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宴会2時間でも「大丈夫というわけではない」 新型コロナ第一波から学ぶべき教訓

新型コロナウイルスが再び拡大し、重症者の割合も増えて、このまま手に負えないような事態にならないか不安が広がっています。欧米で起きたような感染爆発は防げるのか。第一波の教訓を公衆衛生の専門家に聞きました。

新型コロナウイルスが再び拡大し、重症者の割合も増えて、このまま手に負えないような事態にならないか不安が広がっています。

東京や大阪などの大都市だけでなく、医療に余裕がない沖縄でも感染者が増加。

世論調査では、国による緊急事態宣言を望む声が過半数を占め、要請ベースではない、強制力を伴う規制を求める声もあがります。

感染拡大を食い止めるために、第一波の教訓は活かせるのでしょうか?

公衆衛生や感染症を専門とする国際医療福祉大学医学部公衆衛生学教授の和田耕治さんにお話を伺いました。

※インタビューは8月14日にZoomで行い、この時点の情報に基づいている。

今回の波までにわかってきたこととは?

ーー再び感染拡大していますが、3〜5月の時の流行のように西浦博先生の数値予測や目標値などは示されず、社会や経済を回しながら日常生活が続いています。これまでこのウイルスについて何がわかり、この対応で本当に食い止められるのでしょうか?

今回の感染拡大では、3月、4月の段階よりも検査が拡充され、より感染の広がりが見えるようになってきました。検査増に伴い、感染者の数が増えてきているのが現状です。

3月初めには感染者10人のうち、他の人にうつしているのは2人程度ということが既にわかっています。最近の追加の解析でも同様の結果でした。つまり8人はうつしていない。その場合はそこで感染は止まるのです。

この2人が3密のような場所で一度に多くの人にうつしてしまうことを抑えれば、ある程度は自然に感染者が減少するということもわかってきました。

ただ、問題はだれがその2人かはわからないということです。なので、症状のある人は外にでない、または症状のある人には迅速に検査する、陽性だった人と濃厚な接触がある人に効率よく検査をすることが必要です。

基本的な感染ルートは、飛沫感染が主で、一部に接触感染も起きていると考えられています。最近はWHO(世界保健機関)などでも飛沫のなかでも小さなものが2メートルを超えて空中を浮遊して、同じ室内の人に広がることが指摘されています。

「マイクロ飛沫感染」と暫定的に名つけられていますが、今後も引き続き議論が必要です。

そして、感染が広がるかどうかは、ウイルスの特性だけでなく、その国の生活スタイルや文化も関わってきます。

つまり、人と人との距離感や、マスクをしている人が多いかどうかなども関わってくる。これだけみんながマスクをつけている国は他にはないですし、換気の必要性も日本では早くから呼びかけられてきました。もちろん、日本でも、皆が日常での対策をしなくなれば感染はより大きく拡大し得るでしょう。

例えば、東京で通勤電車に乗り、電車をおりたら手を洗う。職場に行ってできるだけ対面での会話をさけ、ランチは1人で食べ、帰りにスーパーで買い物して自宅へ、という中で基本的な感染対策をしていたら感染はしないと考えられます。

こうしたことから、日常生活を送る中で感染するというイメージよりは、会食したり、カラオケで歌を歌ったり、密な関係性の中での感染リスクの方が高そうだとわかります。

最近では自治体のなかでさらに積極的に感染者が出た地域で検査をしています。沖縄では、北谷町、金武町、ハンセン・普天間基地従業員の計 1311人に検査して陽性者は1人のみでした。

一方で、新宿の歌舞伎町の飲食店は一時期3割超えていたこともあり、また、島根県の学生寮では感染が拡大していました。

集団に対して検査するにしても、むやみに検査をしても意味がないので効率よく見つけられるよう、対象者をどう特定するかが課題です。

感染拡大に気をつけるべき「増幅の場」「拡散の場」

ーーどういう場で特に気をつけたらいいですか?

一つは、いわゆる接待を伴う飲食店のように、閉じた空間で非常に密な接触があり得て、多数の人が来るような場所です。

様々なお客さんが来るため、そこで働く人が普段から感染しやすい環境にあります。そして、働く人同士も密であることが多く、互い感染し、そこに来るお客さんに感染をさせる。

つまり、こうした場面では、感染者を効率良く増幅してしまう条件がそろっています。今後も、こうした場面で感染者がわかったら早い段階で介入しないと、急激に感染拡大してしまいます。さらに、ここで感染したお客さんを通じて家族や地域へと広がることになる。

歌舞伎町でも緊急事態宣言中や今回の感染拡大において、営業を一時的に止めていただきましたが、そこで仕事ができなくなった人が全国に飛んでいます。東北や沖縄でも、歌舞伎町で働いていたと考えられる人からの感染事例が報告されています。

東京から沖縄の歓楽街に慰安旅行に行った人たちが、そこで感染を広げたことも報告されているのです。

感染者が出た場所に休業を要請しても従業員が他の地域に行ってしまうなら、全国に広げるきっかけになり得ます。それも考慮した対策を考えなければならないという教訓です。

もう一つ、感染が拡大する場所としては、飲酒をする飲食店が挙げられます。飲酒をする飲食店にもいろいろな形態があるようです。

居酒屋を例に取ると、客に感染者がいたら、同席者やその周辺の人に感染が起こります。つまり、感染リスクは感染した客がいるかどうかに左右されます。従業員で感染する人はいますが、通常、料理を運んでくるという程度であれば従業員から客への感染は接待を伴う飲食店よりは少ないでしょう。

居酒屋は、増幅というよりも、客同士の感染という拡散の場です。午後10時までに酒の提供をやめ、宴会は2時間までと協力を求められている地域もありますが、午後10時までなら大丈夫、2時間までなら大丈夫というわけではありません。

こうした場所向けの対策ガイドラインができれば、感染者がいたとしても感染せずに飲み会ができるかはまだわかりません。1メートル以内で15分以上の普通の会話により感染している事例をみていると、お酒を飲んで楽しく飲食していれば感染者がいると感染が広がり得ます。

だから、企業同士の営業目的の接待や大事な人との会食は厳重に体調管理をして、体調不良が過去72時間以内にあれば絶対に参加しない、同居者に体調不良者がいたら参加しないなどの対応も必要です。

もちろん飲酒中も換気を良くして、できればついたてをして、距離をあけるといい。

コロナ対策は少なくとも1〜2年と中長期で続くでしょう。こうしたリスクの高い場所で経営が立ち行かなくなれば地下に潜るかもしれないし、対策に協力してもらえなくなるかもしれない。

こうした仕事を生業としてきた人への補償や、業種転換の支援をすることも考えなくてはいけません。このあたりは、経済分野や政治の方たちに考えていただきたい。

ーーそうした場から、家庭や地域、医療機関や介護施設に広がる問題が指摘されています。

そこから、さらに感染を地域で広げているという事例は最近では減ってきつつあります。

感染の「デッドエンド(行き止まり)」と我々は呼んでいますが、病院も介護施設も感染には日頃から注意しているし、感染防止のための現場力も高くなってきているからだと思います。

医療機関、介護施設、家庭内の感染はある意味、感染のリンクが切れやすい場所です。ここからさらに広がっているわけではない。

一時期は医療機関での患者の搬送により、医療機関の間で感染を広げていた事例もありました。今後の患者の急増においてはまたあり得るかもしれませんので気は抜けません。また、院内感染は対策をしていても起こり得るので、起きたからといって、その病院を責めるのではなく、ぜひ地域でも応援していただきたい。

日常の場での感染、心配しなくていい?

ーー第1波で感染リスクが高いといわれた場所で、感染が抑えられている場所はどういうところがありますか?

例えば、第一波で集団感染のリスクとしてあげられていたスポーツジムなどはしっかり対策をたてて、その後の集団感染は聞こえてきません。

自分たちで自主的なガイドラインを作ったり、取り組みを行ったりすることによってリスクが下げられているところもあります。

やはり、お客さんと一体となって防ぐ取り組みをすることが効果的なようです。油断せず引き続き対策を緩めないでいただきたいですね。

ーーリスクが高いと以前から言われている場所では意識して気をつけることもできると思いますが、日常生活で気を抜いている時に感染するのが怖いです。そういう場所での感染はないのでしょうか。

例えば満員電車で本当に感染していないのかは、「わからない」が正確な答えです。タクシーやバスの運転手さん、JRの駅員さんにも感染者は出ています。しかし、そんなに感染者が多いかと言えば、利用者に比べて少ない。

マスクをして、降りた後に手を洗えば、公共交通機関はある程度、感染を抑え込める場所だと考え、私はほぼ毎日使っています。

だいたい、今の推定で日本では22万人ぐらい感染したという数字があります。日本人全体で0.18%です。これは以前行われた抗体検査の結果ともほぼ同じ値です。電車やタクシーなどの交通機関で、いまほど対策をしていて感染が起きているならもっと感染者は出ているだろうとも思います。

ーー先ほど、スーパーでも感染対策していれば出ないとおっしゃいました。

お客さんとの対面での感染というよりは、家族からの感染が確認されています。リスクはゼロとは言えませんが、利用頻度から言えば、ここも感染を抑え込める場所だと考えます。

そうは言っても感染経路不明なところもある

ーーでは、ある程度、感染対策をきちんとしていれば、意外なところで感染が拡大するということはなさそうですか?

そうは言っても感染経路はわからないこともある。また、感染者に教えてもらえないこともあります。

「積極的疫学調査」では、「誰からもらったか」、そして、「誰にうつしたか」を見ていますが、どちらかというと「誰にうつしたか」の方が優先度が高い。感染者が増えてくると、誰からもらったかよりも、誰にうつしたかという調査を現場では優先します。

だから当然、「誰からもらったか」がわからない感染経路不明者は増えるのです。特に感染者の数が増えたところではそうなります。

増えている地域での感染経路不明者は、本当にわからない場合もあるし、教えてもらえない場合もあるし、保健所がそれどころではない場合もあって、どのケースに当てはまるかはわからないです。

ーーそうすると、結局、日常生活のどの場面でも警戒は必要になりますね。

もちろんゼロリスクにはなりません。けれど、これまでの知見をもとに様々な対策を組み合わせれば確実にリスクを下げられることはわかっています。

  1. その場所に感染者がいる可能性
  2. 感染している人が飛沫などを飛ばす可能性(咳や会話など)
  3. 自分自身が接触したり、飛沫を吸い込んだりなどして体内に取り組む可能性


の3つを考えて、リスクの高い場所を避けるとよいでしょう。

第一波は準備不足のところがありました。第二波はこれまでの教訓を活かしながら対策できていると思います。

さらに今回起きた島根県の学生寮での集団感染や熊本での外国人コミュ二ティでの感染を受けて、人が密に集まるところは早めに対策を打たなければ増幅してしまうことを学びました。これも今後に活かせるでしょう。

結局は三密回避 緊急事態宣言は必要?

ーー結局は三密を避けようというところに帰りますね。

基本は三密対策なんです。感染を広げない地域社会をみんなで作るという方向に舵を切っていけば、かなりの対策はできそうです。

ただ、必ずしも思ったようにはならない。政府のGo To政策や自粛への不満の高まりを見ていると、「もうこれ以上やっていられない」と基本的な対策を軽んじるようになれば、感染者が増える可能性も懸念しています。

持続化給付金など、国が自粛を求める業界に経済的な保証をすることは大事です。これは感染対策、公衆衛生対策というより、社会経済対策です。

その上で、事業者が従業員を大事にして具合が悪くなればちゃんと休ませる、そして、具合が悪ければ検査や治療を受けられる体制を整えておくことが大事です。そのためにも感染者をあまり増やしてしまってはいけません。

ーー再び緊急事態宣言は必要ですか?

それはまだわかりません。結局は私たち一人一人の行動にかかっています。今、重症者の割合は増えてきています。陽性者が宿泊施設や自宅で療養する動きも広がっていますが、重症者をしっかり治療できるようにすることが最重要ポイントです。

重症化リスクの高い高齢者にウイルスを渡さないことがとても大事です。高齢者も感染対策を徹底していただき、若い人もうつさないように地道に対策を続けていくしかないです。

冬対策は万全か? 欧米のような感染爆発を起こさないために

ーー対策の仕方はもうすでにみんなわかっていると思います。欧米で起きたような感染爆発は防げるでしょうか?

欧米で起きたようなことが、日本で起きるかはまだわかりません。一冬過ごしてみないとわからない。

インフルエンザとコロナと両方流行ったらどうするかという議論が始まっています。

インフルエンザは迅速検査もあるし、あのような急な熱の上がり方は医師なら見分けがつきやすい。

むしろ、風邪とコロナの見分け方の方が難しい。今、冬を迎えているオーストラリアでその対策をたて始めています。症状の特徴を見ながら、見分けなければいけない。

インフルエンザは、人同士、距離を開けるようになったし、コロナ対策で減る可能性もあります。

ただ、風邪も減るのかはわかりません。コロナは熱が出ない人も多い。アメリカのデータによると症状のあった陽性者で熱が出ない人が3〜4割いました。風邪もコロナも咳は出ます。喉の痛みは主観的なので客観的に見分けにくいです。味覚嗅覚障害はいまではコロナを疑う症状の代表的な症状として認識されるようになりました。

ーーオーストラリアではどう工夫しているのですか?

オーストラリアでは、GP(総合診療医)が中心となって対応しているようですが99%のGPが遠隔診療をしているようです。

ですから、インフルや風邪が同時にはやっている冬に病院にきてくださいという方策は取れるのか真剣に考えなければいけない。遠隔診療について日本は医師も患者も慣れないといけないかもしれない。

または、冬に症状が軽いなら、数日は自宅療養などを呼びかけるかもしれません。検査する場所での感染のリスクもありますから。今後も議論が必要ですが、具体的に地域でも冬場の診療のあり方について考えていただく必要があります。

無症状者への検査拡大必要か?

ーー感染者が増えてきて、症状のある人だけでなく、集団感染が起きそうな環境や、病院・介護施設で感染者が出た場合など、無症状の人への検査が広がっています。これに加えて、社会や経済を回すための「陰性証明」のために企業が導入している例が増えてきています。検査の戦略はどう考えたらいいですか?

まず症状のある人、そして医師が必要だと判断した人が速やかに検査ができるように地域や医療機関で体制整備をすべきです。これは最初から我々も言っていることです。

第一波で感染者が少なかった所では、第二波で必要な検査ができない事態が起きています。これは問題です。

次に、今、議論になっているのは、症状がないけど感染しているかを確認する検査の拡大です。これには2つの目的があるように思います。

一つは、自分が症状はないけど感染しているか心配なので自由意志で検査をしたいという目的です。医療機関では自由診療で検査をやっているところも増えてきています。値段は少し高いですが、次第に値段も下がってもいるようです。

それは自由に利用すればいいと思います。海外に行く際に陰性の証明をもっていくというのもこちらに入ります。ただ、自由診療でも医師として、「なぜ検査したいか」を患者に問い、検査の限界も伝えた上で、合理的な判断を患者さんができるようにしてあげることも必要とは思います。

もう一つは、症状がない他者に検査をさせるという目的です。

例えば、会社で従業員などに検査を行う場合は具体的な課題を考えないといけません。経営者が従業員にやらせる際にはいろんな新たな問題が起きる可能性があります。

その検査データは誰のものか、本人は拒否できるのか。陽性と出たら、指定感染症で入院、隔離となるので、その間の収入を企業は補償してくれるのか。

仕事で営業で来る人にも、例えば「仕事に来る前に検査してきてよ」と求めるような社会になるのか。何日前の検査ならいいのか。3日前の検査ならダメなのか。このように、ゼロリスクを求めて要求が加速していく可能性があります。社会の分断にもつながるリスクがあることはぜひ覚えておいていただきたいです。

先日も、米国のサマーキャンプの参加者は検査をして全員陰性だったのに、その後に集団感染したという事例がありました。そういうことがあり得る検査です。

いずれにしても、医師が医療として必要と考える人を対象にした検査が日本中どこでもできるようになることが当面の最優先目標です。

無症状のエッセンシャルワーカーへの検査は?

ーーそもそも陰性確認のためにPCRは使えませんね。医療や介護などのエッセンシャルワーカーでも同じだと思うのですが、なぜそこは必要だという話になるのでしょう。

医療、介護従事者に対する定期的な検査をすでに行っている医療機関もあります。日本ではどうあるべきかはまだ一定した考えはありません。


医療機関の感染リスクは診療をしていると高めになるので希望者に検査をするのは一案です。

でも、職員みんなに検査しろという形になるとどうでしょうか。目的を明らかにして、労使で考えないといけません。ただ、検査の強制が業務命令として可能かは法的にも確認する必要があります。これまで、ウイルス性肝炎やHIVでもいろいろな課題がありました。

私はむしろ、エッセンシャルワーカーについては、症状が出た場合に優先的に検査を受けられるようにするのが先だと思います。

ーーそれはみんな賛同しますね。

特別な仕組みを作らなくても、医療の中で、エッセンシャルワーカーの患者が来たら、優先して検査することは必要です。

ーーそういう意味で、まずエッセンシャルワーカーには無症状でも定期的に検査をするという世田谷モデルは意義があるのでしょうか?

世田谷モデルの具体的な形が見えていないのでなんともいえません。具体的に検討していけばいろんな課題がわかるので、「どうやってやるの?」という議論をした方が建設的だと思います。

結果の扱いをどうするか。どこで検査するのか。同意書はどうするのか。検査は何日で返せるのか。郵送で送るのか。本人確認はするのか。世田谷区民以外の人はどうするのかなどです。

具体的に検討していけば、検査をするのは実はそんなに簡単なことではないとわかります。

でも、どこかの自治体が具体的に挑戦してみるのは悪いことではないと思います。できるだけ失敗例とならないように慎重にはしてほしいと思います。

こうした施策は、こちらがやってほしいと思う人は来てくれず、来なくても良いような人が増えるということがよく見られます。健康診断や保健指導などでもそうです。

驚くような解決策はない 情報に踊らされないで

ーーそういう意味では地味ではあるけども基本を大事にするのが最善なわけですね。

今までやっていないことを導入するのは、一見華やかで魅力的に映るのですが、その体制を維持するのは難しい。5、6月もPCR検査センターを各都道府県に作りましたが、患者さんが減ったので閉じたら、また患者が増えました。

あっと驚くような方法を提言する人もいますが、具体的にいろいろと考えてから出された方が、より議論が深まって良いと思います。

ーーあっと驚く方法として、大阪府ではイソジンでのうがいも打ち出されたりしました。

あっと驚くものが出てきたら、まずは、本当かなと疑う方がいい。

この状況を乗り越えたいという気持ちはみんな同じです。あっと驚く方法に惹かれ、買えなくなる前にイソジンを手に入れたいというのは人間心理として理解できます。

ただ、1億2000万人の人口のうち1%の人だけでもそういう行動を起こせば、イソジンはすぐになくなるでしょう。一時期のトイレットペーパーも同じ現象だったでしょうか。

私がこの件について問題だなと思ったのは、周囲がだれも止めなかったということです。かなり残念に思いました。

ワクチンに対する期待度も高すぎるように感じます。これまでもいろいろな議論があったように、だいたいワクチン接種の施策は揉めます。

高齢者を優先対象にする可能性が高いワクチンなので、接種したら数日後に亡くなるということもあり得ます。ワクチンで亡くなったのか、持病で亡くなったかはわからない。でも、ワクチンが原因であるかのような報道があれば一気にムードは変わり得る。

ワクチンに関しても、数年は広く使われないことを想定して対策は考えておくべきだと思います。ワクチンができたら、コロナはもう終わりなんでしょうと短絡的に考えない方がいいです。

ーーまずは地道に三密対策や手洗い徹底しかない。

地味で誰でもできる方法として三密を避ける。具合が悪ければ外に出ない。増幅・拡散リスクの高いところは相当な対策をしないと意図せず感染する可能性があります。

ーーその際に差別や偏見を広げないことが必要ですね。

感染者に対する差別・偏見もあれば、医療従事者への差別もあれば、感染を起こす場を作った人に対する怒りからくる攻撃もあります。差別偏見のなかにもどういうパターンがあるかを整理して、それぞれへの対策を考えたほうがいいと思います。

誰しもこの1年以内に、少し体調を崩して、「これは風邪?まさかコロナ?」とわからなくて悩む日が来ると思います。冬場にかけて自分自身の問題として考える時がきっとくる。自分に返ってくるので、感染した人を責めないことを今から徹底した方がいいと思います。

【和田耕治(わだ・こうじ)】国際医療福祉大学国際医療協力部長、医学部公衆衛生学教授

2000年、産業医科大学卒業。2012年、北里大学医学部公衆衛生学准教授、2013年、国立国際医療研究センター国際医療協力局医師、2017年、JICAチョーライ病院向け管理運営能力強化プロジェクトチーフアドバイザーを経て、2018年より現職。専門は、公衆衛生、産業保健、健康危機管理、感染症、疫学。

『企業のための新型コロナウイルス対策マニュアル』(東洋経済新報社)を6月11日に出版。