• covid19jp badge
  • medicaljp badge

デマ情報と打ち消しをする政府、ワクチン不安を煽るマスコミ...... 台湾のコロナデマ対策から学ぶこと

高齢者の接種率がなかなか上がらなかった台湾。デマ情報が溢れる中、政府は、メディアは何をしていたのでしょうか? 台湾の対策から日本が学べるものを探ります。

コロナ対策の優等生、台湾が、オミクロンの到来と共に急激に感染者や死亡者を増やしたニュースは、日本にも大きなショックをもたらしました。

高齢者のワクチン接種をためらわせたのは、デマ情報。

日本生まれの台湾人で、台湾のコロナ事情に詳しい産婦人科医、錢瓊毓(せんけいいく)さんに、台湾で何が起きていたのか、聞きました。

※インタビューは6月28日昼に行い、その時点の情報に基づいている。

リアルタイムで情報やデータが出てくる台湾

——そもそもなぜ産婦人科医の錢先生が台湾のコロナ対策をウォッチングし始めたのですか?

両親や親戚が台湾に住んでいますし、2020年1月に中国でコロナの流行が始まった頃、日本ではあまり話題になっていませんでしたが、台湾では政府が国民に対して警告を出し始めていたので、注目していました。

台湾はSARS(重症急性呼吸器症候群)の記憶が強く、「中国から来た原因不明の感染症」をすごく警戒していたのですね。

SARSの教訓で新興感染症が起きた時の緊急対応の方法も決めていました。対策本部もすぐ立ち上がり、2月下旬から毎日、定例の記者会見も開かれていました。ネットで記者会見を見るようになりました。

世界中に感染が広がっていく中、台湾は最初の年はうまく抑えられていて、日常生活を続けられていたのです。「日本と何が違うのだろう」と考えるようになりました。

日本にいながら、台湾はCDC(疾病管理予防センター)もあるおかげで、日本より明らかに情報が取りやすかったのもポイントの一つでした。

記者会見も毎日同じ時間にネット中継され、データもリアルタイムで出てくる。マスクが不足すれば「こんな対策を取っています」と、知りたいことが即座に出てきます。

日本で緊急事態宣言が一段落した頃、この台湾の状況をもっと知ってほしいなと思い、ブログ「台湾政府は新型コロナとどう戦ったか」を書いていました。それを読んだ人から、日本医師会の有識者会議に台湾のコロナ対策を書いてくれと言われて書いたりもしていたのです。

台湾におけるCOVID-19対応 | COVID-19有識者会議 (covid19-jma-medical-expert-meeting.jp)

続編―台湾におけるCOVID-19対応 | COVID-19有識者会議 (covid19-jma-medical-expert-meeting.jp)

IT戦略は高齢者に届かない?

——ところで台湾というとオードリー・タン氏の先進的なIT対策が思い浮かぶのですが、高齢者のワクチン接種率が悪かった時に、何か手は打たなかったのでしょうか?

例えば、私は台湾CDCのLINEに登録しています。そうすると、毎日のように情報が入ってきます。その情報も1枚のカードの形にわかりやすく整理されていて、保存も転送も簡単です。

これに登録している人はとても多いし、「ワクチンをもっとうちましょう」というメッセージも流してきます。子どもが高齢の親にそれを送ったりすることはできたと思うのですが、高齢者の間でなかなか広がらないのですね。

台湾はワクチンの入ってくる量自体が少なかったので、1回目をうっても2回目がすぐにうてませんでした。2回目の時期を後ろに引っ張りながら、できるだけ多くの人が1回目をうつ戦略で頑張っていました。

昨年末ぐらいまで2回目を一生懸命うって、3回目は今年1月からうち始めて日本にも追いついてきています。

18〜29歳の若い人はうつ気があるから5月ぐらいまでに80%に達し、うつ順番は一番遅かったのに、あっという間に高齢者の接種率を超えています。

一方、75歳以上の高齢者は、うちたい人はうちますが、60%に達したぐらいで止まってしまうのですね。

若い人にはワクチン接種の意義が伝わっているのですが、高齢者にはなかなか届かないのです。

メディアの不安を煽る情報に左右される高齢者

——コロナワクチンについて高齢者が疑念を持ってしまったのは、どういうところから情報を得ていたからだと思いますか?

台湾ではアストラゼネカ社のワクチンから入ってきたのですが、届いた時に感染者が少なかったために、ワクチンを早く接種しなければという危機感が薄かったのです。

一方で、メディアはワクチンのリスクを大々的に報道していました。アストラゼネカ社のワクチンは血栓のリスクがあることが言われていましたが、そういうことを非常に強調したりしていました。

台湾の政府は接種した後に体調不良が報告されたら、ワクチンに関係があろうがあるまいが、全部報告を受けています。それをこまめに発表もしています。うった直後に亡くなったケースも全て発表し、多くは解剖に回して、その死亡はワクチンと関係ないという情報も後から発表しているのです。

しかしメディアは、「ワクチン接種後に死んだ!ワクチンのせいだ。なんて恐ろしいんだ!」と、ものすごくセンセーショナルに書いて、高齢者は怖がりました。

高齢者の多くは海外に行かないし、国内でおとなしくしているから「ワクチンなんてうった方が死んでしまうわ」ぐらいの態度になっていました。ワクチン接種が始まってから日にちも経っているのに、その思い込みがなかなかアップデートされません。

——若い人はメディアのそんな情報に影響を受けなかったのですか?

ITリテラシーの高い若い人は情報には嘘があることを認識していて、検証する能力が高いのです。

高齢者はそもそも若者と見ている媒体が違います。台湾にはテレビのチャンネルがたくさんあって、高齢者が好きなチャンネルの中には質の悪いワイドショーもたくさんあります。

政府が頑張っても、メディアの力は大きくて、なかなか是正ができないのですね。

政府はデマ打ち消し情報を流すが......

——政府はデマ打ち消しのファクトチェック情報を流しているわけですか?

熱心に流しています。悪意のあるデマ情報があったら、それを否定するような情報をすぐ出します。

例えばこれはワクチンではありませんが、今年4月に「感染状況悪化のため、端午の節句(6月3日ごろの連休)は外出しないで下さい」という主旨の文章が陳時中(厚生大臣であり、コロナ対策の総指揮者)の名前でネット上に出回っていたようです。

これに対して政府は、「そんなこと言っていませんよ。デマですよ」と否定し、感染症法ではデマに対し最高300万台湾ドルの罰金が課されることを示しました。

これは「子どもの発熱は41度まで上がらないと入院できない」というデマに対し、「それは嘘です」と書いてあります。

ただ、ワクチンのデマでも同様の打ち消し文書を政府がすぐ出すものの、接種率の数字を見ると、それがすごく効いている気はしません。

——若者と比べて、高齢者の情報を見極める力は追いついていないのですね。

全然追いついていないと思います。LINEは使うけど、デマ情報に関しては適切に使いこなせていない。検証したり、情報を見比べたりすることができないのだと思います。

——トップのオードリー・タンさんや蔡英文さんが、そういう情報に惑わされないでというメッセージを国民に向けて発したりはしないのですか?

オードリーさんがそういうことで声明を出すことはないですが、蔡英文さんは折に触れて声がけしています。演説をすることもありますし、Facebookをこまめに更新していますね。

例えば、これは少し政治色が入りますが、どこかのメディアが「蔡英文総統が抗原検査で陽性になって、近く在宅隔離になる」と報じたのに対し、これは嘘ですと書いています。中国の文字が入っていることで、中国が台湾社会の混乱を引き起こすために出した、と主張していますね。

これは総統に関するデマなので、本人が自らデマを否定したのだと思います。

でもワクチンのデマ情報について、このように政府が頑張っても、なかなか接種率に反映されるところまではいきません。

——メディアはファクトチェックに乗り出さなかったのですか?

台湾のメディアは残念ながら質がとても低いです。わざとセンセーショナルな見出しをつけ、ちょっと感染が増えただけで「台北、陥落」などと報じます。これまで台北は何回陥落したことやら......。主要な新聞やテレビ局もありますが、話半分で聞いたほうがいいという感じです。

その分、若い人はファクトチェック能力が上がっている印象です。当たり前に政府が出している一次情報を取りに行っています。報道を見るぐらいなら、記者会見や政府が発表している文書を見たほうがいいという態度が身についています。

政治的な対立が招くワクチンの分断

また、これは台湾独自の要因ですが、蔡英文率いる今の与党は、比較的若い人たちの支持が強いです。

逆に野党支持者は高齢者が多いと言われています。

——野党はワクチンに反対しているのですか?

ワクチンがダメ、というよりも、与党の粗を見つけようとするわけです。

例えばアストラゼネカのワクチンが入ってくると、「もっと良いワクチンがあるのに、なぜ政府は早くいいワクチンを買わないのか。イスラエルや日本を見ろ」といった具合です。

モデルナが入ってくると、今度は「ファイザーがなぜ入ってこないんだ」と批判する。ファイザーが入ってきてもそうです。政治的な対立が、国民に不要な悪影響を与えているように見えます。

——与党他党の対立はさておき、急に感染者や死亡者が増えて、市民の政府に対する不満は高まっているのでしょうか?

野党と野党支持の人は政府叩きをしますが、全体的に見ると、「政府の方針が間違っていた」という声は高まっていない気がします。

むしろこれまで、台湾政府は「感染を防ぎ切ることはできない」というメッセージを頻繁に出してきました。「各国を見てみろ。いつかは来る。そのときに備えることが大事だ」と言い続けていました。

アルファの時は医療体制も混乱し、感染事案の処理も件数が多くなったせいで追いつかなくなっていましたが、すぐに手続きを簡便化し、現在、毎日の報告が万単位になっても対応できています。

検査も一時的に「心配だから」という理由で不要な検査に行く人が溢れた瞬間がありましたが、これも迅速に対応しました。

そういう対応の速さからも、国民全体の批判は高まっていない印象です。

その時々で合理的な対策が打てているのはCDCが機能しているからだと思います。危機対応となった時は政府内でCDCの地位がグッと上がり、対策の最高意思決定機関の中心となって、彼らが舵を取る。その専門家の提言を政治家たちが理解して実行する。そこにタイムラグやコミュニケーションのずれがありません。

日本だと専門家と政治家がしっかりタッグを組めていない印象があります。台湾では役割分担がきちんとしていて、同じチームとして機能しています。

日本が台湾から学べる教訓は?

——日本が台湾から学べる教訓は何でしょうね。

次にもし新しい感染症でパンデミックが起こったらと考えると、日本でやってほしいのは指揮命令系統の整理です。厚労省も人数が足りているのかは疑問でしたが、専門家分科会の先生たちが他に本来の仕事があるのに、コロナ対策の実務までものすごく負担がかかっている印象があります。

挙句の果てに、首相も「それは専門家に聞いてくれ」などと言う。政治家が決めるべきことまで、専門家に投げてしまって、役割分担が曖昧になっています。

台湾では感染症に関する日々の実務はCDCがきちんとやっていて、必要に応じて専門家が召集され、その見地から意見を言う。そして政治は決断をして実行する。それがあるべき形だと思います。

緊急時の組織の作り方については、台湾を参考にしてもらいたいところです。

台湾もSARSの時に組織が機能しなかった反省があって、それを組織改革や法整備に活かしたのです。だから世界の中では少なくとも昨年までは、いい動きができていたと思います。

——一方で増えるとなったら一気に感染者も死亡者も増えてしまったわけですが、ワクチン対策はやはり重要だという負の教訓になった気がしますね。

そう思いました。あんなに上手くいっていたのに、感染が落ち着いている間にワクチンを高齢者がうたなかったから、結局、人口比の死亡者数は日本と変わらないレベルになってきたのではないかと思っています。

日本の高齢者が90%以上の接種率を達成しているのは素晴らしいことです。

台湾は感染を抑え込んでいたので、イスラエル、イギリス、アメリカなどの諸国が先行してワクチン接種して得たデータを検証した上でうつ・うたないを決められる時間稼ぎができていました。

どんどんと出てくる海外のデータを読み解き、ワクチン政策を決めるのは政府の仕事ですが、国民それぞれがその政策の理由や意義を理解することの重要性を今回思い知らされました。

——デマ情報に悩まされることは台湾に限らず日本でもあるわけですが、今後どうすればいいと思いますか?

難しいですよね。感染症やワクチンの話はとても専門的なので、専門家が発信することはすごく大事だと思います。でも個々人の医師や研究者の良心に頼って発信してもらうのは、ネット上では攻撃も受けて大変です。

台湾もそういう熱心な個人がいましたが、大事なのは政府が直接国民に説明することです。台湾ではCDCという専門的な組織が政府内にあり、データの検証をしているし、必要に応じて外部の専門家の意見も取り入れる。なぜなら、CDCメンバーは専門性の高い話を理解できるからです。

その結果、政府として、「今のデータや状況を踏まえて私たちはこうします」と対策を決め、その説明を国民にする。

台湾の事例では、政府がどう説明しても伝わらない国民もいることがわかりましたが、それでも説明に至るまでの体制や方法は、台湾に学べるのではないかと思います。日本はいつまで経っても政府と専門家の連携がチグハグな感じがします。

また、国民の情報リテラシーを高めるために、政府が率先してデマを潰しに行っています。感染症に関してはCDCが責任機関としてSNSを常にチェックし、明らかに間違っていて害のある情報については「これは嘘です」と公式に潰しています。これも日本はやった方がいいと思います。

(終わり)

【錢瓊毓(せん・けいいく)】産婦人科医。愛育クリニックインターナショナルユニット勤務。

1976年生まれ。テキサス大学オースティン校教養学部卒。外資系コンサルティング会社勤務後、九州大学大学院修士課程に進学。修了後、富山大学医学部3年次に編入。卒後、富山大学附属病院、愛育病院、都立広尾病院での初期研修・産婦人科研修を経て、現職。