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Updated on 2020年6月16日. Posted on 2020年6月12日

「自殺が減っても安心はできない」 新型コロナが人の心にもたらした影響は? 精神科医の分析

私たちの日常生活を一変させた新型コロナウイルスによって、メンタルにはどのような影響が出ているのだろうか。精神科医の松本俊彦さんにお話を伺った。

新型コロナウイルスに感染しないように人との接触を避けるようになり、私たちの日常生活は一変した。

「コロナうつ」「コロナ疲れ」という言葉も生まれ、この変化は人々の精神にも大きな影響を与えていそうだ。

ウィズコロナの時代、私たちはどのように心の健康を保っていけばいいのだろうか。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

松本俊彦さん

依存症や自傷行為、自殺対策にも詳しい国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部長の松本俊彦さんにお話を伺った。

※インタビューは6月10日午後、Zoomで行い、その時点の情報に基づいている。

患者には良い影響も悪い影響も

ーー先生が患者さんを診ていて、コロナの影響を感じることはありますか?

大きく分けると影響の出方は2種類あるなと思っています。コロナの影響で具合の良くなっている人と悪くなっている人とに分かれるということです。

一つは、うつとか引きこもりとか、今までなかなか社会参加できないで焦っていた人たちにとっては、周りが動いておらず、社会が回っていないという状況が良い方向に働いているという面です。

なかなか就労できないで焦っている人も、そもそも今は仕事を探してもない状況にあります。

そうすると、焦りや不安が少し緩和されて、いつもよりも状態が少し良くなっている気がします。

健康な人間が自粛生活にいらだちながら家にこもっている中で、割と楽な気持ちでステイホームしている人たちがいたなという印象があります。

この方たちが今後社会が動いていくにつれてどうなるかは、慎重に見ていかなければいけません。

三菱UFJリサーチ&コンサルティング / Via murc.jp

シンクタンクが行った「緊急事態宣言下における人々の精神的な不調」の調査。10点以上が気分障害・不安障害に相当する心理的苦痛を感じている者の目安。平時よりも割合が多くなっている

もう一つが、私自身が専門としている依存症の人たちへの影響です。

この方たちはまた別の影響を受けています。緊急事態宣言が出る少し前から、公的な集会所や公民館の会議室のようなところが使用できなくなって、自助グループのミーティングが開けなくなったのです。

もちろん一部、教会のような公的施設とは違うところを使っている自助グループもあったのですが、やはり集団で集まること自体、危険が高い。

自助グループでは、久しぶりに会った仲間と握手をしたり、ハグをしたりすることが頻繁にあったのですが、それは超濃厚接触になってしまいます。それで全体が自粛に入ってしまいました。

私は常々、「依存症は孤立の病だからつながりが大事だ」と言ってきましたけれども、自粛期間中はつながりがない状態になるのです。

Dowell / Getty Images

オンラインのミーティングでは足りないものがある

有志の仲間たちが、Zoomなどを使ってオンラインのミーティングなどを開いています。それも非常に貴重で有用だとは思うのですが、オンラインだとだめだという人もいます。

ーーどうしてですか?

患者さんたちがよく言うのですが、自助グループのミーティング自体もいいのですが、意外に大事なのは、終了後、最寄りの駅まで一緒に話しながら歩いていったり、一緒にお茶を飲んだりすることなんです。

「フェローシップ(友だちづきあい)」というのですが、フェローシップがあることがミーティングの楽しみだったりします。

我々がやっている集団療法もそうなのですが、プログラムそのものよりも、プログラム前後の雑談とか一緒に帰るということが大事なんです。それが全然できなくて、「やっぱりオンラインでは寂しい」という人たちもいます。

通院、診療にも影響

薬物依存症は引きこもりの病なので、やることがないと薬を使うだけになってしまいます。

自助グループはやっていなくて保護観察所の集団療法もお休み、精神保健福祉センターも、SMARPP(覚せい剤依存再発防止プログラム)をベースとした集団プログラムもお休みとなって、通院だけが頼りになってしまう。

ところが、通院も病院の待合室が密にならないように、これまで週2回通院していた人は週1回に、週1回だった人は2週に1回に、2週に1回だった人は4週に1回に、と回数を減らしています。

つまり、医療機関とのつながりも薄くなってしまって、緊急事態宣言の間も、スリップという薬物の再使用が続発したのです。

いつもであれば、治療経過中に再使用しても、自助グループで話したり、病院のプログラムで話したりする中で、なんとかまた使わない状態に戻るのが通常です。しかし、自粛期間中はなかなかきっかけが掴めないままラリった状態で自粛開けを迎えた人も多いです。

やめていたお酒や薬物が始まった人たちが増えているなと感じます。

ーー緊急事態宣言が解除されて、自助グループなどは再開しているのでしょうか?

今は、再開しつつあるところでしょうし、保護観察所や精神保健福祉センターも再開し始めています。

我々のグループ療法は実は緊急事態宣言中も感染に注意しながら続けていました。自助グループが閉まっているから我々は続ける必要があった。

自殺への影響 復旧に個人差が出る頃に注意

ーー具合が良くなっている人がいる、という例では、自殺者が減ったというデータが厚労省から出ています。あれは、集団生活に馴染めなかった人がそこから逃れられて、他の人も同じような状況になっていることによる一時的な影響だと考えていいのでしょうか?

今回のコロナの影響を、過去の自然災害の影響と同じように捉えるのが正しいのかどうかは慎重に判断しなければならないとは思うのですが、一般に、大きな自然災害があった時に自殺は増えるのですが、増えるまでにタイムラグがあるんですよ。

厚生労働省自殺対策推進室

警察庁の自殺統計に基づく自殺者数の推移等。4月、5月は他の年と比べ大幅に減った

中越地震や東日本大震災の被災地の自殺もそうなのですが、むしろ被災して最初の1、2年は自殺は減ることの方が多いのです。

それぞれに苦しいのですが、今はみんなも苦しい。自営業の人たちの中で苦しい者同士、ある種の連帯感ができて、その連帯感で支えられるところがあります。

しかし、この災害から3年、4年経ってくると、復旧や復興に個人差が出てくるんですね。

もともと余力のあった方たちと違い、被災前から経済的に、メンタルヘルス的に苦しかった人たちに復旧や復興に遅れが出てきて、その個人差の中で孤立を覚えて自殺するというパターンが多いです。

今、応急処置的な手当が国から色々出ているのですが、それでどこまで助かるかわかりません。これが住宅ローンなどに響いてきて、そこで立ち行かなくなって方策が尽きる。一方でうまくいく人もいる。

そういう差異が出てくるまでは時間がかかる気がします。

4月、5月の自殺が前年よりも減っていたという話をもって大丈夫だということは全くできません。

数字としてはまだ示せるものが一切ありませんが、診察や同僚たちとの会話の中でいくつか感じることはあります。

遅れて自殺が出てくるのは、中高年の働き盛りの方たちです。背景に経済的な問題がある方たちが割と遅く出てくる気がします。

診療現場の印象では、若年者に関しては逆に早く影響が出ている気がします。学校が休みになっていますね。学校が嫌な人にとっては休校で楽になっているのではないかという見方もありますが、家がつらい人もいるんですよ。

家の中が密になっていて、その中でしんどくなっている子どもたちがいます。家族との葛藤の中で、生きづらさを感じている人たちは、過量服薬とかリストカットがひどくなったりしています。

因果関係がはっきりしない中で安易なことは言えませんが、最近、高校生がけん銃で自殺した事件もありますね。その人の背景にそういう問題があったかわかりませんが、若年者に関しては意外に早く自殺に進む動きが出ているのかなという懸念をもっています。

ただこれは、あくまでも診察の中での印象や同僚たちとの会話の中で出てきた専門家の噂話のレベルです。

家族もストレスに 家に居場所のない人たち

ーー摂食障害やDV、虐待も増えているという話が出ています。これもやはり家族関係が密になることが影響を与えているのでしょうか?

そうですね。やはり家がつらい人にとっては、学校や職場がある種、心が休まる場所であることもあるのです。それがなくなる。

特に大都市部では住宅事情も良くないですからものすごく密になって、自分の行動の一挙手一投足を監視される感じです。いらだちが強まる環境です。お互いにいらだちが高まって、加害する側も被害する側も衝突は増えるだろうと思います。

ーーパチンコ依存症の調査記事でコメントをいただいた時、普段外で働く男性にとっては家で居場所がないということを指摘されていましたね。

そうですね。僕もそうなんです(笑)。今は解除されていますが、緊急事態宣言の時は病院も診療以外では行ってはいけないと言われていました。研究したくでも職場に簡単にはいけなかったのです。

都市部では、男性が自分の書斎を持つこともままならないです。女性も持っていないですから、男性ばかりとも言えないのですが、普段家にいない人たちが在宅ワークする時に場所がない。

先日読んだ週刊誌では、在宅ワークする場所がないお父さんたちが、駐車場の自分の車の中で仕事をしているという姿が紹介されていました。

ご近所同士もみんなお父さんが車で仕事をしている。都市部の男たちは家に居場所がないのではないかなと思うのですよね。

もしかすると、パチンコ依存の方でわざわざ車に乗って県をまたいでパチンコに行く人の中には、そこにしか居場所がない方がいたのではないかなと思っています。

アルコールの飲み過ぎも

ーー先生が先日「日本社会精神医学会」でコラム「自粛生活におけるアルコールとのつきあい方」を書かれていました。コロナによる自粛生活でアルコール量が増えてしまうというのはデータで出ているのでしょうか?

酒造メーカーや財務省などが出している酒量の売り上げデータを見ていると、全体としてはむしろ下がっていることが多いですね。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

災害が起きた後は、アルコール量が増えやすいと話す松本さん

ーー飲食店が自粛していたからですね。

大手の酒のディスカウントショップのデータでは、自宅用のお酒が売れているというデータもあったのですが、一つの会社の断片的なデータなので、そこを引用するのもどうかと思っています。

まだはっきりとしたデータは出ておらず、先日、ちらっと見た酒の売り上げを見てみると必ずしも上がっているとは言えません。

ただ、これもたくさん関連研究があります。自然災害の後とか、SARS(重症急性呼吸器症候群)が流行った時に、アルコール消費量が増えたという報告があるのですね。

アメリカでも竜巻被害があった後にお酒の量が増える。阪神・淡路大震災の後でも、仮設住宅の中で男性のアルコール肝障害が増加した話があります。

東日本大震災に関しても、全体として上がったわけではないのですが、男性でもともと飲酒習慣があって、かつ震災によって仕事を失った人たちの間でお酒の量が増えたという報告があります。

ですから今回の自粛期間中でも、もともと飲酒習慣を持っている方たちで、経済的な心配など、先の見えない不安を抱えている男性たちの中ではお酒の量が増えた可能性はあります。

ーー家にいると、居酒屋で飲むのと違って、終わりがなくてだらだら飲んでしまうということですね。歯止めがきかないという意味でしょうか?

我々が外でお酒を飲む時に、帰りに終電に間に合うようにとか、ちゃんと歩いて自宅まで帰り着くということを念頭におきながら飲んでいますよね。

ところが自宅だとその心配がない。そのままひっくり返ったとしても自宅なので大丈夫。これがやはりお酒の量が通常よりも多くなってしまうことにならないかなと心配しています。

ーーこのコラムで、先生は「飲酒量のモニタリング」を勧めていますね。飲み過ぎてしまう人がこれをできるのでしょうか?

その日に摂取した純アルコール量を示す、「ドリンク」という単位で考えます。1ドリンクは純アルコール10g分のアルコール飲料の量で、「アルコール飲料量(ml)×アルコール含有率×0.8(アルコールの比重g/ml)÷10(g)=ドリンク数」で算出できます。ビールのロング缶半分=日本酒半合=ワイン1杯半=ウィスキーシングル1杯=1ドリンクを目安にしてもよいでしょう。

健康被害が少ない飲酒は1日に2ドリンクまでです。それが無理でも、せめて4ドリンク以下に抑えましょう。(日本社会精神医学会「自粛生活におけるアルコールとのつきあい方」より)

お酒の問題がある人はやらないと思うのですよね。ない人はこの機会にドリンクの計算を覚えてくれれば予防になるかなと。

ーー1日2合以上は飲んじゃいけないんだなと呑兵衛としてはショックで。

まあ、自分の健康は自分のものですからね。つべこべ言うなという人もいるでしょうね。

子どものメンタルへの影響は?

ーー子どものメンタルへの影響も気になります。休校が続いて、再開してみたら再開したで、友達とあまり親密に話すこともできないし、フェイスシールドをつけたり、席ごとに透明な囲いをしたりして、かなり特殊な環境に置かれています。精神的な影響はありそうでしょうか?

もちろん学校の対応としてはやむを得ないことだと思いますし、公衆衛生的には必要なことなのだろうと思います。

でもこれはやはり子ども同士の関係性を作っていく上ではかなりネックになっているだろうなと思うのです。

今は登校時間が短いです。半日だったり、週に3日だけ登校となっています。子ども同士の接触の機会が非常に少ないし、子どもたちは一緒に机を並べることで友達になるわけではなくて、学校の休み時間や放課後の遊びの中で横のつながりを作っていく。

それが今は遮断されています。家が息苦しくて、やっとそこから解放されたと思っても、あまり状況が変わらない。学校もすごく居心地の悪いところになっていて、一定時間我慢して、家に帰ってくるという感じになっているのではないかと推測します。

ーー学校は人間関係を学ぶ場でもあると思うのですが、接触したり、飛沫が飛ぶぐらい近くに寄ってしゃべったりということが人間関係を作っていく上で重要なのですかね。

専門外なので偉そうなことは言えません。ただ、人類が爆発的に地球上で人口を増やしたきっかけはいくつかあると思うのですが、やはり集団での定住だと思うのです。

集団で定住して、穀物を作ったりするところから始まった。

考えてみれば人間って他の動物に比べて足は遅いわ、けんかは弱いわ、樹上の移動も苦手と、動物として弱い。特に自分の命を守る上で欠かせない逃げ足については、他の動物の方が圧倒的に速いです。遅いと言われているカバだって全力疾走するとウサイン・ボルトと同じぐらいの速さで走りますからね。

動物の中の劣等生の人間が生き残ってこれたのは、どう考えても集団で暮らすからだと思います。ただ集団で暮らすことによって感染症も登場したのですけれどもね。

ーー感染症予防ということだけを考えると、人間関係を作るのに必要なものを全て否定しなければいけない。

そうですね。本当にそう思います。

(続く)

【松本俊彦(まつもと・としひこ)】国立精神・神経医療研究センター精神保健研究所 薬物依存研究部長、薬物依存症センター センター長

1993年、佐賀医科大学卒業。2004年に国立精神・神経センター(現国立精神・神経医療研究センター)精神保健研究所司法精神医学研究部室長に就任。以後、自殺予防総合対策センター副センター長などを経て、2015年より現職。日本アルコール・アディクション医学会理事、日本精神救急学会理事、、日本社会精神医学会理事。

『薬物依存とアディクション精神医学』(金剛出版)、『自傷・自殺する子どもたち』(合同出版)『アルコールとうつ・自殺』(岩波書店)、『自分を傷つけずにはいられない』(講談社)、『よくわかるSMARPP——あなたにもできる薬物依存者支援』(金剛出版)、『薬物依存症』(ちくま新書)など著書多数。

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