝され、ワクチンができれば全て解決と思っている人が多いですね。
ワクチンへの期待も確かにありますが、副反応の問題はまだクリアできていません。過度な期待を抱かず、もう少し冷静になってほしいです。ワクチンができたとしても、3密対策など基本的な対策の必要性は変わりません。
繰り返しになりますが、この冬をどう乗り越えるかで来年の対策が決まります。もし、ここで抑え込めれば、日本にとって大きな自信になります。
逆に欧米で見られているように医療崩壊が起きるレベルの大流行になり、社会不安に陥れば、来年はもっと厳しい対策を取らざるを得ません。
【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授
2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。
『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を6月11日に出版。