• covid19jp badge
  • medicaljp badge

イベント制限緩和、Go Toの東京追加... 日常に戻すための「社会実験」が始まる

新型コロナウイルスの流行が徐々に落ち着く傾向を見せ始めている中、政府はイベントの制限緩和やGo To事業への東京追加の方針を打ち出しています。日常に戻すフェーズで何に気をつけるべきか、公衆衛生の専門家に聞きました。

新型コロナウイルスの再びの流行が徐々に落ち着く気配を見せる中、政府はイベントの制限緩和やGo To事業への東京追加の方針を打ち出しました。

しかし、まだ東京などは200人台の新規感染者が続いており、緩み過ぎての感染爆発は防ぎたいところです。

徐々に日常生活に戻す時期、私たちは何に気をつけたらいいのか。

公衆衛生や感染症を専門とする国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんにお話を伺いました。

※インタビューは9月11日にZoomで行い、この時点の情報に基づいている。

事業者は準備を リスクが高いのはイベントの前後

ーー政府は新規感染者数が減少傾向にあるのを踏まえ、イベントの制限緩和とGo Toトラベルへの東京追加の方針を示しています。感染対策をしながら、日常に徐々に戻していくフェーズだとも思いますが、再びの感染拡大も怖い。何に気をつけるべきですか?

イベントについて政府はこれまで会場の定員の50%まで、上限5000人に制限してきました。

こうした状況において、ただ解除されるのを待つのではなく、解除に向けて様々な実験をしてエビデンスを積み上げてきた事業者や関連団体も増えているようです。

どうやったらイベントを感染拡大の場にならないようにできるのかをしっかりと考えて備えをしてほしい。また、事業者間で連携するなどして良好事例を共有してほしい。

ITを使って、感染拡大があった場合の対応を効率化するとか、実際の感染対策はこうしたらいいとか、人の流れをこうしようとか知恵を出し合う。そして、参加するお客さんも協力して準備してほしい。

私もいろいろと相談をされますが、当事者であるお客さんなどを交えてお話をされてはどうかと提案することも多いです。最後は当事者そして、大きなイベントであれば地域との対話も必要になるでしょう。

ーーエビデンスを積み上げたところというのは、例えば楽器でどれだけ飛沫が飛ぶか実験を繰り返したクラシック音楽界などでしょうか?

クラシックでは、会話の機会が限定的なら、静かに聞いている中で、座席で感染が拡大する状況ではなさそうです。ただ、咳をしている人がいる場合などへの対応は必要になるでしょう。

野球でも球場の換気による風の流れの影響などを確認しています。今は5000人までとなっていますが、東京ドームは定員が5万5000人のようですから、今まで5000人だったのが、2万7000人以上と急に増えます。

10月から解除されるとしても、それまで5000人から定員を増やすことによる感染リスクの拡大を考え、様々な対策を準備しておかなければいけません。

今回、パフォーマーからお客さん、お客さんからお客さんの感染の可能性については考慮されて、制限解除になっています。

しかし、パフォーマー同士の感染対策は引き続き難しい点が多そうです。写真にあるような合唱はお互いの感染リスクをコントロールするのは難しそうです。

これまでガイドラインの作成にも携わり、実際の現場にも伺いました。その経験から、参加者も声を出すようなイベントを除いては、感染が広がるのはイベントが行われている最中というよりは、そのイベントの前後のようです。

イベント前後にファンが集まったり、終わった後で飲みにいったりする時などの感染リスクの方が高いことが多い。こうしたイベント前後も含めた感染対策を考えておかなければいけません。

徐々に再開が求められる状況では、こうしたイベント前後も含めた感染対策を考えておかなければいけません。

野球を例にとっても、感染者がまだ多い東京や横浜の球場で大規模なイベントを開催するとなると、地元の人たちの中には歓迎しない人もいるかもしれません。

その人たちにも、どういう感染対策をしてリスクを減らしているのか、きちんと説明する必要があります。

制限解除と楽観論とバランスを取るのは難しい

ーー今、新規感染者数が減少傾向にあっても、10月はまた増加傾向に入るかもしれないですね。専門家の分科会も、流行状況を見て決めた方がいいと提言しています。

制限解除は10月1日を目安にしていると聞いていますが、その頃の地域の流行状況はわかりません。もしかしたら感染が再び拡大しているかもしれない。

特に9月19日からの4連休は心配です。7月にも連休がありましたが、その際にも感染が広がる傾向がありました。

東京都も9月15日まで飲食店にかけていた夜10時までの営業時間の制限を解除することを決めました。

一方で、地方都市ではある程度落ち着いているところもあるかもしれませんが、都道府県を越えた人の動きがあると地元の人は難色を示すかもしれません。できるだけ、規模は地元の意見を優先する形から始めた方がよいと考えています。

慎重な意見だと批判されるかもしれませんが、まだまだ慎重にはならざるを得ない状況です。

こうした制限が解除されると、徐々に、感染対策の実践が緩んでくることを危惧しています。欧州でも感染が再拡大していますが、バカンスの間に対策がなされなくなっていたようです。また、楽観論も広がり始めています。こうした中で感染者数がまた上がってくる可能性もあります。「イベント制限を解除したから、感染が再び拡大した」と批判が高まる可能性もあるわけです。

制限が解除されたからといって、基本的な感染対策をやらなかったり、ハイリスク行動をとったりすれば感染は拡大します。市民の間で楽観論が広がってマスクをしなくなれば飛沫が飛散する機会は増えます。

基本的な対策をよりしっかりやりながら開いていかないと、すぐにまた「中止や縮小をしてください」という方針に逆戻りしかねません。

ですから、あくまで感染対策を強化しながらの再開と考えていただきたい。

一方、この半年間で不要な対策もたくさんやっていたことがわかってきました。それをどうやめていただくかも考えなければいけません。特に環境の消毒については手間やコストがかかるわりに効果が見えにくい。

厳し過ぎるのもおかしいですが、楽観論に傾き過ぎるのも危ない。バランスのよい議論をするのはとても難しいです。また、個別に対策をアレンジしていかないとガイドラインの項目を守れば安心というわけでもない。

まさに、今の制限の解除は、皆で連帯しながら取り組んでいく必要があります。今後の中長期での様々なイベントの再開に向けたとても大事な時期です。

柔軟に開催を判断、当初は都道府県をまたぐ参加を避ける

ーー具体的には、何をやって、何をやるべきでないと分かってきたのでしょうか?

イベントに関していうと、まず、そのイベントごとに感染拡大するリスクを評価します。

クラシックコンサートや演劇のようにお客さんが静かに鑑賞するものと、バスケやサッカーのように観客が声を出して応援するもの、ロックコンサートやライブのようにお客さんも歌いファンとの繋がりが密接なところ、あとは企業の展示会やコミックマーケットなど商談や販売行為が伴うものなどでリスクも様々です。

今までクラスター(集団感染)が出てきたところを考えると、その業態に応じた様々な対策が考えられます。

また、今後イベントをやる時に、流行状況に応じて柔軟にやる・やらない、規模を縮小するなどの判断ができるようにならないといけません。

中止したり、規模を縮小したりするとキャンセル代が発生したり、返金したり、お客さんに説明したりしなければならないので、事業者に大変な負担がかかります。

そういうリスクを減らすために、開催直前のチケット販売ができるような仕組みも試みられているそうです。元々は年間でスケジュールを抑えていたのでしょうけれど、参加者の規模を柔軟に変更できるようにする。

もう一つは、現時点では、参加者が都道府県をできるだけ超えない、または近隣都道府県への移動に留めるようにすることも開催に向けて理解を得られやすいと考えます。

今回の地方での流行は東京からの人の移動が原因とわかっていますが、人の移動は地域への感染拡大のリスクを高めます。

例えば広島県などでは、ここ最近は感染者を抑えられています。広島カープの試合で50%の定員まで入れることは、すぐにでもできるかもしれません。

「地域差」は今後も顕著にでるでしょう。国が一律に制限をかけるのではなく、感染者が少ない地域では自治体が判断しながら制限を緩める体制にするのがよいと思います。

ーー初期に言われていた、イベント参加者の個人情報を全て開催者が把握し、追えるようにしておくことは必要ですか?

それができるのか、効果があるのかについて社会実験をして検証しないといけません。個人情報をQRコードで集める試みも行われていますが、それによって地域のまん延防止効果がどれほどあるのかも確認したほうがいい。そして、うまくいった試みを良好事例として業界内で共有していく。

一つ対策を増やすとまた一つ新しい問題が起きるので、そういうことも一つ一つ解決する必要があります。また、実は新しい問題の方が大きかったりすることにも注意が必要です。

もしイベントで感染者が参加していることが確認されたら、「感染者が出ましたので、生活に注意してください」と参加者に連絡が届くようにするという試みも考えられます。

その際、連絡が来ても具体的にどうすればいいのかわからない状況になると余計に不安になります。こうした対策では、アラートを出したあとに「感染者がいたのはどこの席なの?」などと問い合わせが殺到し、対応が批判されることも考えられます。どういう形でのお知らせが効果的なのか皆で考えないといけません。

その後に起き得ることをよく考えないで導入された対策を時々みかけます。

無駄も省く 効果がないものを買わされている

ーー先ほど「いらない対策」をやめることも考えなければならないと指摘されていましたが、例えばどういうものですか?

例えば、消毒薬や「〜水」を噴霧するとか、高価なフィルターがついた空気清浄機を置くとか、新型コロナウイルスの対策として効果が十分に検討されていないものをイベント事業者は買っていることもあるようです。何度か購入の直前に止めたこともありました。

そういう無駄については、ある程度、専門家と言われる人たちに相談して省いていくことも必要です。

医療機関でも使っていないようなものは不要なことが多いです。

一方で、医療機関で使っているから必要というわけではありません。また、あっと驚く製品が出たという時には、「本当かな?」と思うことも大事です。有名な新聞などに載っていたからといって惑わされないようにしてください。

ーー空気清浄機やオゾン発生機などを置いているところをよく見かけるようになりました。タクシーなどでもそうです。

「ここまで対策をやっていますよ」とお客さんに見せるポーズもあるのでしょうね。でも効果が否定されたそういうものを一つ一つ削っていく時期でもあります。

Go Toは人に移動を促すが... 3月までは近隣で

ーーGo Toの東京への拡大についてもお聞きします。先ほど、イベントでは都道府県をまたがないようにという話でしたが、Go Toはむしろ都道府県をまたぐことを促すと思います。

Go Toは都道府県をまたぐ旅行だけを対象としているわけではないようです。都道府県内でも使えます。

ーーまあでも都民は「都内だけで旅行」とは受け取らないと思いますよ。

飛行機に乗る距離の旅行だと、万が一、旅先で体調が悪くなった時にしばらく帰れなくなることも考えられます。数は少ないですが、実際に、首都圏から遠隔地に行って、現地で発症してしばらく入院になった事例はあります。

来年の3月ぐらいまでは、県をまたぐとしてもすぐに帰って来られる距離にするのがよいと思います。地元再発見、近隣県の魅力再発見の旅をお勧めします。

やはり一冬を越えないと、まだわからないことがあります。冬も経験して、このウイルスの対策の全貌がある程度見えてくるのです。この半年色々学んだと言っても、まだ冬の状況はわからない。

来年の3月までは近隣で楽しむというリスク管理の方がいいと思います。

インフルエンザや風邪との兼ね合いは?

ーー一方、冬の時期を経験した南半球のオーストラリアなどでは、インフルエンザの発生もすごく少なかったという報告が出ています。コロナ対策をしていたら、副次的にインフルエンザも減った。日本でもインフルの季節になったらどうなるかと戦々恐々ですが、楽観するのは早いですか?

オーストラリアの状況はとても参考にはなります。ただ、そのオーストラリアでも新型コロナの死亡者はある程度出ていることには注視しています。

冬場は免疫も下がるし、インフルエンザは減るかもしれませんが、風邪はひくでしょう。医療も寒くなると、心筋梗塞や肺炎も増えますから病床に余裕がなくなることが考えられます。夏は比較的落ち着いていましたが。

場合によっては、冬場は、新型コロナに対応できる病床は減る可能性があります。地方によってはすごく大変になるところが出てくるかもしれません。先日の沖縄のような状態が地方都市で起きたら、広域で、例えば都道府県を越えての連携も考える必要が出てくるかもしれません。

Go Toは正月前後は対象外にすべきでは?

ーー冬の生活、冬のイベントで気をつけるべきことを教えてください。

冬のイベントで課題になるのはお正月の帰省でしょう。12月終わりからの人の移動をどうするか今から考えないといけません。

分散化ができればと思いますが、お正月を分散化するというのは、夏休みよりも難しいですね。

――12月24日にお雑煮を食べるわけにはいかないですからね。

お正月は分散化できませんが、この時期は医療も手薄になります。そういう意味では、Go To事業は繁忙期を外すようなことは考慮されても良いと思っています。

本来、Go To事業は、Go To Eatもそうですが、税金を用いたインセンティブは、人々の行動を変えるために行うべきと考えています。

分散化が必要ということを何度となく記事にしていただきました。平日の旅行や遅めのランチの時間などにインセンティブをつけると良かったのではと思っています。

お盆の移動を減らしたように、お正月の移動も減らしたいですが、GWもお盆も帰らず、正月も帰るなと言えば、高齢者も含めた地方の人の生活が成り立つのかは悩むところです。それでも早くからみんなで分散化の計画を考えたほうがいい。

どうしても正月に帰らなくてはいけない人のために、そうでない人はずらすことを考えていただきたいです。また行く前には健康管理をして、実家への訪問前1週間から飲み会などは避けておくことも必要かもしれません。

日常生活を取り戻せるかの社会実験が始まる

我々は第1波、第2波を経験してきて、今、新規感染者が減少傾向になるまで色々なことを学んできました。

その間、みんな我慢してきた旅行やイベントや外食などをいよいよ再開できるほどまでに感染対策が広がりつつある。ある意味、これはある意味では社会実験でもあります。

今後もいろいろなことがあるかもしれません。クラスターが発生した、場合によってはそれによって重症化や死亡する人もでるかもしれない。リスクはゼロにはなりません。

そのためにもできるだけ慎重に再開する必要があるし、その中で効果のあったこと、なかったことを共有しながら、効果のある方法を進めていく必要があります。

地域の感染状況を見ながら、柔軟に対応することです。

感染が拡大しつつある時に再開を強行するのは、地域社会として容認できない可能性があります。具合の悪い人は返金に応じるなど色々な仕組みを作る必要があります。

新型コロナというなかで、社会を再び開くことは、これまで以上に感染対策をしっかりやっていくという覚悟を持つことでもあります。そういう市民と事業者の自覚が半年間で醸成されてきたでしょうし、これからも必要です。

三密だったり対策が手薄だったりするイベントは避ける、事業者に指摘するなど、お客さん側も参加するイベントの対策を事前に確認してほしい。イベントを守るために、お客さん自身も考えてほしいのです。

コロナの時代でも生活を楽しむにはどうしたらいいかをみんなで考えるすごく大事な時期であることを、改めて認識いただきたいと考えています。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。

『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を6月11日に出版。