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喫煙で新型コロナ死亡のリスク3倍 専門家「禁煙すれば短期間でもリスクは減らせます」

新型コロナウイルスは喫煙で重症化や死亡のリスクが上がることがわかっています。4月1日から飲食店などの屋内を原則禁煙にする「改正健康増進法」が全面施行されます。この機会にぜひ禁煙をと専門家は呼びかけます。

感染拡大が止まらない新型コロナウイルス。

その患者を調べた研究では、喫煙で重症化のリスクを約2倍、人工呼吸器や死亡のリスクが約3倍高めることがわかっています。

4月1日からは受動喫煙防止のために飲食店などの屋内を原則禁煙にする「改正健康増進法」も全面施行されます。

たばこの健康リスクに詳しい大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長の田淵貴大さんに、新型コロナウイルスとたばこの関係について聞きました。

※インタビューは3月30日午後にスカイプを使って行い、その時点の情報に基づいています。

重症化リスク2倍、人工呼吸器装着や死亡のリスクは3倍 感染もしやすくなる

ーーまず喫煙は新型コロナウイルスを重症化させるリスクを高めるというのは間違いないのですか?

新型コロナウイルスが流行り始めた瞬間から、当然、喫煙がリスクになると思っていました。

喫煙するとインフルエンザにもかかりやすいことが研究で明らかになっていますし、過去のコロナウイルスであるSARS(重症急性呼吸器症候群)やMERS(中東呼吸器症候群)でも喫煙者は重症化しやすく、感染しやすいことがわかっています。

そもそもたばこを吸っていると肺炎になりやすいことは古くからわかっているのです。たばこを吸っていると、肺が弱って、肺の病気が重症化することは今までもずっと言われていたことです。

2月28日に権威ある医学雑誌「The New England Journal of Medicine」に発表された論文では、武漢を中心とした中国の新型コロナウイルス感染症患者1099名の症状が分析されています。

年齢や持病などの影響が取り除かれた分析ではありませんが、たばこを吸っていない人に比べて、現在吸っている人、または過去に吸っている人では重症化するリスクが約1.7倍でした。

また、人工呼吸器を装着することや、死亡のリスクも約2.9倍高いと明らかにしています。もっと厳密な解析が必要ではありますが、これまでの研究の蓄積などから考えても、喫煙が重症化に影響することは確実に言えると思います。

このデータに加え、WHO(国際保健機関)ヨーロッパのCDCも喫煙によって新型コロナが重症化すると注意喚起しています。日本でも東京都医師会が、今日本人がやるべき予防策の一つとして、禁煙を呼びかけました。

喫煙はどうして新型コロナのリスクを高めるのか?

ーー喫煙すると、なぜ呼吸器や肺の病気を起こしやすくなるのでしょうか?

そもそも煙に含まれる有害物質をどのように吸い込むかを考えると、口から喉や気管を通って肺に行くわけですね。有害物質が通った場所を傷つけ、体の防御が弱くなって、そこの病気がダイレクトに増えるわけです。

喫煙が影響するCOPD(慢性閉塞性肺疾患)という、「たばこ肺」と呼ばれる病気があります。有害物質が最終的に肺に入り、COPDにまでなると肺の構造自体が壊れてしまって、治らなくなります。

呼吸機能が落ちて、そういう肺が肺炎になると重症化しやすくなります。

もともと、たばこを吸う本数が多ければ多いほど、喫煙期間が長ければ長いほど、酸素を体に取り込みにくい状態になります。喫煙歴が長く、本数も多い人ほど、新型コロナも重症化のリスクが上がると推測できます。

喫煙本数は日々変わりますが、その本数を減らすことでリスクを減らせることにはなりません。昨日より本数を半分にしたから、リスクも半分になるとはならない。やはり長い期間吸っているということが問題です。

喫煙所も感染リスクを高める? クラスターの温床になる可能性も

今回、新型コロナに関する論文で言えば、病原体を含む液体が空中に霧やガスのような状態で一時的に広がる「エアロゾル」の中に長時間ウイルスが生きているということが確認されています

紙巻きたばこや加熱式たばこの煙はエアロゾルの性質を持っています。

喫煙者の細胞には新型コロナを受け入れる受容体が多めに出ているという論文も出ています。たばこを吸っている人は新型コロナにも感染しやすいということが予想され、その感染の場の一つとして、喫煙所での濃厚接触も考えられます。

ーー喫煙所は、密閉空間で、密集していますが、あまり互いに喋りはしないのではないでしょうか?

でも、口の中から煙や蒸気を出して、喋っているのと同じようなことが起こり得ます。

確かに、これは研究で証明されているわけではありません。喫煙所によってはちゃんと換気しているところもありますね。

でも現実にはそこまでちゃんと換気ができていない喫煙所はたくさんある。リスクを減らすという意味では、そういう場所に行かないほうがいいと思います。

禁煙は効果があるのか?

ーー長年吸っていて呼吸器や肺が傷ついているとしたら、今さらやめても仕方ないんじゃないかと思う人もいそうです。

そんなことはありません。早くやめれば効果があることはわかっています。本数を減らすことは効果がないのですが、やめてしまえば、ニコチンなどによる免疫系への悪影響も数週間でなくなり、回復することが先行研究(※)でわかっています。

※Lawrence G. Miller, et al., "Reversible Alterations in Immunoregulatory T Cell in Smoking: Analysis By Monoclonal Antibodies and Flow Cytometry." CHEST, Vol.82, Issue5, 526-529, 1982

ーー過去の喫煙歴も新型コロナの重症化に影響するというデータが出されていますが、長く喫煙した人でもやめたほうがダメージは回復できるのですか?

確かにダメージが完全に回復するにはかなり時間はかかります。たばこには5000種類ほどの有害物質が入っていますが、それを何年も毎日吸っていた影響が消えて、肺がんになるリスクを吸ってない人と同じレベルにまで回復しようとすると、禁煙してから15年ぐらいかかります。

ただ、やめてから1週間以内に、免疫系の機能は回復します。体の免疫機能を下げるニコチンはやめてから3日でほとんど体から抜けますから。だから離脱症状もそのころに出てきます。

むしろ、免疫などに対する短期的な影響で新型コロナはかかりやすくなるので、新型コロナは比較的短期間の禁煙でも効果があると思われます。やめて15年しないと、新型コロナには意味ないということではないと思います。

60歳になっても70歳になってもそこで禁煙すれば平均余命が延びることもわかっています。肺炎のリスクを下げるため、できる限り早く禁煙すれば誰にとっても効果が期待できます。

新型たばこや受動喫煙でも影響はあるか?

ーー日本では加熱式たばこや電子たばこも普及していますが、紙巻きたばこではなく、いわゆる新型たばこでも新型コロナには同様の影響があるのでしょうか?

そうですね。ニコチンの影響は同じですし、有害物質は量が違うだけの問題ですから、やめたら効果があると推測できます。

紙巻きたばこと新型たばこで動物実験をして、同じように免疫系が弱っていることを明らかにした論文はあります。同じように免疫系を弱らせる可能性が示唆されているので、同じようなことが起きることが推測されます。

ーー受動喫煙の影響はどうでしょうか?

それこそ程度や量の問題です。今まで受動喫煙している人の被害の程度は、あまり考慮されてきませんでした。

例えば、吸い込む煙の量が、自分で吸う人と同じレベルなら、受動喫煙でも同程度リスクがあって当たり前です。でも相対的に受動喫煙の方が量が少ないので、リスクが総じて言えば低いと捉えられます。

今回の新型コロナのリスクで言えば、もちろん「量次第」ということが言えるわけです。

喫煙場所は4月から減る これを機会に禁煙を

ーー4月1日から改正健康増進法が施行され、受動喫煙防止のために飲食店は原則禁煙となります。たばこを吸うところが減るわけですが、これを機会に禁煙に踏み切る人も増えそうです。

それがいいのは間違いないです。本来は法律があろうがなかろうが、たばこの被害を受ける人はなくした方がいいわけです。それにまだ残念ながら一定の例外として禁煙にならないところもあります。

ーー改正法は受動喫煙の防止に主眼が置かれていますが、新型コロナウイルスのリスクも考えて、吸うリスクも改めて考えてほしいですね。

今回、新型コロナに注目が集まっていて、この時期に改正健康増進法の全面施行があるので結びつけられますが、実際には喫煙のリスクは新型コロナや肺炎だけではありません。

がんになり、心臓病などの循環器疾患になり、脳卒中にもなり、日本では受動喫煙も含め、たばこの影響で毎日300人以上が亡くなっています。新型コロナの影響よりもはるかに多い人がたばこで命を落としているのです。赤ちゃんも毎週1人以上、受動喫煙の影響で乳幼児突然死症候群を起こして亡くなっています。

ーー怖がるべきは新型コロナの重症化リスクだけではないのですね。

禁煙はすぐできる予防法で、防げる死を防げます。

新型コロナウイルス対策として禁煙したとしても、その効果はがん予防、認知症予防にもつながる絶大なものです。ぜひ自分や自分の大切な人の命、誰かの大切な人の命を守るために、喫煙や受動喫煙をやめることを選んでください。

【田淵貴大(たぶち・たかひろ)】大阪国際がんセンターがん対策センター疫学統計部副部長

医師・医学博士。専門は公衆衛生学・疫学。2001年、岡山大学医学部卒。血液内科臨床医を経て、2011年医学博士(大阪大学大学院:社会環境医学)取得後、2011年4月から大阪国際がんセンターに勤務。大阪大学や大阪市立大学の招聘教員。たばこ問題に関する論文を多数執筆し、日本公衆衛生学会、日本癌学会など多くの学会で、たばこ対策専門委員会の委員長や委員を務める。2016年日本公衆衛生学会奨励賞受賞。2018年 後藤喜代子・ポールブルダリ科学賞を受賞。たばこ対策、健康格差の研究に主に従事。近著に『新型タバコの本当のリスク』、『2020年4月1日は受動喫煙からの解放記念日!? 』(永江一石・藤原唯人との共著)がある。Facebookでもたばこ対策関連情報を発信中。