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最後の切り札「緊急事態宣言」は効果を発揮するのか? 感染研センター長が恐れる東京五輪の影響と市民の心理

感染拡大が止まらない東京都では4度目の緊急事態宣言が発出されますが、本当に効果を発揮するのでしょうか? 宣言の効果が薄れる中、国立感染症研究所のセンター長が恐れる東京五輪の影響と市民の心理について聞きました。

感染拡大が止まらない東京都で再び発出される緊急事態宣言。

しかし、措置が長引き、東京五輪も始まろうとしていることから、その実効性には専門家からも疑問の声が上がっている。

Naoko Iwanaga / BuzzFeed

緊急事態宣言の実効性に不安な本音を明かす国立感染症研究所感染症疫学センター長の鈴木基さん

徐々にメッセージ性を弱めている最後の切り札、「緊急事態宣言」は今回、効果を発揮するのか。

BuzzFeed Japan Merdicalは国立感染症研究所感染症疫学センター長の鈴木基さんにその見通しと、密かに恐れているシナリオについて聞きました。

重点措置や緊急事態宣言がどれだけ効果を示したか

ーー今年に入ってからまん延防止等重点措置や緊急事態宣言がずっと続き、生活の制限に市民は飽き飽きしています。4度目の緊急事態宣言は聞いてもらえないのではないかと不安を訴える専門家もいます。先生たちの研究グループでは重点措置や緊急事態宣言の効果について検証されていますね。

効果についてきちんと検証すべきだと、ずっと言われてきました。

私たちも分析はずっとしてきたのですが、外に出すことには慎重でした。一概に緊急事態宣言、重点措置と言っても、時短要請や休業要請など、各自治体で内容や範囲を調整しながら打っています。様々な形があるので、一つの決まったものを評価するわけではないのです。

検証した措置や宣言が次にうつ時も同様の効果を発揮すると短絡的に受け止められても困ります。だから分析結果を表に出すのは慎重でした。

ただ、厚生労働省アドバイザリーボードの脇田隆字座長からそうした限界も含めて検証してほしいと正式に要請があり、東京大学の橋爪真弘先生、野村周平先生、京都大学の西浦博先生、東京都医学総合研究所の西田淳志先生たちと大きな研究チームを組んでやることになりました。

報告書は6月16日に感染研のサイトに 公開されています。

分析したのは4月以降の重点措置と、3度目の緊急事態宣言です。対象にしたのは重点措置が実施された16都道府県と、緊急事態宣言が出された10都道府県です。

1つ目は、新規感染者数が措置や宣言を出すことでどれだけ減ったのか。上昇傾向が下降傾向になったか。

2つ目は、1人あたりの2次感染者数「実効再生産数」が措置や宣言でどれだけ下がったか。

3つ目は、繁華街の滞留人口がどれだけ減ったのか。

大きく分けてこの3つについて分析しました。

大阪で効いた重点措置と緊急事態宣言

まずは大阪です。3月以降に急激に新規感染者が増えて、4月後半には医療崩壊したという声も聞こえてきました。

第39回厚労省アドバイザリーボード / Via mhlw.go.jp

大阪の措置と新規感染者数の推移

背景の白いところが何もしていない時、薄いグレーがまん延防止等重点措置の期間、濃いグレーが緊急事態宣言の期間です。

措置を講じる前のまま増えた場合の予測が、右肩上がりの赤い点線です。

実際には重点措置を講じたところ、なだらかに下がっていきました。さらにその後に宣言を出したことで、より減っていきました。

簡単に言えば、「措置は効いたし、宣言はさらによく効いた」と言えます。

第39回厚労省アドバイザリーボード / Via mhlw.go.jp

東京の措置と新規感染者数の推移

一方、こちらは東京ですが、なだらかに上がったところで措置を打ち、確かに下がりました。しかし、華々しく下がったわけではありません。

ーー大阪に比べてどうして東京では効果を発揮していないのでしょうか?

分析はできていませんが、大阪では新規感染者数がどんどん増えていき、医療崩壊の声も聞こえてきた中で措置が打たれ、その後宣言に移行しました。市民の意識も、「これはさすがにまずいぞ」と危機感が強まっていたと思います。

その危機感が市民の積極的、自発的な接触削減につながったのだと思います。

東京では当時そこまで病床が埋まっていたわけではありません。一方で、2回目の宣言が解除されてからすぐに重点措置になっているので、間がなかったことも、措置の効果が明確に見られなかった一つの要因だと考えられます。

ーー自粛疲れのようなものですか?

それもあったと思います。

また、人の流れについては大阪でも東京でもそれほど明確な効果は確認されていません。

重点措置の効果は限定的、宣言の効果は大きい実効再生産数

ーー次に実効再生産数への影響はどうでしょうか?

実効再生産数は各都道府県で、重点措置で下がり、緊急事態宣言でさらに下がる効果が確認されています。

第39回厚労省アドバイザリーボード / Via mhlw.go.jp

ーーしかし、東京の下がり方は緩いですね。

そうですね。東京は非常に緩やかにしか下がっていません。

そして重点措置が出された16都道府県のうち、開始してから実効再生産数が1を下回った(1を下回ると感染者は減少傾向に転じる)のは、16分の6のみです。どれぐらいの割合減ったかというと、都道府県によって差はありますが平均値は2%でした。

一方、緊急事態宣言の効果は対象となった10 都道府県のうち8つで1を下回りました。平均すると26%減少しています。

ーー緊急事態宣言の方が効果があったのですね。

明らかに宣言の方が実効再生産数を下げる効果が見られました。

ーーなぜでしょう? 重点措置と緊急事態宣言でやっていることにそれほど大きな差はないような気がするのですが。

おっしゃる通りで、実際に講じている措置自体にそれほど大きな差は見られません。そこはやはり緊急事態宣言のメッセージ性なのでしょう。強いメッセージを持って対策を講じたことが効いているのだと思います。

さらに、学校関連の措置、対象地域外への移動の制限、措置対象範囲の拡大について具体的な対策が与えた減少影響を見ましたが、重点措置も宣言もどちらもあまり影響は見られませんでした。

ーーそうすると、具体的な対策内容の違いではなく、「緊急事態宣言」の持つアナウンス効果が効いているということなのですね。

はい。そこが非常に大きいだろうということは間違いない。ただ、PCR検査の陽性率が高くなってくると、措置が効いてくる傾向は見られました。つまり社会の中に、「これはまずい」という危機感が強まった時に措置を打つと効くということです。

夜間の繁華街の滞留人口は?

最後に、夜間の繁華街の滞留人口への影響です。

第39回厚労省アドバイザリーボード / Via mhlw.go.jp

1月に出された2度目の緊急事態宣言の時、東京では夜の滞留人口は減りましたが、日中は夕方も含めて減っていません。

しかし4月の3度目の宣言では、夜だけでなく夕方も減っています。

大阪では2度目の緊急事態宣言は人の流れには影響しなかったのですが、3度目の宣言では日中も含めて減っています。

一方、重点措置の方は、東京、大阪どちらでも、日中、夜間を問わず影響は見られませんでした。

ただ重点措置の方が期間は短いので、効果が現れ始めた頃に緊急事態宣言に移行してしまった可能性も考えられます。

4度目の緊急事態宣言に抱く不安 「上昇を横ばいに持ち込むことさえできるか?」

ーーこの研究だと、緊急事態宣言の方が、重点措置よりもアナウンス効果が強いということが示されていますね。現状を見ると、現在出されている重点措置があまり効かなかった状態で、緊急事態宣言に切り替えますね。

正直言ってそうなのですが、もし重点措置を打っていなかったら、もっと増加していたかもしれません。

ーー今回4度目の緊急事態宣言が東京で出されますが、これまでずっと措置が続いて皆、飽き飽きしている状況です。それでなくても東京は措置の効果が弱まっているとのことですが、4度目の緊急事態宣言ではもっと効果は薄くなりそうですか?

専門家の共通認識として、今回の緊急事態宣言で本当にどこまで下げられるのかということに関しては、とても不安が大きいです。

これまでは確かに効果の強さの差はあれども、下がった実績はありました。

しかし今回については、上昇傾向を横ばいに持っていけるかということにさえ、個人的には不安を持っています。

ーーその不安の原因は変異ウイルス「デルタ株」と東京五輪ですか?

それらの不安要因以前に、今年に入ってから東京はずっと措置、宣言が続いています。今回、重点措置下にあるにもかかわらず、どんどん感染者は上昇傾向にあります。

ここで宣言をうつわけです。

宣言に変わったからといって、それほど行政上の措置の内容に変わりがない中で、期待できるのはメッセージ効果がメインです。

それを考えると、もはや私も含めて皆が疲労し切っている中で、大きな行動変容を期待するのは難しいかもしれない。

それに加えて感染性の強いデルタ株の影響が出始めているのも間違いないです。

オリンピック、パラリンピックは、もちろんネガティブなメッセージとして働くでしょう。

しかし、そもそもオリパラ云々の前に、緊急事態宣言が持っていたメッセージ効果、宣言のメインの効果がもうかなり弱まっているのではないかというのが一番不安な要素です。

最後の切り札 もし効かなかった場合は?

ーー日本の最後の切り札である緊急事態宣言がもし効かなかった場合、何ができるのでしょう?

具体的には、今より強い外出自粛を実効性をもってやる。これが現実的に考え得る強い対策だと思います。

純粋に公衆衛生の立場から言えば、本来は一人一人がハイリスクな行動を自発的に避けてほしいのです。マスクをして、こまめに手洗いをして、普段会わない人との会食を避け、大人数で集まらず、できるだけテレワークをしてほしい。

でも掛け声だけで全員の行動を変えることは難しい。

ではそういう場ができないように環境の方から変えましょう、ということで、遊興施設や飲食店を閉めたり、お酒を出すのを制限したりという対策をとってきた。電車の本数を減らすなど人の流れを止める政策もそうです。

実際のところ、「お酒のある会食が感染のリスクだからお酒を出さないようにすれば感染が減るだろう」という考えに飛躍があるのと同様に、「人の流れが増えれば感染者が増える傾向にあるから人の流れを減らそう」という考えにも飛躍があります。

そういう意味では、お酒の提供を止める、電車の本数を減らすという対策に今のところはっきりしたエビデンスがあるとは言えません。

おそらく多くの人たちは、政策決定者もふくめて、それはわかっているのではないでしょうか。それでもメッセージだけで個々人の行動を変えることに限界があるから、現実的に短期間で動かせるところを動かすしかないのです。

しかし、どんなに環境を変えることで行動変容を促そうとしても、立ち行かなくなりそうだというのが今の状況なのだと思います。

そこで次の対策として、特別措置法をさらに強化して私権を制限するという考えが出てくるのです。一歩強い措置にする。例えば外出を許可制にするとか、勝手に外出したら違反チケットを切られるとか、そこまでの強い政策を取ることが考えられます。

でもそれをすべきなのか。

していいのか。

そもそも法律の改正が必要なことからも、これはかなり慎重に議論すべきだと思います。少なくとも感染症や公衆衛生に携わる人が一方的に主張できることではありません。幅広く、人文学分野の研究者も入って、公衆衛生のためにどこまで私権の制限まで踏み込むことができるのかを考えた方がいい。

私自身は容易にやるべきではないことだと考えていますが、避けることなく正面から議論する必要があると思います。

ーー火事場泥棒的にやる議論ではなく、本来は平穏な時に時間をかけて議論すべきでしょうね。

はい。そうです。

緊急事態宣言のメッセージ効果、損うオリパラ断行

ーー緊急事態宣言のメッセージ効果、アナウンス効果が弱まっている時に、オリンピック・パラリンピックが開かれることで、矛盾したメッセージになっています。東京五輪と「最後の緊急事態宣言」が重なって、宣言の効果が弱められることについてはどう思いますか?

おっしゃる通りで、緊急事態宣言の効果がメッセージ性に多くを負っている中で、一方では大きなイベントを開催する。市民の皆さんに行動抑制をお願いして、メッセージ効果を期待している側が、同時並行で大きなイベントを開催し、ただでさえ減弱しているメッセージ効果をさらに減弱させています。

一言で言えば、残念な事態であると言わざるを得ません。

ーー私権制限を考える前に、ギリギリになって東京五輪を中止、延期したら一番のメッセージになるのではないかとも思います。「そこまで今の状況は大変なのか」と市民に気づかせる強いメッセージです。

止めればいいというのは簡単です。今からでも止めていただきたいとは思いますが、現実として開催することになっているので、やはりできることは市民の方にハイリスクな行動を避けてほしいと繰り返し言っていくしかない。

オリパラに関して言いたいことはたくさんありますけれども、現実を受け止めてできることをやっていくしかないと思います。

ーー大阪で行動変容が起きたのは、医療崩壊で市民に危機感が強まったから、ということでしたね。東京でも感染爆発して危機感が高まることでしか、「個々人の行動変容」は進まないのでしょうか。

これまで医療崩壊とよばれる状況にならないようにみんなで協力して一生懸命凌いできたわけです。4月、5月の大阪を除けば、なんとかここまで乗り越えてきた。

とにかく起こってからようやく気付いた、ということにならないようにしたい。海外の状況を見てもわかるように、医療崩壊が現実に起きる感染症です。どんな感染症でも重症者や死亡者を減らす努力をするのは当たり前ですが、コロナが厄介なのはものすごく感染力が強いことです。

対策をとらなければ重症者や死亡者、入院患者が簡単に増えて、日本の医療・介護システムの限界を一瞬にして超えていきます。

この感染症は他の感染症とは違います。医療・介護システムを破壊する感染症です。感染者自身がつらい思いをしないようにすることも大事なのですが、放っておくと社会が持ち堪えられなくなる感染症なのです。

だから社会の全員で協力して、患者数を減らさなくてはならない。

ワクチンが行き渡れば違う風景が見えてきます。今年後半には風景が変わってくるはずです。

とにかくあと数ヶ月だけ、医療崩壊しないようになんとかしましょう。それだけをただ訴えたいです。

【鈴木基(すずき・もとい)】国立感染症研究所感染症疫学センター長

1996年、東北大学医学部卒業。国境なき医師団、長崎大学ベトナム拠点プロジェクト、長崎大学熱帯医学研究所准教授などを経て、2019年4月から現職。

Contact Naoko Iwanaga at naoko.iwanaga@buzzfeed.com.

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